15 不穏な空気
朝 ギルドB1F Side シルク
ライト「…ソーフ…ちゃん? ソーフちゃんの事、何て呼んだらいい?」
ソーフ「? ミーでしゅか?」
ライト「うん。」
自己紹介を終えて、ライトはその彼…?…彼女…?に問いかけた。
…確かに、そこ、気になるわね。
ソーフちゃんの声、“男の子だ”って思えば男の子っぽいし、“女の子だ”って思ったらそう感じられる……。
この場にいる中で一番小さいソーフちゃんは浮遊する彼女を見上げながら答えた。
ベリー「わたしはどっちでもいいと思うよ!」
ライト・シルク「「“どっちでも”? どういう事」なの?」
べりーちゃん、何故?
初対面の私達の頭の上に、その疑問を表す記号が浮かび上がった。
ウォルタ「ソーフの種族、<シェイミ>は<コイル>とか<ビリリダマ>みたいに性別がないんだよ〜。」
シルク「性別が?」
ソーフ「そうでしゅ。」
……って事は、ライトの<ラティアス>と同じような扱いになるのかしら?
もしそうなら、声が中性的なのも納得できるわね。
ラテ「だからひとによって違うんだよ。 僕は“君”付けしてるし、べりーは“ちゃん”付けしてる…。 こんな感じでね。」
ライト「……って事は、わたしと似たような感じなのかな?」
ライトも、納得したのね?
…でも、確かにそうかもしれないわね。
種族だけで考えると、ライトの<ラティアス>は♀しかいない…。
性別が無いのと同じような感じだからね。
ウォルタ「そうなるね〜。 ライトさんの種族は片方の性別しかいないもんね〜。」
さすがウォルタ君、言わなくても知ってたわね!
考古学について教えた甲斐があったわ!
ライト「うん、そうだね。」
ソーフ「…だからライトさん、ミーの事は♂でも♀でもどっちでもいいでしゅよ!」
……じゃあ、彼女は空に輝く太陽のような笑顔で朗らかに言った。
どっちでもいいなら、私は♀として見させてもらうわね。
???「話している所を悪いが、いいかな♪」
ラテ・シルク「「??」」
…?
和気藹々と話す私達の背後……、階段のほうから、1つの声が響いた。
…この声はきっと……
ベリー「あっ、フラット。 依頼の事だね?」
フラット「そうだ♪」
やっぱり、フラットさんね。
私の予想通りに、ギルドの副代表のフラットさんが一枚の紙を持った翼をたたんで地面に降り立った。
シルク「依頼? フラットさんが直々にって事は、相当重要な事かしら?」
ライト「ハクさん達と同じだね。」
ラテ「うん。 ……もしかしてフラットさん? その依頼って、[死相の原]…じゃないですよね?」
ラテ君は私達に頷き、恐る恐る彼に提起した。
ベリーちゃんとウォルタ君も真顔になったから、何か訳がありそうね……。
フラット「………そうだ。」
ソーフ「……やっぱりでしゅか………。」
彼が答えた瞬間、淀み始めていた空気が一気に張りつめた。
フラットさんは顔を俯かせて囁いた。
……この様子だと…、ただ事ではなさそうね……。
シルク「[死相の原]って、確かシルバーレベルのダンジョンだったわよね?」
ライト「シルバー…? …なら、昨日わたし達が行った[超輝石の洞窟]より簡単なダンジョンだよね?」
シルク「そのはずよ。」
ライトの言う通り、[死相の原]はそこよりも難易度は低い……。
生息するのは悪タイプやゴーストタイプで、私達にとっては気が抜けないけど、一般的な探検隊ならよっぽどのことがない限り突破は簡単なはず……。
ベリー「そっか…。 前に起きた時はシルク達はいなかったね。」
ウォルタ「…実は最近、そこで探検隊からの救助依頼が増えてるんだよ……。」
シルク・ライト「「探検隊から!?」」
えっ!?
嘘でしょ!?
あまりの事を聞いた私の耳がピンと立った。
ウォルタ「うん。」
シルク「…その探検隊のランクは!?」
ラテ「シルバーだけじゃなくてゴールドも……。 …僕達と同じプラチナランクも報告されてるよ…。」
プラチナまで!?
フラット「…残念な知らせもいくつかある……。 辛うじて脱出したチームによると、気が付いたら大ダメージを受けていたそうだ……。 連盟は凶悪犯による犯行と考えたようだが、目撃情報が無いそうだ。」
ウォルタ「母さんから聞いた話なんだけど、[死相の原]の立ち入りを禁止にすることが検討されてるらしいよ。」
連盟はそんな見解なのね……?
……この状況、異常ね……。
…ちなみに、ウォルタ君のお母さんは探検隊連盟の幹部役員なのよ。
……会った時は彼とは仲が悪かったみたいだけど……。
…でも、今はそうでもなさそうね?
フラット「……だそうだ。 ……そこで、今現在脱出不可能なチームの救助を含めて、救助率No.1の“悠久の風”に白羽の矢が立ったという訳だ。」
ラテ「……いつか僕達にまわってくると思ってたよ……。」
ラテ君をはじめ、メンバーの三人も何かを悟ったように頷いた。
ラテ「…だから、行きますよ、僕達は。」
ベリー「もともとそのつもりだったしね。」
…こんな時に思う事じゃないけど、ラテ君達、成長したわね。
…………この状況だと、特訓云々言っている場合じゃないわ……。
フラット「…お前達ならそう言うと信じてたぞ…♪」
シルク「……だいたい状況は把握出来たわ。 ……ラテ君、その依頼、私も協力するわ。」
……兎に角、この物騒な事態を何とかしないと落ち着いて特訓もできないわね……。
私は意を決し、彼らにこう伝えた。
ライト「…シルク、やっぱりそう思ってたんだね? ……わたしも、いいかな?」
……エスパータイプとしての勘は、的中率が高いわね……。
ソーフ「ライトさんも、でしゅか?」
ライト「うん。 …わたしは住む時代は違うけど、“伝説”の種族であることには変わりない……。 …そもそも、困っているひとがいるなら助けるのが普通でしょ?」
ライト《それにシルク? 悪タイプとゴーストタイプが中心のダンジョンなら、特訓に丁度いいでしょ?》
シルク《…ライト、全然考え付かなかったわ。 …確かに、異常事態って事を考えなかったら修行には最適ね》
…ライト、本当にそうよね。
そもそもこの時代に来た本当の目的は観光じゃなくて特訓…。
あそびに来たんじゃないわ!
場違いな事を伝えるために、彼女は私だけに直接“テレパシー”で語りかけてきた。
それに私も同じように答え、ライトの脳内に自身の声を響かせた。
シルク「ええ!」
フラット「シルクさん達も協力してくださるなら心強いですよ♪」
…そう言ってもらえると嬉しいわ。
…でも、喜んでいる場合じゃないわね。
“星の停止事件”ほどは急を要さないけど、放置しておくのは得策じゃない……。
シルク「だから、私達も全力でサポートするわ!!」
ライト「もちろん!!」
私は自分に言いきかせるように、高らかに言い放った。