68 S 絆の成果(竜話)
昼過ぎ ヤマブキシティ Sideフライ
ユウカ「ニトル、ありがと」
ユウキ「スーナもお疲れ様」
バトルが始まった時には真上にあった太陽は若干低くなり影がほんの少し長くなった頃、一番手による戦闘は引き分けに終わった。
第三者から見ると師弟関係にある二人は重なる様に倒れるメンバーの二匹に労いの言葉をかけ、それから腰にセットせれているボールで二匹を戻した。
…ボクは初めからは知らないけど、ニトル君、強くなったね![ハイドロポンプ]の勢いを利用して[シャドーボール]を加速させるのはきっと、スーナの戦法からヒントをもらったもかもしれないね。威力の方も高かったし、大したものだよ。
それから彼のスピード。ボク達の中でスピードに特化しているスーナの速さについてこられるポケモンは中々いない……。この一年間で二トル君達も更に強く強くなってる証拠だね!
そして何より、攻撃後の隙と無駄な動きが殆どなかった。一つ星だって言ってたけど、これだけのパフォーマンスが出来るなら二回目のリーグも楽に突破できるかもしれないよ!
ボクはこんな事を思いながら、ふたりの試合を観戦していた。
ユウカ「……よ!フィルト、いくよ!」
フィルト〈ああ、任せな〉
ユウカ「フライも、頼んだよ!」
フライ〈あっ、うん!〉
…あっ、次はボクなんだね?
そびえ立つビルを見上げ、秋風に高まる感情を乗せていたボクは咄嗟に反応できず、頓狂な声を上げてしまった。すぐに体勢を立て直し、ユウキ君に二番手を指名されたボクは彼の真上を飛び越した。そして2、3度羽ばたいて着地した。
フィルト君はボールから飛び出すと信頼したように振り返り、大きく頷いた。
フィルト〈あんたとはルネで会って以来だが、負けないからな〉
フライ〈こっちこそ!〉
…ボクの相手は[ボーマンダ]のフィルト君…。戦ってるところは見た事ないけど、ニトル君ぐらいの実力を持ってるのは間違いないね。確かフィルト君の特性は{威嚇}だからボクは本来の攻撃力で戦えない……。…でも、ボクの方が一つ年上っていうのもあるけど同じドラゴンタイプとして負けられないね!
フィルト〈それから手を抜くなよ!〉
フライ〈当たり前でしょ?フィルト君こそ、全力でかかってきてよね!〉
フィルト〈当たり前だ!〉
互いに
鎬を削る事になる僕達はそれぞれに言葉を交わし、睨み合う………。そしてほぼ同時に動き出し………、
フライ・フィルト〈手始めの[地震]!!〉〈先手は俺からいかせてもらうぞ!〉
星持ちトレーナーによる第二陣の
烽火が上がった。
…絶対に負けないからね!!
ボクはまず尻尾に力を蓄え、それを思いっきり地面に叩き付けた。その反動で真上に飛び上がり、相手の出方を伺った。
対して相手のフィルト君はボクの攻撃に反応し、背中の大きな翼で羽ばたいて飛び上がった。
…最初の一撃はかわされたけど、これは想定内………。牽制するつもりで発動させた技だから、当てる気はないよ!
…そもそも、空を飛ぶ種族に対して[地震]とか[地鳴らし]は全く効果を成さない。
彼は斜め上に飛び、多分ボクの行く手に先回りしようとした。
それを察知したボクは急に宙返りし……、
フィルト〈[ドラゴンクロー]!〉
フライ〈特性を利用しても無駄だって事を見せてあげるよ!![ドラゴンクロー]!〉
種族上短い両手に暗青色のオーラを纏わせた。
フィルト君も両前足に同じものを纏わせ、捉えるべき
獲物を狙う………。
フィルト〈攻撃力を下げたのにこの威力……。流石だな!〉
フライ〈フィルト君こそ!〉
両者の竜刀は互いに弾き合い、ボクは上に、フィルト君は下に飛ばされた。
……威力は、互角か……。
フライ〈…でも思い通りにはさせないよ![ストーンエッジ]!〉
フィルト〈!!〉
…でも、そうはさせない!
