07 親友を訪ねて……(後編)
夜 ギルドB2F sideシルク
ライト「……ふぅ。 何とか間にあったね…。」
シルク「ええ。 ギリギリセーフ……ね……。」
夕暮れの商店街を疾走した私達は、息を切らせながら日没間際のギルドに滑り込んだ。
外は松明の炎がゆらゆらと揺れ、星と月の煌めきが、長い夜の到来を知らせる……。
暗くなった事もあって、町のポケモン達も帰路につき始め、日中は賑やかな商店街も、静寂へと包まれていく……。
ライト「うん。 さっきシルクがくれた木の実……?種……?のおかげ…かな?」
シルク「{瞬速の種}……ね……。」
種族の影響かは分からないけど、ギルドの坂を駆け上がった私は息を弾ませながら切れ切れに言葉を紡ぐ……。
……久しぶりに、全力で走ったわ。
ライト「{瞬速の種}? 何か周りの動きが遅くなってたような気がするのはそのせい?」
シルク「そうよ。 効果はまさにあの通りよ!」
あっ、そうそう。
私達、[第四区画]に入ったあたりでそれを食べたのよ。
もしなかったら間にあってなかったかもしれないわね。
ライト「って事は、素速さが強化されるの?」
シルク「一時的にね。 ちなみに、[種]にはいろんな種類があって使い方次第で戦闘の幅が広がるのよ。」
まさに、その通りね!
自分に使ってステータスを強化する物もあれば、相手の口の中に放りこんで悪い状態にさせたり……。
千差万別ね!
私は入り口の螺旋階段を一段落ずつ降りながら、補足で説明した。
ライトはというと、背中の翼をたたんだりのばしたり……、器用に動かしながら私のペースに合わせて降下していく……。
ライト「へぇー……。 って事は、わたし達の時代にはない戦い方ができるって事だね?」
シルク「そういう事よ! ……さあ、無事に間にあった訳だから、食堂に行きましょ!」
ライト「うん!」
そして、私達は仕事が終わって賑わい始めているギルドの食堂へと向かった。
…………
夜 食堂 sideシルク
フラット「……という訳で、親方様は早々とお休みになられたから騒ぐことのないようにな♪」
フラットさん、わかったわ。
本当は食事が終わってから行こうと思ってたけど……、それなら仕方ないわね。
フラットの言葉を受けとった私達は、それぞれに頷いて元気よく………、でも声を抑えて返事した。
フラット「……それともう一つ、親方様と“明星”のお二人が調査した[理想の峠]だが……、[浅層部]と[中層部]、[深層部]に分かれているそうだ♪」
フレイ「……それって、どういう事なんっすか?」
そっか……、そういう事ね?
ライト「……ええっと、ダンジョンが3つのエリアに分かれてるんだよね?」
シルク「そうよ。 エリアとエリアの間は[中継点]っていう安全地帯があるの。 比較的難易度の高いダンジョンに多くて、一種の休憩所になってるわ。 そこを境に地形、拾える道具、生息する種族………、更に難易度だって変わる事もあるわ。」
…{つまり、繋がってるダンジョンでも全く別物なのよ。}
私はこう付け加えて簡単に解説した。
……大雑把には、こんな感じね。
ライト「そうなんだー。」
リル「シルクさんって……、僕達以上にダンジョンの事…知ってるんですね?」
フレイ「[サイコキネンシス]しか見てないんっすけど、上級技を使ってたのも納得っすよ!」
……どうやら、分かってもらえたみたいね!
ダンジョンに今日初めて行ったライトと、かけだしのフレイ君とリル君は私の言葉を頷きながら聴いてくれた。
フラット「ライトさんの実力は分からないが、私の知る範囲ではプラチナランク以上だ♪ {星の停止事件}の時はシードさんを含めた4匹で[光の雲海](〜交錯〜参照)を突破したという噂がある程だ♪」
シャイン「キャー! [光の雲海]って、[ゼロの島]と同じレベルのダンジョンですわよねー?」
[光の雲海]って、そんなに高いレベルだったのね?
