87 L 腕試し(VS2 前編)
午前 研究所前 Sideライト
コロナ〈……じゃあ、そろそろ始めよっか〉
ティル〈うん、そうだね〉
“進化”したばかりで種族としては少ない7.1本の尻尾を持つ[キュウコン]のコロナちゃんは話が終わると思い出したように言い放った。一番左側に生えている彼女の短い尻尾は持ち主の心情を表すかのように午前のそよ風にゆっくりと揺れている……。他の尻尾も通り過ぎる秋風を感じ、ティルの長毛と共に黄金色の短毛を優しく弄んでいた。
ショウタ〈ルールは2対2のダブルバトル、交代は無し。僕とライトさんは姿を変えるのは無しだけど能力を使うのはアリ。これでいいね?〉
ライト「いいよ」
彼女に続いて、話の間に元の[ミュウ]の姿に戻したショウタ君はティルが頷いたのを確認するとルールを順番に読み上げた。彼の長い尻尾は風に靡く事なく揺れ、彼の意気込みを暗に伝えていた。
また、まだ姿を戻していないわたしはもう一度彼が提案したルールを頭の中で復唱し、自分にはどれが当てはまるのか確認した。
…ええっと、わたしの場合姿を変えた時の姿が人間だから、これは関係ない……。“チカラ”を使うのはアリだから、光を屈折させて姿を消す事は出来る……。それに対して、ショウタ君は元の姿でしか戦う事が出来ない。でも“チカラ”として全部の技が使えるから何の問題もない。
…何か接戦になりそうだね!
頭の中で再確認すると、わたしは彼の言葉に大きく首を縦に振った。そして、共に戦うパートナーを横目でチラッと見、姿を変えるために光を纏う……。
ライト〈ティル、絶対に勝つよ!〉
ティル〈もちろんだよ〉
コロナ〈ショウタも、サポートよろしくね!〉
ショウタ〈コロナも!〉
…ティル、相性的にはわたし達の方が不利だけど全力でいくよ!
元の[ラティアス]に姿を戻したわたしは身体を浮かせ、気合を入れる……。他の3匹も士気を高め、味方同士視線を合わせ合う……。
コロナ・ティル〈[シャドーボール]!〉〈[未来予知]……〉
ショウタ・ライト〈[弾ける炎]!!〉〈[ミストボール]!!〉
そして4匹同時に技を発動させ、ワケありトレーナーによる訳ありトレーナーの為の決戦が幕を開けた。
まず初めにコロナちゃんは真ん中の4本の尻尾に漆黒のエネルギーを蓄え、丸く形成し始める……。それと同じタイミングでティルは目を閉じ、青い空に祈り始めた。
コンマ1秒遅れてショウタ君は両手のひらを上向きにし、そこに小さな炎を出現させた。そしてわたしはすぐにその場で高度を上げ、それと同時に4発の純白を[キュウコン]に向けて撃ちだした。
…なるほどね。コロナちゃんの特性は[貰い火]、炎技の威力を上げる作戦だね?……でも、そうはさせないよ!
