[アンケート結果発表中]絆の軌跡 〜繋がりの導き〜























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終章 物語は終わらない
108 S 夢の奥底
 トキワシティ ポケモンセンター Sideユウキ


 「…うん、カエデ、わざわざありがとね」

 僕は、ライブキャスター越しに話すリーグチャンピオンにそう伝え、会釈した。すぐにボタンの1つを押すと、プツッと音がし、彼が映っていた画面が黒一色に染め上げられた。そしてそれを窓際のテーブルの上に置くと、安心感から、僕はふぅーっと一息ついた。

 〈で、ライト、勝てたの?〉

 と、そこに、僕の通話を聞いていたのか、部屋のベランダからフライがこう訊ねてきた。

…ライトが「リーグに挑戦する」って事になってから、結局今日はトキワを出発せずにゆっくりしてたんだよ。…でも何か、シルクにオルト…、みんなも落ち着かないみたいで、思い思いに気を紛らわせてたって感じかな? まずコルドは、昔からの知りあいだっていうリヴさんと話に、二ビへ。心が繋がってるから分かるけど、結構楽しそうに思い出話に華を咲かせてるみたい。次にオルト。オルトはマサラの研究所で色んな資料を見せてもらってるよ。行く前に「今日ぐらいはゆっくりしてたらいいんじゃないの」って聞いたんだけど、オルトは〈俺は本を読んでいた方が落ち着ける〉って言ってた。それから、スーナとリーフ、フライはセンターの裏で技の調整。…というより、特訓かな。リーグで戦ってるライト達に触発されたみたいで、一か月間の休暇での成果を試し合ってたよ。最後に、僕とシルク。僕達は、午前中は久しぶりにふたりきりで過ごして、午後からは、ライト達の戦いの予想。どんな風に戦ったのかは本人から聴くつもりだから、本当に楽しみだよ。それでも時間が余ったから、論文の最終確認だね。
 ちなみに、今はもう夕方。部屋のベランダから見た感じだと、明日はきっと晴れだね。

 「うん。最後まで五分五分だったみたいで、ライトが決着をつけたらしいよ」

 僕はもたらされた吉報で興奮が冷め止まぬまま、メンバーの中では最年少の彼に伝える。第一声を言うのと同時に大きく頷き、すぐに大まかな戦況を揚々と伝えた。

 〈本当に? ライト、一発で突破できたんだね〉

 僕の言葉を聞いて、彼の表情も一気に明るくなる。それはまるで、油で炒ったモコシの実が熱で破裂したかのように弾けていた。

…フライ、僕も同じ気持ちだよ!

 「ライトもギリギリだったって言ってたけど、そうみたいだよ。シルク、聴いてたよね…、あれ、シルク?」

 そう言いながら、背を向けている部屋の中央に振りかえる。座敷の真ん中の大机で作業をしているはずの妹に話しかけた。でも、彼女からの返事は何もなかった。

 〈…スゥ……〉

 その代わりに、気持ちよさそうに眠る寝息だけが規則正しく聞こえてくるだけだった。彼女は右前足でペンを握ったまま、真っ白な紙を枕に突っ伏していた。

…結構無理な体勢だけど、熟睡してるね、あの感じだと…。

 〈シルク、寝ちゃってるね。シルクがこんな時間に寝てるって、珍しくない?〉
 「本当にそうだね。昨日の夜は遅くまで起きてたみたいだから、そのせいかな」
 〈かもしれないね〉

 眠っている彼女を起こさないように、僕達は声を潜める。昨晩の光景を思い出しながら、僕は彼女を優しく見守るフライにこう言った。

…シルク、どんな夢を見てるんだろうね? 寝顔が、嬉しそうだよ。

 僕も彼と同じように、熟睡する彼女を暖かく見守る事にした。


…みんなに報告するのは、シルクが起きてからかな…?

























――――



 ???    Sideシルク


 〈…ん? ここは…、どこなのかしら〉

 私はふと気がつくと、さっきとは全く違う光景が広がっていた。目の前にあるはずの、原稿とペンが全く見当たらない。前脚を机に乗せて立ったまま目を通してたはずなのに、何故か横になっている。決定的に違うのが、私がいる場所。ついさっきまでセンターの座敷にいたはずなのに、使い込まれた畳の香りが全くしない…。その代りに、どこまでも広がる白が、辺り一面を支配していた。

 〈もしかして、ここって、夢の、中…?〉

 ぼんやりとした意識のまま、私はゆっくりを起き上がる。周りの景色を見ながら首を傾げ、私しかいない空間でこう呟いた。

…急にこんな所に来た…? いえ、いるなら、寝ちゃったのかもしれないわね、私って。

 〈そうだよ! きみがいるここは、ゆめのなかなんだよ〉
 〈えっ…、だっ…、誰なの!?〉

 と、私の背後から突然声が響き渡った。声からすると、幼い女の子のそれは、エスパータイプの私にとって、驚かせるのに十分すぎる威力を持っていた。

…いっ、いったいどこから声が!? さっきは誰もいなかったはずよね?

