96 L VS鋼鉄の衛り(武)
セキエイ高原 第二の間 Sideティル
ライト・シブキ「ティル、いつも通り頼んだよ!」「[ハガネール]、連勝だけは絶対にさせるんじゃねーぞ」
ティル〈でないと後々大変だよ〉〈言われなくてもそのつもりだ〉
ラグナはどんな風に戦ったのかは分からないけど、勝利へのマッチポイントにさしかかったライトはお決まりのセリフと共にずっと控えていた俺を出場させた。その彼女に俺は〈当然〉という意味合いを込めて頷き、敵対する対戦相手の存在を確認する。
それに対して四天王の彼の声には一戦目の結果から語尾に若干の焦りが便乗し、それが鉄板に覆われたバトルフィールドを緊張という名のベールで包み込んだ。そしてボールから飛び出した[ハガネール]の彼は着地と共に鋼鉄の部屋全体を僅かに揺らし、荒々しく声を張り上げた。
…予想してた相手とは違う種族だけど、きっと大丈夫だね。炎・エスパータイプの俺に対して相手は鋼・岩タイプ……。おまけに俺は[フォッコ]だった時に進化前の[イワーク]と戦った事がある。俺自身は体つきが結構変わってるけど、相手の方はサイズが大きくなったぐらいで対して差は無い……。…ただ、[イワーク]は俺が初めて負けた種族だから苦い思い出でもあるんだけど……。
思い出話はあとでゆっくりするとして、きっと相手はメインの鋼タイプじゃなくて属性的に有利な岩タイプの技で攻めてくる可能性が高い……。……いや、[地震]の可能性も捨てきれない……。だから、きっと属性特有の耐久で堪えて弱点属性で一気に決着をつけるって感じかな?
俺は遅れて出場した相手を見上げ、一瞬だけ目を合わせてからこう分析した。
ハガネール〈見る限りではお前は炎タイプか…。悪いが、ここでくたばってもらうぞ〉
ティル〈でもまだ二人目なんだからそうはいかないよ〉
そして、見た目と雰囲気で属性を推測する彼、種族の特徴から戦法を導き出そうとする俺……、両者は互いに言葉の刃で火花を散らし合い……、
ハガネール〈その発言がいつまで続くかだな![砂嵐]!〉
俺にとってのリーグ戦第一陣の烽火が上がった。
…流石は四天王のメンバー。[砂嵐]は岩・地面・鋼タイプ以外の種族すべてにじわじわとダメージを与える技…。長期戦は避けたほうがいいね……。
相手は戦闘を始めるや否や辺りに微細な砂塵をまき散らし、自身にとって有利な環境を創り上げた。
ティル〈長期戦に持ち込んで[砂嵐]で僕の行動を邪魔するつもりみたいだね。……、でも逆にこれを利用させてもらうよ!〉
それに対し、俺は両脚に力を込めて走り始める……。相手の正面に向けて2〜3歩走ったタイミングで自らの体温を一気に上昇させ、それを熱波として全身から放出した。
…相手に有利な環境を造られたなら、逆にそれを利用して有利な展開に持ち込むだけ……。今回の場合、このまま放っておいたら俺だけがダメージをうけ続ける事になる。そこでフィールドの気温を一気に上げる事で鉄板に熱を帯びさせる……。そうすれば高温に弱い鋼タイプは自然と動きが鈍くなる。それだけじゃなくて、強い風と一緒に飛ばされている砂の温度も高くなる。一粒一粒が熱くなるから、例え物理的に効果が無くても間接的にダメージを与えられる。結果的に、どっちにとっても過酷な環境になったから平等に戦う事が出来る!
ハガネール〈さすが炎タイプと言うべきだな。……だがこれではそうはいかんだろう。[ステルスロック]!〉
相手は迫り来る俺との距離が3mとなった瞬間尻尾にエネルギーを蓄え、それを正面に向けて思いっきり振りかざした。するとそこから小さくて鋭い岩片が出現し、三次元的に漂いはじめる。そして更に、それは吹き荒れる砂風に流されて四方八方に飛び交う……。
一方の俺はと言うと、振りかざされた尻尾を斜め前に跳び越す事で交わし、左足から着地した。そしてすぐに進行方向を左に変え、相手の背にまわり込む…。
ティル〈うん、これならまともに前が見えないね。……でも俺は炎・エスパータイプ。このくらいどうって事ないよ![サイコキネシス]!〉
俺はそう言い放つとすぐに超能力を発動させ、じわじわと走る半径を狭めていく……。そして見えざる力で鬱陶しい砂塵を払いのけ、攻勢に移った。
…岩タイプや鋼タイプは耐久型になる傾向がある……。なら、バランス型の俺はスピードで翻弄すれば、相手はついて来れない!
