19 遭難事件の真相(前編)
昼前 死相の原 Sideシルク
???「
くっ……、キリがない………。 …[マジカルリーフ]…!」
シルク「!! ラテ君、聞こえたわ!!」
ベリー「あの声だね!?」
ラテ君に導かれて走ること数分……、私とベリーちゃんはようやく助けを求める声を察知した。
…ダンジョンの壁になっている背の高い草で姿は見えないけど、近いわね!
……なら、早く見つけ出さないと!!
聞いた感じでは恐らく戦闘中……、それも危機的な状況に違いないわ!!
ラテ「そうだよ!! 音からすると敵は10体以上……、{モンスターハウス}に迷い込んでるよ!! おまけに息遣いが荒くなってる……。」
フラー「…なら、急がないといけないですね……。」
本当にそうよ!!
ラテ君から
齎された情報を聴き、私には辺りを包み込んでいる黒い霧がより一層暗くなったように感じられた。
シルク「そうね!! 急ぎましょ!! [サイコキネンシス]!!」
…兎に角、これは一刻を争うわ!!
正規じゃないけど依頼で同行しているフラーさんも静かな焦りを顕わにした。
そして私は戦闘を覚悟して解除していた超能力を再び発動させる……。
ラテ・ベリー「「うん!!」」
……さあ、いくわよ!!!
私は彼らの返事を聞くと四肢に力を込め、その声に向けて一気に駆け出した。
……黒い風に二股に分かれた尻尾を靡かせ、黒の雑木林を駆け抜ける………。
私が通り抜けた場所にある草木の露が弾け、薄光を僅かに乱反射させる……。
…それなりに画になる景色だけど、構ってられないわ!!
A・B「「[シャドーボール]!!」」
???「!! [風おこし]!!」
!!
見つけたわ!!
雑木林を抜けた先には、それなりに広い空間が広がっていた。
その広場には………、様々な種族が、今まさにその中心にいるポケモン……、草・飛行タイプをもつ大型の種族である[トロピウス]に一斉に襲い掛かろうとしている、まさにその瞬間だった。
声からして彼の状態を確認すると、大きな身体のいたるところに傷がつき、立っているだけでもやっとといった様子……。
その彼のすぐそばに目を向けると、その彼のパートナーと思われる[ランクルス]が意識を手放しているのか、目が閉じられている……。
…彼が掛けている鞄のバッチを見る限りでは、ゴールドランクの探検隊ね…。
{モンスターハウス}とはいえ、ここまで追い込まれているのは何故……?
シルク「[シャドーボール」、[ベノムショック]!!」
疑問に囚われながらも、私は口元に漆黒のエネルギーを溜めながら体内の毒素を放出し、それらを混ぜ合わせて撃ちだした。
トロピウス・群れ「「「!!?」」 [葉っぱカッター]!」
シルク「[目覚めるパワー]、化合!!」
突然の私の登場に驚いていたけど、すぐに我に返って葉の旋風を発生させた。
……この状況では自己紹介もしてられないわね!!
私はさっきの技の結果を確認せずに次なる行動に移った。
イメージを竜一色で満たし、それを口元に凝縮させる…。
そしてそれを彼の草と混ぜ合わせ、反応させた。
紺よりも濃く変色したそれはスピードを緩めることなく飛んでいき、ある程度すると進行方向とは垂直方向に弾けた。
敵「「っ!!」」
……結果、命中。
ラテ「!! [悪の波動]!!」
ベリー「[炎の渦]!!」
…と、そこに、追いついたラテ君達が加勢し、別の敵を引き付けてくれた。
ラテ君、ベリーちゃん、助かるわ!!
シルク《ラテ君、ベリーちゃん! けが人がいるわ!! …どっちでもいいから手当てをしてあげて!!「》 [シャドーボール]!!」
ラテ「うん! [真空切り]!!」
ベリー「ならラテ、そっちは任せたよ!! [炎の渦]!」
トロピウス「[のしかかり]!」
1人気を失ってるから、分担しないといけないわね!!
私は{テレパシー}で直接2人に語りかけて指示を出した。
ラテ君は見えない空気の刃で群れの一部を切り裂き、その中に突入する経路を文字通り切り開いた。
ベリーちゃんはその場で炎を放ち、彼女たちの少し外側に炎の壁を創りだした。
……こんなに敵がたくさんいる状態で守るのは難しいけど、頼んだわよ!!
