70 S 絆の成果(草話)
昼過ぎ ヤマブキシティ Sideリーフ
クロム・コルド〈[ヘビーボンバー]…!!〉〈……[正義の……剣]……!〉
両者の距離が3mと迫った瞬間……、同じタイミングで……技を発動させた………。
クロム・コルド〈〈………っ!!!〉〉
そして轟音と共に互いを弾き合い、派手に吹き飛ばされた。
…凄い衝撃……、相性的には大丈夫でもコルドみたいな耐久型じゃないとタダでは済まないかもしれないね。
恐らくトドメの一撃が相討ちとなり、結末の伝達を
焦らすように辺りには土色の煙が立ち込める……。そんな緊迫した光景を僕はそんな事を思いながら固唾を呑んで見守った…。
オルト〈……どうなった……?〉
シルク〈相性ではコルドの方が有利だけど威力ではクロム君の方が上だから……、何ともいえないわ……〉
リーフ〈それに、相討ちだったしね……〉
……もしかして……引き分け……?
砂煙からはどちらの声も聞こえず、静まり返っている……。ユウキ後ろで結果を待つ僕はもちろん、シルクとオルトも……
コルド〈…………、……何とか………耐えられ………ました………〉
僕と同……?
そこにビル風が吹き抜け、茶色い幕を吹き飛ばした。するとそこには、攻撃に耐え切れずに倒れる[ボスゴドラ]と、辛うじて堪え、どうにかして立ち上がろうとしている[コバルオン]………。彼は朦朧とする意識の中で何とか声を絞り出した。
…って事は、コルドの勝ちだね?
オルト〈ギリギリだったな〉
シルク〈でも、さすがコルドね。あの状況で直撃を避けるのは中々出来ない事だわ〉
コルド〈………ユウキさんと………心が重なってる僕が…………気を失う訳には………いきませんから………〉
…確かに、そうだよね。
もしコルドが倒れたら心が繋がってるユウキにも何かしらの影響が出るもんね。一か月前の{襲撃事件}の時、ユウキが倒れたらコルドも辛そうにしてたし……。
激戦を制したコルドはやっとの事で立ち上がり、ふらつきながらも僕達の言葉に力ない笑顔で答えた。
……コルド、お疲れ様。
…って事は、ユウカのメンバーで残っているのはあと[ジュカイン]のツバキだけ……。ここまで同じタイプ同士が戦ってきたから、最後は僕が出ることになるね。
戦い抜いた彼に労いの言葉をかけながら、僕は一戦を交えるであろう彼女の方をチラッと見た。その彼女も同じことを考えていたらしく、その一瞬で僕達の目線が重なった。
その間に三番手として火花を散らした彼らは赤い光に包まれ、それぞれのボールに収まっていった。
リーフ〈…いよいよ、最後だね〉
オルト〈そうだな。…リーフ、この流れからすると最後はリーフが戦う事になるはずだ。同じ草タイプとはいえ相手はツバキだ。絶対に気を抜くなよ〉
…オルト、そんな事言われなくても分かってるよ。
リーフ〈もちろん。僕も全力で戦わないと僕の方がやられるよ……。…じゃあ、いってくるよ〉
僕は分かっていながらもオルトの激励を正面から受け取り、それを何度も自分に言い聞かせた。そしてユウキに指名される前に自ら志願し、彼の前へと……
シルク〈…あっ、リーフ!ちょっと待ってくれるかしら?〉
リーフ〈っん?!なに?〉
歩みを……?
…シルク?どうしたの?
僕が丁度ユウキの横を通り過ぎようとしたその時、背後からシルクの声が僕を呼び止めた。突然呼ばれて声が裏返った僕は疑問に満たされながら彼女の方に振りかえった。
シルク〈今日はこれを着けて戦ってくれないかしら?〉
そう言い、彼女は斜めに掛けている鞄から超能力で一本の薄黄色い帯を取り出した。
……?
何なんだろう…?{気合の
襷}でも{達人の帯}でもなさそうだし……。
リーフ〈いいけど、何、それ?〉
当然、僕は彼女に聞き返す……。
…シルクが創った道具っていうのは分かるけど……。
シルク〈{平生の襷}……とでも言っておこうかしら?まだ試作品だけど混乱状態になるのを防いでくれるわ〉
リーフ〈混乱状態を……?…うん、わかったよ〉
…混乱状態を防いでくれるなら、[逆鱗]と組み合わせれば有利に戦えるかもしれないね。
僕は彼女の要請に頷き、それを首元から出した蔓で受け取った。そして僕は{キーの実}にも似た色の帯をそのあたりに結びつけた。
シルク〈頼んだわ〉
リーフ〈うん。……ごめん、待たせたね〉
僕はそのまま元の方に向き直り、先に準備していた対戦相手に謝った。
ツバキ〈ううん、全然問題ないですよ!〉
…あっ、そんなに気にしてないんだね?
