16 咲き誇るはな(前編)
午前 交差点 Sideシルク
シルク「……みんな揃ったわね?」
ベリー「うん、ちゃんといるよ!」
光り輝く空の宝玉がさらに熱を帯び始めた頃、午前の十字路に大きさが異なる6つの影が集まった。
…誰かは言わなくても分かるわよね?
…そう。
フラットさんから直接依頼を受けた“悠久の風”の4人と、その彼らに助っ人として加わった[ラティアス]と[エーフィ]の私。
旅の準備をしてからここで集合になったのよ。
[死相の原]はそれほど難しいダンジョンじゃないけど、今は例外…。
…だから、念入りにね!
ラテ「じゃあもう一回内容を確認するよ?」
ライト「うん!」
チームリーダーのラテ君が私達5人を見渡し、最重要項目を読み上げ始めた。
その彼に、ライトをはじめとした全員が思い思いに頷いた。
…急を要するから、しっかり確認をしないといけないわね。
ラテ「場所は[死相の原]で、依頼内容は遭難者の救出と原因の究明。 そこでこの6人を二つの班に分けるよ。」
ウォルタ「うん。 救出するのがラテ君とベリーとシルク。 原因を探すのがぼくとソーフとライトさんだよね〜?」
ソーフ「そのはずでしゅ。」
ウォルタ君、あってるわよ。
[ミズゴロウ]の彼はそれぞれに目線を合わせながら言った。
……実は、人数が多いから二つに分けたのよ。
遭難している人たちのためにも行動範囲を広げたほうがいい。
…そして、万が一この事件(?)の真相が凶悪犯によるものだったら、少数のほうが目立たない……。
ソーフちゃんの実力は未知だけど、みんなよっぽどのことがない限り倒れない…はず。
あと、襲われた時の対策として……、
シルク「間違いないわ。 ……じゃあ、始めるわね。 {絆により………、我らを護り給へ}……。」
[絆の加護]を発動させる。
私は目を閉じ、発動のキッカケとなる呪文めいた言葉を唱えた。
私にとってはデメリットしかないけど、その代わりに全員を守る事が出来る……。
…伝説の種族と、私以上の実力者以外からなら……。
ソーフ「!? これが…、ラテ達が言ってた[絆の加護]でしゅか!?」
ベリー「うん、そうだよ。 この感じ、久しぶりだなー。」
閉じられた瞳の暗闇で、ソーフちゃんの驚いた声が反響した。
…ソーフちゃんは初めてだから、驚くのも無理ないわね。
彼女に対して、経験済みのベリーちゃんは懐かしそうに呟いた。
シルク「ラテ君達にとってはどうか分からないけど、私にとっては一か月ぶりだわ。」
私はそう言いながら目を開けた。
ライト「私は2週間ぶりぐらいかな?」
ウォルタ「蒼い目を見るのもリーフさんと戦った時依頼だよ〜。」
ラテ「そのくらいだね。」
そうなるわね。
前に私とラテ君達と会ったのは2週間ぐらい前……。
三人が私達の時代に遊びに来た時だわ(〜導き〜参照)。
……一応おさらいしておくと、[絆の加護]は[絆の賢者]と[絆の従者]が使える能力…。
使用者の守りがほぼゼロになる代わりに、仲間に強固な守りを授ける……。
……でも、この守りも万能ではなくて、使用者以上の実力者と伝説の種族の攻撃は防ぐことが出来ない……。
そうなれば守りは解かれてしまう…。
あるいは、使用者が力尽きても同じ事が起こる……。
簡単に説明すると、こんな感じかしら?
ベリー「うん。 ……じゃあ、そろそろ行こっか。」
ライト「そうだね。」
シルク「ええ!」
ラテ「うん!」
ウォルタ「もちろんだよ〜!」
みんな準備できてるから、そのつもりよ!
