98 L VS炎火の舞(武)
セキエイ高原 第3の間 Sideティル
ライト「ティル、次もお願い!」
ティル・カツラ〈さっきはエネルギーを使いすぎたけど、何とかやってくるよ〉「[ブーバーン]、熱い戦いを頼んだぞ」
ブーバーン〈そうでなければ張り合いがない…。当然だ〉
…得意な鋼タイプにあれだけ使う予定はなかったけど、この相手なら少しだけで大丈夫かな…。
リーグ戦も中盤にさしかかり完全とは言い切れない状態になってきた俺は、入場すると同時に辺りを見渡し、フィールドのコンディションを確認する。そして着地の衝撃を受け流しながら心地いい熱気を体毛で感じ、遅れて飛び出した対戦相手に目を向けた。
その彼も対峙する俺に注意を向け、自身のトレーナーの言葉に答える。それから鋭い目つきで俺を睨み、見た感じでは警戒レベルを最高点まで高めた。
ティル≪ライト、今回は技じゃなくて動きの指示だけでいいから≫
ライト≪動き…だけ?≫
ティル≪そう≫
…[ブーバーン]っていう種族は確か特殊技に特化した種族…。同じ属性だから最初からそのつもりは無かったけど、炎タイプで攻めるとエネルギー面で厳しい戦闘を強いられる。その事も踏まえて、今回は武術と剣術を中心に攻めるつもりだよ。
相手がボールから飛び出して軽く準備運動をしている間に、俺はパートナーとの会話を試みる…。声に出すことなく自身の考えを伝えた後、彼女の反応を見るために横目で合図を送った。
その彼女はというと、予定にはない発言をした俺に対して小さく首を傾げる…。そして率直な感情を俺の中に反響させた。
ティル≪この次に俺が戦うのはチャンピオン戦…。使いすぎたエネルギーを回復させるためにもね≫
ライト・ブーバーン≪…でも武術だけだと十分に攻撃できないと思うんだけど、そこはどうするの?≫〈仕掛けて来ないなら俺からいかせてもらうぞ!〉
ティル〈[未来予知]でカバーするつもりだよ〉
…もちろん、技を使わないつもりじゃないよ。
聞く限りではライトは対戦相手話ながら言葉を念じ、沸きだした疑問の水路を俺へと繋げる…。開通した疑問の運河を俺は解答と言う名の貿易船で航行し、彼女との交易を成功させた。
終始黙りっぱなしの俺に痺れを切らせたのか、相手は右腕に力を蓄えながら俺との距離を詰め始める…。その彼の手は僅かに電気を帯び、技を発動させたことを俺に知らせていた。
…特殊中心なら別の属性を使ってくるはずだけど、物理技できたってことはそもそもそれを使えないのかもしれないね。
ライトに言った言葉通り、俺は相手を警戒したまま天に祈りを捧げ始める…。
ブーバーン〈[雷パンチ]!〉
その間に相手は俺の2m手前まで接近し、電気を帯びた拳を振りかざしてきた。
ティル〈相手が炎タイプだと戦いにくいでしょ?〉
それに対して俺は左肩から後ろ向きに下がって回避し、勢いを乗せて左足を振り上げた。
ブーバーン〈!?格闘技?〉
回避を兼ねた俺の回し蹴りは相手の意表を突き、尻尾のおまけ付きで相手の背を捉えた。この勢いを逃がさずに軸足を左に変え、そのまま相手の足元を蹴り払った。
案の定相手はバランスを崩し、体制が俺から見て右に傾いた。
ティル〈さぁ?どうだろうね〉
そして転けながらも未だに電気を帯びている拳で殴りかかり、靡く俺の長毛を掠めた。しかしそれは空気を捉え、俺の体毛を静電気で逆立たせるだけに留まった。
…ギリギリ[未来予知]も発動させられたし、第一段階突破かな。
ティル〈その予想、当たるといいね〉
ブーバーン〈クソッ! [火炎放射]!〉
ティル〈[サイコキネシス]〉
俺の攻撃で転ける事となった相手は背中から地面に叩きつけられる。鈍い音と共に彼の詰まった声が俺の耳に届いた。その事が転ばせた元凶によって僅かにダメージが加算されたことを伝えてくれた。
まんまと俺の連続攻撃にはまり悔しそうに呟いた相手は、立ち上がりながら燃え盛る炎を一直線に解き放つ…。でもその技は予め距離を取っていた当たることはなかった。
相手を転かせてすぐに相手との間隔を開けた俺は、炎が放たれた瞬間に超能力を発動させる。後ろに跳び下がりながら炎の軌跡をねじ曲げ、咄嗟の攻撃を失敗させた。
ブーバーン〈! まさかエスパータイプか〉
ティル〈やっと気づいたんだね〉
ブーバーン〈なら何故格闘技を〉
…そう思うのが普通だよね。
見えざる力によって攻撃が失敗した相手は、その軌道でようやく俺の属性を悟る。ここまで犯してきた誤解で声を荒げながら、彼は走る足に力を込めた。そして地面を思いっきり蹴り、飛ばした疑問と並走を開始した。
ティル〈技だけが攻撃じゃない、っとでも言っておこうかな〉
ブーバーン〈なっ!〉
疑問符を浮かべる相手に対し、俺は冷静に対処する。まず初めに、迫り来る相手との大まかな距離を計測する。見積もりを基に到達時間を計算し、行動のタイミングを見計らう…。
…だいたい、3mぐらいかな?
