23 考古学者からの救助依頼
午後 ツノ山 山頂 Sideハク
フレイ「…リル、いくぞ! [翼で打つ]!」
リル「はっ…、[はっけい]!」
ハク「ふたりともいい感じやよ!」
…急に場所が変わるけど、ここは[ツノ山]の山頂。
ウチら、焔拳”のリル君とフレイ君の特訓に付き合っとるんよ。
見た感じ、それぞれの実力はそれなりにあるんやけど、連携がもうちょっとうまくいけば言うことはない……かな?
[リオル]のリル君の技はシルバーランクぐらいの威力なんやけど、自信がないんかあまり攻めようとしない…。
[ヒノヤコマ]のフレイ君は積極的で行動も早いんやけど動きに無駄が多い…。
まだノーマルランクやから仕方ないんやけど、ふたりとももう少し周りを見れるようになれたらもっといいかな?
シリウス「…リル君、重心をもう少し前に移動させてください!」
リル「あっ…、うん」
風を切って滑空しとるフレイ君は身構えている標的…、シリウスの分身をその真上から狙いながら急降下する……。
地上ではリル君は若干慌てながらも右手に力を溜めて思いっきり叩いた。
シリウス(分身)「くっ!」
ハク「すぐに離れて!」
リル「はい!」
リル君は分身の右前脚を叩くとウチに促されて慌てて飛び退いた。
……ちょっと、遅かったかな…?
シリウス(分身)「っ!!」
フレイ「よし! 倒せた!」
そこにフレイ君の打撃が加わって、ウチのパートナーの分身はまるで霧が晴れるように消滅した。
リル「…ハクさん、シリウスさん…、どうでしたか…?」
ハク「さっきよりは良かったで!」
フレイ「本当っすか!?」
シリウス「はい。 さっきは6発でしたが今のは5発でしたから」
それに、ちゃんと狙えとったしね!
彼らの戦闘を見守っとったウチらは労いの言葉をかけながら二人の評価をした。
…………えっ!?
そもそも何で急にシルク達からウチらに変わったのかって?
…さあ……。
実はウチらも分からんのよ………。
一体何でなんやろうね?
……でもウチらが出とるって事は、何か関け……………
???《ハク殿、シリウス殿、やっと見つけましたぞ!》
ハク・シリウス「「!!?」」
…いが………!?
…びっくりした………。
反応からして、二人にアドバイスをしようとしとるウチとシリウスの頭の中に一つの声が反響した。
…びっくりしたのはシリウスも同じやな?
彼の方が一瞬だけ上がっとったからね。
フレイ「? どうかしたんっすか?」
……この声は、やっぱりそうやね。
ウチの予想通り、山の上空から何かが羽ばたく音が聞こえ始めた。
リル「……!! フレイ!! 上見て!」
フレイ「うえ………? 上になに……!! 何なんすか!!?」
ふたりも、気づいたね?
ウチらが見上げる目線の先に、一つの大きな白い影が空を漂う雲に紛れながらブロンズレベルの山頂に差し掛かった。
シリウス「ハク」
ハク「やっぱそうやな!」
そして、ウチらは互いに確かめ合うように目線を合わせた。
ハク「この声はシロさんやな?」
その目線を、そのまま真上へとシフトした。
……やっぱり、合っとたな!
シロ「そうだ」
その先には、体の大きさが軽く3mを超え、全身を真っ白の体毛で覆わとる種族……、伝説では{真実の化身}と言われている[レシラム]がかなり焦った様子で舞い降りた。
リル「………」
フレイ「………」
リル君達、腰抜かしとるね……。
…でも仕方ないかな?
だって、[レシラム]は小さいころに聞いたおとぎ話に出てくるような種族やからね。
シリウス「シロさん、どうかしたんです……」
シロ「すぐに拙者と共に[黒の花園]に来てもらいたい!」
ハク「!? しっ……、シロさん!? どうしたん!?」
彼………て言ったらいいのか分からんけど、シロさんが慌てとるって事はウォルタ君の身に何かあったんかな……?
