73 L 光の成果(妖艶)
昼過ぎ シオンタウン Sideテトラ
レイ「…ライトちゃん、一体何があったの?私の[サマヨール]、星2ルールでもちゃんと戦えるはずなのに……」
倒れた二番手をボールへと戻したレイさんは、さっきの結果の訳が分からないといった様子で対戦相手のライトに訊ねた。その近くでは地面に突き出す排気口からまるでその彼女の心情を表すかのように白煙が上がり、吹き抜ける風に流されていた。
ライト「わたしもよく分からないけど、何か問題を出してバトルに集中させてなかったみたい……」
レイ「問題……?」
その彼女にライトも「どうしてかは分からないんだけどね」って言いながら問いに答えていた。
…何かラグナの戦い方、凄かったよね!一回も攻撃を食らわなかったっていうのもあるけど、完全に流れを掴んだって感じだね。それに[影分身]の使い方。大抵は一回しか使わないんだけど、ラグナそれを三回もしてた。おまけに沢山いる分身も一緒に[悪の波動]を使ってた……。……これも、経験を積んできたから……なのかな?ジル兄から〈[影分身]はエネルギー消費が尋常じゃない〉聞いた事があるけど、それが本当なら凄いね!
…それにティルもだけど、技を使ってないのに攻撃してた。技じゃないならそれには入らないし、何よりエネルギーを節約できる……。……私にもできるかな……?もしできるなら、今度二匹に聞いてみようかな?
テトラ〈ラグナ、凄かったよ!〉
ティル〈まさに主導権を握ってたって感じだったね〉
ラグナ〈いや、だがまだまだだ〉
対戦を終えて戻ってきたラグナに、私は興奮の冷め止まぬままティルと駆け寄った。ラグナは謙遜しながらも首を横に振った。……でも私にはその行動は照れ隠しにしか見えなかった。
…だって、短毛で見にくいけどほっぺがちょっと朱くなってたよ?
ティル〈それにラグナ?ラグナも[通常攻撃]使えたんだね〉
ラグナ〈ああ。ティルが武術を[通常攻撃]の代わりに使っているのは知っていたが、まさかそのものをも知っていたとはな〉
ティル〈[フライゴン]のフライ君から聞いてね〉
テトラ〈ちょっ……ちょっと待って![通常攻撃]って何なの?そんな技、知らないよ!〉
…何!?何なの、それ?そんなの、聞いた事ないよ!?
私が知らない技で盛り上がるふたりに、何の事かさっぱりわからない私は声を荒げながら割り込んだ。
…それに[フライゴン]のフライさんってシルクの仲間のだよね?何でフライさんの名前が出てきたのかも分からないし……。
ラグナ〈テトラが知らないのも無理ないな〉
ティル〈ここから遠い地方で使われてる方法みたいなんだけど、エネルギーを使わずに爪で引っ掻いたり尻尾を打ちつけたりして攻撃するんだって〉
テトラ〈尻尾で?でも爪が鋭くなかったり尻尾が短い種族はどうするの?〉
…なら私がしようとしたら何を使えばいいの?[ニンフィア]って[マフォクシー]みたいに尻尾も長くないし[グラエナ]みたいに爪も鋭くないし……。
私は彼らに率直な感想と共に疑問をぶつけた。
ラグナ〈直接噛みついたり体当たりをすれば……〉
…そっか。体当たりするだけでも出来るなら、私にも出来るかもしれないよ。
だって、ティルとラグナが言う体当たりって頭から突っ込んだり体でぶつかったりする事でしょ?
ラグナは……
ライト「……ラ、《」テトラ!次、お願い!》
テトラ〈そうなん……えっ!?〉
ティル〈ん?テトラ、どうしたの?〉
私に……!?