 〈だれって、わたしはきみだよ?〉

 疑問の輪廻に囚われてしまった私は、その方へ慌てて振り返る。するとそこには、見た感じ4歳ぐらいの[イーブイ]が、ニコニコ笑いかけながら私を見上げていた。

 〈私!? あなたが、私!?〉
 〈うん! いまのきみのなまえって、シルクっていうんでしょ?〉

 あまりの事に声を荒げる私に、彼女は大きく頷く。そして、当然の様に私に訊ねてきた。

 〈そっ、そうよ〉
 〈なら、ついてきて!〉
 〈ちょっ、ちょっと、まだあなたの名前を…〉

 全く状況が掴めていない私は、中途半端に首を縦にふる。それを見た謎のイーブイは、私の反応を待たず、一目散に駆け出した。
 突然の事に反応が遅れた私は、慌てて四肢に力を込め、彼女を追いかける。

 〈きみにあわせたいひとがいるの!〉
 〈合わせたい、ひと?〉
 〈うん!〉

 走りながら振り返り、彼女は元気よくこう答える。

 〈合わせたいひとって、誰の事…〉
 〈ほら、あそこにいるでしょ?〉

…私の夢の中なら、私がしってるひと? でも、夢の中で思うほど、「会いたい」って想うひとに全く心当たりがないわ…。そもそも、今見てる夢、いつものとは違う…、そんな気がする。何故なのかはわからないけど…。

 彼女は疑問を投げかけようとしている私の言葉を遮り、目線で前の方を指す。すると、何も無かったそこに、1つのひと影が浮かび上がった。

…確かに、このひととはもう一回会って話したいとは思ってたけど…、夢にまで思うほど、なのかしら?

 〈待ってたわ〉

 その影、一匹のメスの[オオタチ]が、私の前を走るイーブイに優しく話しかけた。

 〈フィフちゃん、この先にいるわ〉

 〈うん、ありがとー!〉〈タチノさん…、この先にって…〉

 休暇中に会った彼女、野生時代の私を知っているらしい彼女は、右前足でその先を指さした。その彼女に、イーブイはぺこりと頭を下げ、そのまま通過した。
 イーブイを追う私は、訳が分からないままタチのさんに訊く…。

 〈行けば分かるとおもうわ。フィフちゃん、ゆっくり話してくるといいわ〉

 〈うん!〉〈えっ、ええ…、えっ!?〉

 通り過ぎる私にも、彼女は揚々と言い放った。その彼女に、私達は揃って…

 〈フィフって、あなたも!?〉
 〈うん、やっとわかった?〉

…この子、私の野生時代の名前で返事したわね、絶対に。

 タチノさんの言葉に全く同じタイミングで返事した彼女に、私は頓狂な声をあげる。疑問に疑問が重なった私は、ついに声を荒げながら問いただした。

 〈って事は…〉
 〈そう、わたしはフィフ。やせいのときのきみなんだよ〉

…野生の時のって…。もしかしてこの子、野生の時の私? つまり、ユウキに拾われる前の、私?

 〈…でも、何で昔の私がここに?〉
 〈だって、ここはきみのゆめのなかでしょ? …ゆめのなかじゃなくって、“ゆめのおく”っていったほうがいいかな?〉
 〈“夢の、奥”…?〉
 〈そうだよ〉

…“夢の奥”って事は、私の“記憶”の奥深くにある場所ってこと?

 〈“ゆめのおく”だから、こうしてわたしとあえるんだよ。…ほら、みえてきたよ〉

…どうやら、それで間違いなさそうね。“記憶の奥深く”なら、昔の私がいるのも納得だわ。

 小さな私は、この場所がどういうところか簡単に言うと、何かに気付いた。その方向を減速しながら指さした。
 現在の私も言われるままに目を向ける。するとそこには、さっきとは違って二つの陰が姿を現した。

…大きさは、大体私と同じくらいって感じね…。…でも、あのふたりは知らないわ…。

 その二つの陰は、二匹の私の存在を確認すると、愛おしそうに微笑んだ。

 〈あの[ブラッキー]と[サンダース]が、私が会いたいひとって事でいいのかしら?〉

 私は小さな私に、こう聞いた。

 〈うん! おとうさんとおかあさんも、そうだよね?〉
 〈おっ、お父さんとお母さんって事は…、このひと達がファナさんとエクアさん!?〉

…こっ、このふたりが、私の、お父さんと、お母さん…?

 問いかける私に、私は自信満々に答えた。

 〈そうよ。フィフ、大きくなったわね〉
 〈そうさ。フィフは[エーフィ]になったんだね〉
 〈本当…に、そう、なの、ね?〉

 私の言葉に、メスの[ブラッキー]、ファナさん…、いいえ、私のお母さんが優しい笑顔で頷いた。その彼女に続くように、オスの[サンダース]、エクアさん…、私のお父さんが〈うんうん〉と頷きながら、私の方へ駆け寄ってくれた。

 〈そうじゃないと、私達はここにはいないわ〉
 〈ファナと僕は、フィフの“記憶”の中の存在だからね〉

…思ってもいなかった再会に、私の目頭が自然と熱を帯び始める。まばたきすると、そこから大粒の光が勢いよく流れ落ちた。

 〈お母さん…、お父さん…、本当に…、本当に、会いたかったわ!!

 とうとう私は我慢できず、彼女達の懐に飛び込んだ。
 大粒の涙を流して泣きじゃくる私の頭を、お母さんが前足で優しく撫で、お父さんは、背中をゆっくりとリズムよくさすってくれた。

























       これが、お父さんと、お母さんの、温もり、なのね?











         シルク編   Finit...

@ ( 2015/07/02(木) 00:35 )