ボクは真上に飛ばされながら次なる技を発動させた。するとフィルト君が飛ばされた先に幾つもの岩が出現し、それを突き上げた。
相手はすぐにそれに気づき、せり上がる岩を囲むように旋回してかわした。
ボクはその事を確認せず、進路を直角………、地面と平行に変えた。
フィルト〈させるか![火炎放射]!!〉
フライ〈!しまった!!〉
……!!
相手はボクの進路を妨げるように燃え盛る火炎を放出した。
予想外の攻撃に反応が遅れたボクは咄嗟に羽ばたく速度を速める……。でも完全にはかわすことが出来ず、風に靡く尻尾を掠めてしまった。
この時、ボクとフィルト君の直線距離はだいたい8m……。
7m………、
フィルト〈ダメ押しの[思念の頭突き]!〉
彼は技のために力を蓄え始めた。
5m…………、
ボクは進路を再び変え、迫り来る相手を狙う……。
3m………………、
フィルト〈もらった!!〉
敵は勝利を確信し、声を荒げながら力を解放した。
1m……………………、
フライ〈そうはさせない!!〉
ボクはそうはさせまいと空中で前回り………宙返りした。
0m………………………、
フライ・フィルト〈くっ………!〉〈何っ!?〉
ボクの尻尾が相手の頭を捉え、それが僅かに軌道を逸らせた。…でもタダで受け流す事は出来ず、体力の半分を削っていった。
……流石だね……。
フライ〈…逃がさないよ…![目覚めるパワー]、[ストーンエッジ]!!〉
ボクは辛うじてその場に留まり、二つの技を同時に発動させた。一つはボクの手元に紺色のエネルギー塊として凝縮し、斜め上に進路が逸れた相手に向けて放たれた。もう一つは勢いの余ったフィルト君の先に出現し、行く手を阻む………。
…シルクに教えてもらった技の同時出し………、絶対にかわさせはしない!!
フィルト〈!!嘘だろ?〉
二つの技に挟まれた相手はまさかの事に声を荒げる……。その隙にボクは出せる限界のスピードで羽ばたき、敵の行く先にまわり込むべく加速した。
フィルト〈ぐッ……!!〉
僕の期待通り、相手はかわすことが出来ずダメージをうけた。
フライ〈もう一発!!〉
フィルト〈っ!!〉
そこにボクが立ちはだかり、彼の脳天に長い尻尾をヒットさせた。
………
技だけが、攻撃じゃない!! フィルト君は思いっきり叩き落とされ、地面へと真っ逆さまに落ちていく……。
その彼を追い、ボクも急降下を始めた。
…両者の距離は約5m……。
3m…………、
フィルト〈……[破壊………光線]…!〉
フライ〈!!〉
彼は何とか身を翻し、口元に持てるすべてのエネルギーを凝縮した。そしてそれを迫るボクに対して一気に放出した。
…!!マズい!
これをまともに食らったら絶対に耐えられない!!
1m……………、
フライ〈…[ドラゴンクロー]……!〉
身の危険を悟ったボクはスレスレで体を捻る……。……でも完全にかわしきることが出来ず、大ダメージをうけた。
……それでもなお……、相手の弱点である………竜の双刀を………構え………辛うじて降下する速度を維持する………。
……フィルト君は…[破壊光線]の反動で動けないはず………。フィルト君ももう限界のはずだから………これさえ当てれば……、……勝てる!
0m………………、
フライ〈これで………どう………?〉
フィルト〈………っぐ………!〉
左の一撃は空を切ったけど………、右のそれは的確に相手の脇腹を捉えた………。
……これで……勝てた………かな…?
フィルト〈ガハッ…………っ!〉
フライ〈………っと………〉
硬い地面が目前に迫り、……ボクは慌てて翼を広げ…、空気抵抗を利用して急速に浮上した。
対してボクの追撃をうけたフィルト君は翼に力を入れることが出来ず、背中から叩きつけられた。
………ふぅ………、何と勝てた………。