100 L VS龍牙の猛攻(唄)
セキエイ高原 第4の間 Sideラフ
ライト・ワタル「ラフ、練習通りいくよ!」「[カイリュー]、 あとは任せた」
ラフ・カイリュー〈うん! ライ姉、そうしないと勝てないよ〉〈聞いたところによると今回の相手はなかなかの手練れらしいね〉
カイリュー〈…うん、なるほどね。相手は…〉
…ライ姉、この戦いが正念場だね。
四天王戦を終えたみんなの期待を背負った私は、さっきと同じように左右の翼を羽ばたかせてステージに出場する。勢いを2〜3回上下に動かすことで弱め。両足同時に地面についた。その後私は戦う相手をまっすぐ見つめ、気合いを入れた。
同じタイミングでボールから出た相手、ライ姉達の友達を倒したっていう[カイリュー]は穏やかな様子で舞台に降り立つ。大きな体にはかなり不釣り合いな、背中の小さな翼を動かし、体勢を整えた。その彼はトレーナーの言葉を受けとるとすぐに後ろに振り返り、揚々と声をあげる。対面する私に向き直ってもしゃべる口が止まる事はなく、私に対する分析がひとりでに始まった。
…このひと、凄くおしゃべりだね。群れにいつまでも話してるひとはいたけど、ここまでじゃなかったかな。
そんな事より、バトルの事を考えないと…。相手のタイプは、確か純粋なドラゴンタイプ。それに対して私はドラゴン・飛行タイプ。相性と技だけで考えると、互角かな? それだけで考えると五分五分だけど、私は相手が使う技も知ってる…。
実は、今回の作戦は相手の技を前もって知る事だけじゃないんだよ。ええっと、それは…、
ライト「ラフ、作戦通りいくよ!」
≪鞄の中を強く意識して!≫
ラフ〈うん!〉
アレを発動させる。
スタンバイする私に向けて、ライ姉は威勢よく言い放つ。その直後に私の頭の中に直接話しかけ、打ち合わせ通りの指示を出した。
それを受け取った私は元気よくそれに頷く。そしてすぐに瞳を閉じ、練習通りに意識を集中し始めた。
…この作戦が成功すれば、例え経験が少なくても一方的な戦いができる…。そのためにも、まずは集中しないと…。
……………。
…………、………きた……。
閉じられた瞳の暗闇の中で、私はふと力が湧き出してくるのを感じ始めた。
カイリュー〈!! これは、まさか…〉
たちどころに私は紺と薄桃色の光に包まれた。その中で私の体つきが変化していく…。この変化はものの数秒で収まり、光が弾けて雲散すると同時に変化した私が姿を表した。
ラフ〈
そう、その通りだよ!〉
明らかに動揺し、驚きの声を思わず漏らしてしまった相手に、私は高らかに言い放った。その声には軽くエコーがかかり、遮るものがなにもないフィールドに何度も響き渡った。
…ここまで言えばもうわかったかな? 私の今回の作戦。…そうだよ。一時的に姿が変わることでかなりパワーアップすることができる、“メガ進化”…。私の場合、“メガ進化”したら飛行タイプがテト姉と同じフェアリータイプになる。だから、ドラゴンタイプの[カイリュー]が相手なら有利に戦えるね!
…えっ? ライ姉は“メガバンクル”も“キーストーン”も持ってないのに、どうして“メガ進化”できるのかって? ええっと、私にはどうしてかわからないけど、確か人間とポケモンでは方法が違う…。練習中にライ姉がそう言ってたんだよ。
カイリュー〈まさか“メガ進化”できるとは、想定外だよ〉
ラフ〈
でしょ? それにドラゴンタイプの君にとっては凄く戦い辛いんじゃない? [コットンガード]!〉
カイリュー〈[雷]!〉
ラフ〈
無駄だよ!〉
相手は辛うじて平生を取り戻し、技を発動させるためにイメージを膨らませ始めた。ものの1〜2秒で効果を発揮し、超高電圧の電撃を撃ち出してきた。
その彼に対して、私は勝ち誇ったように声をあげ、その言葉に答える。ちょうど電気を纏っているのと同じタイミングで、全身に広がった綿の密度を高め、耐久力の強化を図った。
…[雷]以外に相手が使えるのは、[ドラゴンクロー]と[流星群]。それから浮遊してる私に対しては全く効果がない[地震]の4つだから、もう勝ったも同然だね! 相手は[雷]でしか攻撃出来ない訳だし。
私が防御力の強化を終えた頃には、相手の電撃は2m手前まで迫っていた。それを頭から横に倒れ込むイメージで右に進み、スレスレで回避した。
…浮遊…、やっぱりまだ慣れないよ…。この10年間ずっと翼で飛んで生きてきたから仕方ないんだけど。
カイリュー〈くっ、外れた〉
ラフ〈
もう一度[コットンガード]!〉
…でも、相手が使える技が遠距離敷しかないから、動かないと始まらないよね。
私はもう一度同じ技を発動させながら前進し、相手との距離を詰め始める。あまりスピードはでないけど、進む事を強く意識しながら相手へ狙いを定める。
もちろん相手も黙って見るようなことはせず、真上に飛んで私との間隔を広げる…。天井スレスレまで飛ぶと直角に進路を変え、私への警戒のレベルを最高点まで高めた。
…やっぱり浮遊じゃあスピードが出ない…。翼で飛ばないと!!
