α Je m'apeile………
Side???
………これは、トレーナーから休暇をもらった一匹のポケモンの“名前”に関する物語である………
時は20XX年晩夏、某学者が大火傷を負い入院生活を送っている頃に遡る…………
―――――
午前 ヤマブキシティ Side???
A〈…ごめん、待たせちゃったかな?〉
B〈いいえ、私も今来たところだから全然待ってないわ〉
カントー地方屈指の大都市にある一棟の高層マンションの一室に、1つの声が息を弾ませながら反響した。夏の終わりという事もあり外から入る風には若干の水分が紛れ込み、私達の短毛を撫でていく………。気温の方も数週間前よりは多少下がり、それなりに涼しくなっている………。
そんな爽やかな朝、声を上げた一匹の[エーフィ]は自身の超能力で玄関の扉をゆっくりと閉じた。そんな彼女に、首に水色のスカーフを巻き、左耳に蒼い鉱石の耳飾りを着けたもう一匹の[エーフィ]………私が〈だから心配しないで〉と付け加えながら笑顔で首を横に振った。
……ここまで言えば、もう誰の事か分かったわよね?
…そう、最初に話したのがこの部屋に住む化学者のカレンのパートナーで[エーフィ]のトリちゃん。……そして、後者が私、同じく[エーフィ]のシルク。
今日はカレンとトリちゃんの3にんでジョウト地方に旅行に行くことになってたのよ!
忘れてるかもしれないから一応確認しておくと、私の出身地はジョウトのコガネシティ。カレンも同じジョウトにあるエンジュシティ………。前に会った時に一緒に行く約束をしてたのよ。
カレン「シルクもついさっき着いたところやからね。トリも、トキワの森から直で疲れたやろ?」
トリ〈ううん、昨日の夜に出てその後はセツさんの所に泊めてもらったから全然疲れてないよ!〉
そう言い、トリちゃんは心配するカレンにとびっきりの笑顔を魅せた。
……なら、走ったとしてもせいぜい十数分ってところかしら?こことタマムシシティは歩いても30分かからないから、そのくらいかもしれないわね。
……そういえばカレン達、「もう[氷雪]のふたりに会ってきた」って言ってたわね。
シルク〈なら問題ないわね!……カレン、トリちゃんも帰ってきたから早速出発するのよね?〉
私は彼女の言葉に答え、そのパートナーに視線を移した。そして私はそんな風に推測しながらカレンに訊ねた。
…ジョウトとの距離を考えると、そう考えるのが普通ね。何を使っていくのかはまだ聞いてないけど、朝の7時に集まったって事は日帰りって事も考えられるわね。
ちなみに、トリちゃんは昨日までテトラちゃんとトキワの森に行ってたそうよ?テトラちゃん、〈ジル兄に会いに行く〉って言ってたからこれまで一緒に過ごしてたのかもしれないわね。
カレン「そうやよ」
トリ〈じゃあ何で行くの?イカヅチは
燈山に行ってていないし……〉
…初めてカレンと会った時も居なかったけど、イカヅチさんって出かけるのが好きなのかしら……?
カレン「リニアは高いから自力で行くつもりやよ」
シルク〈…という事は、飛んでいくのね?〉
カレン「うちがもう少し大きい種族に変えれたら良かったんやけど……、トリはボールの中で待っててくれる?」
カレンはそう言いながら申し訳なさそうに彼女を見下ろした。
…確かに、種族上仕方ないわよね。トリちゃんは[エーフィ]の平均よりちょっと小さいとはいえ大体80cm……。カレンが姿を変えた[ハトーボー]は種族を考えてもかなり大きい1mぐらい……かな?どっちかが背中にしがみついて[サイコキネシス]で浮かせるのも考えたけど、トリちゃんのの事を考えると、それもあまり良いとは言えない……。…だから、必然的にそうなるわね。
トリ〈うん。だってカレンにはワタシ達のどっちかしか乗れないもんね。だから、いいよ!……そんな事より、玄関はワタシが閉めたけど財布とポケギアはちゃんと持った?それにホテルの予約標も忘れてないよね?〉
カレン「最初に入れたから」
…トリちゃんは自分の事よりカレンの方が心配なのね?
