81 LS 決心
夜 セキチクジム前 Sideラグナ
ラグナ〈テトラ、[フラッシュ]で照らしてくれるか?〉
テトラ〈いいけど…、何で?ティルに伝えてもらえばいいと思うんだけど……〉
ラグナ〈これだけは俺の言葉で直接伝えたい…。ティルも、いいか?〉
ティル〈って事は、俺は[サイコキネシス]で維持すればいいね?〉
テトラ〈うん……。[フラッシュ]…〉
ティル〈[サイコキネシス]〉
俺に頼まれたテトラは触手に妖艶なエネルギーを蓄え、それを発光させずにティルに向けて撃ちだした。その弾を彼は超能力で受け止め、思いを伝えようとしてる俺の方に移動させた。
そして、簡易的な照明に照らされた俺は自身の右前足でスラスラと空中に文字を描き始めた。
…カトルがライトの前に現れたからまた捕まえに来たのかと思ったが、まさか心を入れ替えていたとはな…。俺の事は許してもらえたが、さすがにカトルの事は無理だろうな…。
それ以上に驚いたのが「また一緒に旅がしたい」と言い出した事だな…。確かに俺はライトといた期間よりもあいつとの方が明らかに長い。十年以上昔になるがホウエンでジム巡りもしていた。その当時の仲間とは組織に入る時に離ればなれになってしまったが、そいつ等との思い出も多い…。…だがライトのメンバーになった事で得た事が多いのも事実…。忘れかけてたバトルの楽しさを思い出させてくれたのもそうだが、何より仲間との“絆”、大切さを再確認する事が出来た……。
俺は様々な思いを胸に秘めながら、かつて苦楽を共にしたパートナーへ宛てた一文を書き上げた。
ガンマ「……そうか……。お前がそう言うなら仕方ないな。良くしてもらうんだぞ」
ラグナ〈すまんな〉
ガンマ「……“ラグナ”……だったか、お前はあいつにいい名前を貰ったんだな。大切にしてもらうんだぞ。……元気でな」
ラグナ〈お前も、カントーで出来た仲間に良くしてやれよ〉
そう言いながら俺の元パートナー……、カトルは俺の頭を撫でた。そして彼は名残惜しそうに立ち上がり、すっかり暗くなった秋の田舎町へと姿を消した。
…これは、カトルと決別した時に俺が決めた道……。例えかつてのパートナーに変えるよう頼まれても曲げるつもりはない…。
………十年以上生活を共にしたカトルであっても………。
闇夜に消えてゆく大切な人物の背中を、俺は見えなくなるまで見守り続けた……。
テトラ〈…ラグナ、あの人、大切な人だったんでしょ?〉
その俺に、テトラは首を傾げ……、でも安心したように訪ねてきた。
…テトラ、心配かけてすまないな…。
ラグナ〈ああ。確かにあいつは俺のかけがえのない人物だ。……だが今はあいつのパートナーでなくてライトのメンバーだ。あいつの元よりもライトの傍にいるべきだと俺が思っている〉
ラフ〈……あの人と何があったのかは分からないけど、ずっといっしょにいてくれるんだね?〉
ラグナ〈当たり前だろ?〉
ティル〈だってラグナは俺達の仲間だもんね!〉
ラグナ〈当然だ!…そう言う事だから、ティル、テトラ、ラフ、これからもこんな俺をよろしくな〉
自身の決心を語り切った俺は今現在の大切な仲間……、[マフォクシー]のティル、[ニンフィア]のテトラ、[チルット]のラフ……、一匹一匹に視線を流した。
ラフ〈うん!〉
テトラ〈ラグナ、そんな事言わなくても分かるでしょ〉
ティル〈だって俺達にとってもラグナは大切な仲間……。突き放したりはしないよ。……こちらこそ、よろしくね!〉
…お前ら……。
仲間たちの温かい言葉に、俺は思わず瞳から一粒の光を溢しそうになった。それを何とか目の中に留め、そのまま右前脚をさし出した。俺の言葉に呼応するかのように、ラフは右翼、テトラは右側の触手、ティルは右手をそこに重ねた。そして俺達は互いに“仲間”である事を確かめるように固く握りあった。
辺りにはさっきまでの重苦しい空気とは異なり、温かく優しい風が吹き抜け……
ラフ〈…あっ!!ライトお姉ちゃんを回復してあげないといけないの忘れてた!!〉
ティル・テトラ・ラグナ〈〈〈!!〉〉〈そうだった!/私も忘れてたよ!/そういえば[悪の波動]で気絶させていたな!〉
ていた。
…ラフ、完全にライトの事忘れていた!!あの時は分身を入れて9匹で弱点属性を命中させたからな…。
ラフの一言で俺達は肝心な事を思い出し、揃って声を荒げた。そして自分達のトレーナーの存在を再認識した俺達は慌てて彼女の元へと駆けていった。
……やはり、今のこの環境の方が居心地がいいな……。
…………
数時間前 燈山山頂 Sideシルク
二アロ〈…やっぱりみんな強いんだね。自分も同じ伝説としてがんばらないと!〉
エレン「そうだよね。セツさんもカレンさんも人間なのに強かったからオイラも負けてられないよ!」
