第2章:「カントリー・リーグ」編
キーワード11:「一からやり直し」の巻
 「今年もやっぱり最下位だったか……。いつになったらこの不名誉な記録が途切れることやら……」
 「球団もなんとか弱小球団の汚名を返上するために、毎年戦力補強を重ねているのにな。シーズンが始まると同時に不振やケガが続出するからな……。ホントに呪われてるんじゃないのかオレたち」


 ここは“さざなみタウン”。ちょうど“にじタウン”と“あさひタウン”の間に位置する漁業が栄える港町だ。


 この町にある大海原と目と鼻の先に位置する野球場、“ウェーブスタジアム”を本拠地とする“なみポケヒメリーズ”。先ほどの会話はこの球団に所属する選手たちのものだった。


 「それにしてもさサイドン」
 「なんだよヤドキング」


 ヒメリーズの練習用のユニフォームに、身を包んだピンク色の体と頭の白い大きな貝殻が特徴的なおうじゃポケモン……ヤドキングの声に、全体的にゴツゴツした岩のような体に、頭から大きな回転式のドリルを携えたドリルポケモン……サイドンがやや不機嫌そうな表情を浮かべる。


 「いくら不甲斐ない試合をしているからといって監督の“全レギュラー白紙宣言”はやりすぎじゃないのかな。二軍にいる選手に有望なヤツがいるわけじゃないのに、何も結果を残しているレギュラー選手を痛め付けなくてもいいんじゃないかな?」
 「なにいってるんだかお前は。レギュラーが白紙ってことは、これから先は誰にでも一軍の試合に出られるチャンスが来るわけだろ?今までレギュラー選手は、安泰って頭があったから、練習だって甘かった面があっただろ。強いチームほど練習に手を抜かないでしっかりやってるんだ。オレから言わせればちゃんと練習しないレギュラーの自業自得だよ自業自得」


 プロ野球の世界は通常各チーム共通してペナントレースを戦う実力の世界“一軍”と、若い選手が実力を磨いたり、ケガや不振の選手が再び活躍できるよう調整をする……下積み軍団、“二軍”が存在する。


 普通野球ファンや一般の人々がテレビや球場で目にするのがこの“一軍”だが、ここで定着し、ファンの人気者となるには己の実力を成績という形で残すしか無い。


 そのため例えプロに入団したときに大物と期待されても、少ないチャンスをものにできなければ、野球を続けることさえ困難となってしまう。


 逆に言えばそれまで活躍してきた一軍のレギュラーを超すような成績や勝利への貢献度が高ければ高いほど、キャリアに関係なくスポットライトを浴びることも意味するのだが……そのような選手はほんの一握りしかいないのが現実だ。


 「ま、オレはもう高卒で期待の大物ホームランバッターとして期待されて7年目になっちまったけど、なかなか一軍には呼ばれなかったからな。たまに一軍のヤツがケガしてチャンスが来ても三振しまくったり、サード(三塁手)の守備でやらかして酷かったからな。これを最後のチャンスだと思って気を引き締めてやるぜ」
 「僕も正確なコントロールを持ち味にプロに入ったけど、一軍じゃあヒットやホームラン打たれてばっかりだったからね。今度こそは一軍で活躍できるように頑張らなきゃ」


 会話の内容からどうやらサイドンとヤドキングは即戦力と期待されながら、なかなか一軍で活躍できていない“未完の大器”と呼ばれる存在のようだ。


 この年リーグ最下位に甘んじたヒメリーズの成績は53勝87敗。積み上げた借金は“34”。リーグ5連覇を果たしたカムラーズとのゲーム差は実に“43”。そしてこの年で3年連続最下位という厳しい現実に向き合わないとならなかった。


 解説者の間では、この低迷はレギュラー選手のほとんどが30代後半と高齢化しており、それぞれの選手が全盛期のような成績を残せなくなるほど衰えているのが要因の一つとされた。


 しかもこのレギュラー陣の疲労を考慮してなのか、ヒメリーズのシーズン中の練習量は他球団に比べてかなり薄い。それではシーズン前にいくら万全の状態にしても、だんだん調子を落としても無理はなかった。


 にもかかわらず他球団から移籍してきた選手が活躍する様子も無ければ、 若手の中に、衰えている主力からレギュラーを奪えるほどの存在も育ってこない。これでは苦しい状況を作り出しても不思議ではなかった。


 「だからこそ来年は世代交代の意味合いも兼ねて、私ニョロボンは“全レギュラー白紙宣言”を発する。レギュラー陣に特権など与えてはならない。ヒメリーズはチーム作りをもう一度やり直しする時期に差し掛かっているのだ」


 ヒメリーズを率いて10年。青い体にお腹の渦巻き模様が特徴的な……おたまポケモン、ニョロボン監督は来季への逆襲へこう語る。





 果たして来シーズン……その栄冠をつかむのは、リーグ6連覇を目指す“最強軍団”カムラーズ、強力打線を擁するオレンズ、黄金期を知るかつてのキャプテンが率いる“全員野球”ナインズ、鉄壁の守りを誇るナナシーズ、スピード野球で他球団を脅かすセシナーズ、そして逆襲に燃え上がるヒメリーズ……一体どのチームになるのだろうか。

オレンジ色のエース ( 2014/05/13(火) 00:04 )