……知らなかったわ……。
シルク「…ええ。 噂は本当よ! ……あの時、フライとシードさん、シロさんと挑んでも半日以上かかったわ。」
それに、道具は一切無く、足場という足場も無かったわね……。
中継点も無かったから、最後にして最高難度だったのを覚えてるわ。
……この後も、私の体験談、雑談とかで二日目の夜が更けていったわ………。
………今気づいたけど、いつの間にか話題が変わっていたわね……。
後で聞いた話なんだけど、[理想の峠]は[導きの大河上流](〜交錯〜参照)を突破した先にあるみたいなのよ。
そして、難易度は[浅層部]から順にブロンズ、シルバー、ゴールドらしいわ。
…………
翌日 ギルドB2F sideライト
フラット「……それじゃあ、今日も張り切っていくよ♪」
ギルドメンバー「「「おー!!」」」
毎日してるっていう朝礼で、みんなは威勢良くかけ声をあげた。
……何故かはしらないけど、凄くやる気が出るよ!
外もいい天気だし、何か良いことがある……そんな気がする!
昨日は昨日でこの時代の事を知れたし、フレイ君とリル君と仲良くなれた。
あと、シルクの親友のシリウスさんとも知り合えた。
……凄く充実した1日だったよ!!
フレイ「シルクさん? シルクさん達は今日は何をするつもりなんすか?」
シルク「昨日はバタバタしてて忙しかったから挨拶まわりの続きをね!」
ライト「それと、買い物するつもりなんだよ!」
あと、昨日は会えなかったハクさんだよね?
興味津々で訊いてきたフレイ君に、シルクはどの時代でも変わらない笑顔で答えた。
朝の爽やかな光景に、わたしからも自然と笑顔が溢れた。
リル「とっ…、[トレジャータウン]ですね?」
シルク「ええ!」
だって、シリウスさん達に会うのも[トレジャータウン]だもんね!
ライト「フレイ君達は依頼を解決しにいくんだよね?」
フレイ「そうっすよ!」
……じゃあ、今日は別々だね?
……うん、きっとそうだよ!!
って訳で、雑談を早々にわたしとシルクは朝の商店街へ……、そしてフレイ君とリルは[湿った岩場]っていうダンジョンへと向かった。
……シルク、やっと会えるね!
…………
午前 トレジャータウン第三区画 sideシルク
シルク「……シリウス? 待たせちゃったかしら?」
シリウス「……いいえ、自分も今来たところです……。」
太陽の位置を気にしつつ小走りでかけていた私は、待ち合わせていた彼……、[アブソル]のシリウスを見つけて勢いよく駆けだした。
…ちょっと遅くなったかと思ったけど、シリウスも今来たところなのね?
よかったわ!
合流した私達は、互いに顔を寄せ合った。
……あっ、シリウスとはそういう関係じゃないからね!!
確かに私は♀でシリウスは♂だけど、違うから!!
これは四足歩行する種族同士の間での挨拶方法だから。
……流石に、体格に差があると出来ないけど、大概はそうなの。
ライト「ふぅー、良かった。 ……じゃあ、早く行こうよ!」
……と、そこにライトが遅れて………、
……あっ、ライト、ごめんなさいね。
ハクに会えるのが嬉しくて自然と走るペースが上がってたかもしれないわ。
彼女は早速……って感じで私達を促した。
シルク・シリウス「そうね!」「…はい!」
ライト、もちろんよ!
私は高鳴る胸の鼓動と共に大きく頷いた。
シリウスは落ち着いた様子で……、でもいつもよりは高めのテンションで、クルリと体の向きを変えた。
そして、私達三匹は親友の待つカフェへと再び歩き始めた。
……もちろん、昨日は簡単に済ませたシリウスの紹介を改めてしながらね!
…………
数十分後 カフェ sideシルク
シリウス「……ハク、お待たせ。」
ライト「この人がそうなの?」
シルク「ええ! ハク、会いたかったわ!!」
シリウスに導かれるように[パッチールのカフェ]………とは別の店に入った私達は、背を向けるように座って(?)いるポケモンに話しかけた。
高まる期待と嬉しさで満たされてる私の視線の先には……、全体的に蒼で、四肢が無くて長い身体が特徴の種族………、[ハクリュウ]が尻尾でカップを持って飲み物をすすっていた。
彼女は首に薄黄色のスカーフ……、{キーの鉢巻き}を巻き、羽根みたいな耳には青い耳飾り……、私とお揃いのアクセサリーをしている。
……その彼女が満面の笑みで振りかえり……、
ハク「シルク!! 久しぶりやね!!ウチも会いたかったよ!!」
カップを置いて、そのまま尻尾で私の右前脚と握手を交わした。
本当に………ホントに………会いたかったわ!!
とうとう私達は、どちらにとっても一年ぶりの再会を果たした。