それと同時に懐に手を伸ばし、隠し持っているステッキを手に取った。1mにまで迫った時に抜き放ち、赤い軌道を描きながら振り上げた。それは疑問への解答となり、行動をもってそれを証明した。
ティル〈もちろん、技もちゃんと使うから気を付けてね〉
ブーバーン〈ぐっ…! いつの間に…〉
俺の右側を通りすぎていった相手は、炎の斬撃に一度表情を歪める…。その間に俺は180度向きを変え、相手の背後を取った。すると彼は突然頭を抱えて踞り、呻きはじめた。
…相手はまさか[未来予知]が発動されていたなんて、夢にも思ってなかっただろうね。俺の属性を炎・格闘タイプって思ってたぐらだし。
ティル〈君には悪いけど、ここから一気にいかせてもらうよ! [サイコキネシス]!〉
突然訪れた痛みに苦しむ相手を跳び越し、空中で正面に向き直る。手に持っているステッキをしまい、その手で相手の右腕を掴む。そして、痛みのせいで前屈みになっている相手腕を上に引っ張る。それと同時に背中を相手に付けるように向きを変え、引っ張った勢いを借りて思いっきり投げ飛ばした。ちょうど肩の上を通過したときに超能力を解除する…。
案の定見えざる力から解放された相手は放物線を描き、受け身を取る間もなく2〜3秒後に叩きつけられた。
…[未来予知]で体力も半分ぐらいは削れてるはずだから、あと少しかな?
ブーバーン〈ぐっ…〉
ティル〈まだまだ…! [サイコキネシス]!〉
相手を投げ飛ばした俺はまだ攻撃の手を止めない…。相手が宙を舞っている間に、俺はしまったステッキを取り出す。地に着いた瞬間にそれも投げ、すぐに潜在的な力で拘束した。
ブーバーン〈…!〉
空中を漂うステッキを思うがままに操り、俺は相手に更なる追撃を仕掛ける。立ち上がった相手に向けて飛ばすスピードを高め、そのまま突く。突かれた相手は1〜2歩のけ反り、体勢を崩す。次に剣先を右斜め下に向け、まばたきをするぐらいのほんの一瞬で左上に切り上げる。勢いを止めることなく八の字を描き、上部に来た段階で脳天から足元へと振り下ろした。
ブーバーン〈くっ…、まさかここまであっさり…〉
ティル〈これで最後!!〉
ブーバーン〈…っぐ!!〉
ステッキでの攻撃中に俺は徐々に相手との間隔を詰める…。そして最後に叩き落とされた相手に狙いを定める。頭から前のめりになったタイミングを見計らい、腹の辺りに回し蹴りを食らわせた。
…ハートさんとルクスさん直伝の武術、耐えさせはしないよ!!
結果、右足の蹴りの後で尻尾が続き、それが原因で相手は崩れ落ちた。
…よし。これで3人目も突破。次の俺の出番はチャンピオン戦までないけど、この調子でいけば何とかなりそう。でも次はショウタ君達が負けた相手…、油断はできない。テトラ、ラフ、頼んだよ!