彼女は気が気でないといった様子で自身のパートナーを問いただした。そんな彼女にカレンは自信満々にこう言い放った。
……見る度に思うけど、これではどっちが年上か分からなくなるわね……。忘れっぽいカレンといえばカレンらしいけど……。
そんなひょうきんな光景を私は暖かい眼差しで見守った。
シルク〈私も確認したらちゃんと入ってたわ〉
トリ〈ならいいね!…じゃあカレン、お願いね!〉
カレン「向こうに着いたらすぐ出すで」
そう言い、カレンは腰のベルトに装着しているボールを手に取った。そしてそのままそれを私の言葉に安心したトリちゃんに向けた。トリちゃんはそれから発せられた赤い光に包まれると、それと共に収まった。
シルク〈カレン、いきましょ!〉
カレン「そやね!」
そして、ふたりの化学者はベランダのある部屋の奥へと和気藹々と話しながら歩き始めた。
…[雷鳴のチカラ]で強化されてるカレンの素早さなら、案外早く着くかもしれないわね。
カレン「……シルク、準備はええね?」
テーブルの上に置いていた鞄を肩から提げ、私と共にベランダに出たカレンはガラス窓を閉めながらこう言った。
シルク〈ええ。カレンも、用意は出来てるわね?〉
その彼女に、私も同じように聞き返す………。
カレン「もちろんやよ!……〈」…さぁシルク、乗って!〉
そのまま彼女は目を閉じ、意識を集中させる…。するとものの数秒で彼女の姿はレンズのピントがズレるように歪みはじめた。変化が落ち着くと、彼女がいたその場所には一匹の[ハトーボー]が感覚を確かめるように翼を羽ばたかせていた。そして一度私の方をチラッと見、ベランダの柵に飛び乗りながらこう言った。
……姿を変えるのに変える時間、ユウキといい勝負かもしれないわね。
シルク〈ええ!〉
私は声を上げる彼女に向けて跳び、背中にしがみついた。
それと同時に彼女は自身の腕にあたる翼を羽ばたかせ、故郷へと誘う風と共に飛び立った。
……十何年ぶりのコガネシティ……、楽しみだわ!!
―――――
午前 コガネシティ付近上空 Sideシルク
カレン〈……でもまさかユウキさんも化学専攻しとったとは思わんかったわ〉
シルク〈世間一般ではユウキは考古学者って事になってるもの……。知らないのが普通だわ〉
…公の場で一度も言った事ないから、そう思うのも無理ないわね…。
休ませることなく翼を羽ばたかせるカレンは思わぬ情報に言葉を失いそうになっていた。
ここまで雑談に明け暮れていた私達の眼下にはトキワの森とはまた別の森林が広がり始めた。その近くには木々と競うように立ち並ぶ高層ビルが立ち並び始め、私達を出迎える……。その中でも特に存在感を放っているのが、シオンタワーを思い出させるようにそびえ立つテレビ塔……。ランドマークとも言えるその塔が、目的の地に到着したという実感を私達に
齎した……ここに来るまでに聞いて分かった事だけど、カレンは学生時代はエンジュ大学に通ってたそうよ?私とユウキがイッシュに引っ越す前、私達はコガネ大学に行ってたからもしかすると覚えていないだけですれ違ってたかもしれないわね。
カレン〈それもそうやね。コガネ大学は理系の学科がほとんど……。文系が中心のエンジュ大学とは訳が違うからね〉
シルク〈でも学力的にはそっちの方が上だから優劣は付けない方がいいかもしれないわね〉
カレン〈そやね!〉
…それに各大学が得意としている分野も違っているわ。
カレンが通っていたエンジュ大学は無機化学……。一言で言うと金属元素を中心とした分野。対してユウキが通っていたコガネ大学は有機化学……。プラスチックやアルコールといった物質を専門としている………。一言に化学と言っても、それぞれが研究してる事は全く違うのよ!