シルク「{氷結}玉、[目覚めるパワー]!!」
維持している超能力で鞄の中を漁り、目的の玉を取り出す……。
すぐにそれを発動させ、申し訳程度に相手に氷を纏わりつかせた。
……これで少しは隙ができたはず……。
……その間に……、
トロピウス・シルク「[マジカルリーフ]!!」「発散!! {爆睡玉}!!」
さらに相手の動きを封じる!!
発散させた暗青色から生じた上昇気流で飛ばされている私は前脚で{爆睡玉}を取り出し、立て続けに発動させた。
すると大勢いる相手はたちどころに睡魔に襲われ、バタバタと眠りに堕ちていった。
……でも、そこで終わらせないわ!!
シルク「[シャドーボール]、[目覚めるパワー]連射!!」
漆黒と紺を口元で混ぜ合わせ、4発連続で解き放った。
するとそのうちのいくつかがぶつかり合い、膨張しながら増殖していった。
ラテ「[守る]!!」
地上では、倒れていた[ランクルス]の手当てを終えたラテ君が大きめに緑のシールドで彼らを保護した。
ベリー「[オウム返し]……、[守る]!」
ベリーちゃんはラテ君のそれをコピーし、フラーさんを守る体勢に入った。
……これなら、万が一当たっても安心ね。
忘れてるかもしれないけど、私の特殊技は[従者のチカラ]の影響で限界を超えた段階まで強化されている…手。
…だから、例えラテ君でも耐えられるか際どいかもしれないわ…。
私が降らせた無属性の雨は確実に群れを捉え、確実にそれらを仕留めた。
最後の一滴が地面に落ちるのとほぼ同時に、ラテ君達を守っていた緑のシールドは派手な音をあげて崩れ落ちた。
……私の攻撃にも耐えられるようになったのね……。
ラテ君にベリーちゃん、成長したわね!
トロピウス「……あの数を一瞬で……。」
シルク「…ふぅ、とりあえず、危機は去ったわね。 ラテ君、ベリーちゃん、そっちは大丈夫かしら?」
ラテ「{復活の種}使ったから、そのうち目が覚めるはずだよ。」
ベリー「こっちも問題ないよ!」
……よかったわ……。
2人はその後に明るく{だから心配ないよ!}って付け加えた。
ラテ「ええっと、[トロピウス]のあなたはチーム“グリーンズ”のプラトさんですよね?」
プラト「…はい、そうですけど?」
私の技にあっけにとられている彼、プラトさんにラテ君は右前脚で依頼書を取り出しながらやさしく語りかけた。
……見た感じだと私達より年上なような気がするけど……。
彼のパートナーは[ランクルス]だから、たぶんそう。
プラト「…キミたちは?」
ベリー「[エーフィ]と[フラエッテ]の2人は違うけど、わたし達はチーム“悠久の風”。 連盟からの依頼であなた達を救助しに来たんです。」
ラテ「あと、ここで起きている事の調査です。」
プラト「“悠久の風”…!? プラチナランクの? …という事は[エーフィ]の彼女は連盟の役員…ですか…?」
…彼のほうが年上なのに、敬語使われてるわね…、私達…。
…この時代の常識では当たり前の事なんだけど……。
700年代では[イーブイ]が進化できるのは二十歳以上…。
にもかかわらず私とラテ君は進化している。
…理由は、説明するのに時間がかかりそうだから割愛させてもらうわ。
…もし気になるなら、3作目の“絆の軌跡〜過去と未来の交錯”を読んでくれるかしら?
…申し訳ないわね…。
…話に戻ると、プラトさんは常識的に推測した。
シルク「いいえ、私はただの学者…。 だから連盟とは全くの無関係なのよ。 ……そんな事より、ここで何があったのか話してもらってもいいかしら?」
今話し合うべきなのは私の事よりも遭難原因。
まだ2組も救助しないといけないからあまり時間がないわ!!
必要な事だけを言うと、私はすぐに話題を変えた。
プラト「……実は自分もよく分からないんです……。」
……はい?!
プラト「…唯一覚えているのが、赤黒い光……。 急にそれに包まれて大ダメージを受けたんです……。」
ラテ「…ダメージを…?」
プラト「はい…。 パートナーが一発でやられたので、相性からすると飛行タイプだと思います……。」
……そう考えるのが自然ね……。
[ランクルス]はエスパータイプ……、確か…。
……私が知っている赤い光は夕焼けと{モンスターボール}から発せられるものしかない……。
……こうなると、何者かの攻撃しか考えられないわね……。
……でも、一体誰が…?
もたらされた情報が、また別の謎を呼びよせた。
………分からないわ……。