94 L VS氷冷の競演(艶)
リーグ 第一の間 Sideテトラ
ライト・カンナ「テトラ、この調子でいくよ!」「[マニューラ]、四天王としての実力を示しますよ!」
テトラ・マニューラ〈って事はラグナは勝ったんだね?〉〈当然だ。俺もベテランとして負ける訳にはいかねーよ〉
私はライトの二番手として水に浮かぶ氷のフィールドに飛び出した。彼女の発言からラグナの結果を予想し、チラッと振り返りながら訊ねた。一方の相手も滑りやすい足場を物ともせず、鋭い爪を研ぎ澄ませながら睨んできた。
ライト《うん。作戦通りに戦えたから無傷だったよ》
すると私の頭の中にライトの声が響き渡り、予想以上の結果を戦闘に備える私に伝えた。そしてその事が2番手を任された私の気を更に引き締める結果となった。
…そっか。ラグナは無事に勝てたんだね?作戦会議した時は1〜2発は食らう想定でいたけど、それなら尚更いいね!……本当は直接伝えたいんだけど、サドンデスだから勝ち抜くか負けるかしない限り会う事が出来ない……。多分勝ってもすぐにボールに戻らないといけないから、ちょっと寂しいね。でも、そういうルールだから仕方ないかな……。
テトラ〈ええっと、[マニューラ]は確か氷・悪タイプだから……、多分大丈夫かな〉
マニューラ〈……だが、その余裕がどこまで続くかだな〉
…それに、昨日のもだけど私にはちょっとした作戦もある……。だから絶対に負けないよ!
私は相手との相性を呟きながらその彼に目を向けた。その彼は両手の爪を研ぎ澄ませながら私を見透かす……。
…きっとあれは[爪研ぎ]っていう技……。物理技の威力を上げる技だから接近戦になるね、きっと……。それに[フラッシュ]を使える私には関係ないけど[爪研ぎ]は命中率も底上げされる……。例え狙いが定まらなくても一発が重いから、油断はできないね……。
私はそう言うや否や目を閉じ、意識を集中させ始めた。それに対して、相手は技のイメージを膨らませながら走り始めた。
…休暇に入る前に教わった座禅……、ここで使わせてもらうよ。
私は一切の雑念を頭の中から消し去り、フィールド内の音、振動、空気の対流だけに意識を集中させる……。
……多分、足場が氷って事を考えると相手との距離は5mぐらい……。床とかアスファルトとはちょっと感覚が違うけど、森の土とか落ち葉にまだマシ……。そして何より、
マニューラ〈氷・悪しか使えないと思うなよ![メタル…]…〉
テトラ〈[フラッシュ]!!〉
マニューラ〈なっ…!〉
これは“技”じゃない!!ティルみたいに武術を極めてる人間達が意識を集中させるためにする事だから、[瞑想]でも[自己暗示]でも何でもない……。だから集中してる途中でもすぐに対応する事が出来る!!
相手は恐らく私が[瞑想]の類で能力値を上げていると思い込み、何の疑いもなく硬質化させた爪で切りかかってきた。しかし私は氷から4本の脚を通して伝わってくる振動で距離感を掴む……。そして相手との距離が1m……、振りかざした右手を左斜め下に振り下ろそうとした瞬間を狙って技を発動させた。ムダな考えが無い分私の両方の触手にはすぐにエネルギーが蓄えられる……。そのうち左側のそれだけをすぐに発光させ、即行で相手の目を晦ませる事に成功した。
もちろんその場で留まると弱点属性をうける事になるから、妖艶な光が輝いている間に右へと飛び退いた。
…これで、命中率は元に戻ったね。……でも、それだけでは終わらせないよ!
