第1章:「ナインズ入団」編
キーワード1:「復活への決意」の巻
 (チッ……追い込まれた。……だがまだ降参する訳にはいかない……!!今年こそは優勝したい!!何としても!!)


 プロ野球“カントリー・リーグ”あさひポケナインズの本拠地、“あさひスタジアム”。
 ナインズは負ければ優勝の可能性が完全消滅するという危機的状況で挑んだ試合を、同じリーグに所属するライバルチームの“ゆうひポケオレンズ”に、1点リードを許したまま、9回裏2アウトまで追い込まれていた。
 だが、右打席にナインズ一筋13年というベテランを向かえた瞬間、本拠地のナインズの大勢のファンは、わずかな希望を繋ぐ奇跡の一発を期待して精一杯の声援を送った。


 4番打者バクフーン……大学球界最高のホームランバッターとして期待され、ナインズに入団してから変わらぬことなく背負う背番号“2”も、スタンドのファン同様に奇跡を起こそうと右打席で戦っていた。
 しかし相手チームであるオレンズのエース、オオタチのストレートと変化球を巧みに投げる技術を前に、バクフーンはフルスイングをするも白球を捉えられず追い込まれてしまう。


 (まだ終わるわけにはいかないんだ!あれから毎年優勝出来そうで出来ないオレたちを信じて、ファンが応援してくれてるんだ!!このままふがいないまま負けてたまるか!


 ナインズが常勝軍団と呼ばれ、リーグ制覇を果たしてからこのときすでに7年。だがその間ナインズは3位、2位、3位、3位、2位、3位……と、毎年上位3位以内……いわゆるAクラス入りは果たすものの、あと一歩優勝に届かない歯がゆい闘いを続けてきた。


 チーム、そして選手一人一人の力はあるだけに、毎年悔しい思いをして来たファンへ何としても喜んでほしい……4番のそんな執念が渾身のフルスイングを生んでいた。


 ……しかし追い込まれてからの3球目、彼の黒いバットがオオタチのストレートを前に空を切り、無念の空振り三振に倒れてしまうと、大観衆はため息に包まれた。


 ……ゲームセット。悲願の覇者奪還をめざして闘ったナインズは7年連続でV逸を経験することとなってしまった。


 三振に倒れたバクフーンは、勝利に喜ぶオレンズを尻目にガックリうなだれながら、一塁側のベンチへと引き返す。


 そこで待っていたのはいつもと変わらぬ温かい声をかけてくれるムクホーク監督だった。


 「お疲れ。結果は残念だったがナイスフルスイングだったぞ。ここまでよく頑張ってくれた。優勝はできなかったけど、来シーズンは希望を持てそうだ。これでオレも未練なく監督を辞めることができるよ。今までありがとな」
 「ムクホーク監督……すみませんでした」


 ナインズがV逸を喫した時点で、自分や今もレギュラーとして闘う同期生たちを育ててきたムクホーク監督が、チームに新しい風を呼ぶために辞任する……このニュースを知っていただけに、もう一度胴上げしたかった……そう考えると自分のふがいなさに自然と込み上げるものを押さえ切れなかったバクフーン。


 そんなベンチに座った彼の目に飛び込んできたのは、同期生として共にチームを支えてきた背番号“6”のラグラージ、背番号“1”でエースのリザードン、前回の優勝を知る背番号“5”のラプラスが、悔しさを必死に堪えながら、静かに相手が勝利に喜ぶ姿を目に焼き付けている光景だった。


 そんな仲間たちの姿に主砲は、覇者復活へ新たな決意を固めていた。


 (来年こそは二度とこんなふがいない終わり方をしないようなシーズンにしてみせる……)


 その後、140試合にも及ぶ長いペナントレースを終えたナインズは3位という成績で終えた。


 しかし、この年のシーズンオフにはナインズの運命を変える出来事が待っていた。

オレンジ色のエース ( 2014/05/12(月) 20:40 )