吹き抜ける風を感じながら話し込む私達は、学生時代の思い出話に華を咲かせていた。その2つの声はジョウトの大都市の上空に響き渡り、そのまま街の日常へととけ込んでいった。
シルク〈………そういえばカレン?〉
カレン〈ん?シルク、どうかしたん?〉
と、終始背中にしがみついていた私は徐に彼女に問いかける。当然急に話題が変わって事を疑問に感じた彼女は首を傾げながら聞き返す……。
シルク〈姿を戻すのは路地裏じゃなくてウバメの森にした方がいいと思うわ〉
カレン〈ウバメの森?ウバメの森ってそこのやんね?〉
シルク〈ええ、そうよ〉
カレン〈でも何でなん?〉
その彼女に、私は言葉だけで応じた。
私の返事を貰ったカレンは相変わらず疑問を浮かべながらその方に視線を移した。
…ヤマブキとかクチバならそれでいいんだけど、コガネではそうはいかないのよ……。
シルク〈コガネは路地裏にもショップとか居酒屋が多いのよ。4年ぐらい前の事だから今はどうかわからないけど、昼間でも沢山いるからやめておいた方がいいと思うわ〉
…イッシュに引っ越す前までの16年間そこで過ごしてきたから、この情報の信憑性は高いと思うわ。………自分で言う事じゃないけど………。
カレン〈コガネに住んどったシルクが言うんなら、そうした方がええかもしれんね〉
そう言いながら彼女は大都市に向けていた進路を左向きに変えるため、右翼を左よりも少しだけ早く羽ばたかせ始めた。身体自体も斜めに傾け、森に向けて急旋回した。
…ウバメの森はコガネに住んでた時でも行った事ないけど、地元のポケモンに聞けば何とかなるわよね?
―――――
ウバメの森 Sideシルク
カレン〈…よし……っと。……にしてもここってまだ午前中なのにこんなに暗いんやね〉
うっそうと茂る木々の間を縫い、[ハトーボー]の姿のカレンはそれでも慣れた様子で着陸した。彼女に終始しがみついていた私は前脚の力を緩め、彼女の背中を離れた。それと同時に[サイコキネシス]を発動させ、彼女のパートナーが入ったボールを代わりに出してあげた。
地面に着地したカレンは一息つくと辺りをキョロキョロと見渡し、感じたままに感想を述べた。
シルク〈そうね。初めて来るけど、噂に聞いた通りだわ〉
カレン〈えっ、シルク!?来た事ないん?〉
その彼女に、私は周りの様子を伺いながら答えた。
シルク〈ええ。ヒワダタウンのほうはどうなのか知らないけど、コガネに住んでるトレーナーはここには殆ど来ないのよ〉
……だってそうでしょ?原作をプレイしたことがある人なら知ってると思うけど、見ての通りウバメの森って昼間なのに暗いわよね?その暗さのせいで迷いやすいっていうのもあるけど、そこそこ離れた森まで来る用事も無いわ。街に住んでるポケモンもそんな危険を冒してまで食糧の調達はしない……。ウバメの森よりもエンジュとの間にある自然公園の方が木の実の種類も多いから滅多に来ないわ。
私はエンジュ出身の彼女に、コガネでの常識を交えながらこう説明した。
トリ〈へぇー……。場所が違うと同じ森でも全然違うんだね〉
話す私に、途中でボールから出たトリちゃんも加えて相槌を打ってくれた。
………にしてもこの感じ、何かしら………?ウバメの森に来るのは初めてのはずなのに何故か懐かしい………。生まれてからこっちには来たことが無いはずなのに………。
薄暗い森の中で説明をする私は、謎の既視感に首を傾げながらも何とか語り続けた。 辺りには話す私達の声だけでなく、そよ風に靡いている草木の騒めきが静かに響いていた………。
シルク〈そうみたいだわ。ホウエンのトウカの森にも行ったことがあるけど、そこもまた違ったわ〉
カレン「地域独特の空気ってやつ……」
A〈…同族を二匹も連れてるトレーナーなんて珍しいわね。……まぁいいわ。早速ウチが相手になるわ!〉
……とそこに、私達が話す後ろから地元出身と思われる野生のポケモンが話しかけてきた。声からして彼女は〈早く戦いたい〉とも言いたそうに私達に迫ってきた。
……確か彼女の種族は[オオタチ]……だったかしら?イッシュに引っ越してから5年も経ってないのに、危うく忘れるところだったわ…。
トリ〈ううん、こっちの[エーフィ]は違うよ〉
オオタチ〈違う…?〉
シルク〈ええ。…確かに私はトレーナー就きのポケモンだけど彼女のじゃないわ〉
…彼女の言う通り、第三者から見たらそうなるわね。おまけに6匹という制限があるにもかかわらず2匹が同じ種族……。その進化元が[イーブイ]だから尚更ね。
[オオタチ]の彼女は後ろ脚だけで立ち、2匹の[エーフィ]の言葉に首を傾げた。
シルク〈……私の事なんかより、バトルよね?調整を兼ねてその挑戦……、受けて立つわ!〉
そんな彼女の言葉を遮り、私は話題をバトルの方に戻した。
…例えこの後予定があっても挑まれた戦いは請ける……。それが“礼儀”というものだわ!!
