第3章:「それぞれの物語」編
キーワード12:「衝撃の1月15日」の巻
 1月15日……冬の冷たい空気に支配され、青く続く大空からチラチラ雪が舞っていたこの日、あさひタウンにある“あさひスタジアム”ではナインズのユニフォームに身を包んだ選手やコーチ、そして20年に及ぶ現役生活の活躍から、“ミスターナインズ”と呼ばれた男の姿があった。


 本来全140試合に及ぶペナントレースの前に行われる“春季キャンプ”が始まるのは2月1日。


 そこから1か月に及ぶ猛練習のあと、3月からは戦いへ向け実際のシーズンをシュミレーションする“オープン戦”と呼ばれる練習試合が数多く存在する。


 そして3月20日に140試合に及ぶ長い戦い……ペナントレースが開幕するのだ。


 (何でキャンプじゃないのにこんなに集まっているんだろう?テレビや球場で応援してきた先輩たちもたくさんいるし……緊張してきたよ)


 一瞬吹いた風に落とされそうになったつばの部分が白く、その上の部分が水色、そして正面に赤くPの文字を鏡で逆にしたような数字の“9”が書かれ、その“9”の上の部分に、太陽をイメージするかのようなギザギザ模様が書かれた帽子を押さえる。そんな事をしながら、小さな体のしっぽからゆらゆらと炎を燃やす僕は一種の不安を覚えた。


 全体的に青空に浮かぶ雲をイメージしたという上下白い生地のユニフォーム。その中央に水色のラインが相対称的に2本、更には右側に縦書きで赤色の“NINES”というロゴが入っている。ただ腕とベルトだけは水色に染まっていた。


 背中に注目すれば赤く背番号が入り、その上にも赤く選手の名前がローマ字で横書きで書かれている……それがこのあさひポケナインズのユニフォームだった。


 「集まったようだな。みんな今日はわざわざありがとう。みんなも既に報道で知っていると思うが、私は5年前までこのナインズで現役選手としてプレイし、今シーズンからナインズの1軍監督をすることになったキュウコンだ。実は今日はあることでみんなをここに呼んだのだ」



 白いキツネの姿をした……きつねポケモンのキュウコン。白い大きな9本のしっぽに触れたものを1000年間祟るという不思議な伝説を持つこの背番号“91”こそ、“ミスターナインズ”と呼ばれた男だった。


 現役時代サード(三塁手)で守ってはどんな打球でも外野に抜かさない鉄壁さを誇り、打っては通算38本のホームランという決して大きなアーチを描く事は無くても、相手投手が嫌がる勝負強さで、しぶとく通算2398本というヒットを放ってファンを魅了した。走る面でも常に全力疾走で次々と塁を落としていった。


 更にはナインズの中で引退を決めたシーズンでも一番長い練習時間を誇り、その中でもファンサービスは怠らない。例え無口で孤独な存在のように見えても、そのような姿を見ればナインズの選手が背中についてくるのは不思議ではなかった。


 ちょうど前回の優勝の際、キャプテンという座を全うし、チームが苦しいときほど冴え渡る勝負勘と全力プレーでナインを鼓舞してきた男がグラウンドから惜しまれながら去ってから5年。……しかし、その間ナインズはリーグ制覇を逃し続けてきた。


 “またナインズを引っ張ってくれ……。この苦しい雰囲気を払いのけるのは君しかいない”


 ナインズ球団からの一言で、再びグラウンドに戻ってきた指揮官が、選手やコーチを集めた理由とは何なのか……僕を始め、皆緊張に支配されながらもその男の話は続いた。




 「実は今シーズン、選手の力を把握するため球団に戦力補強の凍結を依頼した。ナインズは古くから補強して勝つチームじゃない。選手一人一人の力を結束して勝つチームだからだ。そのためみんなの力を見るため、ベテラン、中堅、新人選手、1軍2軍関係なく横一線の紅白戦を行うことを通達する。」
 『えっ!?』




 8年ぶりのリーグ制覇を果たすための戦いは、この衝撃で幕を開けたのだった。

オレンジ色のエース ( 2014/05/13(火) 16:59 )