32 調査前の賑わい
午前 トレジャータウン第一区画 Sideシルク
シルク「…ティル君? この時代の事、どこまで聞いてるか教えてもらってもいいかしら?」
ティル「うーんと、ポケモンしかいないのと地形が違うって事ぐらいかな?」
…そっか。
一番違うところだけはフライから聞いてたのね?
蒼天のキャンパスに添えられた煌めくダイヤが12時の方向へと移動し始め、露店が商いを恥じた頃、思いがけず導かれたティル君は慣れない風景を見渡しながら呟いた。
僅かに潮風を乗せた南風が賑わいを見せ始めた商店街を滑走し、やがて訪れる虎の刻を細やかに告げていった。
フライ「それとこの町とギルド、探検隊の事とね」
ライト「なら殆ど話してるんだね?」
…なら、今から話す必要はないわね?
フライ、助かったわ!
フライ「うん。 ……シルクがこの時代に来てることは知ってたけど、まさかライトもいるなんて思わなかったよ」
ティル「そもそも{未来へ行く}……なんて夢みたいなことが出来るなんて想像できなかったからそっちの方がびっくりしたよ」
ライト「……それもそうだね」
シルク「そうよね。 {タイムスリップ}なんてドラマの中だけの話しだと思われてるのが殆どだもの。 私も初めて来たときは本当に驚いたわ」
……今思い返せば、あの時にシードさんのミスが無かったらこの時代に来れてなかったことになるのよね。
{従者の証}を授かったのもこの時代だし……。
…とすると、もしそうなってなかったら少なからず私達の状況は違っていたのかもしれないわね。
……ルアン君達の事も考えると、知らないだけで私が{従者の証}を持ってない次元があるのかもしれないわね。
私達は賑やかに話し込みながら、ある店を目指しながら突き進んでいった。
……ちなみに、フライ達も私達と同じで一か月間の休暇を利用してここに来てるそうよ?
2〜3日は誤差があるかもしれないけど、話の辻褄だ合ってるから、問題ないわね!
…本人も「休暇をもらって3週間目だよ」って言ってたから。
…………
数分後 第四区画 Sideフライ
フライ「…こっちでも1年経ってるみたいだけど、変わらなくて安心したよ」
…まだギルドの方には行けてないけど、やっぱり[トレジャータウン]ではこうでないとね!
ボクは1年ぶりに感じる賑わいを目一杯肌で感じながら羽ばたき、冷めやらない興奮を抑えきれずに揚々と言った。
……ラテ君にベリーちゃん、ウォルタ君にハク達も元気かな……?
ティル「…俺には分からないね、初めてだから。 ……でもフライ君の様子だと、きっとそうなんだね?」
ライト「うん、何かそうみたいだよ? …わたしはまだ来てから2週間ぐらいしか経ってないからよくわからないけど」
…なら、ライトはこの時代の事について全部知ってるのかな?
シルクが話してくれてるはずだから、間違いないね。
フライ「そっか。 ……そういえばシルク? 何か前来た時よりも賑わってるような気がするけど、気のせい?」
…それに、この時間ならギルドのメンバーは依頼でダンジョンに行ったり仕事で忙しいはずなんだけど……。
…さっきブラウンさんとすれ違って話し込んだんだけど……。
……でも忙しそうにしてたのは、何故?
ボクは前を歩くシルクに首を傾げながら訊ねた。
ティル「って事は何かあるんだね?」
シルク「流石ティル君! エスパータイプが加わっただけの事はあるわね! そうよ!」
…なら、ティル君の勘が当たったって事なのかな?
ライト「明日ギルドのみんなと遺跡の調査に行くんだよ!」
シルク「ウォルタ君の紹介でね。 フライ、ウォルタ君が連盟公認の考古学者になったのは知ってるわよね?」
フライ「調査かー。 …うん、元の時代に来てくれた時に聞いたよ。 今では連盟とギルドとのパイプ役としても活躍してるらしいね」
…それと、伝説の種族との間もだよね?
