4 S 属性の化学
昼過ぎ トキワシティー付近 sideシルク
シルク〈……もうすぐ[トキワシティー]ね……。〉
私は挑んでくるトレーナーのポケモン達を倒しつつ、次なる目的地に向けて突き進む。
………正直、あまり歯ごたえが無いわ……。
大概軽くあしらっているうちに倒れるから、全力をだす前に終わってしまうのよ……。
もっと実力のある人はいないのかしら……。
たまには何の遠慮もせずに戦いたいわ…。
私はため息をつきながら呟いた。
この一年で変わったのは、これかもしれないわね……。
A「………!?野生で[エーフィ]!?[ギャラドス]、捕まえるぞ!!」
ギャラドス〈任せな!〉
物思いにふけながら歩いていると、年配のトレーナーが背後から勝負を挑んできた。
戦い甲斐がある相手だと良いけど……。
シルク〈分かったわ。 あなたの実力、見せてもらうわ!〉
とりあえず、お手並み拝見ね……。
私は気持ちをバトルに切り換えた。
さあ、行くわよ!
A「[竜の舞]!!」
ギャラドス〈[竜の舞]!!〉
トレーナーは指示を出し、私から見ると青の巨体が精神を活性化させる。
シルク〈どうやら、むやみやたらに攻めるタイプでは無さそうね。これは期待出来そうだわ![瞑想]!!〉
ここ最近にないタイプね。
彼となら、楽しめそうだわ!
私は久しぶりに胸の高鳴りを感じた。
目を閉じ、五感を研ぎ澄ませる。
A「[エーフィ]はエスパータイプ……、なら、[噛み砕く]!!」
ギャラドス〈了解だ!〉
相手は指示を請け、私との距離を詰める。
風の流れと気配からすると………大体5mってところかしら?
きっと接近戦に持ちこむ作戦ね。
……でも、甘いわね!
シルク〈[目覚めるパワー]連射!!〉
相手に対して、私は口元に暗青色の弾を生成し、矢継ぎ早に撃ちだした。
A「!?[波乗り]で防ぐんだ!」
ギャラドス〈数が多い!?[波乗り]!!〉
咄嗟に反応し、相手はエネルギーを放出し、どこからともなく大量の水を出現させた。
指示を請けてからの行動が速いわね!!
どうやら、そこそこの実力は持っているらしいわね!
楽しくなってきたわ!
未だに目を閉じている私に水の巨壁が迫る……。
シルク〈[シャドーボール]、[サイコキネンシス]、……〉
目を開け、即効で漆黒の弾を生成し、超能力で拘束した。
水の壁まで2m………。
シルク〈…発散!!〉
私はそこで前に跳び、同時に漆黒の弾を内側から
捲るように分解する。
すると、突然上昇気流が発生し、私は空中に投げ出される。
これは私の戦法。
攻撃にも防御にも使えるわ。
おまけに、相手には水が邪魔で私の姿は見えてないわ!
いわゆる、チャンスね。
ギャラドス・A・シルク〈くっ!?ドラゴンタイプ!?〉「!?上だ!![冷凍ビーム]で迎え撃て!!」〈[目覚めるパワー]!!〉
水壁で威力を軽減したものの、相手はダメージを被る。
対して、私は重力に引かれながら、口元にありったけの竜のエネルギーを蓄積させる。
ここから、攻勢に移るわよ!!
ギャラドス〈っ![冷凍ビーム]!!〉
シルク〈その冷気、もらったわ!!〉
流石に一撃では倒れないわね。
相手は体制を立て直し、凍てつく冷気を放った。
シルク〈[サイコキネンシス]!!〉
私はエネルギーを溜めながら超能力を発動させる。
私、技を2つ……いや、同時に3つまで出せるのよ。
これは長年の努力の賜物……、簡単には真似できないわよ!!
暗青色の弾に意識を集中させ、エネルギーの蓄積を中止する。
それと同時に、身体を捻ってかわしながら氷のエネルギーを採集する。
……これで準備は整ったわ!!
二色のエネルギーをそれぞれ半分に分けて……、
シルク〈化合!!〉
それを1:1の割合で混ぜ合わせる。
A・ギャラドス「〈!?混ざった!?〉」
私の行動を見て、相手は驚きの声をあげる。
それもそうね。
これは私の専門分野………化学を応用した戦法だから!!
異なる属性の技を混ぜ合わせれば、反応物、属性の相性に応じて特有の効果を発揮できるのよ!!
