03 食糧調達という名の直接指導
朝 ギルドB2F sideライト
フラット「……それでは、今日も張り切っていくよ♪」
ギルドメンバー「「「おー!!!」」」
フラットさんの号令で、シルク以外のみんなが声を上げた。
……威勢がいいし、見ているこっちまで身が引き締まるよ!
シルクも、{懐かしいわね。}とでも言うように微笑みながらみんなが散り散りになっていくのをみまもっている……。
……それにしても、成り行きでこの時代に来たけど、驚かされてばっかりだよ!
一番ビックリしたのは、この時代には人間がいないっていうこと。
何でかシルクに聞いてみたんだけど、{私達にはどうにもできないし、未来が変わることになるから知らない方がいいわ。}って言って、全然聞いてくれなかった……。
シルクが言うのなら、仕方ないかな……。
フレイ「リル、今日も早速依頼を探しに行こうぜ!」
リル「あっ、ちょっ……ちょっと待って!」
フレイ君、今にも飛び立ちそうだね?
フレイ君はまるでリル君を連れ去りそうな勢いで言った。
……何か、ティルと似てる……。
そんな彼を、リル君はオドオドしながら呼び止めた。
フレイ「{待って}って、何を?」
リル「きょっ、今日の依頼はもう決まってるんだよ。」
フレイ「依頼が? リルが率先して選ぶなんて、珍しいじゃねーか。」
ライト「昨日の事だね?」
リル「はい!」
食糧調達だよね?
リル君は元気よく返事した。
シルク「私から説明させてもらうと、[林檎の森]へ食糧調達。 それから、そこの奥地まで私達を案内する事よ!」
ライト「どんな所かは知らないけど、そうみたい。」
これが簡単なのか難しいのかは分からないけど、そうなるよね?
シルクは表情を崩さずに言った。
フレイ「[林檎の森]っすか!?」
シルク「ええ、そうよ! ブロンズレベルの[ダンジョン]よ!」
……[ダンジョン]……。
これも、この時代に来て初めて知ったこと。
くる度に地形が変わって、力尽きると持ち物が全部無くなっちゃうらしい……。
わたし達の時代には無かったから、今からそこに行くとなると、緊張するよ……。
フレイ「俺達もとうとうランクアップか! そうと決まったらさっそく行こうぜ!」
シルク「……でもフレイ君? 準備は大丈夫?」
リル「あっ、僕達は前の日に準備を済ませる主義なので、大丈夫です!」
ライト「…なら、心配ないね!」
2人は前もって準備するタイプなんだ……。
勇み立っているフレイ君は、{任せろ!}とでも言うように胸を張って言った。
シルク「ええ! ……さあ、行きましょ!」
ライト・リル・フレイ「うん!」「はい!」「足、引っ張らるなよ!」
もちろん!
シルクの号令で、わたし達は声を合わせて気合いを入れた。
……じゃあ、行こう![林檎の森]へ!
………
午前 林檎の森入り口 sideシルク
シルク「……着いたわ。 ここが[林檎の森]よ!」
ライト「ここが?」
リル「はっ、初めて来ましたよ……。」
フレイ「まっ、楽勝だな!」
ギルドから歩いて一時間、私達は赤い木の実がたわわに実った森にたどり着いた。
ここは比較的簡単なダンジョンだから、初心者には最適ね!
それに、ここは年中新鮮で良質な[林檎]が採れる事で有名なのよ。
シルク「ブロンズレベルと言っても、あなた達にとっては油断できないと思うわ。 草や虫タイプが中心とはいえ、進化系も生息しているから気を抜かないようにね!」
ライトなら余裕で突破出来ると思うけど、2人とも{ノーマルランクだ。}って言ってたから、気が抜けないわね……。
リル「そうなんですか…。気をつけます。」
フレイ「……でも、{探検隊}じゃないシルクさんも同じっすよね?」
リル君、素直ね。
リル「フレイ? フレイは居なかったから知らないと思うけど…」
フレイ「知らないも何も、俺は直接目で見たものしか信じねぇーよ。 俺もせっかく15になって進化出来たんだ。 ……だから直接確かめさせてもらうっすよ!」
フレイ君、自信家なのね?
彼は自信満々に私に勝負を挑んできた。
リル「ふっ……フレイ、シルクさんは……」
シルク「フレイ君、私もあなた達の実力を知りたかったから……受けてたつわ!」
リル「[過去]……えっ!? シルクさん!?」
指導するのには、丁度いいわ!
昨日フラットさんにこの事も頼まれたから、ピッタリね!
私達の事を昨日聞いて知っているリル君は、この光景を見てオロオロ……。
ライト「いいんじゃない? …それに、わたし達の時代では{挑まれたバトルは請ける}のが礼儀だから。 ……それに、他のポケモンの闘いを見るのもいい勉強になると思うよ?」
シルク「……じゃあフレイ君、始めましょ![サイコキネンシス]!」
フレイ「[電光石火]!」
私のかけ声と共に、この時代に来て最初のバトルが幕を開けた。
………さあ、行くわよ!
私はかけ声と同時に、超能力で鞄から二つの小瓶を取りだした。
フレイ君は身軽に翼を羽ばたかせ、私めがけて急接近し始めた。
……年の割には、なかなかね……。
……でも、
フレイ「!? かわされた!?」
私は瓶の栓を開けながら左に跳び、難なく接近をかわした。
シルク「いきなり正面から突っ込むのは良くないわよ。」
フレイ「…なら、これならどうっすか!? [つつく]!」
シルク「甘いわ!」
咄嗟に身を翻した彼は、嘴から突っ込む……。
それを、私は垂直に跳んでかわした。
リル「ふっ、フレイの攻撃をかわした!?」
フレイ「!?」
シルク「……さあ、私もいかせてもらうわよ!! {化合}!!」
……そろそろ、私も行動しないとね!
