キーワード10:「敗れた者たちの挑戦」の巻
悔しすぎる敗戦から誇りを取り戻すために……。
年間140試合にも及ぶ長く苦しい戦いが続くペナントレースがもたらす影響は、毎年凄まじいものがあった。
王者カムラーズのように輝かしい栄冠を手にした球団が、追撃を許さんと更なる高みを目指すのはもちろんのことだったが、4位ナナシーズのように、Bクラス(4位以下)という形で、敗戦の事実を突き付けられた球団の次なる戦いへの準備は、惜しくも優勝を逃した2位オレンズや3位ナインズのようなAクラス(3位以上)入りを果たした球団よりも激しい様子を見せていた。
全ては己の誇りと自信を取り戻すために……。8年ぶりの優勝を目指すナインズも例外ではないが、“敗れた者たち”による覇権奪回へ向けての“下克上”は、オフシーズンからすでに、始まりを告げていると言っても過言ではないかもしれない。
カントリー北部に位置する“さんかくのゆきやま”と呼ばれるカントリーいち大きい山。この標高1995メートルという大きな山のふもとにある、昔から生命を持つ者すべての願いごとが叶うという伝説が眠る町、“ながれぼしタウン”にも、雪辱に燃えるチームが存在した。
「毎試合、毎試合自分との戦いでした。勝てそうな試合を落とし続けるうちに、相手のことよりも“早く上位チームに追いつかないと”という焦る気持ちばかり出てきて……。今振り返ってみると、それが“らしく”ない固さに繋がっていたのかなって思うんですよ」
“ながれぼしタウン”西部に位置する屋根が開閉可能という特徴を持ったドーム球場、“すいせいドーム”を本拠地とする“ほしポケセシナーズ”。
シーズン終了後、このドームで練習中に長い闘いを振り返っての取材を受けていたのは、セシナーズの不動のリードオフマン(1番打者のこと)で、エリマキトカゲのような姿をした……はつでんポケモン、エレザードだった。
セシナーズは伝統的に、足でフィールドをかき回すスピード野球が得意なチームだった。
だがこの年、取材を受けているエレザードをはじめとするレギュラー選手が軒並み打撃不振に陥ったこともあり、セシナーズは貧打に悩まされた。当然それは足が自慢の選手が、塁に出る機会が無くなることも意味する。
その結果、得意としていた塁上をかき回すスピード野球が出来なくなり、セシナーズは得点を思うように奪うことが出来なくなり、黒星を重ねてしまった。
「最後の最後こそ、5連勝という形でシーズンを終えることが出来ましたけど、Aクラスを逃してあわや最下位かという危機にもなりましたから。悔しい気持ちはもちろんありますけど、ただ悔しいだけじゃなくて、どうしてもっと早く自分たちの形に出来なかったんだろうというような後悔の方が今は強いですね」
ペナントレース全140試合を戦ってセシナーズか残した成績は、62勝78敗で借金(負け越した数)18。4位ナナシーズと3位ナインズがし烈なAクラス(3位以上)をするなかで、セシナーズはその争いにも割って入れないほど不本意なシーズンとなった。
「僕は来年、プロ入り10年という節目を迎えますけど、その間セシナーズは優勝していない。Aクラスを経験したのもルーキーのときだけで、あとはもう今年のような苦しい戦いの連続ばかり。けれどその分、“勝ちへの飢え”というのは優勝常連のカムラーズや、ナナシーズ、ナインズよりも強いと思っています。だってこれほど苦しい経験……負けることの辛さや怖さを肌で感じてきたんですから。来年はプロ入り初の頂点目指して、これまで以上のひと味違う“負け犬根性”を見せてやりたいと思います」
苦しい壁に何度も跳ね返されたから、ますます燃え上がる“勝利への飢え”。熱いファンや“自分らしさ”を失わない限り、敗れたものたちの挑戦はその瞬間が訪れるまでは決して終わらない。