[アンケート結果発表中]絆の軌跡 〜繋がりの導き〜 - 第10章 積歴の栄華
99 L VS龍牙の猛攻(艶)
 セキエイ高原第4の間 Sideライト


ライト「もう4人目かー…」

 これまでの戦闘後と同じように誘導された私は、また別の部屋へと案内された。係員に導かれて踏み入れたフィールドは、うっすらと感じ始めていた法則に全く沿ってはいなかった。1戦目は氷・水タイプでフィールドは水が張られていた。続く2戦目は鋼タイプで鉄板のスタジアム…。こんな感じで属性と部屋の特徴が一致していたけど、見たところそれが目に入らない。まず、部屋全体に目立った装飾は無く、閑散としている。照明も暗すぎず、明るすぎもしないって感じ…。強いて言うなら、部屋の4隅に赤ではなく青い炎が静かに燃えている…。それが不思議と幽玄な雰囲気を辺りに漂わせていた。

…きっと何も知らずにここまで勝ち抜いてきたら、何で青い炎なのか分からないかもしれないね。きっと、4人目は自分のメンバーの属性のイメージカラーを炎で表現してるのかもしれないね。…それにしても、ポケモンでもないのにどうやってあの色を作ったんだろう…? わたしには分からないけど、もしかするとシルクなら化学であの色の炎を作れるかもしれないね。

 わたしはこんな事を考えながらこう呟く。それは広い部屋の空気を僅かに波打たせ、少しずつ広がっていく。殺風景なスタジアム全体に辛うじて生き渡り、ゆらゆらと揺れる炎のリズムをほんの少し乱すだけに留まった。

…ショウタ君が言うには、4人目はドラゴンタイプ…。有利な属性で戦ったショウタ君でも負けちゃったって言ってた。だからドラゴンタイプの攻撃が効かないテトラでも油断はできないね。

A「すまないね。待たせてしまったね」

 と、わたしがいる場所とは反対側の扉が音もなく開いた。そこから入ってきた彼…、如何にもドラゴン使いって感じの人が落ち着いた様子で謝った。

A「カンナから聞きましたよ、貴方が彼女を完璧に打ちのめしたってね」
ライト「いや、わたし達が勝てたのは偶然ですよ」

 その彼は1人目から聞いていたのか、「これは期待できそうだね」とでも言いたそうに呟く。終始落ち着いたその声は威厳と共に、どこか近いものをわたしに感じさせることとなった。
 彼の称賛の言葉にわたしはすぐに首を横に振り、否定の意味を込めて顔の前で右手を左右に動かした。

…何か近いものを感じたのは、わたしがドラゴン・エスパータイプで、この人がドラゴン使いだからかもしれないね。

ライト「…そんな事より、ワタルさん、早く始めませんか?」
ワタル「おおっと、そうでしたね。雑談はこのくらいにしておきましょうか」

 戦闘前の世間話を早々に切り上げ、わたしは目の前の彼にその事を促す…。

…本当は、このまま話してると褒めちぎられそうで恥ずかしかったからなんだけど…。…でも何故か悪い気がしないのはさっきも言った事が理由なのかもしれないな…。すぐに分からなかったのはドラゴン使いの人に会ったのが初めてだから…かな?

 ワタルさんはわたしに諭されるとその事を思い出し、気持ちを切り替える。そして正面を見据え、気持ちを高める…。すると彼の目つきが鋭くなり、

ワタル「ライトさん、私が四天王の1人…、元ジョウトリーグチャンピオンワタルが正々堂々お相手しよう!」

威勢よく開戦の警鐘を高らかに響かせた。

ライト「でないとここまで来た意味がないですよ!」

わたしも声を荒げ、彼の宣戦布告に正面から立ち向かう。そして左手でメンバーが控えるボールを手に取った。

…ワタルさん、リーグのチャンピオンだったみたいだけど、何故か負ける気がしない。でも油断は禁物だから、テトラ、ラフ、気を引き締めていくよ!!


――――


Sideテトラ


ライト・ワタル「テトラ、絶対に勝つよ!」「[クリムガン]、いくぞ」

テトラ・クリムガン〈もちろん!ライトも、補助お願いね〉〈任せな〉

…ここまで来たんだから、当然でしょ? ドラゴンタイプの相手に対して私はフェアリータイプ…。愛称的に有利な私が勝たないと後々大変だよ。

一戦目からかなりの時間が経過し、完全な状態まで回復した私は、色違い特有の光と共にフィールドに飛び出した。両前足から着地し、少し曲げることで衝撃を地面に逃がす。後ろ足も地に着いたところで視線を前に戻し、対戦相手の存在を確認した。
相手も出場すると小さく頷き、トレーナーの言葉に答える。それから敵対する私を見据え、警戒心むき出しで睨みつけてきた。

…ええっと、確か[クリムガン]って純粋なドラゴンタイプだったっけ?大分昔にジル兄から聴いただけでうろ覚えだけど、イッシュ地方にいる種族らしい。他にも、地面タイプの技を使うって言ったかな?

