06 親友を訪ねて……(中編)
午後 トレジャータウン第四区画 sideシルク
ライト「……じゃあ、あとでね!」
シャイン「ええ! 食堂で待ってますわー!」
シルク「そこで会いましょ!」
立ち話をしていたシャインさんとは一旦別れて、私達は止めていた歩みを進め始めた。
探検隊を対象にしたこの区画は、夕方前で人影は疎ら……。
…強いて言うなら、探索を終えて帰ってきたポケモンが道具の整理に走り回っている程度……。隣の区画ではあまり感じられなかった夕焼けが、まるで彼らの疲れを労うように朱く輝いている……。
ライト「シルク? シャインさんと喋っていてさっきまで気づかなかったんだけど、こっちの区画はあまりいないね。」
シルク「この時間帯は元々探検隊はあまり来ないのよ。 ……ほら、1日の終わりで疲れてるでしょ? ……だから大概のポケモンは朝に準備をするのよ。」
私も、どちらかというと朝にする側ね。
それに、情報を集めるのには最適なのよ!
その時間帯はここ以外が拠点の、探検隊も訪れる……。
[絆]の架け橋を広げる意味も込めて、私はこの時間を選んでいたの。
……今回も、きっとそうなるかもしれないわ。
シルク「例えば、この店でね! シスさん、トランスさん、お久しぶりね!」
ライトを見上げながら歩いている私は、馴染みの店の前で立ち止まった。
……きっと、ここが一番お世話になった店かもしれないわ。
シス「本当に、帰っていたんですね?」
トランス「今ではシルクさんの事で話題になってますよ!」
シルク「そんなに?」
ライト「やっぱりシルクはどの時代でも有名なんだね?」
……これはちょっと予想外ね……。
トランス「有名も何も、{“悠久の風”と共に世界を救った考古学者}として名が知れ渡ってますよ!」
シス「大陸中で知らないひとはいないぐらいですから!」
ライト「えっ!? {世界を救った}って、どういう事なんですか!?」
シス・トランス「「知らないんですか!?」」
{知らないひとはいない}って、大袈裟すぎじゃない!?
私はただ、調査に少しだけ手を貸しただけで、そんな大々的に言われる事はしてないわ!!
私以外の三匹は、声を荒げた。
シス「彗星の如く現れて圧倒的な強さで世界を救い、突然姿を消した[エーフィ]と[フライゴン]ですよ!?」
トランス「遥か遠くの伝説の種族も知ってるぐらいですよ! [ラティアス]のあなたも知っているはずですよね!?」
シルク「……ええっと、シスさん、トランスさん……? 話に尾ひれが付いてるけど、彼女が知らないのは仕方ないわ。 [ラティアス]の彼女……、ライトは私と同じ2000年代の出身……、それもこの時代には昨日来たばかりだから……。」
それに、彼女をはじめ……、フライ以外の仲間以外にも言ってないわ。
[カクレオン]の兄弟は凄い勢いでライトに迫る……。
……ライト、ごめんなさいね……。
シス・トランス「「2000年代の……!? ……そっ…それは失礼しました!!」」
シルク「……ふたりとも、顔を上げてくれるかしら? 話してなかった私が悪いのだから、あなた達が落ち込む必要はないわ!」
ライトが知らないのは、私が言わなかったから……。
私に落ち度があるから、気にしないで!
私は兄弟揃って額を地に付けているシスさん達に優しく……、でも力強く言った。
ライト「わたしも気にしてないから、ねっ?」
シルク「だから、……」
A「…[時代]と[時代]の間には大きなギャップがあるので……、仕方ないですよ……。」
シルク・ライト「「!?」」
!!?
突然背後から低い、丁寧な声がして、私とライトは驚きと共にとびあがった。
……ビックリした……。
……でも、この落ちついた声は………、私が会いたかったポケモンのうちの一匹に間違いないわ!!
私はすぐに立ち直って、確信と共に振り返った。
シルク「シリウス!! やっぱりあなただったのね!!」
シリウス「おばちゃんのところからカフェに行こうとしたら偶然見かけましてね……。」
と、そこには、私の予想通り、青くて小さなリングに紐を通してネックレスとして身につけている[アブソル]…………、親友のうちの一匹のシリウスが前に会った時とは変わらない様子で歩み寄ってきていた。
ライト「{シリウス}さん………って事は、シルクが言っていた[アブソル]?」
シルク「ええ、そうよ! 彼も、親友なのよ!」
シリウス「シルク、自分も、そう思ってますよ……。」
彼、ちょっと大人しいけど、戦闘になると人……いや、ポケモンが変わったように饒舌になるのよ。
それに、実力のほうもかなりのもので、たぶん当時のフライとほぼ互角……かな?
彼は笑みを浮かべながら呟いた。
ライト「仲、良いんだね?」
シリウス「あなたも、そのようですね……。 ……自分は[アブソル]のシリウスと言います。 …これでも、探検隊“明星”として活動してます…。 …あなたは……見かけない種族ですね……?」
ライト「……っていう事は、この時代ではわたしの種族の知名度って低いのかな……? ……まっ、いっか! シリウスさん、わたしは[ラティアス]のライトと言います。 よろしくお願いしますね!」
シリウス「…こちらこそ。」
……私も、それぞれの時代の親友を紹介できて嬉しいわ!!
ライトは体勢を起こして、シリウスと堅く握手を交わした。
………時代を越えた交流の瞬間ね!
シリウス「…シルク、それにライトさんも、これから時間、空いてますか?」
シルク「ええっと……、ギルドの門限までなら大丈夫よ!」
ライト「……でも、あと20分ぐらいしかないよね……? もうすぐ日が沈みそうだし……。」
……言われてみれば、そうね……。
話に夢中で気付かなかったけど、朱く色づいていた空ももう暗くなりかけているわ…。
日没を迎えるのも、時間の問題ね……。
ライトの言葉を聞いた私とシリウスは、朱と黒のグラデーションが効いた空を仰ぎ見た。
シス「ギルドは日没までが門限ですからね。」
シルク「……なら、また明日出直しましょ!」
シリウス「…そうですね。 …なら、ハクにもそう伝えておきます。」
シルク「シリウス、頼んだわ!」
シリウス「はい。」
親友は{任せてください!}と言わんばかりに頷いた。
……シリウス、頼んだわよ!
そして、明日また話しましょ!
私達は明日の再会を誓い合って、互いに握手を交わした。
……で、シリウスは、私のもう一匹の親友……、[ハクリュウ]のハクが待つ[第三区画]へ、……私とライトは門限間近のギルドへと、歩き始めた。