35 氷の障壁 前編
番人の洞窟 氷の間 Side シルク
ミリア「…さぁ、いくわよ!」
一同「「「ええ!」」」
ミリアさんのかけ声をきっかけに3つの波が未開の空洞に共鳴した。
壁には相変わらず幾何学模様がびっしりと描かれ、多くの謎を私達にもたらす……。
…この模様、どこかで見たような気がするけど……。
アリナ「…とは言ったものの、入り口と殆ど変らないわね……」
サナ「そうね…。 …いるのはいるけど知らない種族ばかり…」
ミリア「それも形が違うだけでそれ以外は何の変化もない……。単調すぎて面白くないわ…」
…確かに、サナさん達の言う通りね…。
ダンジョンに突入してから10分ぐらい経つけど、どれだけ進んでも1種族にしか会わない……。
マスターランクの3にんにとっては退屈よね…。
数々の困難を突破してきたと思われる3にんは興ざめと言った様子でため息をつき、喪失感と共に言の葉を紡いだ。
シルク「…考え方によっては、私はこれでいいと思うわ」
シルク以外「「「えっ?」」」
考古学者の思わぬ発言に、探検家の3にんは頓狂な声をあげる…。
シルク「変化がないからこそ、新しい技とか戦略を試せるんじゃないかしら?」
…化学実験をするならまずはじめにそれが前提となる…。
対照実験においては調べたい事象以外の条件を全く同じにしないといけないのよ…。
そうしないと、違いを比べたくても元が違うから比較しにくいでしょ?
私は持ち合わせる知識を元に、疑問符を浮かべた彼女達に明るく応えた。
アリナ「でもシルクちゃん? シルクちゃんは考古学者だから戦わなくても………」
シルク「[目覚めるパワー]!」
A「!!」
シルク「<アンノーン>ぐらいなら楽に倒せるから私も戦うわ!」
…アリナさん、自分の身は自分で守れるから心配しないで。
私の事を一般的な<エーフィ>と思い込んでいるアリナさんの言葉を遮った。
その彼女の後ろから狙う<アンノーン>に向けて暗青色の球を即行で放った。
その弾丸は不意を突かれた一匹に命中し、一発で撃ち落とした。
……あの形態は……、「R」ね。
ミリア「……お見事ね…」
サナ「私達、長年“探検隊”として活動してきたけど、そんな種族は知らないわ」
…と、そこに、私の行動で一瞬身構えたサナさんが他の個体に注意を向けながら呟いた。
シルク「<アンノーン>は主に遺跡に生息するエスパータイプの種族。 形態は28種類あって使える技は[目覚めるパワー]のみ…。 特徴的な種族といってもいいわね。 …{氷結球}!」
…流石に最後まで話させてもらえないわね……。
次々に言葉を紡ぐ私は話す口を止めずに右前足を自らの鞄に突っ込む…。
その足で目的の{不思議球}を発動させた。
オリジナルのそれが発動されると、いつの間にか私達を取り囲んでいた群れを氷漬けにし、地面に落下させた。
シルク「{焼炎玉}!」
結果を確認せずに次なる効力を使い、辺りに紅い炎を発生させた。
[炎の渦]ほどの威力をもつ火炎は氷で身動きのとれない<アンノーン>をも巻き込んだ。
シルク「[サイコキネンシス]、[シャドーボール]……、発散!」
そして最後に、口元に溜めた漆黒のエネルギーを内側から分解し、そこから発生した風で周りの炎を消火した。
炎が消え去ったその場には、倒れる寸前の群れが辛うじて意識を留めていた。
シルク「さすがに{焼炎玉}だけでは無理だったわね…。 …なら、[シャドーボール]、発散!」
…{焼炎玉}で倒せなかったって事は、このダンジョンは多分シルバークラスね…。
その事を確認すると、さっきの球を再び創りだしそれで上昇気流を発生させる…。
吹き上げる突風の影響で私は天井近くまで飛ばされた。
シルク「[シャドーボール」、[目覚めるパワー]連射、[サイコキネンシス]!」
投げ出された空中で二色のエネルギーを混ぜ合わせ、4発連続で撃ちだした。
それは肥大化しながら増殖し、その後に発動させた超能力で余すことなく標的を捉えた。
…これで、確実に倒せたわね。
{不思議玉}だけでは倒しきれなかったけど、どの位の範囲に効果があるのか確かめられたから十分だわ。
砂煙が晴れるのと同時に私は着地し、その幕が戦闘の終結を告げた。
サナ「…シルクちゃん……、本当に学者……なのよね…?」
アリナ「…その筈よ…」
ミリア「…でもバトルからすると実力ではプラチナランク…。 私達でも見たことが無い{不思議玉}を使ってた事からすると……、…それ以上ね…」
ベテランの探検隊の3にんは学者の思わぬ実力に言葉を失っていた。
サナ「…いや、それだけではないわ。 シルクちゃん、「20歳だ」って言ってたはずよね? それにしては[サイコキネンシス]を完璧に使いこなしていたわ…」
ミリア「アリナといい勝負ね…」
…3にんの実力は多分私よりも上…。
[チカラ]無し……、いや、使っても勝てないと思うわ。
戦闘経験でもそれが言えるかもしれないわね…。
2000年代出身の私は一度に戦う人数は多くても3……、それも不意に挑まれる事もない……。
対してダンジョンのある7000年代の3にんは一度に10を超える数と対峙する事があり、いつ挑まれるか分からない緊張感もある……。
……一戦を交えてみたいっていうのも事実だけど、差は歴然ね……。
シルク「そう言ってもらえてうれしいわ。 …でも、まだ4割ってところかしら? {不思議玉}を使わなかったらもっと早く倒せたわ」
…本来使えない技だからむやみにするわけにはいかないけど、<10万ボルト>と<ベノムショック>と合わせていたらその半分で終わっていたと思うわ。
合成した時の効果として毒は相手の守りを下げることが出来る…。
電気タイプは弾け方が変則的で敵の意表をつく事ができる……。
この後、雑談を交わしながら遺跡の奥へと歩みを進めた。
…私の経歴について質問攻めにあったのは言わなくても分かるわよね?