109 L 現在の目標
リーグ Sideライト
〈ぅぅっ…〉
〈あっ、ライト、気がついた?〉
わたしはふと、近くからする物音に気がつき、目を覚ました。ぼんやりする意識の中でゆっくりと目を開けると、殺風景だけど見覚えがある光景が広がっていた。一言で言うなら、ほとんどの町にある、ポケモンセンターのロビー…。静かすぎてちょっと耳鳴りがするけど、若干の安心感をわたしに与えてくれていた。
一方のわたしはというと、戦ってすぐに意識が無くなったから、元の[ラティアス]のまま。伏せるような体勢で、ロビーの壁の近くに備え付けてあるソファーに寝そべっていた。
わたしの目覚めに気付いたのか、わたしの近くで寄り添ってくれていたテトラが声をかける。わたしが寝ていたソファーから跳び下り、振り向いてからにっこり笑いかけてくれた。
…テトラがいるって事は、みんなの回復も終わってるってことなのかな。テトラは引き分けで力尽きてたのに、今はピンピンしてて元気そう。だから、そうかもしれないね。わたしが終わった時点で動けるのはティルだけだったから、“テレパシー”で頼んだか、カエデさんがしてくれたのかも。
わたしはこんな風に考えながら、横たわっていた身体を浮かせた。
〈うん。テトラは、いつ起きたの〉
〈うーんと…、まだ1時間ぐらい、かな〉
…そっか。テトラはちょっと前にはもう起きてたんだね?
わたしがこう訊ねると、彼女は一度上を見上げ、考える。そして、1〜2秒ぐらいしてからわたしに向き直り、少し首をひねりながらこう答えた。
〈そっかー。テトラはまだそんなに経ってないんだね〉
〈うん。ティルはずっと起きてたみたいなんだけど、ラグナは回復してもらった時には、もう気付いてたんだって〉
…ラグナは2番目だったから、そのぐらいだね。ティルには戦った後のわたしの事を頼んでたから別として、テトラその後。だから、順番的にラフも、もう起きてるね、きっと。
〈って事は、ラフも〉
〈うーん…。20分ぐらい前にティルと交代した時は、まだたったかな〉
…それもそうだよね。ラフはこの短時間で十二分に強くなったけど、まだ11才。わたしが11才の時って言ったら、ヒイラギと本島に行ったら何をしようか、話に明け暮れてたぐらい。その時はまだ人間に姿を変える事はもちろん、技も全然使ってなかった。だから、今日一日でそうとう疲れただろうね…。
〈そうなんだね〉
〈うん。それにライト、ティルから聞いたよ。私達、リーグを制覇できたんだよね〉
そう彼女は、にっこり笑いながらわたしに問いかける。その声には、あの喜びをもう一度味わいたい…、そんな期待が含まれているような気がした。
…わたしもちょっと前まで実感なかったけど、勝てたんだよね。
〈わたしはギリギリだったけど、何とかね。これもみんなが頑張ってくれたおかげだよ。ありがとね〉
〈ううん、私達だけじゃないよ。私達がみんなで勝てたのは、ライトが鍛えてくれたから…。それに、私達を良い方に変えてくれたからだよ! だから、お互い様だよ〉
…こうして感謝を伝えるのはちょっと照れくさいけど、本当にそうだしね。だって、追い込まれても最後まで戦ってくれた。それに、それぞれが勝ったのか負けたのか、戦ってる最中にわざと伝えなかったから、いつも以上に集中してた。節目で結果をみんなに言わなかったのは、それが狙いだったから、かな、今言わせてもらうと。だから、後でみんなに、どんなふうに戦ってたのか、話さないといけないね。これはエスパータイプとしての勘だけど、きっとみんなも知りたがってるはず…。だから、ね!
わたしは笑いかける彼女に、ここまで戦ってくれた感謝の気持ちを正面から伝える。心なしか、わたしにはその瞬間、ロビーの温度が3℃ぐらい上がった…、そんなような気がした。そしてわたしは種族上短い手を出した。
彼女は首を軽く左右に振り、そう言う。でもテトラは笑顔で答えてくれて、右側の触手で硬く握り返してくれた。
〈そうだね〉
〈それにライト? 1つ聞きたいんだけど、いいかな〉
〈ん? テトラ、急にどうしたの〉
わたしが頷くと、テトラは徐に話題を切り替えた。わたしの手を握ったまま、若干の疑問の色を浮かべてこう訊ねてきた。
〈わたしもそう思ってたんだけど、ティルが〈これからどうするの〉って。だって私達、今まではリーグで勝ち抜くために頑張ってきたでしょ〉
…そういえば、考えたことも無かった。…でも、もうわたしの中ではもう決まってるよ。
〈それが目標だったもんね。うーんと、まだ決まってないんだけど、とりあえずヤマブキに行くつもり〉
〈ヤマブキに? でも、何で〉
〈そこならみんな、自分がしたい事を出来ると思って〉
〈私達が?〉
〈うん〉
…これもわたしの勘だけど、テトラなら、お姉ちゃんのトリさんもそこに住んでるから、すぐに会いに行ける。ティルなら、ハートさん達がいるシオンからそう遠くない。それに、ヒイラギも武術ができるみたいだから、ティルと組み合えるかもしれない。ラフは〈野生の時には行かなかった、色んな街を見てみたい〉って言ってた。だから、ヤマブキは広いから丁度いいかな。ラグナには後で訊いてみないと分からないけど、わたしはヒイラギと毎日のように話せる。
〈…だから、次の目標を見つけるため、って感じかな〉
わたしはこんな風に、自分の想いを彼女に伝えた。
…詳しくはティルにラグナ、ラフも揃ってから言うつもりだけど、しばらくヒイラギの仕事の手伝いをしようと思ってるよ。人間の姿に変えれるようになって大分経つけど、知らない事もたくさんある…。それだけじゃなくて、わたし自身を含めて、みんなの特訓。探偵っていう仕事だから、自分の身を自分で守るためにもね。
…まだ他にもあるけど、大まかにはこんな感じかな? でも、それはまた別の話し。だから、この物語、“絆の軌跡〜繋がりの導き〜はここまでかな?
…最後に、1年と7か月っていう長い間、この物語を読んでくれて、ありがとうございます。ティルにテトラ、ラグナ、ラフ…、それからシルク達と、この物語に登場したみんなの代わりに、感謝の言葉を言いたいと思います。
読者のみなさん、読んでくれてありがとう! そしてこれからも、作者の@をよろしくおねがいしますね!…あっ、そうそう! 言い忘れてたけど、@はこの作品の続編と新作の両方を考えてるみたいだよ。アンケートの結果も考えて決めるみたいだから、それまで待っててくれるかな?
…だから、結果発表をお楽しみに!