12 大部屋への違和感
午後 超輝石の洞窟最深部 Sideシルク
ハク「……シルク、さっきは何したん?」
ライト「{瞬足の種}にしては効果が高すぎる気がするけど……。」
地面より少し高いところを滑空している2人は、私が渡した道具に疑問を感じながら訊いてきた。
……私のオリジナルで説明もまだしてないから、知らないのは当然だけど……。
シリウス「シルクさんのオリジナルだからですよね?」
そこに、さっき作りだした自身の分身とともに敵を蹴散らして進んでいるシリウスも加わった。
私も、溜めていた竜の小弾を[ゴローニャ]に命中させてから…、
シルク「そうよ。 …ええっと、まずは種のほうから説明するわね。 さんにんに食べてもらった種……、[音速の種]は使ってみて分かったと思うけど、自身の素早さを上げるもの……。{三倍速}になるから{瞬足の種}の強化版と言ったほうが正しいわね。」
自作の種について解説した。
…補足説明をすると、これの作り方は{瞬足の種}を水に不溶のジエチルエーテルに浸してから化学的な操作をする……。
次に、
NaClを加えて種の成分と化合させる……。
反応が終わったら、浸していた溶液が種に完全に染みこむまで放置……。
結構省略したけど、こんな感じかしら?
専門用語のオンパレードの製法は言わなかったから、多分この説明で十分だと思うわ。
ライト「そっか…。だからなんだね?」
シリウス「作り方は分かりませんが、納得です。」
どうやら、分かってもらえたようね?
ハク「なら、{不思議玉}のほうはどうなん? …凄い炎やったけど。 …[アクアテール]!!」
……となると、次はそれね?
分かったわ。
彼女は水を纏った尻尾を[サイドン]に打ちつけながら、次なる質問をした。
シルク「それも私のオリジナル。 {焼炎の玉}と言って、攻撃に特化した{不思議玉}なのよ。 周りの敵に[ニトロチャージ]ぐらいのダメージを与えて、{火傷}状態にすることができるのよ。」
ちなみに、これは〜交錯〜の終盤に登場した{爆炎の玉}の火力を強化したもの。
爆薬の濃度の調整に苦労したわ……。
多分、今日ここに持ってきているモノの中で一番時間をかけているから、自信作と言っても過言ではないかもしれないわね。
A「[岩雪崩」!!」
ハク「なら、さっきみたいに囲まれた時に最適やね! [アクアテール]!!」
ライト・シルク「[竜の波動]!!」「[目覚めるパワー]!!」
………っと、のんびり解説している暇は無さそうね。
行動を始めたという事は、{爆睡玉}の効果が切れたというのね?
…なら、ここからは集中しないと!!
全ての解説を終えた私は瞬時に異変を感じ取り、即行で暗青色のエネルギーを蓄えた。
ハクとシリウス、ライトも私の行動に反応して、群がる集団に攻撃を命中させた。
……さあ、気を引き締めていくわよ!!
………
数十分後 Sideハク
シリウス「……みなさん、ここのエリア、何か変じゃないですか?」
ライト「ん? シリウスさん、どうかしたの?」
…あれから結構な時間戦っとるけど、確かにそうやね。
ライトちゃんはまだ気づいてないみたいやけど、ウチもそう思うよ。
連戦で分身がいなくなったシリウスは、ウチらに複雑な表情で言った。
シルク「言われてみたら、そうね……。やっぱり、気のせいじゃなかったのね。」
ハク「シリウスにシルクもそう思っとったん!? 実はウチもやよ!」
ライト「私にはここまでと大して変わらないと思うんだけど……。」
…あっ!
そっか!
ライトちゃんはまだダンジョンには今日を入れても2日目やったね。
ならこの異変を感じないのも無理ないね。
……えっ!?
どこが“異常”なのかって?
そっか!
読んでくれてる人は見えてないんだよね?
……じゃあ、ライトちゃんに言うついでに説明するね!
まだ状況を掴めていないライトちゃんは頭上に“?”を浮かべながら呟いた。
シルク「ライト、よく考えてみて! ここまでのダンジョンは必ずエリアごとに細い通路があったわよね?」
ライト「うん。 その通路がたくさん分かれてて迷路みたいになってるんだよね?」
シリウス「そうです。 …でも、ここはどうでしょう……。 エリアの壁際を進んでも通路がでてきませんよね?」
ライト「言われてみたら…そうだったような……。」
シリウスの言う通り、ここにはそれらしいものが全くないんよ!
……これだけでも十分異常なんやけど、まだあるんよ……。
ハク「あと、普通は倒してもまたすぐに別の敵が出てくるけど、ここは倒しても増える様子が全くないやろ?」
シルク「それに、決定的なのがダンジョン
独特の空気がない事に気付いたかしら?」
ライト「……あっ!! そういえばそうだよ!!」
ライトちゃん、どうやら気づいたみたいやね!!
この2つが決定的な理由やし!