……そういえば、今日はシルクとライトちゃん、ラテ君達と[死相の原]に行くって言っとったっけ?
シロ「所以は後で話す…。 兎に角来てくれないか!?」
シリウス「……ウォルタ君に何かあったって事ですね?」
ハク「……わかったよ。 ならシロさん、シリウスを頼んだで!!」
シロ「御意!」
……だとしたら、シルク達にも何か良くないことが起きとるって事やん!!
おまけに[死相の原]は今原因不明の遭難事故が多発しとるダンジョン……。
……という事は、まさか……。
最悪の言葉が一瞬脳裏を過ったウチは唖然としているリル君達に申し訳ないと思いながら、シリウスを背中に乗せたシロさんに続いた。
長い尻尾を地面に打ち付け、その反動で飛び上がる……。
………シルク、無事でいてよね!!
………………
数時間後 黒の花園付近 Sideハク
シロ「ハク殿、シリウス殿、着きましたぞ!」
シリウス「はい! シロさん、ありがとうございます」
[ツノ山]から何時間かかけて全速力で飛び続けたウチらの真下に、この辺りにしか咲かない黒い花の絨毯が広がり始めた。
少し前までは青かった西の空も今では朱く色づき、やがて来る冷涼な夜の到来を細やかに告げる。
そしてふと匂いを嗅ぐと宵の風に花の香りが乗せられてウチの身体を撫でていく……。
……シルク達、大丈夫やろうか……。
{真実の英雄}のウォルタ君と心が繋がっとるシロさんの話しやと、みんなやられとるみたい……。
遭難したチームを全部救助して原因も分かったみたいなんやけど、それが何やったのか聞く前に返事が無くなったらしいんよ。
…これはシロさんの推測やけど、交信が途絶える直前の感じからして眠らされたとか…。
ハク「…兎に角、急ぐで!」
今はウォルタ君の状態しか分かってない…。
おまけにシルクは[代償]の効果で攻撃とか異常にかなり弱くなっとるから尚更……。
ウチは血眼になって親友達を探しながら風を切り、声を張り上げた。
そして、黒い絨毯に向けて急降下し、着地する体勢に入る……。
シリウスは地面が迫ったのを確認するとシロさんの白毛をかき分け、花畑に跳び下りた。
シリウス「[影分身]! ハクとシロさんは空からお願いします!」
ハク・シロ「じゃあシリウスは下から頼んだで!」「御意!」
シリウス「もちろんです!」
もちろん!
パートナーは瞬時に6人の分身をつくりだし、それらを6方向に向かわせた。
ウチらもその彼の言葉に大きく頷くと、ウチは再び浮遊する高度を高め、シロさんは大きな翼を力強く羽ばたかせた。
…6人全員がウチの知りあいって言う以前に、遭難者を救うためには一刻の猶予も許されない……。
救助率No.1のラテ君達でさえ失敗したんやから、ウチらが凶悪犯と対峙する時以上の注意を払わんといけない……。
……唯一救いなのが、シルク達がやられたらしい場所はダンジョンじゃない……。
……危機的な状況やって事には変わりないんやけど……。
シロ「ハク殿! ハク殿は東側を任せてもよろしいですかな?」
ハク「ええよ! じゃあシロさんは西を頼んだで!」
シロ「御意!」
シロさん、そっちは任せたで!
ウチらはある程度の高さまで高度をあげるを、それぞれべつの方へと進路を変えた。
そして、ウチは祈りにも似た感情と共に飛ぶ速度を速めた。
………
夜 黒の花園 Sideライト
ライト「………」
ソーフ「あっ、ライトさん、気が付いたでしゅね?」
……あれ?
わたし、どうなったんだっけ?
確か何故かまともに前が見えていない[イベルダル]っていう種族のイグレクさんと戦っていて……。
みんなで協力して隙をつくってわたしの[チカラ]で心を鎮めたんだよね……?
