76 S 集いし四鳥伝説(前編)
午後 タマムシシティ Sideシルク
ユウキ「…オルトとリーフとコルドには申し訳ないけど、そろそろ行こっか」
シルク〈そうね〉
ユウカ達と別れてからタマムシシティへと向かった私達は、そこに着くを真っ先にセンターの自動扉をくぐった。旅をしているトレーナーを対象をした宿泊施設も兼ね備えたその建物の中は祝日という事もあっていつも以上の賑わいを見せていた。その影響もあり、戦っていない私とオルトを除くメンバーの回復に軽く1時間以上もかかってしまった。
……これは流石に予想外だったわ……。
その後全員揃った状態で相談した結果、大移動をするつもりであったためにオルトとリーフ、コルドはボールの中で待機してもらう事となた。
…本当に、申し訳ないわね……。
本当は全員で立ち合いたかったけど、最終的にタマムシから1の島まで移動しないといけないから仕方ないわよね…。一応私が[サイコキネシス]で浮かせる方法もあるけど、オルトとコルドにとってエスパータイプは弱点……、おまけに私の特殊技は[チカラ]で強化されてるから尚更負担が大きくなるわ。だから、こうなったのよ。
……えっ?そもそも何でそこに行くのか分からない?…そうね、話に戻る前にそこから話さないといけないわね。
ユウキの退院っていうのもそうだけど、それ以外に今日する予定だったのは“四鳥伝説”の当事者達の顔合わせ…。実は全員揃ってまだ話し合ってないのよ。本当はもう済んでる予定だったけど、そんな中で起きた“襲撃事件”……。そのせいで予定が大分狂ったわ…。……良い意味でも。それで、ユウキも自由に行動できるようになる今日にすることになったのよ。…だってそうでしょ?平日だと3人とも都合がつかないけど、今日みたいに祝日ならスクールは休み、研究所は個人の予定が立てやすいから別として気象予報士もセツさんの場合も問題ない……。ジョウトから移ってきたばかりだけどセツさんの担当は朝だけだから、暗くなる前に戻れば何の問題もないわ!
そういう訳で、こうなったのよ。分かってもらえたかしら?…じゃあ、そろそろ話に戻るわね?
スーナ、フライと共にボールから飛び出した私は、残りの彼らに申し訳ないと思いながらそう呟いた。
スーナ〈だから早めに行ったほうがいいね♪ちょっと遅れてるし〉
フライ〈うん。ユウキも、姿変えるのはセツさんと合流してからだね〉
スーナは雲の切れ間から顔を出す太陽をチラッと見てからこう言った。フライも表情には出してないけど若干焦りながら言の葉を繋いだ。
ユウキ「そうだね。…じゃあ、頼んだよ」
フライ〈当然でしょ?〉
…時間的にもちょうど人通りが多い時間隊だからその方がいいわね。
フライはそう言うと〈だからいつでもいいよ!〉って付け加えてから体勢を低くした。そしてユウキの方に振りかえり、大きく頷いた。彼の準備が出来た事を確認したユウキもその合図を正面から受け取り、身を屈めるフライの背中に跨った。
シルク〈スーナもお願いね!〉
スーナ〈もちろん♪〉
私も親友に頼み、彼女が飛び立つと同時に地面を力強く蹴った。そして高度を上げ始めた彼女の背に前脚でしがみついた。
…スーナ、セツさんがいる放送局の屋上までだけど、いつも通り頼んだわよ!
そして、私とユウキをそれぞれ乗せたスーナとリーフは同じ街にある目的のビルを目指して羽ばたいた。
――――
数分後 Sideシルク
ユウキ「遅れてすみません」
セツ「いいえ、僕もさっき会議が終わったところなので問題ないですよ」
放送局の入るビルの屋上に着陸し、フライの背中から降りたユウキはすぐに目の前の彼に頭を下げた。その彼は「だから頭をあげて下さい」と言いながら右手を顔の前で左右にふった。
…そう言ってくれてるとはいえ、本当に申し訳ないわね…。センターが混んでたからどうしようもない事だけど……。…でも、本当にそうかもしれないわね。前もって打ち合わせした時はすぐに出発できるようにスノウさんと待っててもらう事になってたけど、今はその彼女はいない……。だからユウキの心配は杞憂だったわね。
ユウキ「よかった……〈」…セツさん、時間も無いので、そろそろ行きましょうか〉
セツ「スノウ、お待たせ〈」…そうですね〉
スノウ〈プロデューサーの話しがやたら長かったから仕方ないわ〉
彼の言葉を聞いてホッと肩を撫で下ろした兄はそう言いながら姿を歪ませた。その彼も[フリーザー]のスノウさんをボールから出すと[ムクバード]に姿を変化させた。彼の投擲したボールから飛び出した彼女はその人に対するため息を交えながらも澄んだ声で呟いた。
…スノウさんの様子からすると、相当長かったようね……。セツさん、スノウさん、お疲れ様。
フライ〈そうだね。…じゃあユウキにスーナ、セツさんもまた後で〉
スーナ〈うん♪シルク、フライ、スノウさんもね♪〉
…ユウキ、スーナ、そっちは頼んだわよ!
実際に飛ぶ2匹と同じように、私達ももう片方のメンバーに順番に視線を移した。
…この後、効率的に合流するために二班に分かれる事になったのよ。一班は“水冷”エレン君と二アロ君を迎えに行くグループ。もう一班は“雷鳴”のカレンとイカヅチさんを迎えに行くチーム。ちなみに前者がユウキとスーナ。後者が私とフライの二匹。元々はセツさん達は一緒に行く予定だったけど、スノウさんが言うには〈エンとイカヅチはよく口喧嘩する〉らしい…。そこで〈私がいないと止めるひとがいない〉…みたいだからイカヅチさんを迎えに行く私達と一緒に行動する事になったのよ。
互いに2〜3言交わし合うと、二班がほぼ同時にカントーの放送局から飛び立った。片方は地方の貿易を担う港街、もう一方は経済を担う大都市へ………。