話し込む私の頭の中に、{テレパシー}を使ったライトの声が響き渡った。当然話に夢中になっていた私は咄嗟には反応できず、素っ頓狂な声を上げてしまった。そんな私を見たティルは疑問と共に首を傾げた。
ライト《次はテトラが戦って!》
テトラ〈でもライト?サドンデスだからもう決着はついたんじゃないの?〉
…だってレイさんとのバトルは2対0でライトの勝ちじゃないの?本当は私も戦いたかったけど………。
声なき言葉で語りかけてきた彼女に、私は反論する……。
ライト《確かにレイちゃんとのバトルの決着はついたけど、それとはまた別。テトラ達が話してる間にマルチバトルを申し込まれてね…》
テトラ〈マルチバトルを……?マルチバトルって4人のトレーナーが2対2で戦う方式だよね?〉
ライト《そうだよ》
…それって確か知らないポケモンと協力しないといけないからダブルより難しいって聞いたことがあるよ。戦えるのも1人につき1匹だけで、トレーナーにとってもポケモンにとっても総合力が試される……。…だから、ちょっとでも判断を間違えたら一巻の終わり。それなのに、何故?
頭の中に響くライトの言葉に、私は彼女を真っ直ぐ見つめて聞き返した。
テトラ〈なら誰と……〉
A〈わたしよ〉
〈闘うの?〉
そう訊こうとした丁度その時、ライトの陰で見えなかったけど一つの声が私の疑問を遮った。声的に…彼女は〈このままでは見えないわね〉って言いながらライトの後ろから外れた。
A〈わたしの事、覚えてるかしら?〉
テトラ〈ええっと……、確か……〉
その彼女は浮遊する位置をライトの腰辺りまで落としながら私に問いかけてきた。
…種族、分からないけどどこかで会ったような気がするけど………。…どこだっけ…?
ええっと、確かジム戦の……
テトラ〈…あっ、思い出した!もしかしてジム戦の時の[ムウマ]?〉
私が戦った相手が似たような雰囲気……。
…!そうだよ!きっとあの時の[ムウマ]だよ!だって彼女はレイさんのメンバーだし、今日見てないのも彼女だけ。それにレイさんが持ってるボールも3つだから、絶対にそうだよ!!
記憶の引き出しを探っていた私の脳内に検索ワードが引っかかり、その瞬間閃きの電流が駆け抜けた。その結果、残っていた空の雲が一斉に晴れていった……。……そんな錯覚を私は感じた。
A〈そうよ。[ムウマージ]のレイナよ。久しぶりね〉
テトラ〈うん!久しぶりだね!〉
…やっぱりそうだ!キミもこの一か月の間に進化したんだね?それに進化する前より大人っぽくなってたから全然気づかなかったよ!!
かつての対戦相手だと気付いた私は、その彼女に輝く太陽の様に明るい声で再会を喜んだ。
…だって、戦った時に分かった事だけど私と彼女……、レイナちゃんって私と同じぐらいの年なんだもん!それに彼女は私にとっては初めてできた同い年で♀の友達なんだもん!シルクとライトの事もそう思ってるけど、ライトとは5年、シルクとは7年も離れてるでしょ?
レイナ〈…さぁ、話はまた後にして今は戦いましょ!〉
テトラ〈あっ、うん!…ライト、お待たせ!〉
…そういえば、今って丁度バトルを申し込まれてる瞬間だったね?…ならライトにレイさん……、対戦相手も待たせちゃったかな?
……なら早く始めないといけないよね?おまけにここまでで3000文字近くなってるから、尚更だよね?
…私は彼女に言われて思い出し、慌ててライトの前に飛び出した。そして彼女の方に振りかえり、準備が出来た事を溌剌をした調子で伝えた。
…よく考えたら、ティルとラグナは戦えたのにこのままでは私だけ成果を魅せれなくなってたんだよね?……だから、マルチバトルを挑まれてよかったよ!
ライト《うん。テトラ、戦ってくれるよね?》
テトラ〈もちろん!!〉
そして、彼女の言葉に大きく頷いた。
…ライト、当たり前でしょ?
