67 S 絆の成果(水話)
昼過ぎ ヤマブキシティ Sideシルク
コルド〈…こうして全員で集まるのも一か月ぶりですね〉
オルト〈そうだな。 …だがこの一か月もあっという間だったな〉
シルク〈そうね〉
…確かに、そうよね。
ついこの間別れたばかりなのに、自分のやりたいことをやってると時が経つのが早いわね……。みんなには殆ど会えてないから分からないけど、私は休暇の半分を特訓に使っていた…。唯一会えたコルドも古くからの友達と技の調整をしてたみたいだから、また一緒に戦うのが楽しみだわ!
祝日という事もあって人通りが多い大都市の街道で、私は仲間の言葉を聞きながら相槌を打った。
フライ〈確かにね。 …ところで、みんなはこの一か月間何してたの?〉
背中の翼を羽ばたかせて私達の斜め上を飛んでいるフライは頷きながら徐にこういった。
……確かに、気になるわね……。
私みたいに元々の予定から変わってるかもしれない……。必ずしも予定通りに行ってるとはいえないもんね!
それに、みんなの話しも聞きたいし、私もジョウト地方での土産話をしたいから丁度良いわね。
スーナ〈ウチは[クチバシティ]でエレン君達の様子見と特訓かな♪〉
ユウキ「そういえばそこに行くって言ってたね」
スーナ〈うん♪ それにそこでウチが昔いた群れにも会えたんだよ〉
リーフ〈…って事は、スーナのお父さん達にも会えたんだね?〉
シルク〈スーナ、良かったわね!〉
スーナ〈うん♪〉
…スーナが私達の旅に加わった時はまだ[コアルヒー]だったから……、3年ぐらい前になるわね。きっと再会したついでに親孝行でもしてきたのかもしれないわね…。
フライと同じく都市の秋風を楽しんでいるスーナは澄んだ声で休暇の思い出を語ってくれた。その声は休日のビル街の外壁に何度も反響し、彼女の感情を表しているかのように感じられた。
…親孝行か……。
生みの親がいない私にはできないけど、いつかユウキに何かしたいわね……。
私は親友の思い出に笑顔で答えた。
彼女の事が少し羨ましかったけど、その事を表に出すことはなかった。…むしろ親友の念願が叶ったことに素直に喜べている私がそこにいた。
スーナ〈…ウチはこんな感じかな♪ …オルトは?〉
揚々と語る彼女は、その視線を全体から彼に向けながら話を振った。
オルト〈俺はあの後フライと[木の実の森]に行ってからそのままイッシュに向かったな〉
リーフ〈[ハーデリア]に会いに行ってたんだよね?〉
オルト〈ああそうだ。 それからリーフと合流して観光だな〉
リーフ〈ラグナさんに文字を教えるついでにね〉
…って事は、もしかするとリーフが会いに行くって言ってたモミジさんと技の調整をしてるかもしれないわね。
いつものように腕を組んで話す彼の言葉を、私はそんな風に推測しながら聞き入った。
フライ〈ラグナさん……、……ああー、ライトのメンバーのね!そういえばリーフと一緒だったよね〉
フライは2〜3秒ほど記憶を辿り、思い出したらしく、声を荒げた。声の調子をそのままにリーフを見、こう質問した。
リーフ〈うん。ペンの持ち方を教えるのが大変だったけど……、オルトに補助器具を作ってもらってからは……〉
…リーフとラグナさんは体格的に違いすぎるから、苦労したかもしれないわね……。リーフは主に蔓、ラグナさんは口で咥えるか前脚で書くことになる…。…前もって知ってたら持ち方を教えられたけど、仕方ないわよね?
リーフは………
A「…あっ、ユウキさん!テレビ見ましたよ。退院したんですね!」
…と、話に華を咲かせる私達の後ろから1つの声が乱入した。突然の事に驚いた私は、ある意味[驚かす]にも似た衝撃を受けた。
……ビックリしたわ……。エスパータイプの私にとっては効果抜群……。もしこれがポケモンの技だったら一発で戦闘不能になってたかもしれないわね……。
でも、この声の主はポケモンじゃない……。それも、私達がよく知ってる人物のものだから問題ないわね!
