84 L リーグの手強さ
朝 セキチクシティ Sideライト
ライト《レイちゃん、昨日はごめんね》
レイ「ううん、今日は最初からジムは休むつもりだったから気にしないで!」
…そうは言っても、やっぱりね……。
元の姿のままのわたしはぺこりと頭を下げながら彼女に謝った。でもその彼女は「謝らなくていいから、頭上げて」と付け加えながらわたしに言葉を返した。
時刻は朝の8時、連休終わりの平日だけど田舎町という事もあり人影は疎ら……。代わりに自然豊かであるから近くの森を住み家にしている野生のポケモン達が和気藹々と話しているのが聞こえてくる……。また、吹き抜ける風には若干の潮風が紛れ込み、この町に初めて来たわたしに近くに海がある事を教えてくれた。
…あの後結局目が冴えちゃって眠れなかったんだよ。後で聞いた話だけど部屋の予約はレイちゃん1人だけってなってたみたい……。だから人間の姿に変える訳にはいかなかったんだよ。……で、結局する事が何もなかったから起きてたラグナにつき合ってもらって技の調整。もちろん、センターの外で。
それから、センターの業務が始まる7時ちょっと前に部屋に戻って出発する準備。そしてチェックアウトしてもらうついでにティル達の回復。……で、さっき4匹分のボールを受け取って今に至るって感じかな?
レイ「ライトちゃんはこれからマサラに行くんだよね?」
ライト《うん。それからオーキド博士に挨拶をね》
…それから、リーグに挑戦するための手続きとね。
わたしのせいで予定が狂ったにもかかわらず明るいレイちゃんは、昨日わたしが言った事を思い出しながら訊ねた。そのわたしも彼女の問いに頷き、それと同時に彼女に対して言葉を念じた。
レイ「うん。…ライトちゃん、リーグ戦頑張ってね。ライトちゃん達ならきっと勝てるよ」
ライト《レイちゃん、ありがとう!今までとは格が違うって聞いてるけど、頑張ってくるよ》
…それに、この一か月間みんな特訓してたんだから、きっと大丈夫だよね?…強いて言うなら、昨日仲間になったラフの事ぐらいかな…?
それだけを言うとわたし達は互いに手を取り合い、固く握り合った。それにわたしは「絶対に勝ち抜くよ」という意味を添える事となった。
…正確には、わたしの指って種族上短いから「触れ合わせる」って言ったほうが正しいんだけどね……指と言えるのかも際どいぐらいだし……。
ライト《…それじゃあレイちゃん、そろそろ行くね》
レイ「うん。ライトちゃん、いい知らせ待ってるよ!」
ライト〈任せて!〉
わたしは彼女の手を放し、体勢を上げたまま後ろ向きで高度を上げる……。そして手を振って見送ってくれている彼女に一声を上げてから、進行方向に体を向け、飛ぶスピードを上げ始めた。
…レイちゃん、頑張ってくるよ!それから、ティル、テトラ、ラグナにラフも、絶対に勝とうね!
――――
1時間後 マサラタウン付近上空 Sideライト
ライト〈マサラタウンかー。そういえばわたし達の旅ってここから始まったんだよね〉
…トレーナー登録したのはこの町だし、何よりパートナーのティルに出逢ったのもマサラタウン……。前に来てから1か月しか経ってないのに、何故か懐かしいよ……。
カントーでの旅の出発点とも言える町が少し先に見え始めた頃、わたしは1か月前の事を回想しながら呟いた。爽やかな風は滑空するわたしの羽毛を撫で、その持ち主を誘うかのように吹き抜けていった。その風にわたしの独り言が便乗し、一足先に何色にも染まらない町へと降りていった……。
…ちなみに、さっき言い忘れたけどティル達はみんなボールの中。何か昨日のうちに話がついてたみたいで、レイちゃんに「ボールから出すのはマサラタウンに着いてからでいいって」に言われたんだよ。多分わたしが寝ている間に話し合ってたのかもしれないね。……なら、全速力で飛んできたけど一時間も経ってるから早く出してあげないと……。
わたしは仕方ないとはいえ半ば焦りながら進路を斜め下に変え、目的地である始まりの町へと急降下をはじ………
A「あっ、ライトさん、久しぶりです!」
めた。
町に着陸しようとしているわたしの斜め上……、カントー地方のリーグ本部がある方向からひとつの声が響き渡った。その声は降下するわたしを呼び止め、声の主の方へと向かわせることとなった。
…ええっと、この声、どこかで聞いたような……?……どこだったっけ……?