それに遺跡の調査。
何か仕組まれたようなタイミングで導かれたんだね、ボク達って……。
{調査}という言葉に心を躍らせながら彼女の言葉に答えた。
ティル「遺跡に行くんだ! 俺も行ってもいい?」
ライト「わたしはどうか言えないけど……いいんじゃないかな? フライもこの時代では知られてるみたいだし、「一緒に来た」って言えば問題ないと思うよ?」
…もしそうならなくても、僕の助手って事にすれば何とかなるね。
シルク「そうね。 …でもそんなに心配しなくてもいいと思うわ。 何しろ調査には……」
A「あっ、シルクさんにライトさん! シルクさん達は明日の準備終わったんっすか?」
シルク「…! こっ、これからよ」
…!!
びっくりした!
話に華を咲かせながら進むボク達の後ろから、誰かがいきなり話しかけてきた。
シルクも予想してなかったみたいで、驚きでとびあがりながらもなんとか彼の言葉に答えていた。
…さっきの、ボク以外の3にんにとっては[おどかす]に匹敵したかもしれないね。
さんにんとも、エスパータイプだし…。
ライト「フレイ君達は?」
何とか気を取り直しながら後ろを振り返ると、オドオドした[リオル]と、如何にも活発そうな………確か[ヒノヤコマ]のふたりが彼女達に質問していた。
……うーん……このふたりは知らないな……。
B「ぼっ、僕達は今からシスさん達の店に行くところです」
シルク「あら、私達と同じね?」
……って事は、このふたりも探検隊なのかな?
フレイ「そうっすね! ……で、シルクさん? この二人、誰っすか?」
ティル「ライト? 知りあいなの?」
…この辺を拠点にしているチームはある程度知ってたつもりだったけど、やっぱり分からないよ……。
…って事は、新人なのかな?
記憶の引き出しを物色しているボクの隣で、この時代に来るのは初めてのティル君は疑問符を浮かべながら呟いた。
ライト「うん。 [リオル]の彼はリル君、[ヒノヤコマ]の彼はフレイ君って言って、探検隊なんだよ」
シルク「ギルドに所属してる新人で、ラテ君達の後輩にあたるわ」
…新人かー。
ふたりはそれぞれに視線を移しながら紹介してくれた。
フレイ「歳は15っす! よろしくお願いします!!」
リル「ぼっ、僕もです。」
フライ「うん、よろしく。」
ティル「よろしくな!」
…こちらこそ!
明らかにボク達のほうが背が高いから、身を屈めてふたりと握手を交わした。
……15って事は、フレイ君は進化したばかりなんだね?
…名前、似てるから親近感が湧くよ。
フライ「で、ボクは見ての通り[フライゴン]のフライ。 歳は17で考古学者をしてるよ」
シルク「そして、彼も私と同じでラテ君達の師匠にあたるわ」
…他人から見たら、そうなるね。
ボクの簡単な紹介にシルクは補足を加えてくれた。
ティル「そして俺は[マフォクシー]のティル。 14歳だよ。 職業は……、うーんと……」
ライト「わたしのパートナーで、あとふたりと一緒に旅してるんだよ」
ティル「あっ、うん。 そうだよ。 よろしくな!」
…ティル君も未成年……、で、仕事もしてないから、旅人ってしておけばいいのかな?
…という事は、ライトも同じだね。
自分の役職を何て言おうか迷っているティル君に、ライトは助け舟を出した。
……それに、この時代には人間はいないから、{トレーナー}って言葉をだしたら説明が長くなるね……きっと。
フレイ「じゅっ、14!? まだ進化出来ないはずなのに!!?」
ティル「えっ!!? 進化出来ないってどういう事!?」
リル「ふっ、フライさんもまだ17なら[フライゴン]になれないはずですよね!?」
……あっ!
ティル君に説明するの、忘れてたよ。
ボクのケアレスミスで事情を知らないティル君、この時代の常識しか知らないフレイ君達は揃って声を荒げた。
シルク「ふたりとも私達と同じって言ったら分かってくれるかしら?」
フライ「つまり、ボクもティル君も2000年代の出身なんだよ」
…シルクから聞いてるかもしれないけど、5100年代を境に進化の性質が変わるんだよ。
…ここからその事について説明したんだけど、省略してもいいかな?
もし気になったり忘れてたりしてたら〜過去と未来の交錯〜を読んでくれたら分かるはず…。
………っという事で、シルクの言葉を借りるとボク達は互いに{絆の架け橋}を開通させた。