辛うじて驚きから立ち直った私をはじめ、名前を呼ばれた兄も確信をもってその声がした方に振りかえった。
シルク・ユウキ《ユウカ、ユウカもカントーに来てたのね?》「おかげさまでね。ユウカはどうしてここに?」
ツバキ・ユウカ〈はい!ちょっとした仕事で来てるんです!〉「実はわたし、画家になったんです。まだ駆け出しですけど…。…で、今日は休みなんですけど、ここには知りあいの個展の手伝いにきてるんです。ユウキさん達はこれから調査ですか?」
リーフ・コルド〈仕事かー〉《そうでしたか》
…ライトから聞いてたけど、噂は本当だったのね?
彼女は手に持ってるキャンバスを開き、「いつかわたしの画も出展したいです!」って言ってからユウキにも訊ねた。彼女のパートナーのツバキも同じように答え、私達も各々にそれに応じた。
シルク《いいえ、違うわ》
ユウキ「調査してた伝説はもうまとめ終ったから、その当事者達の顔合わせの仲介にね。まだ済んでないから」
オルト〈今日の夕方にするつもりだ〉
…カレンはもうセツさんには会ったらしい…。
でも、折角同じ伝説なのに一度も全員で会わないのは勿体ないわ。……繋がるはずの[絆]が無駄になる訳だし……。
ツバキ・ユウカ〈なら戦ってもらってもいいですか?ユウカも、いいよね?〉「そうなんですね?……ん?ツバキ、どうしたの?」
オルトの言葉を聞いたツバキは、高めのテンションで私達に質問した。それと同時に彼女の隣で話すユウカの肩を軽く叩いた。
…待ち合わせまだまだ時間があるからいいかもしれないわね。
それにユウカも星持ちのトレーナー…、数は違うとはいえ私達にとっても対戦相手として不足はないわ!……ツバキ達がこの一年でどれだけ強くなったのかもみてみたいし…。
シルク《ツバキ、〈バトルがしたい!〉って言ってるわ。私達はまだ時間に余裕があるから、どうかしら?》
私は彼女を見上げ、直接頭の中に語りかけた。
ユウカ「バトル…?…はい!」
コルド《折角なのでクロムさんと二トルさん、フィルトさんもどうですか?》
ユウキ「サドンデス方式で」
シルク《もしカントーリーグに挑戦するなら、その練習を兼ねてね》
ユウカ「じゃあ、お願いします!」
ユウキ「みんなもいいよね?」
…ユウキ、言われなくてもそのつもりよ!
リーフ〈もちろんだよ!〉
スーナ〈折角再会したのに、ウチらが対戦を断ると思う♪?〉
オルト〈当然だ〉
フライ〈断る理由なんてないでしょ?〉
オルトをはじめ、[絆]の全員が頷き、勇み立って了承した。
……ユウキ、愚問にも程があるわ!
ユウキ「……じゃあ、始めようか」
ユウカ「はい!!」
そして、互いのかけ声をきっかけに成果を試すバトルが幕を開けた。
……もちろん、手加減無しでいくわよ!!
…………
Sideスーナ
ユウカ・ユウキ「ニトル、いくよ!」「[絆]の名の下に……スーナ、頼んだよ!」
ニトル・スーナ〈うん!〉〈まずはウチだね♪〉
ユウキに指名されたウチは一歩前に出て、翼を羽ばたかせながら戦闘に備えた。
対戦相手のユウカも一番手を繰り出し、気持ちをそれに切り替えた。
…相手は[シャワーズ]のニトル君か……。確かニトル君の特性は{貯水}だったから、相性的にはウチの方が不利かな?
ユウカ「ユウキさん、今日は星2ルールでお願いします!」
二トル〈最近はずっとそれだもんね〉
ユウキ「いいよ。 …さあ、いくよ!」
ユウカ「はい!」
…星持ちなら、練習を兼ねてその方がいいね!
二トル〈スーナさん、手加減無しでお願いします〉
スーナ〈……なら、遠慮なくいかせてもらうよ♪〉
…ニトル君、最初からそのつもりだよ!
