第3話 チピ襲われる
突然来訪したポチエナが近づいてきたため、何か僕に様でもあるのかと思っていた。
そのため、まさか殺意を剥き出しにして襲いかかってくるとは予想もしておらず、簡単に押し倒されてしまった。
あまりに突然な事態に、頭が真っ白に染って体が硬直し、身動きをとる事も声を出すことも出来ない。
自分よりも一回り程大きいポチエナに馬乗りに乗られ、首元に鋭く尖った牙が突き当てられる。
肉を切り落とすのを専門とする鋭利な牙が、首に浅く刺しこまれ僅かに痛みが走った。
怖い。
このまま殺される・・・・・・。
やだ・・・・・・怖い、誰か助けて・・・・・・。
痛みを感じると同時に、目の前のポチエナに自分が何をされているのかを理解し、体が小刻みに震えて心臓の鼓動が加速していく。
「何してんだお前、チピから離れろ!『でんこうせっか』!」
少し離れたところからサルサの声が聞こえ、震えながらも視線を向けると、何かがポチエナに向かって高速で突っ込んできた。
だが、僕に噛みついてサルサには背を向けていた筈のポチエナは、ぶつかる寸前に軽々しく横に飛び退き衝突を回避する。
「・・・・・・邪魔をするな、お前に用はない。」
「いきなり噛みつくとか、止めないわけないだろーが。おいチピ、大丈夫か。」
体をポチエナに向けていつでも反応出来る体勢をとりつつも、僕を落ち着かせようとしてくれているのか、微笑みながら声をかけてくれる。
でもごめんサルサ・・・・・・、たぶん落ち着けそうにない。
ポチエナは離れたけど、恐怖で体が震えて思うように動かすことが出来ないんだ。
立ち上がるために足を地面に着けるが、踏ん張ろうと力を込めると滑ってしまう。
落ちつけ落ちつけ・・・・・・、サルサが居るから大丈夫だ。
そう必死に自分に言い聞かせるも、冷静を装う気持ちとは裏腹に体は平然を保つことが出来ない。
「と言うかお前、チピをどうするつもりなんだ。・・・・・・殺す気なのか。」
僕から顔を背け、頬笑みを消し鋭い表情でポチエナを睨み付けるサルサ。
「殺しはしないさ、少なくとも今はな。だが、そのピチューは捕らえさせて貰う。」
サルサの鋭い顔に全く怯まず、いつでも飛び掛かれるよう間合いを考えているのか、少しずつ距離を詰めてくる。
「んー、どうしよっかなー。・・・・・・よし、逃げるか。」
このまま殺し合いが始まってしまうのかと思ったが、掬い上げる様にサルサに持ち上げられ、そのまま頭の黄色い毛並みに乗せられてしまった。
「去らばだぜポチエナよ。『でんこうせっか』!」
技を発動させるためのキーワードである技名を口にし、僕を乗せたサルサが高速で走り出す。
サルサはこの辺りの地形を完璧に把握しているのか、家の外に出ると迷わず草むらに入り、ポチエナに追われないように隠れながら逃げるようだ。
「チッ、あれは追い付けないな。・・・・・・一旦戻るか。」
サルサに連れられ全速力で逃げる途中に、そんな声が聞こえた気がした。