69 S 絆の成果(鋼話)
昼過ぎ ヤマブキシティ Sideコルド
ユウカ「…よし。とりあえずこれで半分かな?」
戦いに敗れたフィルトさんをボールに戻したユウカさんは一度止めていた手を再び動かし始めながら呟いた。
ユウキ「…で、さっきから何してるの?」
そこに、ルール上見守る事しかできないユウキさんは不思議そうに首を傾げながら訊ねた。
コルド(……ユウキさん、スーナさんとニトルさんの時からしてたはずですけど……、気付かなかったのですね?)
ユウキさんの後ろから見守っていた僕は半分重なっている{心}を通じて彼に訊ねた。
…ここまでスーナさんとフライさん目線で話が進んできたので伝える事が出来ませんでしたが、バトル中ユウカさんは何かの作業をしていたんですよ。左手でスケッチブックを抱えて右手でペンを走らせているところからすると……、絵をかいていたのかもしれませんね。
ユウキ(そんなに前から!?)
コルド・ユウカ(はい)「ええっと……何て言ったらいいのか分からないけど………、絵を描いてたんです」
…文字を書いている動作にしては手が激しく動きすぎていると思っていましたが…、やっぱりそうだったのですね?
共有している{心}を通じて、ユウキさんから半ば驚きにも似た感情が僕に伝わってきた。
その彼に返答するのとほぼ同じぐらいのタイミングで、彼女は2〜3秒腕を組んで考える…。そしていい言葉が見つかったのか、パッと明るい声で言った。
ユウキ「絵を…?」
ユウカ「はい!私、これからはトレーナー業と一緒に画家として活躍したいんです!」
…画家ですか。「収入が安定しない職業だ」と聞いた事がありますが、それと同時に「有名になれる」可能性もありますよね……。恐らく考古学者の僕達は何のアドバイスも出来ないと思いますが、夢がかなうといいですね!
期待に満ち溢れた彼女に、僕は心の中からエールを送った。
……本当は直接{テレパシー}で伝えたかったのですがいつの間にか周りに人が集まっていて出来なかかったんです……。……だってそうでしょう…?もし僕がユウカさんに{テレパシー}で話しかけたら、第三者から見たら突然大きな独り言を言う事になる……。話し相手がいないのに語り始める事になるので、白い目で見られるのは確実でしょう…。
ユウキ「って事は、その練習かな?」
ユウカ「そうですよ!…クロム、今度こそ勝つよ!」
そのまま彼女は空いた右手で次なるボールに手をかけた。そしてそのボールを投擲し……、
クロム〈うん!〉
彼女の三番手……、多分ユウカさんのメンバーの中では二番の実力をもつ[ボスゴドラ]のクロムさんが飛び出した。種族の影響もあり、着地すると地面は僅かに唸りをあげた。
…前会った時から思っていた事ですが、クロムさんの一人称……、[ココドラ]の時のままなんですよね。大抵クロムさんみたいなカッコイイ種族は〈俺〉を使ってるので、珍しいですよ…。
……そんな事より、ユウかさんの三番手がクロムさんなら………、
コルド(ユウキさん、ここは僕にいかせてください!)
流れ的に僕がいくべきですね!
僕は彼の登場で若干気持ちを高めながら、{絆の賢者}に戦う意思を表明した。
…ユウキさんになら僕の感情も伝わっていますよね?
ユウキ(…コルド、当然でしょ?)
「コルド、任せたよ!」
コルド〈はい!!〉
僕は大きく頷き、彼の左側から前にまわり込んだ。
コルド〈クロムさん、覚悟してください!!〉
そして僕は高まった気分と共に対戦相手を見据え、高らかに言い放った。
クロム〈コルドさんも、手を抜かないでよね!〉
コルド〈もちろんです!クロムさんも全力でかかってきてください!…〉
彼も僕の言葉に大きな声を上げ、士気を高める……。その彼に僕も半ば興奮しながら声を荒げ……、
コルド〈…[奮い立てる]!〉
技の発動の切っ掛けとなる一声と共に第三幕が開場した。
……クロムさん、絶対に負けませんよ!!
僕は真っ先に意識を集中し、持ち合わせる能力を活性化させる……。
クロム〈[地震]!〉
対して彼は上げた右足に力を溜め、そのまま思いっきり踏み込んだ。すると地面が高音をあげて激しく揺れ始めた。
…[地震]ですか……。鋼タイプを持つ僕にとっては脅威になりますね。
でも、そうはいきませんよ!!
僕は目を閉じ、更に気力を高める……。
クロム〈コルドさん、かわさなくてもいいんですか?〉
そんな僕の様子を見た相手はわざとらしく挑発する……。
この時、揺れの最先端と僕の距離は約5m………。
3m………、
コルド〈クロムさん、お忘れですか?僕達の事……〉
言の葉を散らす彼にあえてのった。
…皆さんも、あの事を忘れたとは言わせませんよ?
2m…………、
ユウキ(来たよ!)
コルド(はい!)
{絆}を通してユウキさんの声が僕の中に響き、注意を促す。その彼に、同じように答えた。
…{絆のチカラ}で{心}の一部を共有しているユウキさんから伝えてもらえば……、
僕達に死角はない!! 1m……………、
僕は目を閉じたまま助走をつけ、後ろ脚に力を入れる……。その足で思いっきりアスファルトを蹴って目の前に跳躍した。
…[地震]でも飛び越しさえすれば、問題ありません!
