前章 拝啓
拝啓 幼なじみのヤジロン様
近頃吹き抜ける風が冷気を帯び、日も短くなりつつありますがいかがお過ごしですか。こちらは雪がちらつき、大地を白一色に染め上げています。グレイシアとなった私にとっては非常に嬉しい限りです。
今回は人間達が思いを伝える時に利用するという手紙というものを使いたいと思います。
私のトレーナーは今、シンオウ地方のキッサキシティで広報部の局員として働いています。ポケモンの私に出来る事は限られていますが、充実した日々を過ごしています。私は主に書類の整理をしたり荷物を運ぶのを手伝ったり・・・。私も想像できなかったのが、聞いた話ですが、私は役所の看板ポケモンになっている事です。これは私のパートナーの同僚から提案されているそうです。嬉しいのですが、恥ずかしさもあって複雑な気分です・・・。
あなた方の近況はまだ訊けていませんが、あなたのトレーナーの夢である教師になれていますか。なっているとしたら、担当は社会科でしょうか。彼は幾つもある学科のなかでも特に歴史が得意でしたよね。学生として中学に通っていた頃、二人は試験の点数で張り合っていたのを覚えていますか。私の記憶が正しければ、点数はほぼ互角で決着がつきませんでしたね。この事を町にある神殿を見るたびに思い出されて懐かしんでいます。
さて、ここでどうしても伝えたいことが一つあります。十年ほど前に二人と私達二匹で千年彗星のお祭りに行きましたよね。移動遊園地やマジックショーに花火・・・。とても楽しく一日中はしゃいでいたのを今でも鮮明に覚えています。そのお祭りで買ってもらったお守り・・・、ウイッシュメーカー、今でも肌身離さず持っています。一晩過ぎるごとに端を折っていき、三角形のピースを中央にはめ込んでいく・・・。あなたはその時、彼に「一気に折らないでよ」って怒られていましたね。元々細い目がさらに線みたいになっていましたね。私も折るのをギリギリまで忘れていて、凄く慌てていました。
思い出話はこのくらいにして本題に入りましょう。ウィッシュメーカーは彗星がみられる一週間に七つのピースを一晩ごとにはめ込んでいくと願いが叶うと言われています。この事は既に存じていますよね。この言い伝え、私は事実だと思います。何故かというと、あの時願った事が叶ったからです。私の願い・・・、それは「言葉が通じないパートナーと話し合いたい」というものでした。当時は「叶わない」と諦めていましたが、ついに先日、それが現実のものになったのです。先程、「私は書類の整理を手伝っている」と述べましたよね。その時、パートナーの言葉を聞き、書類の文章に触れるうちに人間が使う{文字}というものを覚える事が出来たのです。その甲斐あって{筆談}という方法で、念願の会話に明け暮れています。
そこで気になったのが、あの時に願ったあなたの願い事。もう十年以上経ちましたが、叶ったでしょうか。年始に実家に帰省するので、ぜひその時に聞かせて下さい。
あなた方が過ごす日常が幸福であることを願います。
敬具