……うん、そのはず。
……で、力が抜けて……。
……?
……だめだ……思い出せない……。
……でも、ちょっと待って!?
戦ってた時ってまだ明るかったよね!?
それなら今も明るいはずなのに何でこんなに暗いの!?
わたしはふと羽毛を撫でる風で目を覚まし、ゆっくりと目を開けた。
するとそこにはさっきとは違って黒一色の大地が広がっていた。
目線を上に向けると、地面と同じ色のキャンパスに白・黄色のドット絵がお花畑を包み込もうとしている……。
そんな暗さに慣れてない視界のそばで、わたしの事に気付いたソーフちゃんが優しく声をあげた。
ハク「! ライトちゃん、起きたんやね?」
ライト「……あっ、はい。 …でも何でハクさんがここに?」
ハクさんって、確か今日はリル君達と別のダンジョンに行ってるはずだよね?
わたしはおきたそのままの体勢……、伏せた状態で彼女に尋ねた。
ハク「救助依頼がきてね、向こうから直接きたんよ」
ソーフ「ウォルタが[チカラ]を使って呼んでくれたみたいなんでしゅ」
ウォルタ君が?
……って事は、ユウキ君とコルドと同じ感じでかな?(〜導き〜参照)
ライト「そうなんだ……。 …でもハクさん? そのウォルタ君がいないけど、どうして? それに何故か夜になってるし……」
…まず、そこだよね?
横になっていたわたしは体勢を起こし、ようやく慣れてきた目で辺りを見渡した。
……ウォルタ君だけじゃなくてラテ君もいないのはなんでだろう……?
ハクさんがいるならシリウスさんもいるはずなのに……。
ソーフ「ウォルタならラテ君とシリウスとギルドに無事を伝えに行ったでしゅ」
ベリー「それにライトさん、わたし達、長い間眠らされてたみたいなんだよ…。 …シルクはまだ目覚めないけど」
ライト「眠らされてた!? でも{睡眠の種}も眠り状態にする技も誰も持ってないよね!?」
そうだよ!
シルク達は持ってきてないのは知ってたけど、わたしはダンジョンで使い切ったし……。
シロ「恐らく、ここにいる誰でもない第三者が眠らせたのだろう」
…やっぱり、そうなるよね…。
……初めて会うけど、たぶん[レシラム]の彼?が高い位置から声をあげた。
イグレク「そうだとしたらかなり腹立たしい事だ! 俺を含めて準備の出来てない時に狙うとは……卑怯な奴だ! 俺はあいつを許さんぞ!!」
シロ「イグレク、気持ちは分かるが落ち着け」
……わたしの[チカラ]、ちゃんと発動したみたいだね。
正気を取り戻したイグレクさんは押さえながらもその元凶に向けて怒りを顕わにした。
イグレク「…そうだな。 ここで乱しては{伝説}失格だな。」
ライト「…でもイグレクさんもみんなと同じポケモンなんだから、取り乱すのは普通だと思いますよ? …わたしだってそんな時があるし……」
シルクの受け売りだけど、たとえどんな立場でも1匹のポケモンには変わりないでしょ?
わたしは優しく呟いた。
シロ「彼女の言う通りだな」
ハク「そうやね」
あとのみんなもそれぞれに相槌をうった。
……シルクはわたしが背中に乗せてだけど、ハクさんは自力で、ソーフちゃん、ベリーちゃんは[レシラム]の彼……、シロさんの背中に乗せてもらって飛び立った。
そしてイグレクさんと別れ、寝静まっている[トレジャータウン]への帰路に就いた。
……帰る途中で聞いた話なんだけど、わたし達と一線を交えた事……だけじゃなくてこの最近の事をイグレクさんは覚えてないみたい……。
その彼が言うには、イグレクさんも、わたし達と同じように眠らされて、更に悪夢を見させられてたらしい……。
……一応は遭難事件は解決したけど、これとは別の謎が残っちゃった………。