[アンケート結果発表中]絆の軌跡 〜繋がりの導き〜 - 第10章 積歴の栄華
90 LS 化学者シルク
午前 研究所前 Sideシルク


ラフ〈シルクお姉ちゃん、その“メガ進化”っていうの教えてくれる?〉

 “進化”祝いって事でオルトから“チルタリスナイト”を受け取ったラフちゃんは興味津々と言った様子で鞄を降ろした私に訊ねてきた。話に夢中だったこともあり燦々と輝く太陽も高度を上げ、それと呼応するかのように気温も上昇していた。

…気温が上がってるのは、殆どティル君が熱波を飛ばしていたからなんだけど……。それでも、結構時間が経ってるから40℃ぐらいあったのが25℃ぐらいまで下がってるわ……スーナが言うには。

ショウタ〈僕も聞いてもいい?そのメガ……何とかっていうの、初めて聞くし〉
ライト「…そうだったね。“メガ進化”ってカントーでは全然知られてなかったね」

 そこに、自分の技である程度回復した[ミュウ]のショウタ君が首を傾げながら参戦した。

…出来る種族がいない私達には関係なかったけど、発祥の地以外では存在自体知られてないから仕方ないわね。フライはともかく、ジョウトとイッシュ出身の私達はホウエンリーグで四天王が使ってるのを見て初めて知ったぐらいだし……。

シルク〈……わかったわ。でも戦ってたティル君達を回復させてからね?〉
テトラ〈回復……、あっ、そっか!〉

 私の言葉の言葉で大事な事を思い出したのか、テトラちゃんをはじめショウタ君とラフちゃんも声を揃えた。その声は青い空に高く舞い上がり、幾多にも響いていった。

ラフ〈“進化”して体が軽くなったから忘れてたけど、私もティル兄も戦ったばかりだもんね〉
ライト「それに戦い終わってから30分ぐらい経つから、もしかするともうボールの中で目覚めてるかもしれないしね」

…体力自体は戦える状態まで回復出来てないと思うけど、それは確かね。

 〈ほらね!〉って自らの状態を伝えたそうに翼を羽ばたかせるラフちゃんに続いて、ライトもティル君が控えるボールに手をかけながら言った。

シルク〈そうね。リヴさん!コロナちゃん達ももう起きてるはずだから、どうかしら?〉
リヴ「っん!?」
ショウタ〈〈結構時間も経ってるからコロナとフェズも出してあげたら?〉だって〉

 朗らかな彼女達の言葉に頷いた私は、近くでコルド達と盛り上がっているリヴさんに徐に話しかけた。案の定話しかけられるなんて思っていないリヴさんは素っ頓狂な声と共に振りかえった。そこに最初から聞いていたショウタ君が振り返ったリヴさんに手短に説明してくれた。

リヴ「〈出す〉ってどういう事なのさ?マサラにはセンターが無いから回復も出来てないのに……」
シルク〈私が何とかするわ!〉
ショウタ〈シルクさんが!?〉
シルク〈ええ!〉

…今気づいたけど、この町って何故かセンターが無いのよね…。小さい港と研究所もあるから需要があるはずなのに、何故かしらね?

 何とか平生を取り戻したリヴさんは尤もな正論で私に反論する……。でもそれを私は途中で遮り、自身を込めて言い放った。私の立候補に、“心”と“身体”が入れ替わってるショウタ君とリヴさんが揃って首を横に捻った。

シルク〈こう見えて私は一化学者……。だからポケモンである私にとって薬品の一つや二つを創る事なんて人よりも容易いわ![サイコキネシス]!〉

…何しろポケモンである私は材料さえあれば技を使えばどうにでもなる……。“従者のチカラ”のお蔭で[10万ボルト]も使えるから大掛かりな機材も必要ないわ!

 私はそう言いながらさっき降ろした鞄を超能力で開け、そこから目的の器具、原料を数点取り出した。

ライト「そっか!あの時みたいに自分で作るんだね?[ティル]、起きてる?」

 私の発言に納得したらしく、ライトは大きく頷きながらその彼をボールから出してあげていた。

ティル〈うん……。起きて5分ぐらい……かな……〉

 その彼は〈流石にまだキツイよ……〉と力なく呟きながら飛び出した。

リヴ「……何の事かさっぱりだけど、フェズ、コロナ、ふたりはどう?」
フェズ〈戦うのは無理だけど、とりあえず大丈夫〉
コロナ〈私は……まだまだ……だよ……〉

…でも、起きてくれてたから話が早いわ。

 会うのは初めてだけど、フェズっていう名前の[ピジョット]は若干ふらつきながらも地に脚をつき、コロナちゃんは7本の尻尾を力なく地面につけたまま踏ん張った。

シルク〈スーナ?いつも通り手伝ってくれるかしら?〉
スーナ〈うん♪ウチは水と氷だよね?〉
シルク〈ええ、頼んだわ!〉
スーナ〈[ハイドロポンプ]♪〉

 その間に私はスーナに話しかけ、手を貸してくれるよう頼み込んだ。その彼女は頼まれる事を分かり切っていたのか、笑顔で頷いてくれた。そしてスーナは4〜5mぐらい飛び下がって嘴に水を蓄え、それを私に向けて加減して放出した。それを私が維持していた超能力で拘束し、大小2つの塊に分裂させた。

