91 LS リーグに向けて
昼前 研究所前 Sideテトラ
フライ〈……さぁ、出来る事も全部済んだし、そろそろ始めよっか〉
さっき戦ったティル達の回復も完全に終わり、それぞれの用事も終わった所でフライ君がここにいるみんなに向けて声をかけた。その声は風光明媚な町に威勢よく飛び出し、青く広がる大空へと旅立っていった。
…ええっと、ここまでの流れをまとめて話すと、まずはシルクとスーナさんが作った氷を食べてる間にライトとショウタ君、それからラフちゃんの回復。これはシルクが作り置きしてた飲み物ですぐ終わったよ。ライトが言うには、“オレンの実”と“オボンの実”が混ざったような味で“凄い傷薬”ぐらいの回復効果があるんだって!どうやって作ったのかは私にはよく分からなかったけど、あんな効果がある飲み物も作れるシルクって凄いよね!
次に、ライトについて行ってリーグに挑戦するための登録。研究所の中に入って、ライトとあの人が2人で何か書いてた。それと一緒にバッチの数も確認して……。……うーんと、ここからはちょっと居眠りしちゃってたから分からないんだけど、気付いたらもう終わってたって感じかな?
他にも色んな話とかしてたんだけど、ここまででしたことはこんな感じかな?……でも、まだ全部は終わってないんだよ。ここにはリーグの申請だけじゃなくて、オーキドってう人に挨拶をしにきたんだよ。ティルはライトと出逢う2週間ぐらい前からここのお世話になってたみたいだから、多分その報告もするつもりなのかもしれないね。
何の連絡もなしに来ちゃったせいもあるけど、その人がいないからここまでしか出来なかったってワケ。それはシルク達も一緒だったみたいで、暇つぶしも兼ねて私達とショウタ君達の技とかを見てもらう事になったんだよ。
ユウキ「そうだね。人数もピッタリだし、ショウタ君達も一緒にどうかな?」
ショウタ〈えっ、「ピッタリ」!?〉
コロナ〈ティル達に私達も入れると7匹だから合わないよ!?だってシルク達って6匹しかいないし……〉
…うん、普通に考えたらどうしても1匹足りないよね?
シルク達のトレーナーのユウキさんの提案に、彼の正体を知らないショウタ君とコロナちゃん……
リヴ「そうさ!1匹ずつ付くって言ってたのにこれだと数が合わないから一体どうするって言うのさ!」
ショウタ〈フェズはスーナさん、ラグナさんはリーフさんと……。テトラちゃんはオルトさんでティル君はフライさんと。僕はコルドさんに見てもらってライトとラフさんは一緒にシルクが就くって言ってる……でもこれだとコロナを見るひとがいないよ?〉
と、リヴさんも驚きと共に声を荒げて反論した。
シルク〈ショウタ君、コロナちゃん、それからリヴさんも、そこは問題ないわ!〉
ユウキ「僕とオルトがテトラさんとコロナさんを一緒に見るから、心配しないで」
彼らの反論に、シルクとユウキさんが落ち着いた様子で説明を加えた。そのシルクはユウキさんが言い終わると〈だから、ねっ?〉て言いながらショウタ君達にニッコリ笑いかけた。
テトラ〈ユウキさんもバトルのプロなんだし、大丈夫だよ!〉
ショウタ〈……そういえば、ユウキさんって3つ星のトレーナーだったよね〉
…カントー以外にも他の地方のリーグも制覇してるみたいだから、それでも十分だね!そもそも星持ちのトレーナーとそのメンバーから教えてもらえる事って滅多にないし……。
私の言葉がきっかけだったのか、ショウタ君とコロナちゃんは何かを思い出したみたいでその首を縦に振った。それは彼らがベテランのトレーナーの提案に同意したことを意味していた。
コロナ〈シルクと初めて会った時そう言ってたよね〉
ショウタ〈そうだね。……あの時はまだ僕は人間だったけ?まだ1か月しか経ってないのに凄く懐かしいよ〉
シルク〈そうね。……さぁ、雑談はこのくらいにして始めましょ!〉
…ショウタ君とコロナちゃんも納得したみたいだし、そうしたほうがいいね!
