17 咲き誇るはな(中編)
午前 空の頂上空 Sideライト
ウォルタ「ついたよ〜。」
ライト「ここがそうなの?」
ソーフ「そうでしゅ!」
…何か不思議なところだなー、ここ……。
青い空の対流に羽毛を靡かせているわたし達の下には、壮大な光景が広がっている……。
まず目に入るのがどこまでも広がる雲の絨毯。
まるで壮大な海原のように波打ち、幻想的な空間をつくりあげている……。
白の
水面にはひとり取り残されたように鋭利な孤島がそびえ立ち、青い空を貫こうとしている………。
異次元にいるような錯覚を感じつつ、わたしは自然の壮大さに圧倒された。
こんなにすごい場所が、この世にあったんだね……。
もしも別の言葉で例えるなら、空の島………。
そんな感じかな?
地上よりもひんやりとした風を感じながら、わたしは彼女達に尋ねた。
ソーフ「[空の頂]って言って、頂上には広いお花畑があるんでしゅ!」
ライト「お花畑? 上のほうに見える赤っぽいのがそうなの?」
ウォルタ「そうだよ〜。 一年中赤い花が咲いていて、つい最近避暑地として有名になったばかりなんだよ〜。」
へー。
って事は、今話題のスポットなんだね?
……でも、こことソーフちゃんに何の関係があるんだろう……?
ソーフちゃんを乗せているウォルタ君は見た目とは不づりあいな口調で解説してくれた。
……せっかくのかっこいい種族なのに、何か勿体ない気がするのはわたしの気のせい?
でも、仕方ないかな?
ウォルタ君は元々[ミズゴロウ]だもんね。
ライト「そうなんだー。 …でも何でここに来たの? 探検の準備だから観光じゃないはずだけど……。 …それにソーフちゃん? ここ、結構高度高いけど大丈夫?」
…だって、ここは高度が何千メートルもある場所なんだよ?
見た感じ草タイプしか持って無さそうだから、心配だよ……。
飛行タイプかドラゴンタイプじゃないと高山病になっちゃうらしいし……。
ソーフ「平気でしゅ!」
ライト「でも、何で? ソーフちゃんって草タイプでしょ?
ウォルタ「すぐに分かるよ〜。 ついてきて!」
……今日は一体何回目だろう…?
次々に襲い掛かる疑問と共に、首を傾げながら言葉を紡いだ。
そう言った彼はわたしの前に移動し、羽ばたくスピードを早めた。
ライト「……とにかく、ついていけば分かるよね?」
…うん、そのはずだよ。
相変わらずモヤモヤしてるけど、わたしはそれを自分に言い聞かせ、心の雨雲を無理やり鎮めた。
そして、わたしはそのまま彼らを追いかけた。
…………
数分後 空の頂 Sideライト
ウォルタ「ソーフ? この辺でいい〜?」
ソーフ「はいでしゅ!」
…やっぱり、下から見上げるのとその場所で見るのとでは全然ちがうね!!
何て言うか……兎に角綺麗なんだよ!!
さっきの白地の絨毯が緑に染まり、赤い花の刺繍が施されている……。
赤・青・緑が互いに勢力を争っているけど、穏やかな風がその騒乱を和ませる……。
雲の上だから天気もいいし、地に降りたらすぐにでも居眠りしちゃいそうだよ……。
風光明媚な光景に心を洗われているわたしの横で、ソーフちゃんが気持ちよさそうにウォルタ君から跳び下りた。
ライト「わたし、こんなに綺麗なところに来るの、初めてだよ!! 空気も綺麗だし、何より涼しくて過ごしやすいよ!」
ウォルタ「でしょ〜! 本当はここに来るまでにダンジョンを抜けないといけないんだけどね…。」
ソーフ「飛べない種族にとってはちょっとした登山になりましゅね。」
…ちょっとした…っていうレベルじゃないと思うけど……。
…だって、雲の上なんだよ?
それにわたしには関係ないけど、空気が薄いから体力がいるはず…。
わたしは絶景に感動しながらも、密かに彼女の言葉に首を傾げた。
ライト「結構過酷だと思うんだけど…?」
ウォルタ「でもぼくたちは飛べるから関係ないよね〜。 …さあ、ライトさん、ちょっとソーフを見ててくれる〜?」
ライト「えっ? うん。」
ソーフちゃんを?
そういえばここにはソーフちゃんの用事で来てるんだっけ?
空中で体勢を維持しているウォルタ君は嘴で彼女を指しながら促した。
ソーフ「………。」
ライト「!? ソーフちゃん!?」
ウォルタ「始まったね〜。」
えっ!? まさかソーフちゃんも!?
……でもソーフちゃんって証も何も着けてないよね!?
赤と緑の絨毯と同化しているソーフちゃんは、上から見た感じだと目を閉じて意識を集中し始めた。
すると彼女は激しい光に包まれ始め、かたちが変わり始めた。
ウォルタ君より時間はかかったけど、光は安定し、ゆっくりと治まっていった。
ソーフ「ミーがここに来た理由……。 それは姿を変えるためです!」
ライト「…ソーフちゃんって、何かの伝説の当事者だったりするの?」
治まった彼女はさっきまでとは雰囲気が明らかに違っていた。
大きさはあまり変わってないけど、変化前より逞しくなったような…。
それに、体格も結構変わってる……。
………本当に、ソーフちゃんでいいんだよね?
自信満々に言う彼女に対して、わたしは短時間で探った記憶を頼りに質問した。
ウォルタ「ううん。 ソーフの[シェイミ]はこの花の花粉と反応して姿が変わるんだよ〜。」
ソーフ「{スカイフォルム}って言って、空も飛べるようになるんです!」
ウォルタ「夜になると元に戻っちゃうんだけどね〜。」
……って事は、ソーフちゃんの種族の特殊能力なのかな……?
コルドと一緒で性別もないみたいだし……。
…わたしも同じようなものだけど。
ライト「…飛べるの?」
ソーフ「はいです!」
ウォルタ「この姿だと飛行タイプも入るんだって〜。」
ソーフ「見ててください!」
男の子っぽくなったソーフちゃんは少し長くなった足で地面を蹴りながら言った。
すると彼女はふわりと浮きあがった。
ソーフ「ミーには翼がない代わりに、こうして浮遊できるんです。 …ウォルタ、ライトさん、お待たせしたですね。」
ウォルタ「ううん、ぼくはどうって事ないよ〜。 …じゃあ、行こっか〜。」
ライト「あっ、うん。」
…!
用事がす済んで、ふたりはゆっくりと高度を上げ始めた。
一方のわたしは反応が遅れ、その後に続いた。
……用事って、こういう事だったんだね……。