ニド〈そうだよね〜。でもエレンはまだスクールに通ってるから、本格的に鍛えるのは卒業してからだね〜〉
空が朱く色づき始め、漆黒の刻の到来を告げようとしている時分、“四鳥伝説”の事で話を進めていた私達は情報交換を終え雑談に明け暮れていた。当事者のうち“防人”の三匹、[ムクバード]のセツさん、[ハトーボー]のカレン、[ブイゼル]時々[シキジカ]のエレン君は自分の“チカラ”、技をそれぞれに披露していた。“化身”の四匹、[フリーザー]のスノウさん、[サンダー]のイカヅチさん、[ファイヤー]のエンさん、[ルギア]の二アロ君はちょっとしたエピソードを交えながら仲良さそうに話している……。その彼らのパートナー、[ポワルン]のウェズさんとトリちゃんは[ニドラン♂]のニド君に彼らが出来る範囲でバトルの指導……。そして最後に当事者以外の私達とシードさんは私とフライを通して交流をしていた。
…もちろん、その後はそれぞれのグループが入り乱れて明け暮れてたわ!交流するのはもちろん、伝説の件で断片的に伝わっていた事もちゃんと繋がったから有意義に過ごせたわ!エンさんとイカヅチさんはずっと言い争ってたけど、スノウさんとシードさんが言うにはいつもの事だそうだわ。その彼らに一回だけスノウさんがキレたらしくて、それ以来彼女が二匹の仲裁役をしてるそうよ?……三匹が揃ったのは三か月ぶりさしいけど…。
それにエレン君達、今日こうして交流してスクールを卒業したらトレーナーになりたいそうよ?まだ三年と数か月通わないといけないみたいだけど、エレン君の通ってるクチバのスクールは飛び級もあるらしいわ。もしかすると予定よりも早く卒業できるかもしれないわね。応援するわ!!
集まった中で一番年下のグループのエレン君達は〈帰ったら復習しないとね〉って楽しそうに言いながら口々に話した。
トリ〈そうだね。クチバとヤマブキは結構近いから、いつでも言って!ワタシ達がいつでも行くから!〉
イカヅチ〈俺も前もって言ってくれさえすれば飛んでいくからな〉
エン〈俺は野生だからな、いつでも行けるぜ!〉
イカヅチ〈いや、エンは行くまでに時間がかかるだろ?〉
エン〈いいや、お前だって自由が利かないだろ!〉
イカヅチ〈お前こそ!!〉
スノウ〈はいはい……、どっちも教えたいのは分かったから、そのぐらいにしましょ?〉
シード〈本当に二匹は仲がいいんだね〉
エン・イカヅチ〈〈良くない!!〉〉
…あっ、そうそう。これがいつもの光景らしいわ。
まず初めにトリちゃんが〈勉強の事ならワタシに言って!〉とにっこり笑いながら“水冷”の三匹に言った。その彼女に続いて同じ“雷鳴”のイカヅチさんが〈任せろ!〉と言わんばかりに翼を羽ばたかせた。その彼に負けじとエンさんが乱入し、噂の下りが展開され始めた。そんな彼らにまるで駄々をこねる子供をあやす様にスノウさんが割って入り、彼女なりの優しさで圧力をかけた。
…顔は笑ってたけど、目だけはそうじゃなかったわね……。シードさんが言った通り、〈怒らせると手が付けられない〉っていうのも分かる気がするわ……。
そしてそんな幼馴染みのやり取りにシードさんはおそらくお決まりの台詞を口にし、当事者二匹の声が重なった事で幕を閉じた。
エレン〈……もっと話したかったけど明日からまたスクールがあるからオイラ達はもう行くよ〉
伝説の種族四匹が演じるショットストーリが閉幕したところで[シキジカ]の姿のエレン君が口を開いた。その彼の一言が第一回目の“四鳥伝説”交流会が幕を閉じる事となった。
ニアロ〈そうだね。スノウさん、エンさん、イカヅチさん、また今度もお願いします〉
エン〈当たり前だろ?〉
イカヅチ〈これから長い付き合いになるんだ、俺達からもよろしくな〉
スノウ〈ええ。ニアロ君、エレン君、また来週会いましょ!〉
エレン〈うん!〉
…“氷雪”の3にん、“雷鳴”の3にん、“水冷”の3にん……そして“陽炎”のみんなも仲良くなってくれた……。結果的に今日は“絆”の私達が伝説としての役割を果たしたのかもしれないわね……。
私達を通じて“絆”の架け橋を繋いだ彼らは一足先に去る“水冷”の三匹と再会を誓い合った。そして姿を変えていた当事者達は自身の姿を元に戻し……、
ユウキ「それでは、僕達は先に失礼しますね」
セツ「エレン君の親御さんは教育家と伺っているので、そろそろ戻らないとマズいですからね」
カレン「シルクも、またウチの研究室に遊びに来て!」
シルク〈もちろんよ!〉
二アロ君の背中にしがみつくエレン君、フライの背中に乗る私とユウキに別れ際の一言を告げた。
…カレン、“四鳥伝説”の報告が終わったらまた行くわね!!
そして私達は水平線に沈みかけている夕日を背にナナシマの火山島を後にした。
……これから論文の提出と取材で忙しくなりそうね……。