10 LS 白銀の悩み
午前 トキワの森 sideシルク
ライト「オルトの言う通り………、凄い事になって る…………。」
私以外の、意識がある誰もが言葉を失った。
………いや、失わない方がおかしいわ。
技の使い方もそうだけど、私はポケモンの常識……使える技の数の点で非常識だからね……。
このバトルだけでも、私が使った技は5つ……、普通は4つのところを……。
おまけに、[エーフィ]が覚えられない[ベノムショック]と[10万ボルト]を使った。
シルク〈ライト!私の事は後で話すから、すぐにこの子の手当てをしてあげて!!〉
私は水色の瞳のままライトに指示をだした。
ライト「えっ!?あっ、うん!」
イーブイ〈に………、人………間……!?〉
ティル〈凄い傷だけど、もう大丈夫だよ!!〉
私の声を聞き、茂みに隠れていたライト達が駆け寄った。
イーブイ〈………どうせ……私が色違いだから………弱ったところを………捕まえるつもり……だったんでしょ! [スピードスター]!!〉
ライトの姿を見ると、急に警戒し、ふらつきながらも黄色い流れ星を放った。
………これは……無理そうね………。
シルク〈[サイコキネンシス]………! 私達はあなたを捕まえるつもりは無いわ。それに、あなたは……〉
イーブイ〈うるさい!!…〉
不意に撃たれたけど、私は冷静に受けとめた。
………これは、言葉では落ち着かないかもしれないわ………。
イーブイ〈どうせ、……私が
他人とは違うから、………。みんなそうなんだよ!!〉
彼女は敵意をむき出しにして言い放った。
……このままではキリがないわね……。
イーブイ〈私を助けてくれたのは……感謝するけど………、君も私に対する好奇心からでしょ!!私が特殊だから……〉
シルク〈いいえ、特殊なのはあなただけではないわ。〉
私は彼女の訴えに口を挟み、優しく語りかけた。
彼女………、他人を信用できなくなっているみたいね……。
さっきの状況から推測すると……、日常的にあんな仕打ちを受けていた可能性があるわね……。
お節介かもしれないけど、放っておけないわ!!
シルク〈私の目をよく見て!〉
イーブイ〈……目を見て……何になるの……。〉
シルク〈私の瞳、他の[エーフィ]とは違うでしょ? それに、さっきのバトルを思いだしてみて!私の異常さが分かるはずよ?〉
ティル〈それ、俺も気になるよ。どうして?〉
ティル君も、同じね。
シルク〈私はさっき使ってない[瞑想]を含めて、[サイコキネンシス]、[シャドーボール]、[目覚めるパワー]……、そして、他の[エーフィ]………、いや、常識に反して、5つ目に[10万ボルト]、6つ目に[ベノムショック]………。………それに、私には守備力が無くて、木の実を使っても回復できない………。つまり、私もあなたと同じで、特殊なのよ。〉
イーブイ〈…………確かに、[エーフィ]の瞳は………白なのに……、君は青い………。私以外にも異常なポケモンがいたなんて………。〉
………何とか、冷静さを取り戻したみたいね……。
イーブイ〈………でも、兄さんや姉さんを無理やり捕まえていった人間が………一緒なんて………、絶対に………信じないから!!〉
………私の事は信じてもらえたみたいだけど……。
彼女はまだふらつきながらも、ライトの事を思いっきり睨みつけた。
………心の傷が……相当深いようね……。
ティル〈ならライト? ライトの正体を明かしたら?〉
ライト「……あっ!そっ……」
???〈テトラ!!〉
イーブイ〈……!?………ジル………兄さん………?〉
ライトが言おうとしたその時、遠くから[ジル]と呼ばれた[リーフィア]が駆け寄ってきた。
……兄さんって事は、兄妹かしら?
色は……、普通ね。
ジル〈もう……、あのチンピラ達は何回言っても聞かないんだから……。………?トリ……ではないね……。〉
シルク〈? ……ライト、今のうちに。〉
ライト「……あっ、うん。」
?
私がどうかしたのかしら?
ジルさんが私を見て呟いた。
ライトは、私の言葉で我に返り、すぐに光を纏った。
収まると、本来の姿である[ラティアス]が姿を現した。
ジル〈倒れている[スピアー]を見ると……、あなた達が助けてくれたんですね?〉
シルク〈えっ……、ええ。〉
テトラ〈別に………助けてもらわなくても良かったのに……。人間………!?じゃない!?〉
ライト〈そう。私、ポケモンだから………とにかく、このままだと聞いてくれそうにないから……、[癒やしの鈴]!〉
………そっか、彼女、[テトラ]っていう名前なのね。
元の姿に戻ったライトを見て、テトラさんは驚きを隠せない様子……。
ライトは天に祈り、辺りに心地いい音色が響いた。
私には効果がないけど、使えるようになったのね?