コロナちゃんとショウタ君はその事を遙か昔の事の様に思い出しながら呟いていた。その彼に続いて、シルクはこの場を一度仕切って声をあげた。すると“テレパシー”で何かを伝えたのか、オルトさん、スーナさん、リーフさん、フライ君、コルドさん……それからユウキさんも揃って頷いた。そしてみんなは技が当たらないように、適当な間隔を開けて散り散りになっていった。
テトラ〈……ユウキさん?〉
ユウキ「ん?どうかした?」
テトラ〈前から気になってた事があるんだけど、聞いてもいいかな?〉
テトラ〈ユウキさんって結局何者なの?〉
コロナ〈あっ!言われてみれば私達の言葉にも答えてるし……〉
…ユウキさんは姿を変えられるのは知ってるけど、本当に何者なんだろう?姿を変えられるからヒイラギさんと同じ[ラティオス]っていう種族かと思ったけど……、ユウキさんの種族ってどこにでもいる[ピカチュウ]だし……。それに[ピカチュウ]なのにジムの[ライチュウ]よりも[10万ボルト]の威力は高かった……。
みんながあちこちに散らばり、近くにはその人以外にコロナちゃんとオルトさんしかいなくなった。そのタイミングで、私は二ビで会った時から聞きそびれていた疑問を彼にぶつけた。
その私の言葉でコロナちゃんは、普通はすぐ気付くはずの事をようやく思い出した。
ユウキ「ライトと似たような感じ……って言えば分かりやすいかな?」
…「ライトと似てる」って事は、やっぱりポケモンが姿を変えて……
コロナ〈ライトにって事は……、ユウキさんは元々ポ……〉
オルト〈いや、ユウキは人間だ〉
る……ってことじゃないの!?
コロナ〈えっ!?なら何で!?〉
ユウキ「ライトと似てるって言うのは元々ポケモンだっていう意味じゃなくて……〈」“伝説”っていう事だから〉
…“伝説”!?[ピカチュウ]って普通の種族なのに!?
私と同じで考えながら言葉を繋げるコロナちゃんを遮って、オルトさんはキッパリと言い切った。その彼に、♀の私達は揃って声を荒げる……。と、私達の驚きを聞き流したユウキさんは自らの姿を歪ませながら訂正した。変化が治まると、そこには元の姿と同じ場所に痣があるポケモンとしてのユウキさんがそこにいた。それは正体を知らないコロナちゃんにとっては更に追撃ちをかける事となった。
…言われてみれば、ライトの時とちょっと違うかも……。ライトとかヒイラギさんは姿を変える時は光に包まれてるけど、ユウキさんは……ええっと、何というか……。……バトルに負けて視界が掠れていくような感じ……かな?そんな風に姿が変わってた。
私がライトとの違いを記憶を頼りに探っている間に、オルトさんはユウキさんとコロナちゃんに説明していた。もちろん当のコロナちゃんは姿が変わったユウキさんに唖然として、言葉を失っていた。
オルト〈……ユウキの事はこのくらいにして、そろそろ始めようか〉
ユウキ〈そうだね〉
テトラ〈うん!〉
…でも、まっ、いっか!今までモヤモヤしてたのが晴れてスッキリしたし。要するにユウキさんはシルクみたいに“チカラ”で姿を変えてるって事だよね?
コロナちゃんは真逆みたいだけど、私はずーっとかかっていた思考の靄が晴れ、一気に爽快の光が差し込んだ。本当はまだまだ話きれてないみたいだけど、オルトさんは〈これではキリがない〉って言った感じで話を切り上げた。その彼の言葉に、私と[ピカチュウ]のユウキさんは晴れやかに頷いた。
テトラ〈……で、何を教えてくれるの?〉
…技を見てくれるって言ってもいろいろあるから、どれから始めるんだろう……?コロナちゃんは攻撃する技だけだけど、私は補助技がメインだし……。それに教わるなら同じタイプの方がいいはずなのに同じなのが1つも無いんだよ?だって私は純粋なフェアリータイプでコロナちゃんは炎……。教えてくれるオルトさんは格闘でユウキさんは電気。おまけにオルトさんとユウキさんはどっちもいけると思うけど2足歩行。でも教わる側の私達は完全な4足歩行だから……。タイプはシルク達の誰とも被ってないけど歩き型ならシルクとコルドさんが一緒……。なら何でこの組み合わせにしたんだろう?
私はどう考えてもその結論が出ず、最終手段に移った。さっきとはまた別の疑問符と共に彼らに対して首を傾げながら訊ねた。
オルト〈“技”を使わない攻撃方法だ〉
コロナ〈技を……使わない……?そんな事、出来るの?〉
…私も昨日ティルとラグナの真似をしてみたけど、上手くいかなかったんだよね……。簡単そうに見えたんだけど、結構難しかった……。
テトラ〈ティルがしてた、あれのこと?〉
ユウキ〈そう、分かりやすく言うとそう言う事だよ〉
コロナ〈ティル君が……って事は、掴んで投げたりしたりする事?〉
オルト〈ああそうだ〉
…本当に簡単そうにしてたけど、何かコツとかあるのかな?
オルト〈投げるだけではなくて爪で引っ掻いたり噛みついたりする事だ〉
コロナ〈〈引っ掻く〉……?なら技の[引っ掻く]とはどこが違うの?〉
…コロナちゃん、私も気になるよ!
ユウキ〈そもそも“技”は物理技でも特殊技でもそれぞれが持ってるエネルギーを使う……。これはポケモンのふたりなら分かるよね?〉
コロナ〈そんな事、常識でしょ?イメージも大切って事も言われなくても分かるよ〉
…だって一瞬でもイメージしないと技は発動しない……。この事を知らないポケモンはどこにもいないはずだよ?……なら何でそんな事を聞くんだろう……?