ライト《テトラ、どう?回復できた?》
テトラ〈うん!一戦目から出番無かったから完ぺきだよ〉

 そこにライトの声が反響し、私の状態を訊ねる。それにもちろん、私は振りかえりながら笑顔で答えた。

…だって私が最後に戦ったのは1人目の二戦目。もう軽く一時間以上経ってるから、体力もエネルギーもベストな状態だよ!…でも、これが終わったらすぐにチャンピオン戦だから、使いすぎは禁物だね。

 私はこう心に決め、気持ちを戦闘に切り替える…。
 殺風景なフィールドは異様なほど静寂に包まれ、私達の話し声以外、一切の物音がしない…。部屋も眩しすぎず暗すぎもしない…。それはまるで、これからのバトルの展開を示しているかのように、私には感じられた。

テトラ〈ごめんね、ちょっと待たせちゃったかな?〉
クリムガン〈いいや、お前がボールから出てから丁度32秒。テレビコマーシャルとほぼ変わらない時間だ、問題ない〉

…何か時間に厳しそうだな…、このひと…。

 ライトと話していて相手を待たせてしまった私は、ぺこりと頭を下げながら彼に謝罪の句を述べる。しかし相手はそれを気にしてる様子はない…。という以前にそんな次元で生きていない、と言った感じで、顔色一つ変えていなかった。

クリムガン〈…では、始めるとしようか〉
テトラ〈そうだね。ずっと喋ってても仕方ないもんね〉

…今はおしゃべりよりもバトルの方が大事だもんね! 私も早く戦いたかったし!

 物静かで時間に厳しい対戦相手は一度明後日の方向をチラッと見、腕を組んで私を睨む…。でも私はその厳つい表情にも怯まず、来るべき戦闘に備えた。
 そして向かい合った私達の視線が一致すると…、

クリムガン・テトラ〈先手はもらうぞ。[地震]!〉〈まずは[フラッシュ]!〉

それがきっかけとなって、ライトのリーグ戦第4章が幕を開けた。

…この後のチャンピオン戦、そしてライトのためにも、無傷で勝ってみせる!!

 両者は目を合わせるや否や、我先にと行動を開始した。
 まず初めに私は後ろ脚、前脚、両方に力を込めて地面を蹴る。2〜3歩走るとすぐに触手にエネルギーを凝縮させ、光の玉を形成した。
 それに対して相手はその場に留まる。右脚に力を込めながら上にあげ、それが最高点に達すると思いっきり踏みつけた。

…相手はきっと、地面を揺らして私の身動きを取らせない作戦だね? …でもそれが仇になったんじゃ…

クリムガン〈その程度の補助技、効かん!〉
テトラ〈えっ!? くっ…〉

 相手の揺れが到達する前に、私はそれを撃ちだした。相手の目の前まで飛ばし、1〜2m手前でそれを発光させた。
 しかし相手は弾が閃光を放つ前に目を閉じる。その甲斐があり、相手は目が眩まずに済んでしまった。
 そうこうしている間に、相手が発生させた揺れが走る私を襲う…。そのせいで私の足は強制的に止められ、それなりのダメージを対象に与える事となった。

…流石、元チャンピオンのメンバー。やっぱり一筋縄ではいかないね。

クリムガン〈悪いが、お前には一度戻ってもらおうか。[ドラゴンテール]!〉
テトラ〈…えっ?〉

…あれ? もしかして、私の属性を思い違ってる?

 私が揺れのせいで身動きがとれないうちに、相手は更なる追撃を開始する。ドラゴンタイプという事もあり、相手は滑空しながら私との距離を詰めはじめた。4mまで迫った瞬間、尻尾に力を蓄える。するとその部分が白い光を放ち始めた。

テトラ〈…残念だけど、その技は私には効かないよ!〉
クリムガン〈何っ!〉

 迫る相手に対し、私は何とか立て直す…。3mまで近づかれた時点でようやく揺れから解放され、すぐに左に飛び退いた。それと同時に、目の前まで迫った相手の右翼を同じ側の触手で掴む。そしてそのまま真上に振り上げ、相手の進路を僅かに逸らせた。

…くっ…。この感じ、もしかして、“鮫肌”?