テトラさんの苦しそうな表情が若干緩んだ。
ライト〈これで、楽になったでしょ?〉
テトラ〈…………。〉
テトラさんはこっくりと頷いた。
ジル〈…回復技ですか……。 ……遅くなったけど、僕の妹を助けてくれてありがとうございます。……[エーフィ]の君は瞳が青いけど……。〉
そう言って、[リーフィア]の彼はぺこりと頭を下げた。
……あっ、そうだったわね!
すっかり忘れてたわ……。
私は目を瞑り、心を鎮める……。
目を開けると、瞳は元の色に戻っていた。
シルク〈紹介が遅れたわね。私は[エーフィ]のシルク。宜しくお願いするわね!〉
ティル〈俺は[フォッコ]のティル。よろしく!〉
ライト〈……で、わたしは[ラティアス]のライト。……とにかく、無事で良かったよ。〉
私は白い瞳で、にっこりと微笑んだ。
テトラ〈………ポケモン……だったんだ……。〉
対して、テトラさんは呆然としているわ……。
ジル〈……ほら、テトラ。強がってないでしっかり挨拶して!〉
テトラ〈………[イーブイ]のテトラ……。さっきは、
ありがとう………。〉
テトラさんは、語尾が小さくなりながらも、何とか呟いた。
……やっぱり、まだ警戒されてるのかしら……?
シルク〈いいえ。私は当然の事をしただけよ。〉
疑い深いテトラさんに、私は笑顔で答えた。
ライト〈うん。困ってたら助けるのが普通でしょ?〉
テトラ〈………うん……。〉
ジル〈そうですね。テトラ、優しそうなポケモンだし、信じてもいいんじゃない?〉
テトラ〈ジル兄さん……。〉
テトラさん、心が揺らいでいるかもしれないわね。
……複雑な顔してるし……。
実のお兄さんに言われたからね……。
ライト〈わたし、人間じゃなくてポケモンだし……。〉
テトラ〈…………。〉
シルク〈私はどう思われても構わないわ。……でも物事は捉え方次第でいくらでも変わるわ。テトラさんは[色違い]だって事をマイナスの意味で捉えているのかもしれないけど、[個性]って思えば、いいんじゃないかしら?〉
考え方を変えれば、気持ちも楽になるはずよ?
テトラ〈……[個性]……?〉
シルク〈そうよ。誰にだってコンプレックスはある……。例えば、私なら両親がこの世には存在しない事かしら……?……でも、私はちっとも劣等感を感じてないわ。……最初は劣等感に打ちひしがれていたけど、ある時から考え方を変えたわ。それ以来、凄く楽になったわ。………だから、色違いだって事を個性って思えばどうかしら?………どうするかはあなたの自由だけど……。〉
親がいなくても、色が違っても自分が自分である事には変わりない……。
他人に、自分の容姿、生い立ちを貶される筋合いは無いのだから………。
ティル〈シルクにそんな事が………。〉
テトラ〈………[個性]…………。そっか………。そんな事………、考えた事なかった………。〉
何かを悟ったのか、テトラさんの瞳から一筋の光が流れた。
ジル〈テトラが泣いたところ、初めて見た……。〉
テトラ〈私の色が違うのも、……[個性]って思えばいいんだ………。〉
ここで、テトラさんが初めて笑顔を見せた。
それは輝く太陽よりも暖かく、重量がかなりある[グラードン]よりも重みがあった………。
テトラ〈……シルクさん、何か気持ちが楽になったよ……。兄さん達以外にも信用出来るポケモンがいたんだね……。〉
ジル〈テトラが人前で笑うのって、いつ以来だろう……。〉
………とにかく、想いが晴れて良かったわ!
テトラ〈……ライトさん? その様子だと旅してるんだよね?〉
ライト〈えっ!?うん。してるけど?〉
突然話をふられて、ライトは素っ頓狂な声をあげた。
テトラ〈私を、旅の仲間に入れてくれる?〉
ティル・ライト〈〈!?〉でも、わたしは普段人間の姿でいるし、たくさん会う事になるけどいいの?〉
テトラさん、何かが変わったわね!
出会った当初は別人のように生き生きとしているわ!!
…こっちも嬉しくなるわ!
テトラ〈うん!シルクさんの言う通り、考え方を変えてみようと思って。それに、シルクさんの話を聴いて、他人を信じられない自分を変えたいと思ったの!〉
………どうやら、決意は堅いようね?
ライト〈そっか。……規定では[モンスターボール]に入る事になるけど、いい?〉
テトラ〈うん!〉
テトラちゃんは大きく頷いた。
彼女の決意を聞くと、ライトは光を纏い、姿を変えた。
そして、鞄からそれを探り出し……、
ライト「……じゃあ、いくよ!!」
笑顔で溢れているテトラちゃんに向けて投げた。
コツッて音がして、テトラちゃんは赤い光と共にそれに吸い込まれた。
一回……、二回………、三回揺れ、やがて収まった。
ジル〈シルクさん、ティル君、テトラの事をよろしくお願いします!〉
私はライトとのメンバーじゃないけど……。
ライト・ティル・シルク「〈うん!〉」〈ええ!〉
しばらく一緒だから、そのつもりよ!
………こうして、私達に新たな旅の仲間が加わった。