18 咲き誇るはな(後編)
午前 死相の原入口 Sideシルク
ラテ「……ベリー、シルク、準備できてるね?」
ベリー「うん、大丈夫だよ!」
シルク「問題ないわ。」
ダンジョンの突入口に集まっている私達は、チームリーダーである[ブラッキー]の号令で士気を高めた。
……今この場所で異常な事が起きているから、シルバークラスであっても油断は出来ないわね……。
遭難者が続出している灰色の草原には、その状況を表すかのように暗い霧が立ち込め、
禍々しい空気が漂っている……。
空模様もお世辞にも良いとは言えず、不穏な雲から怪しい降水を起こそうと待ち構える……。
…この環境、私達にとって良いとも悪いとも言えないわね……。
[太陽ポケモン]の私にとっては、薄暗くて五感が鈍るけど、雨が降れば[10万ボルト]の命中率が上がる。
[月光ポケモン]のラテ君は私とは正反対で五感が研ぎ澄まされる……。
明るさの影響がないベリーちゃんは、今はどうって事ないけど、雨が降れば炎技の威力が落ちて体への負担も大きくなる……。
ラテ「じゃあ、そろそろ……」
???「あのー……、すみません……。」
ラテ「…いこ…?」
ベリー「ん?」
…?
こんな状況なのに、誰かしら…?
ラテ君の号令で黒の草原へと足を踏み入れようとした私達の背後から、誰のものでもない高い声が聞こえた。
???「わたしを…ここの奥地まで連れてってもらえますか…?」
そのほうに振りかえると、…種族、分からないけど青い花を持った一匹のポケモンが不安そうに浮遊していた。
シルク「道案内の依頼…かしら? ……あなたは…」
???「[フラエッテ]の…フラーといいます……。」
彼女の種族、[フラエッテ]って言うのね?
ベリー「フラーさんだね? …でも、遭難してるひとが多いこんな時にどうして?」
…そうね、私も気になるわ。
ベリーちゃんは私が訊ねる前に彼女の動機を聞いてくれた。
フラー「……そこに住んでる友人が…心配なんです…。」
ラテ「…わかりましたよ。 救助依頼を優先することになりますけど、いいですか?」
確かに、そっちを第一に考えるべきね。
遭難している人にとって今の状況は危なすぎる……。
身動きが取れない可能性も高いから、いつ起こるか分からない危険に晒され続けている……。
それに対して、彼女は私達が力尽きない限り身の安全は保障されている…。
2〜3秒考えた後、ラテ君は彼女にその趣旨を簡単に伝えた。
フラー「…はい。 …お願いします。」
ベリー「…なら決まりだね!」
シルク「ええ。 フラーさん、私達についてきてくださいね。」
フラー「…はい。」
見た感じ大人しそうな彼女は私の言葉にゆっくりと頷いた。
……彼女を守らなければならなくなったから、難易度が上がったわね。
…でも、特訓を兼ねて来ている私にとってはかえって好都合、……こんな時に思うことじゃないけど………。
…そして、依頼主のフラーさんを加えた私達4匹は今現在危険度が跳ね上がっている草原へと足を踏み入れた。
……………
数十分後 死相の原 Sideシルク
ラテ「フラーさん、僕がら離れないでください! [守る]!」
ベリー「[火炎放射]!!」
5〜6体の敵に囲まれた私達はすぐに臨戦態勢に入った。
まずラテ君が緑色のシールドを張り、フラーさんに害が及ばないように保護する。
次にベリーちゃんが燃え盛る炎を黒い草に放ち、引火させる。
シルク「[サイコキネンシス]。」
最後に私が炎の線を操り、敵のさらに外側を取り囲む。
……ひとまずこれで地に足をつけている新手は来ないわね……。