彼女は全くそんな素振りは見せず、かなり高いテンションのまま首を横に振った。
ツバキ〈…そんな事より、早く始めましょうよ!〉
リーフ〈うん、そうだね〉
ツバキ〈[104番道路]で戦った時みたいにはいきませんからね!〉
…そういえば、ツバキとはそれ以来戦ってなかったっけ?
彼女はとにかく早く始めたいらしく、対峙する僕を急かす……。そのまま溌剌とした様子で言い放った。
リーフ〈もちろんだよ〉
ツバキ〈…じゃあ、私からいかせてもらいますよ!!〉
そして、彼女の高らかな宣言と共に第4戦が幕を開けた。
…ツバキはユウカのメンバーの中では一番の実力者だけど、
絶対に負けないから!! 彼女は真っ先に走りだし、僕との距離を一気に詰め始めた。
対して僕は彼女との距離を目測で測り、その場で出方を伺う……。
ツバキ〈手始めの[リーフブレード]!!〉
彼女は一瞬で緑の風となった。そして僕との距離がちょうど5mになったタイミングで、自身の腕に鋭い草の刃を出現させた。
……でもこれはきっと牽制……、当の本人はかわされる前提で使ってるね。
リーフ〈そうはさせないよ!〉
ツバキ〈!?〉
対して僕は冷静に距離感を把握し、首元から僕にとっては腕代わりとなる二本の蔓を伸ばした。それで彼女の左腕を掴み、地面に向けて思いっきり引っ張った。
ツバキ〈くっ、まさか[蔓の鞭]!?〉
リーフ〈さぁ?どうだろうね?〉
僕の蔓に軌道を逸らされた相手はその腕からアスファルトの地面に叩き付けられた。
一方の僕はすぐに彼女の腕から蔓を放し、低くしていた体勢を起こす……。
リーフ〈それが技なのかどうかの判断はツバキに任せるよ。[リーフブレード]!〉
それと同時に自身の尻尾に力を溜め、敵と同じ技で切りかかった。
ツバキ〈!![見切り]………、[ドラゴンクロー]!〉
もちろん相手もタダでダメージをうけず、うつ伏せになりながらも技で僕の攻撃を見切り、左に転がった。そしてすぐに左の手元に暗青色のオーラを纏わせ、迫る僕の草刀に
抗った。
二本の刃は互いの威力を打ち消し合い、それぞれを逆方向に弾いた。
…[見切り]を使えるんだね…?そうなると攻撃を仕掛けても反撃される可能性が高くなる……。…相性は普通だけど、使い方を考えないと痛い目に遭うかもしれないね……。
僕が飛ばされている間に、彼女は何事もなかったように立ち上がった。
ツバキ〈リーフさん、さすがですね!〉
リーフ〈ツバキのほうこそ!……今度は僕からいくよ!〉
6mほど飛ばされた僕は地面に着地するとすぐに行動を始め、這うスピードを早めた。
…ツバキが[見切り]を使って技をかわす気なら……、僕だってあの作戦を使わせてもらうよ!
この時、互いの距離は4m……。
3m………、
リーフ〈…ツバキ?次に僕が使う技は何だと思う?〉
敵との距離を詰める僕は彼女に対して言葉の罠を仕掛ける……。
……ラグナさん、休暇中に教えてもらった話術、早速使わせてもらいますよ!
2m…………、
ツバキ〈セオリー通り、[リーフブレード]ですね?〉
彼女は僕の問いかけに答え、それに対応するために自らも同じ技を構えた。
……でも残念……。ハズレだよ!
僕は密かに溜めていた光のエネルギーを口元に凝縮させる……。
1m……………、
リーフ〈違うよ![ソーラービーム]!!〉
ツバキ〈!!〉
彼女の予想に反して、僕は凝縮させた草のエネルギーを彼女に向けて超至近距離で発射した。
0m………………、
ツバキ〈[見切……]……くっ…!〉
敵は咄嗟に腕の刃をしまい、慌てて光線の軌道をよもうとした。…でも気付くのが遅れ、完全に発動する前に草の光線が命中して派手に飛ばされた。
…よし、ブラフ作戦成功……っと。
効果はいまひとつとはいえこの距離……、種族上弱い耐久と合わさってタダでは済まないはずだよ?
リーフ〈まだまだこれからだよ![リーフストーム]!〉
間髪を入れずに今度はエネルギーを尻尾に蓄える……。それを解放しながら前に振るい、吹き荒れる深緑の嵐て相手を追撃した。
……ここからは攻勢に移らせてもらうよ!!
