Douze 鉢合わせ
Sideライト
『って事は、ライ姉達も同じような感じだったんだね』
「うん」
『プロテ―ジに遭遇した、って言ってたけど、そっちは大丈夫だったの』
『うん。相手は二人組だったけど下っ端だったから、問題なかったね』
『お蔭で新人トレーナーのメンバーも守る事が出来た。上々な結果だったな』
テトラと行動していたわたしは、キキョウ側の分岐点から少し進んだところで、ティル達と合流した。合流してからは、歩きながら情報交換。ティル達もそれなりに戦っていたらしく、若干体温が高かったよな気がした。
で、気付いたらキキョウに着いていたらしく、人通りも多くなっていた。センターの前にさしかかった時、わたし達はそれぞれにこう言うのだった。
ここで情報を整理すると、わたし達は主に“プライズ”が中心で、ティル達は“プロテ―ジ”だった。さらにティル達は、その彼らと遭遇したらしい。曰く、強奪されそうになってた新人トレーナーのメンバーを守ったのだとか。
「未然に防げたんだから、そうだね」
『さすがティル達だね』
そんな頼もしい彼らに、わたしはこう声をかける。だから別行動をする時は、またよろしくね。そう心の中で頼み、わたしは大きく頷いた。わたしと一緒に行動していたテトラも、彼らをこう褒め称える。『私ももっと頑張らないと』と小さく呟いてから、彼らに視線を送っていた。
『ティルが出した作戦が良かったからな』
『そうだね。…らっ、ライ姉! まっ、前…! 』
「ん? ラフ、前がどうかしたの? 」
ティルと行動を共にしていた二匹も、納得、と言った様子。二匹そろって『うんうん』と頷いていた。
するとラフは、突然声を荒らげ始める。急にどうしたんだろう、そう感じながら、彼女の方に振り向く。しかし彼女はかなり焦った様子で、こう警告しているだけだった。
『前と言えば…、自動扉。自動扉だから、問題ないはずだが』
彼女が慌てる意味が分かってないのは、わたしだけじゃないらしい。わたしはもちろん、不思議そうに声をあげるラグナ、テトラも、頭の上に疑問符を浮かべている。わたしの後ろにいるティルも、不思議そうに腕を組んで考えていた。
そんな中、目の前の自動扉は、わたし達に反応して独りでに開く。そこでようやく、彼女が慌てる理由が分かったような気がした…、いや、完全に理解するに至った。
「塔の近くのカフェも…きゃっ」
「うわっ! 」
『おおっと…』
自動扉が開くと、そこに突然一つの壁が出現する。いや、壁ではない。一人の少女が、後ろ向きに進んでくる…、まさにその瞬間だった。楽し気に話す彼女は、わたし達に気付いてない様子。その視線の先で、彼女のメンバーと思われるイーブイとポッポが、慌てて注意を促していた。
イーブイ、という種族に、わたしは一瞬だけ反応が遅れてしまう。しかもタイミングを見計らったように、彼女はその場で躓いてしまう。どうやら、足が縺れたらしい。バランスを失った彼女は、わたしの方に倒れてきてしまった。ふと我に返ったわたしは、咄嗟に左に跳び退く。そのせいで、わたしが邪魔で見えてなかったティルに対象が変わってしまった。
しかし彼女は、まだ止まらない。状況が把握しきれていないティルは対応する事が出来ず、されるがままに受け止める事しか出来ていなかった。
「躓いてたみたいだけど、大丈夫? 」
「ごっ、ごめんなさい。ちょっと足が縺れちゃって」
『なら、問題なさそうだな』
間一髪彼女の転倒をかわしたわたしは、彼女にこう声をかける。もしかして怪我をさせてしまったんじゃないか、そういう想いに駆られながらも、こう訊ねてみた。それに彼女は、ティルの体毛の中でこう答える。申し訳なさそうに言いながら、身を彼に委ねていた。きっと、彼の毛の気持ちよさ、温かさに落ち着いているためだろう。
この光景を傍観していたラグナは、彼女の言葉を聞き、ホッと肩を撫で下ろしている。わたしの方を見上げながら、こう呟いていた。
「よかった。避ける時に腕か当たっちゃったかなぁー、って思ったんだけど…」
「えっ、だっ、誰? 」
確かに、横に逸れる時、腕が何かにぶつかったような気がする…。フサフサしてて、温かかったような気がするけど。
わたしはそう思い、彼女にそう訊いてみる。しかしわたしの声は、その途中で遮られてしまった。
彼女は突然、わたしの発言に割り込み、声を荒らげる。彼の体毛の中で、その声の主を探し出すべく、キョロキョロと辺りを見渡している。途中で彼の毛が煩わしくなったのか、委ねていた体勢を起こし、向き直る。心なしか、わたしには彼女の早鐘を打つ鼓動が聞こえてきたような気がした。
『ティルだな』
「みたいだね」
「きっ、きみが? きみって、ポケモンだよね? 喋れるって事は、きみって伝説のポケモンなの」
もちろん、彼女に話しかけた者の正体を、わたし達は知っている。その者の名前を、わたしは彼女に言おうとした。でもその前に、ラグナに先を越されてしまう。そこでわたしは開きかけていた口を慌てて
噤み、その形をかえる。そのままとりあえずって事で、こう彼の言葉に答えた。
ううん、俺はマフォクシーっていう、普通の種族だよ。
「普通の、ポケモン? でもお姉さん、お姉さんのポケモン、喋ってますよね」
「ううん、実は喋ってないんだよ。テレパシーって知ってる? 」
「てれ…ぱ、しー? 生物の授業で、聞いた事があるような気がするけど…」
「ティル…、わたしのマフォクシーはそれを使ってるんだよ」
今度はわたしにも語りかけてくれたらしく、頭の中に彼の声が反響する。その瞬間の彼を見ると、微かに首を横にふっていた。
その彼に、当然彼女は首を傾げる。ティルに向けていた視線をわたしに変え、不思議そうにこう訊ねてきた。
伝説なのはむしろわたしの方だけど、この子は多分、初めてだから仕方ないよね。わたしはこう思いながらも、こう答える。疑問符で満たされている彼女に、わたしは優しく説明してあげた。密かにこの反応を楽しんでいるわたしがいるのは、ここだけの話しだけど。
「でもテレパシーって、伝説のポケモンが使う、あれですよね? 見た事、ないけど」
「世間一般では、そうなってるからね」
実は伝説の種族じゃなくても、エスパータイプなら使えるんだよ。練習しないといけないんだけどね。
この事を知ってるのは、ごく一部だけ。それは、ポケモンであるわたし達も同じ。文献によると、サイコキネシスを使える実力があれば、扱う事が出来るらしい。…その事は、ラグナから聴いた時にはもう知ってたけど。シルクにテレパシーを教えたのもわたしだし。
「何かそうみたいなんだよ」
わたしはとりあえず、そう言っておいた。
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