腕を掴んだ私の触手を、ざらざらとした感覚が襲いかかる…。力を入れた瞬間、逆立った鱗が突き刺さり、私は僅かにダメージを受けてしまった。

…ちょっと痛かったけど、[願い事]で回復すれば何とかなる…かな?

テトラ〈星持ちトレーナーの制限で指示をもらえないから仕方ないけど、私はフェアリータイプ…。だから[ドラゴンテール]で退場させれないよ! [ムーンフォース]!〉

…でもその前に、せっかく隙が出来てるんだから攻撃しないとね!

痛みに耐えて弾いた相手に、私は大声でこう吐き捨てる…。何の障害物のないフィールドに私の声が幾多にも反射した。一通り叫び終えると、私はその触手に妖艶なエネルギーを蓄える。それを先端で具現化し、丸く形成してから2〜3発連続で撃ち出した。

クリムガン〈くっ…〉
テトラ〈どうせ[竜の波動]か何かを使えるだろうけど、相手がフェアリータイプでは戦いにくいでしょ?〉

それに対して相手は何とか体勢を立て直し、迫る薄桃色の弾丸を回避する。一発目は高度を下げることでやり過ごし、二発目は90°左に急旋回してかわす…。でも三発目は高度を上げてしまったせいで、背中を掠めてしまった。

…相手がここまで使った技は、相手を強制的に控えに戻す効果がある[ドラゴンテール]。それから、敵味方関係なく激しい揺れで物理的なダメージを与える[地震]…。他にも技があるはずだけど、使ってこない…。ってことは、少なくとも残りはドラゴンタイプか物理技のどっちかだね、きっと。

技が相手に命中し、少し降下している間に私はこう分析する。そしてその結果から作戦を立て、早速行動を開始した。
まず初めに、目を閉じて意識を集中させる…。そしてそこから天に祈りを捧げ、数分先に回復を依頼した。

クリムガン〈ならこれならどうだ? [アイアンヘッド]!〉

…やっぱり、鋼技を使ってきたね。

閉じられた瞳の暗闇の中に、相手の起死回生とも言える声が響き渡る…。多分8mで相手は自身の頭を硬質化させ、地面スレスレを滑空する。
一方の私はというと、迫る相手に慌てて技を解除した。結果的に技は失敗したけど、そのお陰で十分に対処することができた。

テトラ〈[フラッシュ]!〉
クリムガン〈なっ…!〉

相手までおよそ4m…。私は目を見開き、咄嗟に両後ろ足に力を込める。それを一気に解放し、右側に飛び退いた。もちろん、ただかわすだけでは終わらせはしない…。地面から足が離れている一瞬に、無属性のエネルギーを少しだけ蓄える…。それをさっきの弾と同じように形作り、技として撃ち出した。すると虎視眈々と私を狙っていた相手の目前で弾けた。刹那、部屋の照明程度の閃光が放たれ、相手の目を眩ませた。

…溜めが少なかったから完全に発動させれなかったけど、“不意打ち”っていう意味では成功かな?

テトラ〈[ムーンフォース]で追撃!〉
クリムガン〈っぐ…!〉

すぐに私は180°向きを変え、更なる攻撃を仕掛ける。連続で放った時と同じ量を、両方の触手に均等に蓄える。それらからエネルギーをバランス良く形成し、半径15cmぐらいの球体を作り上げた。それを目が眩んで視覚が麻痺しかけている相手に向けて発車した。

…これで決まるとは思ってないけど、半分以上は削れるはず。

テトラ〈もう一発! …[願い事]!〉
クリムガン〈っ!〉

私が放った桃色の大玉は見事に命中し、対象を数メートル吹き飛ばす…。そこへ更に私は小球を、保険として撃ち込んだ。その直後に目を閉じ、さっきは叶わなかった願いを天に捧げた。

クリムガン〈…っく…。知識不足が…、仇となったか…〉

小球も命中し、それだけを絞り出すように呟いた相手は、その場で崩れ落ちた。

…とりあえず、予定通り、かな? さっき発動させた[願い事]は私には反映されないけど、次に戦うラフが対象になるから、むしろよかったかもしれないね。…だって、ラフが次に戦う相手は、多分ショウタ君を打ち負かせた[カイリュー]だから…。
ラフ、苦戦すると思うけど、頑張って!私だけじゃなくて、ティルとラグナも応援してるはずだから!

■筆者メッセージ
学年が上がってから、いきなり一週間に2回も実験が…。死亡フラグが建っているのが見えるのは目の錯覚でしょうか…?
@ ( 2015/05/07(木) 22:33 )