ベリーちゃんの号令に全員が気合を入れた。
ソーフ「はいでしゅ!」
そして、私達は目的地を目指して歩き始めた。
………さあ、いくわよ!!
…………
数分後 Sideライト
ライト「………あれ? シルク達とは一緒に行かないの?」
ソーフ「はいでしゅ。 …実は[死相の原]に行く前にどうしても寄りたい場所があるんでしゅ。」
わたしはふと疑問に思って、二人の上から質問した。
……ええっと、その理由は……、交差点でシルク達とすぐに別れたんだよ。
…何でかは知らないけど……。
行先は同じなのに、なんでだろうね?
わたしがぶつけた疑問にソーフちゃんが見上げながら答えた。
…「寄りたい場所」?
疑問が疑問を呼んで、わたしはまた首を傾げた。
ウォルタ「そこに行かないとソーフの準備は全部終わらないんだよ〜。」
ソーフ「ミーの種族ならではの、でしゅ。」
ライト「??」
…どういう事…?
ウォルタ「…だから、ちょっと飛ぶよ? ついてきて〜!」
ライト「……飛ぶの? なら、乗せて行こっか?」
飛ぶって事は、結構遠いって事だよね?
大きさ的にも、ウォルタ君にソーフちゃんも乗せれるかな?
わたしは斜め下を歩いている2人にこう提案した。
ソーフ「ううん、大丈夫でしゅ。」
ウォルタ「ぼく、自分で飛べるから〜。」
ライト「…えっ!? でも、ウォルタ君って飛べない種族でしょ!?」
ウォルタ君!!?
[ミズゴロウ]は水の中は泳げるけど、空は飛べないはずだよ!?
わたしは思いがけず出た彼の言葉に驚き、その彼をハッと見下ろした。
……もう、訳が分からないよ!!
ウォルタ「普通ならね〜。」
ソーフ「でも、ウォルタならできるんでしゅ。」
ウォルタ「見てて〜!」
唖然としているわたしに構わず、彼はゆっくりと目を閉じた。
ライト「…!!? この光って、もしかして……」
すると、ウォルタ君は急に激しい光に包まれた。
……この光、わたしが姿を変える時のと同じだ……。
…って事は、ウォルタ君も……?
……でも、[ミズゴロウ]にそんな能力はないし、[変身]も覚えられないはずだよね!?
……だから、もうこれしかないよね……?
ライト「…ウォルタ君って、伝説の当事者なの…?」
[神速]の速さで結論を出したわたしはその彼らに恐る恐る訊ねた。
ウォルタ「うん、そうだよ〜。…」
光から解放された彼は種族特有の鋭い目つき………、でも優しい表情でそう答えた。
ウォルタ「…僕はシルクと同じ伝説の当事者………、[真実の英雄]なんだよ〜。」
ライト「シルクと同じ!!?」
ウォルタ「うん。」
姿を変化させた彼………、たぶん[ウォーグル]のウォルタ君は変わる前と同じ口調……、でも若干低い声で頷いた。
その彼は、まるで変化した感覚を確かめるように自由になった前脚……、いや、翼を羽ばたかせた。
………まさか、ウォルタ君も当事者だったとは……。
さすがにわたしでも想像できなかったよ………。
…って事は、ウォルタ君が首に着けてる白いスカーフは[証]なのかな?
ソーフ「そういう事でしゅ。 …ウォルタ、今日もいつも通り頼んだでしゅ!」
ウォルタ「もちろんだよ〜! …じゃあライトさん、ついてきて〜!」
ライト「えっ!? あっ、うん。」
ソーフちゃんは彼の背中に飛び乗り、しっかりとしがみついた。
彼女が乗ったのを確認すると、ウォルタ君は力強く羽ばたいて地面を思いっきり蹴った。
大きな翼を羽ばたかせ、彼は高度を急激に上げ始めた。
それにわたしも慌てて続き、二人揃って急加速した。
………ウォルタ君、案外飛ぶスピード早いかも………。