65 LS 再始動
午前 ヤマブキシティ 総合病院前 Sideシルク
シルク〈……やっぱり祝日となると思うように進めないわね………〉
{生放送襲撃事件}の時よりも気温が下がり、ある程度過ごしやすくなった午前の大都市に1つの声が響いた。三連休の初日という事もあり、土曜日にもかかわらずランチ前の時分に人々やポケモン達がそれぞれの目的地へとせわしなく行きかっている……。
視線を上に向けると、辺りはそびえ立つビルの壁によって包囲され、水色の天井には白い綿がちらほらと散りばめられている……。
そんな何気ない経済都市の日常の中私も散策する観光客、市民と同じように自らの目的地に辿りつき、呟きながら一息ついた。
……世間一般ではという日は何の変哲のない土曜日だけど、私達にとっては凄く大切な日なのよ。
まず、別行動をして各地に散らばっている私達…、そしてライト達の合流日。そして何より、一か月前に大火傷を負った私の兄……、ユウキの退院日…。
自分たちのトレーナーが入院中で本格的に行動できなかった私達だけでなくて、一緒に休暇をとっていたライト達にとっても今日という日は新たなスタートになるわね。
シルク〈カレンの研究所は言うほど離れてないからもしかすると誰も着いてないかもしれないわね〉
私はそう言いながら、この一か月の成果と共にそびえ立つ病棟を見上げた。
…ライトとは半月は一緒にトレーニングしてたから知ってるけど、スーナやオルト……、みんなはどんな風にこの一か月を過ごしてきたのかしら……?何匹かは道端で会ってるけど、あとのメンバーは別れてから会えてないから合流するのが本当に楽しみだわ!
……ちなみに私は最初の一週間はカレンの研究所を見せてもらったりそこで実験をさせてもらったわ。その時に{ラブタの実}の苦味成分の抽出に成功してふたりで盛り上がったのは良い思い出だわ。
二週目は[トキワの森]から帰ってきたトリちゃんも加えて[ジョウト地方]へ観光旅行……。使う予定だったバスが運休になったりして思うようにはいかなかったけど、それでも十分に楽しめたわ。
最後の二週間はライトと合流してから一緒に特訓の日々……。彼女のお蔭で何とかなったけど、一応私も病床にあった。だからちょっとしたリハビリを兼ねれたわ。
……私の一か月はこんな感じかしら?
…ちなみにライトは、私と合流する前は彼女の幼なじみの所に行っていたそうよ?
久しく会ってない仲間達との再会に心を躍らせながら、待ち合わせ場所になっている兄の入院していた総合病院の自動扉をくぐった。
――――
数分後 Sideテトラ
コルド〈……でもまさかテトラさんとリヴが知り合いだとは思いませんでしたよ〉
テトラ〈コルドさん、私もだよ!それにコルドさん達って私がまだ小さい時から知ってたんだよね?〉
コルド〈はい!〉
休みの後半に偶々会った[コバルオン]のコルドさんといた私は思いがけず繋がった交友関係に自然と声のトーンが上がっていた。二つの声は人混みに紛れて共鳴し、幾多にも響いていった。
…あの後は途中でトリ姉は先に帰っちゃったけど、ジル兄と一緒に近くの[トキワシティ]を案内してもらったんだよ。ライト達と出逢う前は私自身にそんな余裕が無かったから連れてってもらったの。その時にトレーナーに何回も挑まれたのはちょっと大変だったけど、私にとってはいい特訓になったよ。…何故なら、戦ってるとはいえ野生のポケモン止まりのジル兄を守らないといけなかったからね。それにジル兄自身も野生……、トレーナーを諦めさせるためにも、既にトレーナー就きのポケモンである私が空のボールの盾になったほうがいいでしょ?
で、その後はトリ姉に教えてもらった抜け道を通って[ヤマブキシティ]へ………。……とはいかなかったよ。
実は、[タマムシシティ]の近くを通ってる時にある人ひとたちに会ったんだよ!そのひとコルドさん。…しかもコルドさんだけじゃなくてコロナちゃんとショウタ君……、リヴさんも一緒だったの。いつ合流したのかは知らないけど、今はジム巡りを再開して順調に勝ち進んでるんだって。…確かその時は今日から丁度一週間前だったかな?その時に〈ぼく達はあと[シオンタウン]と[セキチクシティ]だけだよ〉って言ってたから、もしかするともう抜かれてるかもしれないね。……私達も負けてられないなー。
……私の一か月間はこんな感じかな?
テトラ〈…じゃあコルドさん、そろそろ中に入ろっか?〉
コルド〈時間的にももう皆さん着いているかもしれないので、その方がいいかもしれないですね〉
……うん、コルドさんの言う通りだね。
私は背が高いコルドさんを見上げ、明るい返事と共に頷いた。その彼も私の言葉に笑顔で答えてくれて、そのまま私達は集合場所のビルに入っていった。
……今思い出したけど、コルドさんって性別無いんだよね?
――――
正午 Sideライト
ユウキ「……ふぅ、やっと落ち着いて話せるよ…」
ライト「有名になっても色々と大変なんだね」
病院の入り口を取り囲んでいた記者団がようやく立ち去り、退院したばかりのユウキ君はようやく一息ついた。
彼の
痣は去年のものを除いて殆ど目立たなくなり、事件以前の状態を何とか取り戻していた。
インタビュー攻めに遭っていた事もあって周りには知りあいはおらず、そこにはいつも通りの日常が過ぎ去っていくだけだった。メンバー全員がボールの中で話し相手がいない私は、ユウキ君が取り込み中で暇な時間を使って自身の所持品の整理をしていた。
……ユウキ君、退院おめでとう!
何事もなく回復して本当によかったよ!
ユウキ「流石にもう慣れたよ」
一カ月ぶりに外の空気を吸ったユウキ君はわたしの言葉に「ハハハ」って苦笑いを浮かべながら答えた。
ユウキ「…ライト?ライトはこの後[セキチクシティ]に行くんだよね」
ライト「うん。ユウキ君達は[タマムシシティ]でしょ?」
ユウキ「そうだよ」
……確か、調べていた伝説の当事者の顔合わせの仲立ちをする予定なんだよね?あまり時間が無くて詳しくは聴いてないけど、シルクが言うには{ココロ}と{カラダ}が入れ替わったリヴさんの幼なじみの伝説みたいなんだよ。今は無理だけど、また今度聞いてみようかな?
それにみんなの話しもまだだから、する事が山積みだよ……。…ジム戦いに向けて調整しないといけないしね。
理由ありトレーナーの私達は互いに言葉を重ね合い、そのまま握手を交わしあった。
ライト「……じゃあ、わたし達はそろそろ行くね」
ユウキ「うん。…ライト、最後のジム、気を抜かないようにね」
ライト「ユウキ君も、体には気を付けてね」
ユウキ「…肝に銘じておくよ。 …それじゃあ、また今度」
「うん、またね」
わたし達はそう言い残し、ユウキ君は西へ、わたしは東へと歩みを進め始めた。