Onze 光と雨
Sideライト
『じゃあライト、とりあえず整理しよっか』
「うん」
あれからのわたし達は、バトルを交えながら、調査を開始した。前半は、元の姿のまま、野生ポケモンへの聞き込み。後半は、人間の姿に変えて、情報収集。順調とは言い難いけど、それなりの情報は集められていた。
そうこうしているうちに、わたし達は街道の三分の二まで来ていた。そこでテトラは、ちょっと低めのトーンでこう提案する。気分が乗らない、と言った様子で、こう見上げていた。それにわたしは、ゆっくりと頷く。彼女と同じで気分が晴れないけど、ここまで聞いてきたことを、もう一度思い出し始める。それと同時に、持っている鞄からペンとノートを取り出す。ノック式のそれをカチッと押し、書く体勢に入った。
「ええっと、野生のひと達が言うには、最近この辺に住んでるひとが大分減ってきた…。特に少なくなったのがマダツボミと、その進化系のウツドンとウツボット」
『それも一か月ぐらい前から急にいなくなって、一昨日ぐらいから一匹もいなくなった。そうだよね」
うん、それであってるはずだよ、認めたくはないけど…。
わたしは口でこう言いながら、ペンをスラスラと走らせる。前もって作っておいた表に書き込み、空欄を埋めていった。そこに、テトラがこう付け加える。さえない表情のまま、彼女はわたしを見上げ、こう確認する。この時、彼女の心情を表すかのように、彼女の耳が下を向いていた。さらに、心なしか木の枝葉の間から溢れる光が、勢力を減退させる…、そんな錯覚を覚えた。
「そのはず…。それも三十番道路だけじゃなくて、ジョウト地方全体で起きてる…。ニュースで取り上げられるぐらい、深刻になってる…。何か、悲しいね」
こんなに物騒になってるのは、きっと“プライズ”と“プロテ―ジ”の活動が活発になってきてるから。わたし達みたいに、他の地方から応援がくるぐらい…。今までこんな事なかったみたいだから、相当だよね…。
こう呟きながら、わたしは走らせていたペンを止める。前部記入し終え、もう一度カチッと言わせてから、ノートをパタンと閉じた。
『本当にそうだよ。ちょっと聞いただけでこうだから、きっとティル達も同じような感じかもしれないね』
「…だろうね」
うん、きっとそうだね。
暗い表情のまま、彼女はこう続ける。それにわたしも、沈んだままゆっくりと頷いた。
…この状況ではこうも言ってられないけど、暗くなっちゃったね…。この空気、どうにかしないと。
話の内容が内容だったから仕方ないけど、こうなっていたことに、わたしはハッと気づく。それからわたしは、自分の名前の意味を改めて確認し、こう口を開く。
「…とにかく、今沈んでも仕方ないから、気持ちを切り替えよ! ねっ? 」
マイナスな考えを無理やり頭の端に追いやり、声のトーンをあげる。暗雲を払拭するために、両手で頬をパチパチ、と二、三回叩く。そうすることで、気分の転換を試みた。それが効いたのか、木漏れ日が少し強くなったような気がした。
『それもそうだね。犯人はもう分かってるんだし、今更悩んでも仕方ないよね! 』
テトラも、立ち直ってくれたみたいだね?
わたしの光が、彼女の影を明るく照らしたらしい。そのためか、彼女の声には、いつもの活気が戻っていた。弾けた笑顔でこう言うと、『ねっ! 』と私を見上げ、にっこりと笑いかけてくれた。
「うん。…さぁテトラ、バトルでもして、気分転換しよっか」
『いいね! こうして落ち込んでる間にも、ティル達の事だから、特訓してるかもしれないもんね』
確かに、ティルならそうしてるかもしれないね。
完全に黒い雲を追い払えたわたしは、首を縦に降ってから彼女にこう言い放つ。ちょっとわたしの思ってることと違ったけど、彼女は彼女なりにこう答える。そう言うと、わたしの方に振りかえりながら、キキョウ方面へと駆けていった。
本当はわたし、「バトルで気分を紛らわそう」っていう意味で言ったんだけど、まぁ、いっか! バトルする、って事は変わらないし!