ライト「レイちゃん、お待たせ!二人もお待たせしました」
B〈…何か話し合ってたみたいだけど、気が済んだみたいだね〉
C〈まっ、マルチバトルだから仕方ないんじゃない?〉
B〈そうだね〉
ライトの声をきっかけに、残りの三人のトレーナー達も「やっとだね」とでも言いたそうに向き直った。
レイ「うん!……じゃあシオンタウンジムリーダー……じゃなくて一人のトレーナーとして全力で相手させてもらうよ!」
D「あなた、ジムリーダーだったのね?なら私達もいくわよ!」
E「当たり前だ!折角カントーまで来たんだ、後悔しないバトルをさせてもらうぜ!」
ライト「わたしだって、絶対に負けませんよ!」
レイナ〈相手は炎・格闘タイプの[ゴウカザル]に水・鋼タイプの[エンぺルト]ね?…ならテトラちゃんは[ゴウカザル]のほうを頼んだわ!〉
そして一戦を交える相手に一言ずつ宣戦布告し……、
テトラ・ゴウカザル〈レイナちゃんもね![フラッシュ]!〉〈いつも通りいくぞ![マッハパンチ]!〉
エンぺルト〈[アクアジェット]!〉
レイナちゃん以外の3匹の技の発動でチーム戦いが幕を開けた。
…初めて会う種族だけど、絶対に負けないからね!!
私は真っ先に触手にエネルギーを蓄え、光の玉として2発撃ちだす。それとほぼ同じタイミングで炎タイプの相手が目にも留まらぬ速さで走り始めた。
…相性的に考えると、狙いは私かな?
そのすぐ後で水タイプの相手も水を纏い、私との距離を詰めはじめた。
一方のレイナちゃんは私の行動にいち早く反応し、技を発動せずに目を閉じた。
ゴウカザル・エンぺルト〈!しまっ……!〉〈[メタル……]……!!〉
テトラ〈もう一発!!くっ…!〉
私の光に反応出来なかった相手はそれを直視してしまい、咄嗟に目を閉じた。しかしそれでも前者の振りかぶった拳は止まらず、私の触手を捉えた。もう一匹は技を解除して両腕を硬質化……しようとしたけど失敗した。
…見た感じ[ゴウカザル]っていう種族の彼にとって脅威になる私から倒す作戦かな?二匹で一気に距離を詰めてもう一匹が一撃で仕留める……。きっとこうだね?
でも、例え相性的に有利でも当たらなければ意味が無い……。それに、長年森のポケモン達から迫害をうけてきた私の守備力をナメないでよね!!
私は前者の一撃を余裕で耐え、その後にダメ押しでもう一発ずつ光弾で視界を晦ませた。
レイナ〈相手になると厄介だけど味方になるとここまで心強いとはね……。…なら、[呪い]……〉
閃光が収まり、目を開けた彼女は意識を集中させ、多分エンぺルとの方に意識を向けた。
…ええっと、確か[呪い]って自分の体力を削って相手に少しずつダメージを与える技だったよね?……なら……、
テトラ〈レイナちゃん、しばらく時間稼いで!その間に準備するから!〉
レイナ〈?分かったわ![シャドーボール]連射!〉
私は彼女の体力を回復してあげた方がいいね!
私はそう彼女に言い放ち、目を閉じて天に祈りを捧げ始めた。
レイナちゃんはその頼みに答えてくれて、敵の周りを飛びまわりながら漆黒の弾を幾つも放出した。
ゴウカザル〈クソッ!見えない![火炎放射]!〉
エンぺルト〈これはやられたわね……。[潮水]!〉
相手の二匹ははっきりとしない視覚を何とか使って互いに背中合わせになり、飛び交う漆黒にむけて技を発動させた。しかしその殆どが空を捉え、黒い弾丸を打ち消す事は無かった。
…格闘タイプにゴースト技は効果はないから、牽制だね?
それに相手の視覚は殆ど機能してないはずだから、攻撃してきてもかわすのは簡単だね!
私はこのタイミングで目を開け……、
テトラ〈[願い事]…!〉
天に捧げた祈りを一気に解き放った。
…これで、準備完了!ここからは一気に攻めるよ!!
私は中途半端に開いていた距離を一気に詰め……、
テトラ〈[ムーンフォース]!!〉
それと同時に触手に妖艶なエネルギーを集めて一気に撃ちだした。
…もちろん狙いは[ゴウカザル]……。かわさせないよ!!