ライト〈ショウタ君、思い通りにはさせないよ![竜の波動]!〉
ショウタ〈僕だって![ムーンフォース]!!〉
コロナが放った漆黒は余すことなく集中するティルを狙い、あと5mというところまで迫っていた。ショウタ君の炎はすぐに隣のコロナちゃんに命中し、彼女に吸収されていった。その間にわたしの純白の弾丸が彼女の漆黒を撃ち落とし、目を瞑るティルの目前で消滅した。
技を放った直後で隙だらけのショウタ君に向けて、わたしは口から暗青色のブレスを一直線に放つ……。でもそれは彼が発動させた薄桃色の球体によって掻き消された。
…相性の関係もあるけど、威力は互角……。やっぱり油断できないね。
ティル《ライト!準備できたよ!》
と、そのタイミングでわたしの頭の中にパートナーの声が反響した。
ライト《わかったよ!……なら下は任せたよ!》
ティル《ライトもね!》
彼はわたしだけにそう伝えると目を見開き、技を発動させるために集中しているコロナちゃんに向けて走り始めた。
ティル〈コロナちゃん、俺が相手だ!〉
コロナ〈最初からそのつもりだよ![フレアドライブ]!!〉
…コロナちゃん、やっぱり使ってきたね。
彼に対して彼女も動き始め、燃え盛る炎を纏いながら凄い速さで突進し始めた。この時、彼らの距離は約3m……。
2m……、
ティル〈そうこないと張り合いが無いよ![サイコキネシス]!〉
ティルは迫るコロナちゃん……ではなくて彼女が纏ってる炎を超能力で拘束した。
1m……、
コロナ〈えっ…!?〉
右手を前に出しながら体勢を低くする。それと同時にコロナちゃんの首元と右前脚の炎を払いのけた。
0m……、
ティル〈大腰!!〉
コロナ〈くっ!〉
前に出した右腕を彼女の首を抱え、しっかりと固定する。その直後に彼女が踏み出した右前脚を掴んだ。そして、掴んだまま180°体の向きを変え、腰を支点にして彼女を地面に叩きつけた。
彼女を叩きつけた反動を利用して、ティルは斜め後ろに跳び下がった。
ショウタ〈[テレポート]、[冷凍パンチ]!!〉
一方その頃、わたし達はというと、空中で接近戦を繰り広げていた。
コロナちゃんが[フレアドライブ]を発動させたのと同じタイミングでショウタ君は光を纏い、技を利用してわたしの3m手前に瞬間移動した。姿を現すとすぐに右手にわたしが苦手な冷気を纏わせ、殴りかかってきた。
ライト〈させない!!〉
突然の事に若干反応が遅れたけど、間一髪体勢を起こして体を右に捻り、スレスレでそれをかわし……
ライト〈!!〉
きることが出来なかった。
彼はかわされる事を予想していたらしく、わたしが体を捻った瞬間に長い尻尾で左翼を掴んだ。そのせいでわたしはかわし切る事が出来ず、冷たい打撃をまともにうけてしまった。
……痛いけど、これくらいではわたしは倒せないよ!元々[ラティアス]という種族は守備力がそこそこある……。だから生半可な攻撃は通用しないよ!!
それに、わたしはエスパータイプとして大きな決断をした……。だから、ここでそれを試させてもらうよ!!
ティルが丁度コロナちゃんの首を掴んだ頃、わたしはある技のイメージを始めた。即行でわたしは痺れる感覚に満たされ、それを基にエネルギーを変換する……。そして、
ライト〈[10万ボルト]!!〉
ショウタ〈!?〉
そのイメージを一気に解き放った。すると、わたしの身体全体からユウキ君よりは弱いけど電圧の電気が溢れ、尻尾で掴んでいるショウタ君にもそれが流れ込んだ。
…そう、わたしがした決断……。それは[サイコキネシス]を別の技に変える事……。その技を使っていた領域を自由枠にする事で他のタイプに臨機応変に対応する……。それがこの一か月間で編み出したわたしの戦法だよ!!
電気を放つのと同時にわたしは翼を勢いよく前に動かし、巻き付くショウタ君の尻尾を振り払った。
ショウタ〈っ……!……ライトさん、さすがだね〉
ライト〈ショウタ君こそ!…でも、勝たせはしないよ!〉
ショウタ〈それはどうかな?[リフレッシュ]!〉
ライト〈?〉
彼はわたしを挑発しながら淡い光を纏う…。それは一瞬で弾けて何事もなかったかのように消滅した。
ショウタ〈[テレポート]!〉
それだけを言うと彼はまた光を纏い、別の場所へと瞬間い……
ティル《ライト!避けて!!》
ライト〈えっ!?〉
どう……はい?!
突然消えた彼を追跡しようとした瞬間、ティルの叫び声がわたしの中で幾多にも反響した。
…ティル!避けるってどういう……
ライト〈嘘!!いつの間に!?〉
こと……!!しまった!!