例えば、今私がしている氷と竜……。
相性に優劣がある場合、普通は弱いほうが消滅するわ……。
でも、配合の方法を少し変えると………
A「分かれた!?」
配合した2つの弾を超能力で衝突させる。
すると、分解して竜が消滅するところを、
竜のエネルギーを中心に氷が二重螺旋運動をする……。
そのまま、相手に向けて消滅せずに迫る………。
原理を説明すると、衝突させる事によって、竜の体積が倍になる……。
その時、氷には外に出ようとする力が働くから、氷は竜から遊離する。
この時、氷には外に出ようとする力が、竜には状態を保とうとする力が働く……。
氷の体積は竜のそれより小さいから、たとえ相性が良くても竜の力に勝つ事ができない。
中から引っ張られているから、氷は惑星の公転のような運動を開始する………。
そして、氷のエネルギーは個々に纏まり、2つまで数が少なくなる……。
最後に、氷のエネルギーと竜のエネルギーがつりあい、安定した粒子となる……。
まあ、こんな感じね。
A・ギャラドス「何!?この技!?」〈属性が2つ!?〉
不規則な動きをする二色の弾に圧倒され、相手は素っ頓狂な声をあげる……。
ギャラドス〈ぐっ………!一発で……この威力…………?〉
相手の[ギャラドス]は私の攻撃に耐えきれず、崩れ落ちた。
巨体故に大地を鳴らし、土色の煙があがる………。
A「………野生に倒されるなんて……、自分もまだまだだな……。[ギャラドス]………お疲れ様……。」
そう言い残し、トレーナーはギャラドスを戻し、立ち去った。
シルク〈ここ最近の相手に比べたら、戦い甲斐があったわね。〉
………でもまだ6割ってところかしら?
やっぱり、バトルは楽しくわね。
これからは例え相手がどんな実力でも、戦略を駆使して戦おうかしら?
???「凄い………。あんなに大きなポケモンを簡単に………。」
???〈あんな技、見たことないよ………。〉
シルク〈?〉
バトルを終え、ひと息ついていると、私の背後で歓喜にも似た声が2つ響いた。
振り返ると、そこには1人の少年と、一匹の[ロコン]……。
声からすると、私とおなじで♀ね。
それに、この少年の雰囲気からすると、まだ新人ね?
ユウキと初めて旅立った頃が懐かしいわ……。
シルク〈どれも普通の技を応用したものなのよ。〉
私は[ロコン]の彼女に笑いかけた。
ロコン・B〈そうなの!?〉「野生なのに、トレーナーのポケモンを倒しちゃった……。」
シルク〈そうよ。 あなたも、練習さえすれば出来るようになるわよ。〉
ロコン〈わたしにも!? 教えてもらってもいいですか?〉
彼女は興味津々に私に訪ねた。
………無邪気で可愛いわね……。
……一応、私もまだギリギリ未成年だけど………。
シルク〈わかったわ。ええっと………〉
ロコン〈[コロナ]といいます!〉
コロナっていう名前なのね?
シルク〈コロナちゃんね?私は[シルク]、よろしくお願いするわね!〉
私は笑顔でいった。
コロナ〈シルクさん、よろしくお願いします!!〉
コロナちゃんが太陽に負けないぐらいの笑顔をみせた。
シルク・B〈ならまずは………コロナちゃん、あなたのトレーナーに事情を説明したいから……いいかしら?〉「ロコン、そろそろいくよ。」
コロナ〈えっ!?でも、ショウタは人間だから、わたし達の言葉は聞こえないよ!?〉
……まっ、それが普通ね。
………私達ポケモンが伝達手段を持っていなければ……。
シルク〈大丈夫よ。《〉実は私、[テレパシー]を使えるのよ。》
コロナ〈!? [テレパシー]!? [テレパシー]って伝説のポケモンしか使えないんじゃないの!?〉
そう。
私は去年ライトと一匹の仲間から教えてもらったのよ。
……でも、誰もが使える訳ではなくて、経験を積んだエスパータイプのポケモンと伝説に分類される種族しか使えないらしいのよ。
彼女の脳内に私の声が響き、突然の事に慌てふためく。
シルク〈練習さえすればエスパータイプなら使えるのよ。〉
そういうこと。
この後、私は[テレパシー]でコロナちゃんのトレーナー……、ショウタ君にさっき話した事を伝えたわ。
……どんな反応をしたかは、言わなくても分かるわよね?