オオタチ〈……そうよね〉
シルク〈カレンも、いいわよね?〉
カレン「構わんよ」
シルク〈なら、始めましょ!〉
オオタチ〈…えっ……ええ……〉
…カレンもそう言ってくれてるから、それで決まりね!
旅行中の化学者のお墨付きをもらった私は、何かを考え込んでる[オオタチ]の彼女に笑顔で促した。
…薄暗いから本気は出せないけど、何とかなるわよね?
シルク〈[サイコキネシス]!〉
そして、私の第一声と共に常闇の森での戦闘が幕を開けた。
オオタチ〈……そんな筈ないわね。[電光石火]!〉
シルク〈速い!![目覚めるパワー]!〉
…!!
彼女は何かを頭の片隅に振り切ると疾風の如く突進してきた。
その思いがけないスピードに反応が遅れた私は咄嗟に口元に竜のエネルギーを蓄え、迫る彼女の正面に撃ち込んだ。
……野生にしては、かなり経験を積んでいるのね…?
彼女なら、特訓にも不足はないわね!
オオタチ〈あなたもね!〉
相手はその暗青色の弾にいち早く反応し、技を維持したまま私から見て左に跳んだ。
私はここで気づかれないように放った弾を維持していた超能力で拘束した。
シルク〈[10万ボ…]…〉
オオタチ〈[先取り]…、[10万ボルト]!…!?〉
…彼女、少なくとも10年以上は戦闘経験積んでるわね!!
動きに無駄が無くて技の出だしが早い……。もし彼女がトレーナー就きなら一つ星でも十分通用するわ!
私は迫る彼女を牽制するために高圧の電撃を体中から放出する……。その前に彼女は先読みし、私が発動させようとしている技を驚きと共に撃ちだした。
……彼女…なかなかやるわね……。
もちろんタダでうける事はせず、咄嗟に超能力で電撃の軌道をねじ曲げた。
オオタチ〈[10万ボルト]!?いや……でも……そんな筈は……〉
シルク〈もらったわ!!〉
…でも、ここまでのようね。
私は驚く彼女の背後に、さっきの竜を思いっきり飛ばした。
オオタチ〈!!しまっ……〉
シルク〈S
N2反応……とでも言っておこうかしら?〉
意表を突かれた彼女は“敗北”を意識し、固く目を閉じた。
……ちなみに、さっき私が呟いた単語は有機化学の専門用語。簡単に説明すると、ある物質から脱離させたい官能基の後ろから求核剤でバックサイドアタックする……。求核剤とは…………。………ああーっ、説明する事が多すぎて短時間で終わる気がしないわ!!
…ただでさえもう6000文字を軽く超えてるのに、無駄に長引かせるわけにはいかないわ!
……だから、もし気になるならWebで検索してもらってもいいかしら?
……っというわけで、そろそろ話に戻るわね。
オオタチ〈……?〉
私はトドメを刺す事はせず、意表を突いた彼女の目の前で竜の弾丸を寸止めした。
……だってこれは正式なバトルじゃないから、[チカラ]で強化されてる私は
特にそうしなければならない……。牽制で放ったとはいえ、まともに食らったらタダでは済まないわ。
事の結末を悟ったのか、彼女は体中の力が抜けて崩れ落ちた。
シルク〈勝負あったわね〉
…すぐ決着がついたけど、中々戦い甲斐があったわ!
私はそう言うと、項垂れた彼女の下に駆け寄った。
オオタチ〈………いや……そんな訳は………。……でも……もしかすると……〉
トリ〈シルク、さすがだ………〉
そこに、私達のバトルを観戦していたトリちゃん達が………
オオタチ〈もしかしてあなた……、“フィフ”ちゃん…?〉
シルク〈はい?!〉
…近寄………?