マニューラ〈ちっ、もう一発!〉
テトラ〈当てさせないよ!〉
私はすぐに向きを変え、相手の追撃に備える……。
鋼鉄の斬撃が氷を捉えた敵は技を発動させ直した。その右手を振り向くのと同時に振り上げた。
マニューラ〈技を維持していたのか!?〉
テトラ〈そうだよ![ムーンフォース]!〉
マニューラ〈くっ……!〉
それに対して私は左の光球を触手に維持したまま顔面に無心で叩きつけた。するとそれは対象の顔面を捉えると同時に閃光を放ち、無意識のうちに瞼を硬く閉じさせた。
…これはオルトさんとユウキさんに教えてもらった通常攻撃を応用したもの……。心を無にするのは休暇中に身につけたからすぐ習得できたよ。だから、得意な変化技をもっと効率よくするために、ね!こうすればダメージも与えれるし命中率も下げられる……。一石二鳥でしょ?
相手が咄嗟に目を閉じている間に私は一歩下がり、空気を一刀両断する重撃をかわした。そしてその場でフリーになった触手にフェアリータイプのエネルギーを凝縮させ、留守になった背中に思いっきり叩きつけた。
弱点属性をほぼゼロ距離で当てられた相手は数メートル飛ばされ、派手な
飛沫と入れ替わるようにフィールド内のプールに落ちていった。
…集中力が増したお蔭でエネルギーの量も増えた……。だから、一気にいかせてもらうよ!!
私は次なる一手のために、より一層集中しながら瞼を閉じる……。それと同時に天に祈りを捧げ、数分後に回復できるよう依頼した。
その間にも相手は氷の足場に上がり、爪で音をたてながら走りだした。
…これで相手の物理技の威力は更に上がった……。でも[フラッシュ]を2回命中させたから問題ない!
技を発動し終えると私は閉じていた目を開け、また空に願いながら氷を蹴った。この時、相手との距離は9m……。
7m……、
マニューラ〈悪いが、これで決めさせてもらうぞ![シザークロス]!〉
今度は別の属性を自らの爪に付加させ、トドメを刺すべく私を狙う……。
5m……、
テトラ〈その言葉、そっくりあんたに返すよ!〉
二重に祈った私は大技のイメージに切り替えた。正面から両手を後ろに構えて走る相手に声を荒げ、力を溜めながらタイミングを測る……。
3m……、
互いに目線で火花を散らし、両者が持つ“闘志”という名の火薬に燃え移った。
1m……、
マニューラ〈くら……っん何ッ!?〉
相手は左右同時に切り裂こうとする……。でも私はそうはさせず、イメージを身体全体に満たしながら、左の触手を相手の右腕に絡みつけた。そしてそれを真下に引っ張り、敵の体勢を崩した。
テトラ〈[ギガインパクト]!!くっ……!〉
バランスを崩した相手に捨て身で突っ込んだ。触手で掴んでいたこともあり、技は最大威力で命中した。
…[ギガインパクト]はエネルギーの消費が多いけど、これも問題なし。反動でダメージも食らうけど、これも対策済み。……じゃあ何をしたのかって?
マニューラ〈……っ……、[ギガ……インパクト]は……反動がある……技のはず……だろ……?〉
私の一撃で派手に吹っ飛ばされ、厚い氷に叩きつけられた相手は辛うじて意識を繋ぎ止めながら問いただす……。
テトラ〈……[願い事]……。これを[ギガインパクト]の前に2回発動させたからだよ〉
マニューラ〈いつの……間に……〉
気絶寸前の相手に、私は事の真相を手短に伝えた。しかしその彼は私の話を最後まで聞くことが出来ず、途中で崩れ落ちた。
…1回だけだと完全に回復できないけど、2回すれば残りもする事が出来る……。これは[ムウマージ]のレイナちゃんとマルチバトルで戦った時に計算させてもらったよ。……もちろん、回復するタイミングもね!
私の勝利によって、四天王1人目でのライトの勝利が確定した。
…作戦ではしばらく私は戦わないけど、このままいけば何とかなりそうだね!