レイナ〈[金縛り]!〉
ゴウカザル〈そこk……ぐっ……!〉
エンぺルト〈そこね![ハイドロポンプ]!!〉
レイナちゃんの技の効果でゴウカザルは身体の自由を失い、そのせいで弱点となる薄桃色の弾をまともにうけてしまった。
それに対して何とか声で位置関係を掴んだと思われるエンぺルトは勘を頼りに超高圧の水流を解き放った。
テトラ〈レイナちゃん!!〉
レイナ〈!!くっ…!!〉
それは運よく集中していたレイナちゃんに命中し、大ダメージを与えた。
……でも、そろそろ[願い事]の効果が反映されるはず……。
レイナ〈……?……テトラちゃん……助かったわ……〉
テトラ〈どういたしまして![フラッシュ]、[ムーンフォース]!〉
…何とか、間に合ったね!
私の祈りがギリギリで届き、レイナちゃんは辛うじてその攻撃に耐えた。
そして私はすぐに光弾で視界を遮り、倒れる寸前のゴウカザルを狙ってフェアリータイプの弾を撃ちだした。それは為す術がない標的を的確に捉え、彼の体力を完全に削り切った。
……よし、これで一匹。
残りは、レイナちゃんに[呪]われてるエンぺルトの彼女だけ……。あれからちょっと時間が経ってるから、効果はいまひとつだけどあの技なら……いける!……でもあの技は私にとってもリスクが大きい……。……だから確実に当てないと……!
技を命中させた私はここで一度距離を取り、
テトラ〈レイナちゃん、まだいける?〉
レイナ〈……何とか……ね……〉
彼女を見上げて様子を伺った。
…この様子だと、あまり動けそうにないね……。
テトラ〈なら、[シャドーボール]で牽制してくれる?〉
レイナ〈……それなら……何とか……出来そうだわ……〉
テトラ〈じゃあお願いね!〉
倒れる寸前の彼女に、私はダメ元でこう頼んでみた。すると彼女は歯を食いしばりながら、辛うじて承諾してくれた。
……エンぺルトはそれなりにダメージをうけてる上に技の命中率もかなり下がってる……。…この状態なら、例え技がレイナちゃんに当たってももしかするを耐えられるかもしれない……。…だからレイナちゃん、頼んだよ!!
私はそう言うとある技のイメージ……というか力を蓄えながら走り始めた。
エンぺルト〈そこね……?[メタルクロー]!〉
相手は何とか私の接近に気付き、その場で腕……?鰭……?を硬質化させた。
…[メタルクロー]か……。もしこれをまともにうけたら耐えられないかもしれない…。…なら、ここはダメ元で……。
テトラ〈そうはさせないよ!!くっ……!〉
エンぺルト〈…!?〉
…相手の技の軌道を変えれば、反動を入れても何とか耐えられるかもしれない!
私は飛び交う漆黒の弾を背に思い切って鋼の翼を触手で掴んだ。
…くっ……!…でも、ここで倒れるわけにはいかない!!
私はそのまま思いっきり右下に引っ張り、相手の体勢を崩した。私に引っ張られたせいで前のめりになり、私に背を向ける事になった。
…これなら……いける!!
私は溜めていた力を一気に解き放ち……、
テトラ〈これできめる…!!成功するか分からないけど[ギガインパクト]!!〉
丸腰となった敵に捨て身で突っ込んだ。
…この技はまだ3回に1回しか成功しない…。私の特性で[ギガインパクト]はフェアリータイプになっちゃうけど……、これを成功させないと勝てない!
エンぺルト〈しまっ………っ!!〉
テトラ〈くっ………これで………〉
……よし………!当たった………!
成功確率の少ない技に勝敗を賭けた私の攻撃は、ほぼゼロ距離であったために何とか命中した。それにより相手は吹っ飛ばされ、顔面から………地面に……突っ込んだ。
その結果……、私もタダでは済まず……、反動で大ダメージをうけた。
……私が倒れても……まだレイナちゃんが残ってるから……、勝負には……勝ったはず……。
エンぺルト〈………さすが………ね……〉
テトラ〈……あんた達も………〉
それだけを何とか絞り出すと………、私達は………ほぼ同時に………意識を………手放した………。
………これからは……[ギガインパクト]を使う時は………、[願い事]を………沢山発動させないと………いけないかな………?
………でも、勝てて………よかっ………た………。