――――
Sideライト
『…あれ? あの子、どこかで見たような…』
「ん? テトラ、どうかした? 」
情報をまとめた場所から歩いて数分後、わたし達は西側の林道を抜けつつあった。しようと思っていたバトルは、結局できていない。他にトレーナーがいなかったため、する事が叶わなかった。
で、物足りなさを感じつつも突き進み、現在に至っている。戦ってくれそうなトレーナーを捜していると、テトラが少し先に誰かを見つけた様子。左側の触手でわたしの腕を引っ張りながら、もう片方でその人物を指さしていた。それにわたしは、首を傾げながら答える。彼女に引っ張られながらも、こう聞き返した。
『向こうにいるあの子、ヨシノのセンターで会った子じゃない? 』
「ヨシノで…、あぁー、あの、早口で聞き取りにくかったあの子だね」
言われてみれはあの後ろ姿、そんな気がする。
彼女に言われるまま目を向けると、確かに近い過去に見たことがある人物…。一人の少年が、自身のメンバーに何かを語りかけている、その瞬間だった。彼自身で隠れて見えないけど、その数は二匹。とても仲が良さそうに話し込んでいた。
『そうそう。あの子、「急にいなくなった」ってライト、言ってたよね? だから、何でいなくなっちゃったのか、訊いてみたらいいんじゃない? 』
「そう…、だね。わたしの事も前から知ってたみたいだし…」
その事も訊きたいから、そのついで、だね。新人トレーナーみたいだから、今回の件を言っておいた方がいいと思うし…。
わたしは心の片隅にあるモヤモヤを思い出し、こう呟く。疑問の引き出しからそれを取り出し、発言の卓上にそれを置いておいた。そしてわたし達は、気になる事を伺うべく、彼らの元に歩み寄る…。
「ええっと、確かきみは…、エレンくんだったよね? 」
そして例の彼に、こう話しかけた。
「うんそうだけどライトさんどうしたの」
そう言いながら、彼は突然話しかけられたにも関わらず、平然と振り返る。
『何か話したいことでもあるんじゃないのぉー? 』
その彼に、メンバーと思われるニドラン♂が、見上げながらこう呟く。
『うん、ちょっと気になる事が…』
『あれ、ライト達って、エレン君の事、知ってたの♪ 』
「えっ、うっ、うん」
不思議そうに見上げるニドランに、テトラは多分、『気になる事があってね』って言おうとする。でもその発言は、エレンくんの陰で隠れて見えない誰か…。
…えっ、こっ、この声は、もしかして…!
思いがけず聞こえてきた知りあいの声に、わたしは、思わず驚きで頓狂な声をあげてしまう。それはテトラも同じだったらしく、彼女も驚かすをくらった直後のような顔をしていた。
『すっ、スーナさんも、この子と知りあいなの? 』
『うん。ウチだけじゃなくて、シルクにユウキも、ね♪ 今年の夏で、逢ってから三年になるかな』
そう明るく言い放った彼女…、昔からの友達のスワンナ…、スーナ。スーナは、テトラの問いに、満面の笑みでこう答えていた。
「そのくらいだね。スーナさんもライトさんとしりあいなの? 」
『うん。初めて会ったのはウチらがホウエンにいた時だから…、四年ぐらいになるかな♪ その時に一緒に旅したことがあってね、その時からの友達なんだよ』
『そうなんだぁー。ぼくたちよりも、長いんだねぇー』
でっ、でもまさか、こんな所で会えたってのもそうだけど、スーナとエレン君が知りあいだったなんて、思わなかったなぁー。
エレン君はそう頷き、矢継ぎ早にこう投げかける。連鎖するようにスーナがこう頷き、会った時の事を回想する。懐かしそうに呟くと、にっこりと笑いかけながら、こう返事していた。
『あんた達が三年で私たちが四年だから、そうなるね。…あっ!! らっ、ライト! 』
「てっ、テトラ、今度はどうしたの」
びっ、ビックリした…。
頭の中で、彼女はこう計算し、その結果を口にする…。その瞬間、何かに気付いたらしく、急に声を荒らげていた。それにわたしは、何回目かは数えてないけど、思いがけず弱点の驚かす? を食らってしまう。自然とわたしの鼓動は、メトロノームの様に早く、脈打っていた。
『すっごく自然な流れで気づかなかっんたけど、エレン君、私とスーナの声に答えてたよね? 』
「あっ! 言われてみれば」
「ライトさんだってニドとスーナさんのこえにへんじしてたよね」
『うん。ちゃんと聞こえてたみたいだし、間違いなさそうだよぉー』
テトラ、わっ、わたしも、気付かなかったよ!
