キーワード4:「運命の分かれ道」の巻
「ナインズが再び頂点に立つためには新しい風が必要不可欠だ。それもかつてバクフーンやリザードン、ラプラスにラグラージが台頭してきたときのように例え即戦力でなくても勢いのある若手が中心となれば、この先何年かは今以上に優勝を狙えるチームとなれるだろう」
僕とピカチュウがプロ野球の世界に飛び込むこととなったシーズン終了直後、ナインズの球団関係者は常勝軍団を再建するために、新監督就任とともにドラフトで新しい風を取り入れるのに力を入れることを明言していた。
ドラフト会議(新人獲得会議)……それは毎年11月の終わりというシーズンの感動と熱気が冷めきらない頃に行われる一大イベントだった。
特にプロ野球の関係者にとっては長いペナントレースを勝ち抜くため、更には未来のチームづくりの第一歩目として、即戦力となる選手をどれだけ獲得できるかが重要だった。
そしてプロ野球のファンにとっては、未来のスター選手たちが一体どの球団に入団するのか非常に楽しみなイベントだった。
そんなプロの世界を夢見てきた選手たちの運命の分かれ道となるドラフト会議が、どんな仕組みで行われるのか紹介しよう。
@まず、その年のペナントレースで最下位だった球団から5位、4位、3位、2位、優勝チームの順番に獲得したい選手を指名する。この時に指名した選手がいわゆるドラフト1位となる。
A指名した選手が重なった場合、選手と交渉できる権利を決めるために指名した球団同士でくじ引きを行う。これが競合と呼ばれるシステム。
Bくじ引きで敗れた球団は改めて選手を指名する。この選手はいわゆるハズレ1位と呼ばれる。もしこのとき指名した選手が重なった場合はAに戻る。
C全部の球団のドラフト1位が決定したら、再び@〜Bの要領で獲得したい選手がを指名する。この選手がいわゆるドラフト2位となる。
D@〜Cの要領で獲得したい選手がいなくなるまで指名を続ける。獲得したい選手がいなくなり、指名を止めた球団は次のターンから飛ばされる。ちなみに指名した選手は順番に応じてドラフト〇位となる。
E全ての球団が指名を止めたらドラフト会議終了。
このときドラフト会議で指名された選手は、プロ野球のチームと入団交渉を行う。しかしその選手の希望が異なるとき入団を拒否する場合もあるのだ。
いずれにせよ、ドラフトの上位で指名されたり、複数の球団から指名された選手はそれほどプロの世界から即戦力として期待されてるのは間違いないだろう。
僕とピカチュウの場合、種族に特徴的な俊足と、それを生かしたうえで基本を大切にした守備、野球の守備には欠かせない他のポジションとの連係プレーの堅さには自信があった。
しかし打撃はあまり目立ったものが無かったために、即戦力としてはどうかとプロ野球のスカウトは疑問を浮かべていたという。
そういう噂もあってさすがにプロ野球なんてムリだろうなんて諦めていた頃、たったひとつの球団だけが僕らのことを高く評価してくれた……そう、その球団こそがあさひポケナインズだったのだった。
「ヒトカゲとピカチュウは確かに打撃に関しては到底プロ野球のレギュラーとして厳しすぎるだろう。……だが守備練習で大きな声をあげたり、凡退でも全力で走ったりとチームに徹する姿、結果に関係なく黙々と練習時間を長く費やす姿を見たらまだまだ可能性を引き出せるに違いない」
まさか自分たちの努力している様子でプロ野球のスカウトが評価してくれるなんて思いもしなかったが、今思えばナインズのスカウトからはかつて優勝を果たしたシーズンに台頭してきたバクフーンさんや、ラグラージさん、ラプラスさん、リザードンさんの姿が重なったのかもしれない。
(とにかく即戦力と呼ばれる人たちには及ばないかも知れないけど、その人たちと同じ舞台にいる。あとは僕たちがどれだけ頑張れるかなんだ!!)
この無名に近いルーキーたちがこのあとのナインズに大きな力を与えるとはおそらく誰も予想できなかったに違いない。
そしてこのとき運命的な出会いが待っていることも、僕やピカチュウは知るよしもなかった。