Trente 見た目が全てじゃない
Sideコット
「町じゃなくても、センターってあったんだね。知らなかったよ」
『ぼくもだよ』
『バトル続きのおれ達にとては、本当にありがたいよ』
本当にそうだよね。ニド君達とのバトルが引き分けに終わり、ちょっとだけ話してから、ぼく達は順調に先に進んでいた。ニド君達は一回キキョウに戻ったみたいだけど、ぼく達はあの後もバトルの連続…。トライバトルでは納得できるバトルは出来なかったけど、その後はいい感じに戦えることができた。今までは野生のひととしか戦ってなかったけど、あの後からはトレーナー就きのひととも戦った。流石に大人のトレーナーはまだ自信が無いけど、カナと同じぐらいの人となら楽に勝つことができた。…やっぱり、ジムで勝ってるのと勝ってないのとでは、違うのかもしれないね。それから、そのうちの何回かはイグリーと組んで、ダブルバトルもしたりしていた。一緒に戦ってみて分かった事だけど、イグリーはきっと、シングルバトルよりもダブルバトルが得意なんじゃないかな? ぼくはいつも通り戦ってたんだけど、ぼくに合わせて追撃を仕掛けてくれたんだよ。そのお陰かな、いつも以上に集中できてスピードスターの星を四つも出せたんだよ。その後にひとりで戦った時も四つだったから、もうすぐフィフさんから教えてもらった技を出来るようになるかもしれないね! 早く使ってみたいよ。
あっ、そうそう。言うのを忘れかけてたけど、ニド君のトレーナーのエレン君、お父さんとお母さんがカントーリーグの役員なんだって。リーグの役員なら、ニド君達の強さと、高い元気の欠片を沢山持ってたのも分かる気がするよ。…ちょっと長くなっちゃったけど、そろそろ話に戻るね?
順調に進んでいるぼく達は、草原を抜けて山の麓に辿りついていた。そこにあったセンターでしばらく休憩して、ちょとした買い物。これから洞窟を抜けるんだけど、そのためにちょっとした買い物。センターの売店で懐中電灯を買って、すぐに出発。それで、今に至るって感じだね。
かいふくもしてもらえたから、ぼくたちもじゅうぶんやすめたよ。
「だって三十分ぐらいいたもんね」
『だけど、あんなに言ってたのに、懐中電灯を買い忘れそうになるとは、おれは思わなかったね』
『はぁー…、それだけが無かったらね…』
まさかとは思ってたけど、やっぱりそうだったからね…。カナに文字でこう伝えたら、彼女はだよねー、って明るく頷く。まさにその通りで、ここまでのバトルの疲れが嘘みたいに消えてなくなっていた。それはそうなんだけど、イグリーはちょっとだけ苦い顔をしていた。センターの中での出来事を思い出したらしく、困ったように呟く。それにぼくもつられて、思わずため息をついてしまった。
「これで洞窟も楽に…」
「あれ? きみって確か、カナちゃんだよね」
これで楽に進めるね、カナはきっとこう言おうとしたのかもしれない。だけどそれは、急に草原の方から呼びかけてきた声で遮られてしまった。その声は若草の香りに疑問を乗せ、カナに尋ねてくる。あまりにびっくりしすぎて変な声を出しちゃったけど、ぼくはくるっとそっちの方に振りかえる。その先には、青い体に紅い翼をもった大きな種族…。雰囲気からして雄だと思うけど、彼の背中から見覚えの女の人が降りているところだった。
「あっ、はい。ええっと、ユウカさん、ですよね? 」
「よかった。覚えてくれてたんだね」
カナ、ちゃんと覚えてたんだね。ビックリしてたけど、カナは何とかこう頷いていた。まさかこんなタイミングで話しかけられるなんて思ってなかったらしく、結構声が上づっている。それでも彼女は記憶を辿り、相手の事を思い出そうとする。この時にはぼくはもう思う出せていたど、カナはちょっとっとだけ時間がかかっていた。
『コット、知り合い? 』
『そういえば、イグリーは初めてだったよね? ぼく達も会うのは二回目なんだけど、ヨシノで会った時に、いろいろ教えてもらったんだよ。…その時はこのひとはいなかったんだけど』
その時に、スピードスターを教えてもらったしね。昨日の事なのに、何か凄く前の様な気がするよ。会うのが初めてなイグリーは、ユウカさんと会ってからずっときょとんとしていた。そこで彼は、昨日の事を懐かしんでいたぼくに話しかける。だからぼくは、確かめるようにこう答える。今出てる蒼い彼の種族は分からないけど、そのひとの方をチラッと見上げながら、こう続けた。