彼女の“?”は、ウチらの指摘で“!”へと変貌を遂げた。
ライト「ここに入ったときはあんなにいたのに、今はあんまり多くないよ!!」
ハク「やろ?」
ライト「……なら、ここが一番奥なんじゃないかな?」
ハク・シリウス・シルク「「「えっ!?」」」
えっ!?ライトちゃん!!?
どういうこと!?
ライトちゃんの思いがけない言葉に、ウチらは3人とも驚愕した。
だってそうやろ?
野生のポケモンがいるのに一番奥ってあり得んやろ?
……今までたくさんのダンジョンを攻略してきたけど、そんなところは1つもなかったよ!!
ハク「でもライトちゃん!? ここには野生のひとがいるんやよ!?」
ライト「そうだけど…、大部屋だといつも同じかたちのエリアになるんでしょ? それに、敵も増えないなら……そもそもここはダンジョン
じゃないんじゃないかな?」
ダンジョン“じゃない”!?
シリウス「ライトさん!?どういうことですか!?」
シルク「………。」
シリウスも同じことを思ったみたいで、ウチと同じように反論する。
シルクはというと、何かを考えながら辺りをきょろきょろ見渡してる………。
ライト「だって、通路がないなら<ここで行き止まり>って考えるのが自然じゃない?」
シルク「!!! ライト!! もしかするとそうかもしれないわ!!」
ハク・シリウス「「!!? シルク!?」」
えっ!?シルクまで!?
彼女も、何かを閃いたのかハッと声をあげた。
シルク「もしライトの言う通りなら、敵が一向に増えない事の説明がつく!! ……そこで、あくまで私の推測だけど……、このエリアの敵は<秘宝を守る仕掛け>かもしれないわ!」
!
……確かに、シルクの推理が正しかったら、この違和感の説明ができる……。
それに、さっきの壁画だって思いがけない仕掛けがあった……。
……見た感じ特に何もないし、その可能性も捨てられやんね!
親友の推理によって、ウチの考えが180度変わった。
ハク「なら、ウ……」
シリウス「なら今回はシルク達に任せますよ。」
…チは……
ハク「チ……、あっ、うん。 壁画の謎を解いたのもライトちゃんやもんね!」
シリウスが誰かの言葉を遮ったこと、一回もないからビックリしたよ……。
彼の思いがけない行動に驚いたけど、ウチは何とか彼に続いた。
シリウス「……だから、自分たちは2人に任せますよ。」
シルク「わかったわ! ……なら……、ライト? ライトの{派生技}を発動してくれるかしら?」
ライト「{派生技}……。 うん、いいよ。………」
ハク・シリウス「「{派生技}?」」
…何なん?それ?
初めて耳にするウチらは、揃って首を傾げた。
シルク「あとで説明するわ。」
……一体、何なんやろう……。
そのあいだに、ライトちゃんは目を瞑って意識を集中し始めた。
ライト「……[竜の波動]………、……[流星群]!!」
ハク・シリウス「「!!?」」
!!?ライトちゃん!?
彼女は口元にエネルギーを溜めたかと思うと、それを天井に向けて打ち上げた。
……でも、待って!!
ここでは技は1つしか出せやんはずやろ!!?
……おまけに、最上級技の[流星群]て………。
シルク「何とかなりそうね。」
ライトちゃんが打ち上げたそれは、天井に触れる前に弾けて、無数の岩石に変化しながら降下しはじめた。
全体攻撃のその技は相手を的確に捉え、
殲滅した。
ハク・シリウス「「………。」」
その光景を見たウチらは言葉を失った。
ライト「…これで、全員倒せたかな……?」
ハク「……もしかして……、それって[ラティアス]の能力なん……?」
シルク「いいえ、これは私達の時代のテクニックなのよ。 残っているエネルギーの2/3を使って……」
シルク?説明してもらってもいい?
エスパータイプらしく、多分ウチの考えを読み取ったシルクは淡々……
全員「「「「!!?」」」」
うわっ!!眩しい!!
シルクが解説している間に、突然激しい光が放たれ、ウチらの近くに集まり始めた。
それは次第に凝縮していく………。
ウチらはそれに耐えきれず、咄嗟に目を閉じた。
………おさまった…?
ウチは恐る恐る……、ゆっくりと目を開けた。
シルク「……おさまったみたいね…。」
シリウス「そうみたいですね。」
ハク「みたいやな。 ……ん? 何やろう?あれ…。」
ライト「さっきはなかったよね?」
あれ?
あんなところにあんな石、あったっけ?
だだっ広い空間の丁度真ん中に、さっきまでは無かった丸い物体が鎮座していた。
シルク「確かに、無かったわね。」
ライト「いってみようよ!!」
ハク・シリウス・シルク「そうやな!」「ですね。」「ええ!」
そやな!
直接そこにいって確かめるのが一番ええね!
ウチらは互いに顔を見合わせて頷き、
光り輝く石目指して駆け出した。
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