“フィフ”……?そんな名前のポケモンは知らないわ。
さっきまで戦っていた彼女は立ち上がると一度考え、何かを確かめるように恐る恐る私に訊ねた。
オオタチ〈戦い方といい性格といい、“ファナ”の子供で……〉
シルク〈ひと違いじゃないかしら…?私の名前は“シルク”……。だからあなたの言う“フィフ”さんじゃない……〉
彼女は今度は確信と共に私をまっすぐ見て言い放った。その彼女の言葉を遮り、私は彼女の言葉を否定………
オオタチ〈いえ、絶対にそうだわ!この辺で[イーブイ]系の種族は“ファナ”達しかいなかった…。それにあなたの戦い方、[ブラッキー]の“ファナ”とそっくりだわ!おまけに何故使えるのかは知らないけど[サンダース]で夫の“エクア”さんが使ってた[10万ボルト]……〉
シルク〈だから私は………〉
オオタチ〈…。覚えてないかもしれないけど“親子”は似るのね!〉
…したけど、構わず次々に言の葉を並べていった………。
……確かに彼女の言う通り、私は野生時代ここから割と近いコガネに住んでた……。………野生時代は殆ど覚えてないけど……。
オオタチ〈それから……言いにくい事だけどあなた……、16年前に両親を亡くしてるわよね……?〉
シルク〈!!!何でその事を……!?〉
…!!嘘よね!?私の事はユウキ達とライトにしか話したことないのに、何でその事を知ってるのよ!!彼女とは初めて会うはずなのに、あり得ないわ!!
……いや、……でも、ただ私が忘れているだけで実際は会っている可能性だってある……。だとすると、ここに着いた時から気になっているデジャヴの説明がつく………。………なら、彼女は一体何者!?
オオタチ〈やっぱりそうね。……覚えてないかもしれないけどウチの名前は“タチノ”……。あなたのお母さんの幼なじみよ〉
シルク〈えっ………いや…………でも………〉
タチノ〈フィフちゃん、あなたの事は幼馴染の子供だからよく知ってるわ!〉
シルク〈…………〉
タチノ〈ファナはこの森の出身……。[リーフィア]じゃなくて[ブラッキー]になったのも納得ね。その彼女は昔、ウチと毎日手合せしていたのよ。ファナの戦法は[サイコキネシス]で他の技を操って不意打ちを狙う……。それでも決してトドメは刺さなかった…。それから彼女はコガネ出身の[サンダース]……、エクアさんと結ばれて向こうに移っていった……。あなたが生まれてからも、ウチらの交流は続いたわ。幼いあなたを連れて何回も二匹は森に来てくれた。ウチの子供ともよく遊んでいたのはいい思い出だわ……。まさに家族ぐるみのつきあい………、そんな関係だった。
ウチはこのままこの暮らしが続くのかと思ったけど、それは続かなかった……。16年前のある日、“鈴鳴りの森”……、今の“自然公園”の辺りで大きな地震があった……。運悪くファナとエクアさんはコガネの建物の落下物の下敷きになって命を落としてしまった………。唯一の救いが、フィフちゃん、あなたはそれに巻き込まれなかった事ね………。………地震が収まってからフィフちゃんを探したけど見つからなかった…………。……でも、今こうして出逢えた……。……ウチの事は覚えてないかもしれないけど……生きてて本当に良かったわ!!〉
シルク〈……………〉
……………………。
いろんな意味で言葉を失った私に構わず話す彼女の声にはは時折嗚咽が混じっていた……。その彼女は溢れる涙でクシャクシャになりながらも、私の知らない、私の両親と思われる事を語りとおした。
彼女が涙ながらに語り終えた後、薄暗い森には風による木々の騒めきだけがカサカサと響いていた。
…………つまり、彼女が言うには、私の
本当の名前は“フィフ”でお母さんが[ブラッキー]の“ファナ”、お父さんが[サンダース]のエクア………。
……私が覚えてる古い記憶では、野生時代、私はコガネで過ごしていた……。でも、私は両親を不慮の事故で亡くした…。それは丁度16年前…、大地震があった年代と一致している……。
…話は変わるけど、世間一般では「子は親に似る」と言われている……。彼女が言うことが本当なら、一般論がそのまま当てはまる……。それは人間だけでなくてポケモンにも同じことが言える……。
それから、私の記憶と彼女の話しとは殆ど矛盾がない……。
…………だから、彼女の話しは事実で間違いないわね………。
……私はユウキからもらった“シルク”っていう名前がある……。……でも、それまでは自分に名前が無かった………。実際に呼ばれていた時期が幼すぎて覚えていなかったとしたら、全ての説明がつく…………。
………私は“シルク”って名乗っているけど、本当の名前は“フィフ”………。
………生みの親からもらった名前は“フィフ”だけどそれを全く覚えていない………。
………私のトレーナー………、いや、実の“兄”と思っている、人生の苦楽を共に過ごしてきたユウキからもらった名前は“シルク”…………。
………………だから…………
私は………………。