私は開け放った二つの小瓶の中の物質……、[テレフタル酸]と[エチレングリコール]を超能力で取りだした。
………ここからは専門的な話になるから、スルーしてもらっても構わないわ。
私は瞬時に多価アルコールの化合物と、芳香族化合物を縮合重合させる…。
化学的な反応をしたそれから、透明で板状の物質が生成された。
刃物状に形成したプラスチック……ポリエチレンテレフタラート……通称PETを、私は口にくわえた。
……知ってるかもしれないけど、[従者の証]の影響で私は物理攻撃と通常攻撃が出来ないのよ……。
……だから、道具を使わないと直接攻撃出来ないの……。
話、逸れちゃったから元に戻すわね。
フレイ君に再び接近された私は、速攻で道具を創りだしながら攻撃をかわした。
フレイ「!? [電光石火]!!」
彼は、内心焦りながら急接近……。
シルク「フレイ君、バトルには焦りは禁物よ!」
フレイ「っ!!」
そんな彼を、私は横向にくわえているプラスチックで受けとめた。
鋭利なそれに触れたフレイ君は、少しダメージを被った。
すぐに上昇し、私から距離をとった。
フレイ「直接攻撃がダメなら……、[火の粉]!!」
シルク「[サイコキネンシス]!」
彼は再び接近しながら、嘴に炎を蓄え、火片として放出した。
対して、私はプラスチック片を首をふって投げ、超能力で操った。
動きをコントロールし、フレイ君の火片を纏わせる…。
そして、そのまま……、
フレイ「!? かわせない!!」
彼の元へ向かわせる……。
フレイ「くっ……、やられ……?」
私は彼にトドメを指さず、目の前で寸止めした。
ライト「……勝負あり……だね。」
リル「凄い……。 先輩達の師匠っていうのは……本当だったんだ……。」
フレイ「…負けた……。全く適わなかった……。」
シルク「フレイ君、お疲れ様。 ……フレイ君がどれくらいの実力を持ってるか大体分かったわ。」
……彼は恐らく、{スピード特化型}ね。
私は戦闘に使ったプラスチック片をそばに寄せながら彼を評価した。
リル「どっ、どんな感じなのですか?」
シルク「種族からしても{素速さ}な平均以上ね……。攻撃力も申し分ないけど、戦略は検討が必要……。 ……こんな感じかしら?」
フレイ「シルクさん……、そんな事まで分かるんっすか……。 ……シルクさん、強いっすね…。」
圧倒されながら、彼は言った。
相変わらず、リル君はオドオド…。
そんな2人に、私は笑顔で言った。
リル「……シルクさん、凄いですよ! 先輩達の師匠っていうのも伊達じゃ………」
フレイ「ちょっと待った! {先輩の師匠}ってどういう事だよ!?」
目が太陽のように輝いているリル君の言葉を、素っ頓狂な声でフレイ君が遮った。
ライト「そういえば、この話をしてる時はフレイ君は寝ちゃってたね。」
リル「いつもだからね……。 フレイ、シルクさんは“悠久の風”のラツェルさん、ベリーさん……、あと考古学者のウォルタさんの師匠なんだよ。」
フレイ「はっ!? 嘘だろ!?」
リル「それだけじゃないんだよ! シルクさんとライトさんは[過去]のポケモンなんだって!」
フレイ「[過去]!? あり得んだろ!?」
フレイ君、いくら何でも驚き過ぎだと………。
彼はパートナーの言葉を聞いてとびあがった。
ライト「ううん、それが本当なんだよ。」
シルク「[セレビィ]のシードさんを知ってるわよね?」
フレイ「おっ……おお。 知っているっすよ?」
シルク「シードさんは{時渡りポケモン}……、時代を越える[チカラ]を持っているわ。」
ライト「わたしは昨日知り合ったばかりなんだけど、シルクとシードさんは一年ぐらい交流してるんだって!」
シルク「同族のチェリーに聞けば分かるはずよ?」
この時代での親友のうちのひとり…、[セレビィ]のチェリーに聞けば確実ね。
……だって、チェリーはシードさんがきっかけで知り合ったのだから……。
………あっ!
この時代のひとは全員そうだったわね!
フレイ「チェリーさんにっすか!?」
シルク「そうよ! ……さあ、私達の事はこのくらいにして、先に進みましょ!」
私は、彼女との関係を聞かれる前に、早々と話題を切り替えた。
……このままだとキリがなさそうだから、切り上げさせてもらったわ。
そして何より、まだダンジョンにも入ってなかったし、本当の目的を忘れそうだったから…。
リル「そっ、そうですよね。 僕達はここに
食糧を調達しに来たんですよね? だっ、だから、進んだほうが、いいですよね?」
………リル君?
もう少し自信をもって言ってもいいのよ?
終始オドオドしているリル君は、自信なさげに提案した。
ライト「…そうだね。 話は歩きながらでも出来るもんね! ……じゃあ、行こ!」
シルク「ええ!!」
リル「はい!」
フレイ「……そうっすね。」
私の事なんて後でいくらでも話すから、ね?
私を含めた皆が一通り頷くと、止めていた歩みを進め始めた。
………久しぶりのダンジョン……、楽しみだわ!!