あの種族は確か……[カイリュー]だったっけ?でもこの声はポケモンのじゃない。って事は、このカイリューのトレーナーのだね。
カイリュー〈ライトさん、僕が誰か分かりますか?〉
ライト〈えっ!?この声って、まさか……〉
…!?嘘でしょ!?たった一か月でここまでレベルって上がるものなの!?
声からして男の人を乗せているカイリューはその人と同じように首を傾げるわたしに訊ねてきた。声をかけられたわたしはというと、そのドラゴンポケモンの言葉に思わず声を荒げてしまった。
…それにこのカイリュー、絶対あの子だよ!!って事は、乗ってる人もあの人で間違いなさそうだよ!
彼の一声でわたしの脳裏に閃きの電流が駆け抜けた。
ライト〈ショウタ君!?〉
ショウタ〈うん、そうだよ〉
ライト〈っていう事は、リヴさんも!?〉
リヴ「そうさ」
そして確信と共にその人物の名前を言い放った。
…ショウタ君、別れる前とは随分雰囲気が変わってたから気づかなかったよ!
リヴ「あの後結局合流したってワケさ」
ショウタ〈仲間も増えたしね〉
…そっか。その方がショウタ君にとってもリヴさんにとっても一番いいもんね。元々[ミュウ]だったリヴさんがいればポケモンの事について教えてもらえるし、トレーナーだったショウタ君がいれば人間の事を伝える事が出来る……。
ライト〈そうなんだー。…でもどうしてこんな所に?〉
…飛んでるからコロナちゃんはボールの中だね。…ならショウタ君達はこんな朝早くにどこに行くつもりだったんだろう?
久しぶりの再会に沸き立つわたしは次なる疑問を彼らにぶつけた。
ショウタ〈リーグに行った帰り。負けちゃったんだけどね〉
リヴ「3人目までは何とかなったんだけど、僕達では全く歯が立たなかったんだよ」
ショウタ〈ドラゴンタイプだったしね〉
ライト〈なら、その[カイリュー]がそうなの?〉
…ショウタ君が負けたっていうドラゴンタイプになってるなら、きっとそう言う事なのかもしれないね。
リヴさんを乗せているショウタ君は悔しそうに言の葉を繋げ、それをリヴさんが「今ではショウタ君の方が[ミュウ]としては強いから、僕が戦っても無理だったかもしれないさ」と言って締めくくった。その彼らにわたしはショウタ君の姿から想像して、こう言った。
ショウタ〈うん。このカイリューにやられちゃってね……〉
リヴ「その後は相性が悪くて上手くいかなかったのさ」
…噂には聞いてたけど、やっぱりリーグってそんなに強いんだね…。
ライト〈やっぱりそう簡単にはいかないんだね〉
ショウタ〈ジムがあっさり勝ち抜けたから油断してたよ……。……で、ライトさんは何をしに来たの?マサラってジムは無いはずだけど……〉
彼はまた悔しそうに呟いた。そして彼は沈んだ気持ちを片隅に置き、わたしに向けて話題を変えた。
ライト〈わたしはまだだから……、今から挑戦の手続きをしようと思ってね。それが済んだらリーグに向けて特訓……って感じかな?〉
…例え一か月間修行してきたと言っても、もしもの事があるからね。休暇をとってなかったショウタ君でさえ負けちゃうぐらいだし……。
ショウタ〈なら僕達も一緒にしよっかな?ティル君達にも会いたいし〉
ライト〈そうだね。わたしもコロナちゃんと話したいから…〉
ショウタ〈リヴさん、それでいいよね?〉
…それがいいね!だって一回挑戦してるならどんな対策をすれば勝てるか聞けるし、何よりわたし達もショウタ君達も実戦練習が出来る!元々今日は申請が終わったら特訓に充てるつもりだったから、ちょうどいいよ!
一か月前、少しの間一緒に旅をしたわたし達は言葉を交わすまでもなく意見が一致した。その事をショウタ君は形式上トレーナーって事になっているリヴさんに確認する……。
リヴ「もちろんさ」
ライト〈なら決まりだね〉
ショウタ〈うん!〉
…ならすぐにでも申請してこないといけないね!
共に特訓する事を決めたわたしたちはすぐに高度を落とし始め、眼下にある小さな町へと向かった。