キーワード16:「それぞれの物語B〜主砲と主将〜」の巻
キュウコン監督の意向による“紅白戦”へ向け、メンバーの振り分けを確認する僕たちナインズの選手。
黄金バッテリーのリザードンさんとラプラスさんが共に赤組だと確認したあとそれぞれの選手が赤組、白組のどちらになるのか確認していた。
…………そんな中、
「……ん?何だよ……オレは白組になるのか。まぁ良い……どちらのチームになろうと、4番の座は譲らないぞ」
大きな体をのっしのしさせてホワイトボードを確認したのは、今シーズン大卒でプロ入りしてから14年目のシーズンを向かえる背番号“2”のバクフーンさん。
彼は“大学ナンバーワンスラッガー”という評価を受け、プロ入りしてから今日まで渾身のフルスイングを武器に、通算395本ものホームランを打ってきたナインズ不動の4番打者だった。
もちろんナインズが最後にリーグ制覇を果たした8年前のペナントレースでも、大きくチームに貢献したV戦士の一人でもある。
(バクフーンさんは白組か……。とりあえず黄金バッテリーとは違うチームになったけれど……。それでもあのパワーはピッチャーにとって驚異だよな……)
熱血ナインズファンである僕も、バクフーンさんのホームランを何度も見てきた。
彼はいつも緊迫した場面や、チームが苦しい場面で打ってくれる。例えどんなにナインズが負けている状況でも、彼が打席に立つ度にどでかいホームランを期待して、大きな声で応援していたものだ。
しかも彼の場合、チームの柱となる4番打者へのこだわりは生半可じゃない。
「4番打者は全ての打席でホームランを打たなきゃならない。小細工は一切不要。それくらいの気持ちで毎打席打撃をしている。オレがこの打順を譲るときは、自分の納得できるホームランが打てなくなったときだけだ」
自分で奪った“定位置”だからこそ、簡単な理由で失う訳にはいかない……。バクフーンさんが“4番打者”にこだわる理由の一つはこれだが、その他にも理由は存在した。
「チームが負けたとき、周りの批判から逃げない自分でありたい。常に強気な姿勢でシーズンを戦うためにも、弱気な自分を捨てるくらいの気持ちが持てる打者になりたい」
“4番打者”というのは一打席一打席の結果がチームの勝利に左右しかねないほど重要な打者。チームの顔とも評されるこの打者の活躍無くして、優勝を勝ち取るのはあり得ないだろう。
特にチームが奮わないときほど“4番打者”への期待は計り知れない。そして周りが打っていても、打ってなくても敗戦の際は、常に真っ正面から批判を浴びることは避けられない。
つまり“4番打者”は、他の打順とは技術面や精神面やその他全てにおいて別次元にいる孤独な存在と言えよう。背番号“2”は常にその別次元を追い求めているのだ。
(いつかバクフーンさんのように、大きなホームランを打ってみたい……。僕の小さな頃からの夢だったホームランを……。出来ればバクフーンさんと同じチームになりたいな……)
野手……いや、すべての野球選手にとってバッターボックスから、110メートル近く離れているスタンドへ大きな放物線を描きたいのは、一種のあこがれだろう。
ちなみに僕自身も野球を始めてから今日まで、一度もホームランを打ったことがない。
だから、何度もホームランを打ってきたバクフーンさんにそのコツを教わりたくなっていた。
…………………さらに、
「お前もか“ラッシー”。オレも白組になるようだぞ……ちょうど良いな。いつもナインズの打線を支えてきた実力……赤組のヒートやラプに見せてやろうぜ!!」
「当たり前だ“ラージ”。ガンガン打ちまくって紅白戦に勝つぞ」
バクフーンさんを“ラッシー”と呼んだのは、バクフーンさんと同じ大卒14年目のシーズンを向かえる背番号“6”のラグラージさんだった。無論8年前の優勝を知るV戦士でもある。
バクフーンさんもラグラージさんを“ラージ”と呼んでいることから、どうやらこの二人……結構仲が良さそうに思われる。
(ラグラージさんも白組なんだ……。白組はかなり強力な打撃陣になりそうだな……。赤組の黄金バッテリーとどんな勝負になるんだろう……)
バクフーンさんに劣らぬ大きな体の持ち主のラグラージさん。一見すると凶暴そうな表情にも感じるが、実は彼はナインズのファンからも、そしてチームメイトからも真面目で思いやりのある選手として有名だった。
「確かに球場に来てくれたファンへ試合に勝った姿を見て喜んでもらうのは大切。だけど球場に来たくても来れないファンだってたくさんいる。そんなファンが一人でも多く来れるようにするために、僕が“打点”(自分の打撃で返したランナーの数)をあげる度、その打点の試合の数だけ、球場の場所に問わず1試合あたり6000人分の観戦チケットをプレゼントしたいと思います」
ちょうど新監督に就任したキュウコン監督から、キャプテンの後継者に指名された5年前のシーズンオフ。
この時から“ラグラージ激流プロジェクト6”という名でスタートしたファンへの企画は、あさひタウンだけでなくカントリー全体のナインズファンを喜ばせた。
それだけではない。試合の練習前や練習中、更には球場への移動中やシーズンオフのイベント内……とにかく時と場合関係無しにファンからのサインを断らない事でも有名だった。
それでいて伸び悩む後輩選手に一日でも早く活躍できるようにと、一軍の舞台や自身が二軍落ちをした場合に、アドバイスをする配慮も忘れなかった。
ベンチの中やグラウンド上でも仲間のプレーには気を配っていた。好プレーへの称賛は当然だが、まずいプレーに気を落としてる仲間を励ます姿はまさに“キャプテン”の名にふさわしかった。
それでいて練習量は“ミスターナインズ”と呼ばれたキュウコン監督を彷彿されるほど。実力的にも人間性においても現在のナインズには欠かせない選手なのだ。
「自分の持ち味は打撃……特にホームラン。けれど同期生のラッシーみたく、全てをホームランに出来るとは正直考えてない。いつも打つというのは当たり前だけど、それよりもここぞという場面で打てる選手でありたい。チームが勝つためには、ホームランを捨てても構わないと思ってる」
種族の特徴である破格の力を武器に生み出す強烈なホームランが、ラグラージさんの一番の特徴ではあったが、それよりも“打線をつなぐ”ことへの意識を忘れない打撃が、相手チームには脅威となっていた。
(あえて言うなら、バクフーンさんは“別次元を追い求めるホームランバッター”で、ラグラージさんは“勝利を追い求めるホームランバッター”。この二人がナインズの打線を支えてきたといっても過言じゃない。それだけに同じチームにいるのは脅威だろうな………)
まだ自分の所属するチームが決まってはいないとはいえ、底知れない緊張感を覚えた僕。相当な実力を持つV戦士を目の前にちょっと怖さを感じているのかもしれない。
それでも選手の振り分けはこのあとも続く。