ウチは彼の言葉に大きく頷いた。
そして、互いに睨みを利かせ……、
ニトル・スーナ〈〈[アクアリング]!〉〉
同じ技を発動させた。
…[アクアリング]って事は、長期戦に持ち込む作戦だね?
ニトル〈手始めに[シャドーボール]連射!〉
スーナ〈!!〉
…速い!!
水のベールを纏った彼は真っ先にウチめがけて走り出し、走るスピードをそのままに4発の漆黒を撃ちだした。
思わぬスピードに驚いたウチは反応が遅れ、咄嗟に羽ばたいてそれを何とかかわした。
ニトル〈スーナさん、ビックリしたでしょ?〉
スーナ〈うん♪さすがにウチも油断したよ♪……でもそう簡単にはいかないよ![冷凍ビーム]!〉
ニトル〈なら僕も、[冷凍ビーム]!〉
…流石だね!
そのスピードと威力なら二回目のリーグも簡単に制覇できるんじゃないかな?
空へと回避したウチはそんな事を思いながら冷気を放ち、迫り来る彼を牽制した。
彼もすぐにウチの動きに反応し、その先をよんで同じ技で対抗した。
かわされたウチの冷気はアスファルトの地面を捉え、その場所を凍り付かせた。
ここでウチは身体を捻り、進行方向をスレスレでかわした。そのまま向きを変え、彼めがけて急降下を始めた。
ニトル〈空から[ブレイブバード]を仕掛けるつもりですね?でもそうはさせませんよ![ハイドロポンプ]、[シャドーボール]連射!〉
ウチの戦法を知っている彼は超高圧の水流を放ち、その直後にそれに漆黒の弾を3発撃ち込んだ。
その弾は水流の勢いを借り、飛ぶスピードを早めていく……。
…なかなかいい作戦だね!……でも残念。
スーナ〈必ずそうするとは限らないよ!〉
二トル〈くっ!…もう一発!〉
スーナ〈!!〉
ウチは負けじと軌道を変え、自身の翼を彼に撃ちつけた。すれ違い様にウチの通常攻撃は彼に命中し、ある程度彼にダメージを与えた。
攻撃を食らった彼も黙ってうける事はせず、通り過ぎるウチに速攻で漆黒の弾をヒットさせた。
…スピードには自信があるけど、速度が乗ったウチに攻撃を当てるなんて、大したものだよ。……悔しいけど、強くなってるのを実感できてちょっと嬉しいかな…?
複雑な気分に満たされながら、ウチは次なる行動のために宙返りをした。
二トル〈[冷凍ビーム]!〉
スーナ〈[ブレイブバード]!〉
地面から270°回転した地点で淡い光を纏い、技を構える対戦相手を狙う……。
彼もウチに決定的な一撃を与えるために標的を見据えた…。
この時点で、ウチとニトル君の距離は10m……。
5m………
ニトル〈スーナさん、…これで最後です!〉
彼の口からウチにとって脅威となる冷気が放たれる。
3m…………
スーナ〈ニトル君こそ!〉
……[アクアリング]を纏ってるから、何とか耐えられるかな……?
ウチは彼の光線に構わず、大ダメージ覚悟でそれに突っ込んだ。
1m………………
スーナ〈くっ……!……[ブレイブ………バード]……重ね掛け……!〉
空を切るウチに命中し、………発動していた……技を解除させた……。
………流石に………厳しいかも………。
……でも………まだ………終わらせない!!
ウチは………その攻撃に辛うじて耐え………、もう一度……淡い光を………纏い直した………。
……0m……………………
ニトル〈…うそっ!?くっ…………!!〉
スーナ〈………っ!!〉
ウチは捨て身で突っ込み………、彼にも………大ダメージを………与えた………。
……だけど……攻撃の反動で……ウチの体力も削られ………、体勢を起こすことが出来なかった………。
そのまま………ウチは………彼に………倒れかかった………。
二トル〈………スーナさん…………さすがですね………〉
スーナ〈…ニトル君…………こそ………〉
そして、………ウチらは…………ほぼ同時に……意識を……手放した………。
…………結果は…………引き分け………。