彼女に気付かされたことによって、わたしの鼓動は更に大きくなっていた。そのせいか、何気なくしている呼吸が、少し荒くなってきたような気がした。
わたしと同様に気づかされたのは、エレン君も同じだったらしい。相変わらず聞き取りにくいけど、彼も今の状況をあからさま、と言った様子で顕わにしていた。
『エレンなら分からないでもないけど、人間なんかが、私達の言葉を理解できるはずがないよ! 』
ここまで黙っていた、彼のもう一匹のメンバー、確かパチリスっていう種族の彼女が、『あり得ない』と言った様子で、こう言い放っている。その目つきは鋭く、いかにもわたしを警戒している…、そんな感じだった。
『…やっと、気付いたんだね♪ 』
「えっ? 」
『今、何て…』
すべてを知っていたのか、わたし達とエレン君…、その両方の知りあいのスーナが、こう呟く。何か見世物でも観るように、楽しそうにこの状況を見守っていた。
彼女の思いがけない発言に、わたしとパチリスの彼女…、この場にいるスーナ以外の誰もが揃って、発した主の方に振りかえっていた。
『種明かしをすると…、エレン君は、カントーの伝説の当事者。ライトにテトラちゃん、“四鳥伝説”、覚えてるよね♪ 』
『知ってるも何も、“四鳥伝説”って、トリ姉のトレーナーのカレンさんが関わってる、あの伝説だよね』
「逢って直接聴いたんだから、そのはず、だよ」
確かそれって、三年前にユウキ君達が調べてた、天気に関する伝説、だったはず。出てくるのはサンダーとか…、カントーの種族だったような…。
スーナの言葉でわたしの脳裏に、ある人物の姿が思い浮かぶ。すぐにその彼女の情報が引き出され、思い出すきっかけとなった。その後わたしは、半信半疑ながらも、こう返事した。
スーナの言葉に、テトラは当たり前の様にこう答える。その事実を確認するように、彼女にこう聞き返していた。
『さすが、トリちゃんの妹だね♪ 』
『って事は、トリ姉の事も知ってたりするの? 』
「うん。トリさんにスクールのべんきょうをおしえてもらってたからねそのおかげでしゅせきでそつぎょうできたんだよ」
やっ、やっぱり、聞きにくい…。
事の発端のスーナは、何故か満足そう…。満面の笑みで、彼女にこう笑いかけていた。そのテトラは、続けてエレン君に目を向ける。首を傾げながらこう言い、ふと湧き出したと思われる疑問の真意を確かめていた。
テトラに訊かれたエレン君は、相変わらずの早口でこう言う。でも、それをわたし達は一度で聞き取れなかった。それに気がついたのか、彼とは正反対の口調のニドランが、ゆーっくりと言い直してくれた。
何か正反対だね、このふたり…。
『…で、ユリンちゃん、ライトの事はそんなに警戒しなくても大丈夫だよ♪ 』
『えっ、スーナさん、それはどういう…』
『ライトは人間じゃなくて、本当はポケモンだから♪ ついでに言うけど、エレン君は“水冷の防人”…、ユウキと同じような感じだから♪ 』
「えっ、ゆっ、ユウキくんと? 」
ユウキ君と同じってまさか…、ポケモンに姿を変えられるって事?
一通り事が治まった? のを確認すると、スーナは続けて嘴を開く。ピリピリしているユリンっていう彼女を優しくなだめていた。
その彼女はというと、当然疑問と共にこう答える。言い切る前に、スーナに遮られてしまっていた。
そのままスーナは、わたしの事を明かし始める。わたし達の反応には構わず、続けてエレンくんのまで、ペラペラと公言していった。
『そういうこと♪ ちなみに本当のライトは、ラティアスっていう、伝説の種族。で、エレン君は、ブイゼルとシキジカ…、その両方に姿を変えられるんだよ♪ 』
次々に明かされるわたし達の最高機密に、当事者達は唖然としていた。
ちょっ、ちょっと、整理するのに、時間がかかりそう…。だっ、だから、しばらく、考えさせて! 中途半端になるけど…。
Chapitre Une Des Light 〜新たなる大地〜 Finit