第2章:「カントリー・リーグ」編
キーワード9:「小さくも鉄壁」の巻
 “にじタウン”……。そこはカントリー南部に位置する最も虹がキレイに広がると言われる町。
 加えてカントリーを南北に渡って連なる“セブンライン”と呼ばれる川が流れ、“はるかぜそうげん”と呼ばれる広大な草原の中にあるカントリーいち小さな農業の町だった。


 現在リーグ5連覇を成し遂げているカムラーズが最も警戒する“にじポケナナシーズ”は、そんな小さな町外れにある小さな球場、“はるかぜ球場”を本拠地とする鉄壁の投手陣が自慢のチームだった。


 「今シーズン、僕たちは140試合の激闘を71勝69敗で4位という結果に終わってしまいました。3位のナインズと1ゲーム差。この1ゲーム差という僅かな壁を越えられなかったなかったために、6年ぶりの優勝はおろか、19年ぶりのBクラス(4位以下)転落という辛く厳しく……悲しく不甲斐ない結果を、毎日スタンドから応援していただいているファンの皆さまへお送りしなくてはなりませんでした。ファンの皆さま、本当に申し訳ありませんでした!!」


 毎年長いシーズンをともに戦ってきた大勢のファンに、感謝の意を伝える“感謝の集い”と呼ばれるセレモニーの中で、深々と謝罪を述べる一人の選手。


 茶色くやや細長い胴体、両腕にそれぞれ緑の球体が3つある姿からまるで木を彷彿とさせる彼は、このナナシーズのキャプテンを務めているまねポケモンのウソッキーだった。


 彼のスピーチにあるように、ナナシーズは長年戦力は薄く打線もオレンズやカムラーズと比べると破壊力不足ではあった。


 それでも伝統的に投手陣のレベルはカムラーズを越えるほどの力があり、しかもここまで18年間連続Aクラス入りを果たすなど、常勝の経験が豊富な選手がたくさんいること、さらに毎年対戦成績が五分五分になることも含めて、リーグの中ではカムラーズに唯一対抗でき、なおかつ“打倒カムラーズ”に燃えているライバルチームといわれている。


 だがこの年、その自慢の主力投手陣や野手陣の不振や怪我が重なったこともあり、少ない得点をしぶとく守り抜き接戦に持ち込み白星を重ねる戦い方が出来なくなり、18年間続いたAクラスの座を譲ってしまった。


 特に夏場まではリーグ優勝を果たしたカムラーズと3ゲームを離して首位を走るなど、怪我人を多く出しながらも台頭してきた若手や控え選手の奮闘もあって、久しぶりの歓喜も見えそうな状況を作るほどの奮闘があったのも事実だった。


 ところがペナントレースも佳境を向かえた8月終盤。それまで好調をキープしてきた若手や控え選手が状態を落とし始め、怪我から復帰してきた主力選手も状態が上がらないことも響き、チームは徐々に黒星を重ねていた。



 更に9月。最初の試合で大敗を喫するとその後は自慢の投手陣がピンチを我慢しきれず、攻撃陣もここ一番のチャンスを潰し続け、連敗に次ぐ連敗を続ける悪夢のような急失速をしてしまった。


 栄冠が見えかけていた時に訪れた試練。連勝の後に連敗が重なるのが長いシーズンではよくあることとはいえ、リーグ記録となっていた18年連続のAクラス入りも途切れるなど、ここまで完璧な敗戦をするとは誰も予想できなかったに違いない。


 こういった背景もありウソッキーはじめ、ナナシーズの選手はシーズン終了後の秋季キャンプを今までにないほど目の色を変えて、次なる戦いに備えているという。


 キャプテンのウソッキーがスピーチを続ける。


 「だけど僕たちに立ち止まっている時間はありません。チームの成績こそ悔しい内容でしたが、チームの防御率(ピッチャーが一人で投げたとき、試合開始から9回まで何点失うかを表した成績。数字が小さいほど好成績)がリーグナンバーワンになるなど、勝利を目指す気持ちは他球団に決して負けることはありません。我々ナナシーズは今シーズンの結果を真摯に受け止め、来年もう一度“チャレンジャー”という気持ちを持って全力で戦い、ファンの皆さまと笑うことが出来ればと思います」


 乗り越えられなかった試練に再び挑み、もう一度“常勝軍団”としての誇りを取り戻すために……そして永遠のライバルチームであるカムラーズを倒して頂点をつかむために、“チャレンジャー”ナナシーズの次なる戦いはもう始まっている。

オレンジ色のエース ( 2014/05/12(月) 23:37 )