コロナちゃんは〈愚問だ〉とでも言いたそうに声をあげた。
ユウキ〈流石、
本物のポケモンだね。でも今から教えるのは、技の“エネルギー”を使わない攻撃方法……。覚えておいて損は無いと思うよ?〉
…何かユウキさんが言うと説得力あるね……。
テトラ〈エネルギーを……?それに私達の爪ってあまり鋭くないのにどうすればいいの?〉
…ティルは“武術”って言うのを使ってるから話は別だけど、ラグナは爪と牙……両方とも鋭い。ラフがこれをするなら、多分嘴と翼……。そんな風に考えていくと、私にはこの2本の触手しかない……。これをメインで使う技は無いから、どうすればいいんだろう?
ユウキ〈簡単だよ。テトラさんは触手、コロナさんは尻尾……。それを叩きつければ出来るよ〉
コロナ〈[叩きつける]……?技にあるからそっちが発動すると思うんだけど……?〉
…やっぱり、私は触手なんだね?
それに[叩きつける]って技もあるから、そうなっちゃうよね?
オルト〈さっきもユウキが言ったように、“技”を発動させるにはイメージも必要とする。……ならイメージを
しなければ“技”も発動しない……。そういう理屈だ〉
ユウキ〈要するに、何も考えずに尻尾とか触手を叩きつけるだけ……。こんな感じでね。オルト!〉
オルト〈ああ〉
…イメージ
しない……?
黙々と説明するユウキさんは私には右手で、コロナちゃんには自分の尻尾でそれぞれのものを指しながら言った。その彼に言われるままに私は自分の触手に目を向けた。コロナちゃんも私と同じことを思ったらしく、7本まで生え揃ってる尻尾を前の方に伸ばしてそれを首を傾げながら見る……。
私達の反応であまりイメージ出来てないと思ったのか、説明していたユウキさんは一度オルトさんに目で合図を送った。すると2匹は〈打ち合わせでもしていたのか〉って思うぐらいピッタリのタイミングで後ろに跳び下がり、互いに距離を取った。
ユウキ〈まずは僕からいかせてもらうよ!〉
そう声をあげ、彼は4足で走り始めた。その距離、だいたい6m……。
オルト〈テトラ、まずはお前の例、次にコロナだ〉
私達に向けてオルトさんは名指しで声を荒げる……。
4m……、
ユウキ〈[気合いパンチ]!〉
走っていたユウキさんはそのまま斜め上に跳んだ。それと同時に右手に力を蓄え、大きく振りかぶった。
2m……、
オルトさんは体勢を低くし、手首の辺りから生えてるヒレみたいなもので見にくいけど左手を右膝に付ける……。空いている右腕は身体の後ろにまわし、攻撃に備えて身構えた。
0m……、
オルト・ユウキ〈〈くっ!〉〉
ユウキさんは振りかぶった拳に体重を乗せて殴りかかった。
それに対しオルトさんは後ろに構えた右腕を思いっきり振り上げ、右脚を軸にしてその場で回転する……。振り上げた右のソレはユウキさんの拳を捉え、それを叩いた。
オルトさんの攻撃と相討ちになり、ユウキさんが圧し勝ったけど技が終了した。
ユウキ〈っく!〉
ユウキさんに攻撃を当ててもオルトさんの勢いは止まらず、そのまま回転を続ける……。そしてそこから半回転したところで無防備のユウキさんに左のそれがヒットした。
隙が出来たユウキさんは対処する事が出来ず、オルトさんに打ち返されてしまった。
オルト〈[波動弾]!〉
間髪を入れず、オルトさんはすぐに回転を止めた。その影響で先を行っていた左が右に追いつき、重なるとすぐに小さなエネルギー弾を発射した。
…凄い……。あんな事が出来るんだ……。
もちろんやられたユウキさんもタダで飛ばされる事はせず、タイミングを計りながら体を横向きに捻った。すると彼の尻尾が放たれた[波動弾]を捉え、それを見事に別の方向へと弾き飛ばした。
技をしのいだユウキさんは何事もなかったかのように着地した。
オルト〈……っと、こんな感じだ〉
ユウキ〈相手に不意打ちを出来るだけじゃなくて、エネルギーを使ってないから技の1つとして数えられる事は無い……。そして何より、使ってないからエネルギーの節約になる……。これをエネルギーを使う“技”と組み合わせれば少ないエネルギーで相手の技を軽減する事が出来る〉
オルト〈途中で回復出来ないリーグ戦では好都合という訳だ〉
実演を終えた2匹は一息つきながら、こんな風に補足した。
…応用次第で、4つの技でその何倍もの組み合わせが出来るって事だね?それにエネルギーが節約できるなら、尚更良さそうだよ!