走るのと同時進行で懐に手をのばし、隠し持っているステッキを取り出す。そしてそれを相手の顔面との中間点に向けて投擲し、すぐに超能力で拘束した。
ハガネール〈だがエネルギーの消費が多いのが事実だろ?[ヘビーボンバー]!〉
互いの距離はおよそ2m……、相手はすぐに俺を追って向きを変える。そして正面を捉えた瞬間に力を解き放ち、捨て身で突進してきた。
ティル〈あくまで技を極めなかったらね!〉
ハガネール〈何っ!?〉
…相手との距離が近ければ近いほど物理技は命中率が上がる……。それは特殊技も同じ。
前もってステッキに向けて跳びはじめていた俺に相手の大きな顔面が迫る……。1mまで迫った瞬間、俺は砂塵への意識を相手本体へと切り替えた。頭の軌道を力任せに地面へとねじ曲げ、砂が降り積もり始めた鉄板の上を滑らせた。
相手の軌道を逸らせた事で俺は相手の突進をかわす事に成功した。……でも俺はその結果を確認せず、空中で留まらせているステッキにしがみつく。そして体を横に捻りながらそれを解放し、完全に相手の背後へとまわり込んだ。
…さぁ、ここから一気に行くよ!!
ティル〈後ろがガラ空きだよ!〉
ハガネール〈!!〉
鉄板上を滑る相手の尻尾をすぐに追いかけ、それを両手で掴む……。踏ん張る事で相手の勢いを抑え、進行が止まると掴んだまま垂直に跳び上がった。
…鋼タイプ、やっぱり思いね……。
ティル〈っく!〉
ハガネール〈[地し…]…〉
ティル〈[サイコキネシス]!〉
相手の重みのせいで俺は跳び上がる事が出来ず、鉄板に叩きつけられた。その隙を狙って相手は自らの顔面を打ちつける事で技を発動させ、俺に決定的な一撃を与えようとした。しかし俺の見えざる力に妨げられてそれは叶わず、技が発動される事は無かった。
その一方で俺は超能力で押さえつけている間に立ち上がる。そして今度はそれの手助けを借りて再び跳び上がった。
ハガネール〈[サイコキネシス]で俺を…〉
ティル〈[地震]だけはさせないよ!〉
そして思いっきり振り上げ、勢いを乗せて思いっきり叩きつけた。更に俺は相手が地面についた瞬間に手を放し、技も解除した。
ハガネール〈っ!〉
ティル〈これで最後![火炎放射]!〉
…砂嵐が起こってる状態なら、シルクに教えてもらったあの現象が起きるかもしれない。それを起こせば……、いける!
叩きつけた衝撃で砂が舞い上がったのを確認すると、俺は喉元に炎タイプのエネルギーを蓄え始める……。ある程度溜まるとそこに力を込め、一気に放出した。
ハガネール・ティル〈っぐ……!!〉〈うわっ!!〉
しかし、直接相手に命中する事は無かった。代わりにフィールド全体を揺さぶるぐらい大きな爆発音が轟き、降下する俺、体勢を起こした相手を巻き込んで爆炎が上がった。
…粉塵爆発……。シルクが言うには、細かい粒が空中に漂ってる時に起こる現象みたいで、火災の原因になる事があるらしい……。今回の場合、細かい粒の代わりになったのが砂。どんな原理なのかは分からないけど、多分砂が俺の熱波で熱くなってたから起きた……のかな?
地面にいる相手はもちろん、俺にもダメージを与える事になった。相性的に相手にはかなりの負担がかかった。
…さすがにこの温度は未知……。炎タイプでも厳しいよ、起こしたのは俺自身だけど……。
ティル〈ダメ押しの[マジカルフレイム]!〉
爆発の影響で砂、煙が舞い上がり、辺りを茶色の幕で隠れてしまう……。視界が悪くなったせいで相手の状況が分からない俺は、その対象がいると思われる方向に念を混ぜ込んだ炎を解き放った。
…あれだけ派手な爆発をくらったから大丈夫だと思うけど、念のため……。
ライト《ティル?どうなったか分かる?》
ティル《ううん、俺にも分からないよ…》
すると煙の中にいる俺の頭の中に、ここまで俺に合わせて後から技名を指示していたライトの声が反響した。その声には俺と同じく結果が不明なために襲い掛かった疑問が含まれていた。その声に俺も同じ方法で答え、ライトからは見えないと思うけど首を横に振った。
ティル〈……[サイコキネシス]〉
…見えないなら、最初からこうすれば良かったかな……?
俺はふと有効的に使える技を思い出し、今更ながらそれを発動させた。立ち込める砂煙を払いのけ、見えなかった相手の状態を確認する……。
シブキ「……俺の負けだ」
するとそこには、あの爆発で火傷状態になった相手が目を回して倒れていた。
…一応勝てたけど、何かスッキリしない……。それに予想以上にエネルギーを使いすぎた……。だから次は技を使わないつもりで戦わないと……。