彼の警告によって、わたしは
ある事に気付かされた。ふと下を見ると、そこにはわたしに迫る7つの漆黒の弾……。あと3mという地点までコロナちゃんの[シャドーボール]が迫っていた。
…そっか!ショウタ君も“テレパシー”を使える……。だからさっきの間にコロナちゃんに指示を出してたんだ!
でも、この数ならかわせない事は……
ライト〈えっ!?身体が動かな……くっ……!!〉
ない……はずなのに!!
前進して[シャドーボール]をかわそうとした瞬間、わたしの両翼に原因不明のシビレが駆け抜けた。そのせいでわたしは身動きがとれず、漆黒の全てを食らってしまった。
……くっ……何で……?
弱点の属性をうけたわたしは地面に向けて真っ逆さまに落ちていく……。
ライト〈まさか……麻痺……?でも……何で……〉
ティル〈[サイコキネシス]!ライト!大丈夫!?〉
痺れのせいで制御を失ったわたしは辛うじてティルの超能力に受け止められた。その彼はいつ取ったのかは分からないけど、わたしを受け止めた同じ技で近くに赤と黄、黒のエネルギー塊を漂わせている……。その瞬間の彼は右手でステッキを持ち、それを右上から左下に振り下ろしていた。その軌道には赤い炎があがり、攻撃を仕掛けた事を教えてくれた。
炎が上がるステッキの先はついさっきまでわたしと戦っていたショウタ君にヒットしていた。瞬間移動したばかりでまさか攻撃されるとは思っていない彼は不意打ちを食らい、地面に打ちつけられていた。
一方のコロナちゃんは、恐らくティルの[未来予知]を受けたのか、苦痛を浮かべながら肩で呼吸をしている……。
ライト〈麻痺状態になったけど……何とか……。……ティルは……?〉
ティル〈[フレアドライブ]食らったけど、直撃は免れたから平気だよ〉
…そっか……。なら……よかった。
ショウタ〈コロナ……、まだいける……?〉
コロナ〈何とか……。……でも、[フレアドライブ]3回と[
煉獄を2回使ったから……エネルギーがもつかどうか……〉
…[煉獄]……、[オーバーヒート]とか[ブラストバーン]ぐらい難しい技だって聞いた事あるけど、そんな大技を……。
若干ふらつきながら体を浮かせたショウタ君は自身の相棒の様子を伺う……。その彼女は意識が朦朧としながらも何とかそれに答え、彼に力ない笑顔を魅せた。
…あんな大技を立て続けにされたみたいだけど、どうやってかわしたんだろう……?それにティル、[フレアドライブ]を食らってるはずなのにピンピンしてる……。……一体どんな特訓をしてきたんだろう……?
ティル《ならライト。ライトは“ステルス”で援護して!俺が前衛で戦うから!》
ライト・コロナ〈うん……〉〈ショウタも、……無理しないようにね〉
…ティル、そうさせてもらうよ……。
わたしは彼に肯定の意を伝えるとすぐに激しい光を纏い、それと一緒に姿を消した。
わたし達が相談している間に2匹も話してたらしく、コロナちゃんはショウタ君の方を見てコクリと頷いた。
ショウタ君〈…あれ?ティル君1匹だけ?〉
ティル〈そうだよ。ライトは結構体力が削られていて、おまけに麻痺状態……。だけどショウタ君、君達の相手は俺1匹で十分だよ!〉
……そこまで言うなら、何か策があるのかな…?
わたしの姿が見えない事に気付いたショウタ君に、ティルは自信満々に言い放った。
今現在の状況は、[キュウコン]のコロナちゃんが倒れる寸前……、[ミュウ]のショウタ君は体力の2/3が残った状態……。
それに対してわたしは3/4を削られ、更に麻痺状態で素早さがかなり落ちている。だけど、ティルはほぼ無傷……。
…流石、ハートさんとルクスさんの下で一か月間特訓していただけの事はあるね。