…ここからは化学用語のオンパレードになるから、もしかすると退屈な内容になるかもしれないわ……。でも、温かい目で見てくれるかしら…?

 私はスーナが出してくれた水を2つに分けてから取り出した3つの小瓶の蓋を開けた。その中に一杯に詰め込まれた緑、青、白の液体……、漢方薬でおなじみの“復活草”をすり潰して抽出した溶液、ホウエン地方では美しさのコンディションを底上げするのに重宝されている“モコシの実”の果汁……、そして原作ではPPを回復させる効果を持つ“ヒメリの実”の果汁を全て混ぜ合わせた。
 次に大きい方の水塊に炭素棒と白金線をそれぞれ半分だけ差し込む……。そこに3種類の果汁が混ざった溶液を加えた。

…とりあえず、これで準備はできたわ。

 混ぜ終えると私は2本の棒のうちPt(白金)の方を差し込んだとは別の端を右前脚で握り……、

シルク〈[10万ボルト]!!〉

そこから高電圧の電流を流し込んだ。

スーナ〈[冷凍ビーム]♪〉

 それと同時に小さい方を更に3つに分け、そこにスーナに凍てつく冷気を放ってもらった。案の定それは急激に冷やされ、3粒の氷へと変貌を遂げた。
 即行で作った氷を、現在進行形で電気が流れている水塊へと投げ込んだ。それも適当にはせず、3つとも炭素棒側に重ならないように投下した。

…この辺で少し解説させてもらうと、“復活草”と“ヒメリの実”の成分を主成分として使い、“モコシの実”を触媒として利用する……。[10万ボルト]で電流を流す事で電気分解を行い、それと同時にS1反応を起こす……。それによって出来た生成物を更に縮合重合させることで目的の物質を合成する。最後に、投下した氷……H2Oと水素結合させて完成……。
 大雑把に説明すると、こんな感じかしら?解説してたら丁度反応も終わったから話に戻るわね。

シルク〈……よし。これで完成よ!〉

 反応を終えた大きい方の水塊は小さくて薄緑色の氷の粒へと変貌を遂げていた。それら3つを引き続き[サイコキネシス]で拘束しながら一息ついた。

コロナ〈……で、それが……そうなの?〉
シルク〈ええ。効果は後で説明するから、ティル君、コロナちゃん、[ピジョット]のあなたもまずは食べてみて!〉
ティル〈うっ……うん……〉

 終始黙って見守っていたコロナちゃんがまず、不思議そうに薄緑のそれを尻尾で指しながら疑問を顕わにする……。そこに、私が有無を言わさず3匹に1個ずつ超能力で手渡した。私はそれを〈ねっ?〉と言いながら笑顔で促し、3匹は半信半疑のままそれを口にした。

…ちなみに、味は無し……。「苦味と渋みが混ざってる」って想像した人がいるかもしれないけど、化学反応を起こすと性質そのものが変わるのよ!もちろん、味も例外なくね!

ライト「……どう?」
コロナ〈……特に変わった事は無いけど…?〉

…でも、それが効いてる証拠なのよ!

 待ちきれなくなったのか、ライトはそれを口にした3匹に訊ねた。でも彼女らの反応は私の予想通り、重なる疑問が更に表に出てきた……ただそれだけだった。

シルク〈これは体力そのものを回復させるんじゃなくて……、それぞれが持っている自然治癒力を一時的に活性化させるもの……。だから5分もすれば体力も完全に回復すると思うわ!……ただ、効果が大きい分喉が渇くっていう副作用が付いて来るけど……〉

…だから、私としては第二類医薬品に分類してほしいところね……。ちなみに、“第二類医薬品”とは、購入する時に医師の説明を聴くことを推奨されている薬品の事を示している…。この事は雑学として覚えておいても損は無いと思うわ!

 私は、提供したそれを服用した彼女らに効能を分かりやすく説明した。 

■筆者メッセージ
ええっと、今回は完全に箸休めです。
@ ( 2015/03/20(金) 16:50 )