シルク「相手は悪タイプ……。 気が抜けないわね。 [シャドーボール]、[10万ボルト]!」
ミカルゲ「!? [ナイトヘッド]!」
ベリー「[オウム返し]……、[ナイトヘッド]!!」
私は漆黒の弾丸と高電圧の雷撃を別々に放ち、前者のほうを予め狙っていた[サマヨール]に命中させた。
敵のうちの一体、[ミカルゲ]も反撃し、ベリーちゃんを狙って技を発動させた。
……でも、墓穴を掘ることになったわね……。
[ミカルゲ]の行動に咄嗟に反応したベリーちゃんは相手の技を正確にコピーし、私の雷壁の後ろから発動させた。
ミカルゲ「ッ!!」
思いもよらない攻撃に対応できなかった相手はまともにダメージを受け、力尽きた。
シルク「あと4体…。 …なら、これを使わせてもらうわ!!」
この数なら、これを使ったほうが効率がいいわね。
私はその相手が倒れたのを確認すると常時発動させている超能力でひとつの{不思議玉}………、私のオリジナルである{氷結玉}を作動させた。
敵「「「「!!?」」」」
するとあたりの気温が一瞬下がり、それと同時に相手から驚きの声があがった。
相手の足元から氷の柱が突き出し、それに巻き込まれた部位に纏わりつく……。
効果の対象となった[ヘルガー]2匹は身動きが取れず、[火炎放射]でそれを溶かし始めた。
シルク「ベリーちゃん! 今のうちに頼んだわ!!」
ベリー「任せて!! [二度蹴り]!」
ベリーちゃん、あの2体のトドメは任せたわよ!!
纏わりついた氷に気を取られている隙に、ベリーちゃんはその敵に向けてチョコチョコと走り始めた。
射程範囲に入ると斜め前に跳び、格闘タイプの蹴りを1発ずつ命中させた。
シルク「[シャドーボール]…、発散。 …[目覚めるパワー]連射!!」
その間に私は漆黒の弾を利用して上空に飛ばされ、その頂点で暗青色の弾を連続で生成した。
そしてその弾を衝突させ、細かな粒子として相手の頭上に降らせた。
…多くて一つ一つが細かいから、かわすのは難しいかもしれないわね……。
相手「「「「っ!!」」」」
かわすことが出来なかった相手は目を回し、意識を手放した。
ベリー「…ふぅー…。 とりあえず、倒せたかな?」
シルク「そうみたいね。」
対峙していた相手が倒れ、ベリーちゃんと蒼い瞳の私は一息ついた。
…一息つくといっても、相手の戦闘レベルはそれほど高くないから、息は全然切れてないんだけどね。
ラテ「ふたりとも、お疲れ様。」
ベリー「ラテ、ありがとね。」
シルク「ラテ君もね。」
守りに関しては、たぶんこの時代では彼の右に出るものはいないかもしれないわね…。
私達が戦っている間、彼は攻撃が当たらないようにフラーさんを誘導しながら牽制してたからね。
ラテ「…でもやっぱりシルクにはかなわない……ん? ちょっと待って!!」
ベリー「? ラテ? どうかしたの?」
?
何かを感じたのか、ラテ君は突然声を荒げた。
おそらく耳にを集中させ、動かしながら全体を探る………。
……薄暗いから私には聞こえないわね……。
ラテ「……やっぱりそうだ! ベリー、シルク、遭難した人が近くにいるかもしれないよ!」
ベリー「本当に!?」
シルク「…という事は、見つかったのね!?」
ラテ「うん!」
本当なのね!?
集中していたラテ君は確信と共に声をあげ、若干の安堵の混ざった明るい表情になった。
フラー「…よかった…ですね…。」
シルク「そうね! ラテ君、案内をたのんだわよ!!」
ラテ「もちろんだよ!!」
今のところ場所が分かってるのはラテ君だけだから、任せたわ!!
彼は私の言葉に大きく頷いてくれた。
………まずは一組目……。
…ラテ君、ベリーちゃん、急ぐわよ!!