『あの時俺は、エンジュまでお使いをたのまれてたからなぁ。…イーブイっつぅ事は、お前がコットだな』
『うっ…、うん』
『種族上しょうがねぇーが、そんなに怯えなくても大丈夫だ。これでも俺ぁ、メンバーの中では一番新人だからなぁ』
『そっ、そうなんですか』
そっ、そうはいっても、やっぱり、ちょっとビビっちゃうかな…。蒼くて大きい彼は、見た目からは想像できないくらいの砕けた話し方で、ぼくに喋りかけてきた。それでもやっぱり、その気迫とか威圧感に、小さなぼくは思わず一歩後ずさってしまう。そんなぼくを見た彼は、ぼくを怯えさせまいと、ハッハッハッ…、と気さくに笑いかけてくれる。そのお陰かもしれないけど、ぼくの震えは少しだけ収まっていったような気がした。
『あぁそうだ。お前の事は二トルから聴いてるぞ。スピードスターを教わったんだってな? 』
『はい。教えてもらった時はまだ出来なかったんですけど、今はちゃんと出来ますよ』
『ってことはコット? おれと戦った時が初めて成功したの? 』
『うん』
あの時は確か、土壇場で初めて成功したんだっけ? でもあれが決め手だったよね。イグリーよりも大きい彼は、ぼくの質問に大きく頷いてくれた。正直言って第一印象が崩れかけている彼は、こんどはぼくにこう訊いてくる。見た感じ怖そうだけど、案外そうじゃないのかも…、彼の性格のお陰で、、ぼくは少しずつこう思いはじめてきた。そのためかもしれないけど、見上げながら喋った声には、もう振えは混ざらなかった。ずっと見上げてるからちょっと首が痛くなってきたけど、明るく答える事が出来た。
ぼくがこう言うと、今度はイグリーにこう質問された。この感じからすると、イグリーは、ぼく程怖がってなかったのかもしれない。声の調子はいつも通りで、そんな様子は全くなかった。
『そっかぁー。ならコット? 話を聴いた感じだと、このひと達がコットが言ってたトレーナーなんだよね』
『うん。ええっと、このひとの…』
『おおっと、すまんすまん。紹介がまだだったな。俺ぁボーマンダのフィルトだ。ニトルから聴いてるかもしれんが…、俺の出身は方ホウエンだ。メンバーの中では一番後輩だが、歳は最年長の十九。まっ、ざっとこんなんとこだな』
フィルトさん、ぼくが思ってたよりも優しいかのかも…。喋り方的にも話しやすそうだし。二トルさんのトレーナー達と初対面のイグリーは、なるほどね、って言う感じで頷くと、ぼくの方を見下ろし、こう訊いてくる。思い出すように訊ねてきた彼は、そのまま横目でフィルトさんの方を指す。それにぼくはそうだよ、って言おうとしたけど、名前が分からなかったから言葉に詰まってしまった。それに気づいてくれたらしく、ボーマンダっていう種族の彼が口を開く。ぼくが今までに聞いた事が無いぐらいのため口で、自己紹介してくれる。簡単に言い切ると、よろしくな、って笑みを浮かべながら右の前足をさし出した。
『うん。おれはピジョンのイグリーで、こっちのイーブイはコット。おれ達はどっちも十三』
『ええっと、二トルさんから聴いてるかもしれないけど、みんなジョウトの出身。イグリーだけは三十番道路なんだけど、ぼくとカナはワカバタウンの出身。こちらこそ、よろしくね』
ニトルさんの仲間だから、フィルトさんも強いんだろうなぁー。こんな事を思いながら、ぼくは彼に自分の事を話そうとした。だけどほんの少しの差で、イグリーに先を越されてしまう。イグリーは自分の事だけじゃなくて、目を向けながらぼくの事も話し始める。そのせいで、ぼくは中途半端な声を出してしまう。慌てて口を噤み、彼の息が切れるのを待つことにする。ほぼ割り込むような形で口を開き、今度こそは自分の言葉で自己紹介。言い切ってから、ぼくも右の前足を出し、フィルトさんの大きなそれに重ねる。体の大きさが違いすぎて爪の上に乗せる事になったけど、ぼく、フィルトさん、それからイグリーも、方法は違うけど互いに握手を交わし合った。
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