真上に飛ばれた事で一瞬のうちに差が開いてしまった。そこで私は浮遊することを諦め、元々の翼に力を込めた。上下に素早く動かし、すぐに天井に向けて追いかける。密度が増した事で空気抵抗が減ったことで、“メガ進化”前と同じぐらいのスピードを出すことに成功した。
…このスピードなら、追いつける!
相手が直角に曲がるのと合わせて私も旋回し、技のイメージと共に回り込んだ。
カイリュー〈なっ…〉
ラフ〈
[チャームボイス]!〉
カイリュー〈[ドラゴンクロー]、くっ!〉
旋回し終えた一瞬で私は喉元にエネルギーを蓄える。ある程度溜まってからそれを技用に変換し、2mの至近距離から音塊として放出した。
目の前まで迫られた相手は咄嗟に技を発動させる。手元に暗青色のオーラを纏わせ、自分の目の前で交差させた。本来は攻撃技であるその技をそうすることで技を軽減することに成功した。…が、相性が悪かったせいで完全には防ぎきることが出来なかった。
…私はまだ使えないけど、[ドラゴンクロー]にあんな使い方があったんだ。
ラフ〈
もう一発[チャームボイス]!〉
カイリュー〈[ドラゴンクロー]…!?〉
…でも、私だって技の使い方では負けないから!
技の衝撃で仰け反る相手に対し、私は更なる追い討ちを仕掛ける。2mの距離から相手に音塊を飛ばす。実態のない塊に気をとられている相手に、私は即行で翼を打ち付ける。その甲斐あって不意打ちは成功。続けて発動させた[ドラゴンクロー]は[チャームボイス]を防いだ事によって解除された。そのせいで私の翼の一撃をまともに受けることになった。
カイリュー〈フェアリータイプ…、戦い辛い〉
ラフ〈
いやなら[滅びの歌]で一気に終わらせてあげるけど?〉
カイリュー〈[かみな…]…っく!〉
ラフ〈
[龍の息吹]!〉
…もちろん、今回はそのつもりはないけどね。
私は翼を打ちつけるとそのまま通過し、急上昇を始める。勢いに身を任せて宙返りをし、喉元にエネルギーを集中させた。それと同時に相手に狙いを定め、急降下する。重力の力を借り、私は高密度の翼で思いっきり叩き落とした
私が宙返りで向きを変えている間に、相手はのけ反っていた体勢を立て直す。270°回った時点で電気を纏い始めたけど、すでに遅く、無属性の打撃を受けてしまった。
…ちょっと痺れたけど、[コットンガード]2回重ねたから全然痛くない…。むしろ今は相手が隙だらけだから、今のうちに大ダメージを与えないとね。
今の状況を整理すると、大体地面から5mぐらいを相手が落下している。そのさらに2m上を私が距離を詰め、技を命中させるために相手を狙っている。
翼をたたんで抵抗を少なくしている私は、予め溜めていたエネルギーを龍属性に変換し、技を発動させる。するとそれは一直線に解き放たれ、先を行く標的お追いかけていった。
カイリュー〈[かみ…]…〉
ラフ〈
させないよ! [チャームボイス]!〉
相手は暗青色のブレスが到達する寸前に翼を広げ…、って言ったらいいのかな?ギリギリのところで地面と平行に飛び、それを間一髪かわす。でもその先に私に回り込まれてしまい、弱点属性である妖艶な衝撃波をまともに受けてしまった。
…いくら相手の方が経験を積んでいても、これだけ苦手な属性で攻撃したから、もう倒れるはず。
ラフ〈
ダメ押しでもう一発!〉
カイリュー〈…っ! かっ…かわせ…lぐっ…!〉
そこへ更に音波が襲いかかり、対象の体力を根こそぎ奪っていく。それを受けた後、大ダメージを受けた相手は、受け身をとることができずに地面に叩きつけられた。そしてその彼は、その場で気を失ってしまった。
…よし、これであとはチャンピオン戦だけだね。どんな種族と戦うのかは分からないけど、ティル兄、テト姉、ラグ兄、そしてライ姉も、絶対に勝とうね!