プロローグ
夜のはじめ頃、時間寛也にとって、楽しみにしていた夏祭りが始まった。
しかし寛也は手足をしばられ、同い年くらいの子どもたちと一緒に、屋根付きの荷台に乗せられていた。
どこに行く気なのだろう。逃げ出そうと思っても身動きがとれず、深海に沈められているような気分だった。
先ほどから寛也が、なにかを考えようとするたびに、見知らぬ少女が遊びにやってくる。
目の前で起こった、静止しているような光景。自分の足下で、うつぶせに倒れていた黒い髪の少女を、ぼんやりと寛也は思い出した。
黒板をひっかいたような女の笑い声が、はるか遠くから聞こえてくる。少女の黒のサマージャケットには小さな穴があいており、そこからじんわりと染みが広がっていった。
何が起きているのだろう。揺られながら、寛也は思う。
いとも簡単に、なぜ灯火が消されてしまったのか。どうして、こんなことに、ぼくは巻き込まれているのだろうか。
わけもわからずに座っている寛也は、速い速度で運ばれていく。そこは寛也の知らない土地。これから当たり前になっていく場所。
紺色の空に彫られた白い月が見ているなか、子どもたちが運ばれていく。
椎名岬は何気なく、テレビの電源をつけた。いつも決まった時間にやっているニュースに、チャンネルを合わせる。とくに興味などない。静かな家で誰かが喋っていれば、それでいいのだ。
赤いランドセルをソファーに投げて、彼女もダイブした。
ソファーの前に置かれたテレビには、男性と女性のアナウンサーが、今日起こった事件についての情報を口にしていた。
椎名はだらしない寝転び方で、二人の映像を見る。
ウバメの森で、身元不明の遺体があったらしい。
トレーナーカードに貼られた写真が映し出され、誰か知っている人は下の電話番号に連絡をください、と男が伝える。番号は警察のほうにつながるみたいだった。
十代後半ぐらいの黒髪の少女の写真。暗い目と、椎名は視線が合ったような気がした。