相手は飛ばされながらも体勢を立て直し………、
ツバキ〈……[リーフストーム]…!思い通りには……させない!!〉
ビルの外壁を蹴ってそれに立ち向かう…。彼女もまた同じように草嵐を出現させ、声を荒げながら突っ込んだ。
両者の技は丁度中間でぶつかり、互いに鋭い葉を撃ち落とす……。
ツバキ〈…!防ぎきれない!?[リーフブレード]!!〉
でも片方だけが残り、跳びかかる彼女に迫った。
身の危険を感じた相手は咄嗟に草刀を携え、それで右、左、斜めにと深緑の乱風を切り裂いた。
……僕もだけど、[リーフストーム]を使ったからここからは特殊技は牽制にしか使えないね。……。
…でも、バランス型の僕にとってはあまり差し支えは無い……。
ツバキ〈……[ドラゴンクロー]…!〉
リーフ〈[逆鱗]!!〉
敵は何とかそれを無傷で突破し、僕に痛恨の一撃を与えるべく竜の双刀を発動させた。
その間身構えていた僕は持てる力を全身に蓄え、最大威力の猛攻をしかけた。
1発目…、
ツバキ〈!?〉
彼女は右のそれを振りかざし、僕はそれを頭で受け止めた。
2発目……、
僕は即行で尻尾で叩きつけ、敵は残る左刀で防ぐ………。
3発目………、
ツバキ〈くっ……、[見切り]!〉
叩きつけた反動で跳びあがった僕は長い躰を標的に押し付ける…。
その行動にいち早く反応した相手は瞬時にそれをかわした。
…3回仕掛けたから技の効果はここまで………。……でもこの感じ……、いける!!
シルクから託された………ええっと、名前、何だったっけ……?
薄黄色い襷の効果で僕は混乱状態になる事はなかった。
4発目…………、
リーフ〈もう一発[逆鱗]!!〉
ツバキ〈…!!嘘っ!?[リーフブレード]!!〉
屈んでかわすのと同時に地に足をついたツバキはそこに力を入れて跳び上がる……。そしてそのまま草の刃で追撃……。
僕は位置的に下にいる敵に向けて尻尾を
撓らせ、再び竜の猛撃を開始した。
5発目………………、
ツバキ〈………[リーフストーム]………!〉
背を向けている僕に向けて、彼女はもう一度緑の乱風を引き起こした。
射程範囲から遠ざかり、僕の5発目は吹き抜ける風を捉えた。
リーフ〈くっ………!〉
丸腰の僕にそれは到達し、減退してるとはいえそれなりのダメージを与えた。
6発目…………………、
ツバキ〈追撃………、[ドラゴンクロー]………!!〉
リーフ〈………!!…何でこんな時に……!!〉
跳び上がる勢いをそのままに、彼女は反撃すべく次なる技を発動させる……。
一方の僕は、最悪のタイミングで効果が切れ、更に混乱状態となった。
……そういえば、〈まだ試作品だ〉って言ってたっけ……?
リーフ〈ぐっ………!!〉
視覚がまともに働かなくなった僕は相手との距離感が掴めず……、急所に攻撃をうけてしまった。
ここで両者は跳んだ勢いを失い………、降下を始めた。
この時、……僕と地面の距離は……多分7m…、僕とツバキは1m……。
ツバキ〈……もう……一発…!〉
リーフ〈…[リーフ……ブレード]…!〉
相手はここぞとばかりに落下する速度を速め、……僕に更なる一撃を与えようとする……。
僕も負けじと尻尾の刀を構え……、勘を頼りにそれを撃ちつけた。
リーフ〈……っ……!!〉
…だけど僕の一撃は空を掠め……、彼女は確実に対象にダメージを与えた。
……この状況………負ける……!!
あと一発でも当てれば……勝てるのに……!
……この感じだと……多分ツバキとの距離は……殆ど無い……。
……なら………、
ツバキ〈……!?〉
……こうすれば………いいかもしれない……!
僕は何とか彼女に向けて蔓を伸ばし……、そして更に自らの身体で巻き付いた。
……地面まで………3m……。
リーフ〈……これで……どう……?〉
僕は身体を思いっきり捻った………。敵が下側にくるのと同時に……彼女を解放し……、…そのまま地面に叩き付けた。
……これで決められなければ……、……負ける…!!
0m………、
ツバキ〈………っ!………くっ……!!〉
リーフ〈……っぐ……!〉
相手は為す術なく打ちつけられ……、更に上を取った僕の下敷きになった………。
体力的にも限界が近い僕も十分に受け身を取ることが出来ず………、衝撃を受け流すことが出来なかった。
……そして、下敷きになったツバキ………、僕も……立ち上がる事が出来ず、………意識を手放した……。
……………引き分け……か……。