ここで僕は閉じていた目を開けた。
クロム・コルド〈[ヘビーボンバー]!〉〈[正義の剣]!〉
跳びながら首をしたに下げ、相手を狙いながら力を蓄える。
その間に相手も技を発動させ………、
……!!
重量のある身体からは考えられないような速さで僕に迫ってきた。
コルド・クロム〈〈くっ……!〉〉
想像以上の速さに、僕は中途半端な状態でしか技を発動させる事が出来なかった。
その影響もあり、互いの攻撃は相討ちとなった。クロムさんは僕から見て斜め右前に飛ばされ、相性では有利な僕の方がその逆へと大きく弾き飛ばされた。
ユウキ(…重さを利用した技……、流石に強いね……)
……でも、同じ耐久型ですが負ける訳にはいきません!!
クロム〈[岩雪崩]!〉
コルド〈[ラスターカノン]連射!〉
僕よりも一歩早く踏みとどまった敵はすぐに振り返り、僕の飛ばされた先に大量の大岩を出現させた。
対して僕もすぐに向きを変え、鋼属性のエネルギーを口元に凝縮させる……。それを一気に解放し、何発もの白銀球として放出した。
……ですがこれは目晦ましのための
囮…、命中させるつもりではないですよ!
ユウキ(攻撃に……)
コルド(分かってます!!)
〈っ!〉
彼に促される前に、僕は降りしきる大岩からの脱出を図った。……でも完全にかわすことが出来ず、少しだけ背中に掠めてしまった。
…相性の影響もあってダメージがあまりない……、……という事は、牽制ですね。
相手は岩が降り注いでいる間に向きを変え、その後僕が遅れて接近を開始する。
まず初めに左前脚と後ろ脚に力を込め、踏み込む。次にその力を解放し、右斜め前に跳ぶ……。着地の衝撃を四本の脚で受け流し、間髪を入れずに今度は右前脚で踏ん張る……。そしてさっきと同じようにアスファルトの地面を蹴り、左側へと跳躍する………。
…僕の種族は鋼タイプの中では素早い部類に入る……。相手が[ボスゴドラ]のクロムさんならついてこれないでしょう!
僕は左右に跳びながら相手との距離を詰め………、
クロム・コルド〈っ![地震]!!〉〈[正義の剣]!〉
それと同時に自身の角にエネルギーを蓄える。
白銀の牽制球をうけた敵は僕の予想通りダメージは殆どないといった様子……。案の定、それを無視して右脚で思いっきり大地を踏み鳴らした。
コルド〈くっ………!……でも、まだです……!〉
僕は相手に痛恨の一撃を与えるべく、左に跳びながら右に向きを変えた。……でも着地の瞬間に揺れが襲い、かなりのダメージをうけた。
……でも、これは想定内………。
クロム〈!!ぐっ……!!〉
脚をすくわれそうになったけど何とか耐え、そのまま相手に自身の角を振りかざした。
……今のところ…、五分五分ですかね……。
僕は相手に技を命中させるとすぐに前脚に力を入れ、バックステップで距離を………
クロム〈……[岩雪崩]…!!〉
とる……。
クロムさんは僕の一撃に何とかt………
ユウキ(左後ろ、次に右に注意して!!)
a耐え、僕の退く先に大岩を降らせた。
……なら、右、左の順に下がればいいですね……?
僕は{絆}を通して響くユウキさんの警告通り、後ろ向きのまま降り注ぐ……
クロム〈[ドラゴンダイブ]!!〉
コルド〈!!しまった!!〉
岩石を……!!
かわすのに気を取られ、相手の接近に気付くのが遅れた。
僕が岩をかわしている間に相手は技を利用して一瞬で移動し、……僕に渾身の一撃を……与えた……。
コルド〈………っぐ………!〉
……これは……まんまと……やられましたね………。
………でも……、ピンチはチャンス……。
コルド〈……[インファイト]……!!〉
急に上からのしかかられた僕は………辛うじて耐え………、持てるす全ての力を……解放した………。乗りかかっている相手に………角を振り上げ………、すぐに後ろ脚で跳び上がり……、降下する勢いを……前脚の蹄に乗せる……。
クロム〈………っ!!!〉
後から追いついた……後ろ脚でも……相手を蹴り……、その勢いで……跳び下がった……。
………、ここまでダメージを与えても………まだ倒れないなんて………。
……でも……、相手はもちろん……攻撃の反動で………守りが大幅に弱くなっている………僕も……、あと一発でも技が当たれば……、倒れてしまいますね………。
深手を負った両者は………、互いに距離を取った……。
クロム〈………[地震]……!〉
コルド〈[ラスターカノン]……!!〉
……クロムさんも………、これで決着をつけるつもりですね………?
相手は地面を揺らしながら……走り始め…、僕も白銀の弾を………撃ちだしながら………距離を詰める………。
……恐らく……、あの技で……トドメを刺すつもりですね………?
………なら………。
クロム・コルド〈[ヘビーボンバー]…!!〉〈……[正義の……剣]!!〉
両者の距離が3mと迫った瞬間……、同じタイミングで……技を発動させた………。
クロム・コルド〈〈………っ!!!〉〉
…………ぐっ………!!!
両者の大技は………互いに真逆へと………弾き飛ばし…………、
………つづく………。