71 L 光の成果(武術)
同刻 シオンタウン sideティル
レイ「…そういえばライトちゃん?ライトちゃんってこの1ヶ月の間何してたの?私の所が終わってから結構経ってるからリーグ制覇していてもいいはずなんだけど……。そのはずなのにリーグから連絡が無いのは何で?」
昼下がりの地下都市に、さっき偶然再会したジムリーダーの声が響いた。その声には疑問の感情が含まれ、吹き抜ける秋風に便乗していった。
…そう思うのも無理ないよね?
だって今までの俺達のペースならもうとっくにクリアーしていてもおかしくないからね。…だって、1ヶ月前でも俺達はレイさんの所を入れて7ヶ所制覇していたから……。
ティル《これからのリーグに備えて特訓してたんだよ》
…本当は別の理由なんだけどね。
声では伝える事が出来ない俺は、疑問をぶつけてきたレイさんにテレパシーで答えた。
レイ「特訓を…?」
テトラ〈うん〉
ライト「わたしの師匠から聞いたんだけど、リーグって連戦なんでしょ?」
…ハートさんが言うには、何か[四天王]っていうトレーナー達と4人連続で闘って、その後で[チャンピオン]と戦うみたいなんだよ。休む暇が無いだけじゃなくて、俺達が回復する時間さえ無いらしいんだよ!
……ただでさえ強いのにそんな制限の中で勝ったハートさん……、ユウキさんにユウカさん達も、凄すぎるよ!この一ヶ月間必死に特訓してきてバトルには自信があるけど、流石にそれだけは無理かもしれないよ……。
俺の言葉を聞いて首を傾げるレイさんにテトラは頷き、その後で今度はライトが疑問を投げかけた。
……そういえばレイさんって、凄く饒舌だよね?
言葉が通じないから仕方ないけど、中々話に割り込めないよ…。
レイ「うん。タイプも人によって違うのは知ってるよね?」
ラグナ〈ああ。地方によっても変わるんだろ?〉
テトラ〈そうなの?〉
ティル〈うん。バトルの方式も地方によって違うみたいなんだよ〉
…これもハートさん達から聞いたこと。
ハートさんとルクスさんが言うには、ここの隣のジョウト地方のルールはダブルバトルなんだって。
ライト「そうなんだー。…うん、それは知ってるよ」
口々に話すみんなに対し、ライトはまずは俺達3匹に目線を合わせてから返事をし、その次にレイさんの方に相槌を打った。
ライト「カントーは氷、格闘、毒、ドラゴンの4つでサドンデス方式だったよね?」
…そっか…。カントーはこの4つなんだね?
なら炎・エスパータイプの俺が中心に闘えば何とかなるかもしれないね。
俺はパートナーの言葉を聞き、自分なりにこう分析した。
テトラ〈サドンデス……?サドンデスってどんなバトルなの?ラグナ?知ってる?〉
…あれ?テトラってこの方式は知らなかったっけ?
テトラは首を傾げるながらラグナに視線を移した。
ラグナ〈……ホウエンでは殆どされてなかったからな……、詳しくは知らないな〉
ティル〈えっ!?ラグナも?〉
…まさかライトよりもバトルの経験が長いラグナまで知らないなんて……、意外すぎるよ……。
俺は彼らの予想外の発言に思わ素っ頓狂な声を上げてしまった。
その俺に、ラグナは〈ああ……〉と、言葉を濁しながら目を逸らせた。
ティル〈それぞれが1匹ずつ闘って、勝ち越した側の勝利……。簡単でしょ?〉
…俺の出身のカロス地方では割と採用されてるんだよ。
テトラ〈………それだけ?〉
ティル〈うん。……テトラ、ラグナ、ジムリーダーのレイさんもいるし、特訓の成果を試すついでに体験してみない?リーグ戦の練習にもなるし〉
………口で言うよりも、実際にした方が早いかもしれないね!
いまいち理解出来ず、疑問符を浮かべたままのテトラに、俺はこう提案した。
…テトラとラグナがこの一ヶ月間どんな特訓をしてきたのかも気になるから、丁度良くない?
それにライトも、シオンジムの結果にも納得出来てないみたいだし……、一石二鳥だね!
テトラ〈うん、そうだね!折角の機会だし、いいんじゃない?〉
ラグナ〈するに越したことはないからな。…ならティル、頼んだぞ〉
…やっぱり、ふたりならそう逝ってくれるって思ってたよ!
俺の提案にふたりは大きく頷き、快く了承してくれた。
……なら、早速ライト達に頼まないとね!
折角ハートさんからテレパシーを習ったんだから、使わないとね。
ティル《ライト、レイさんも、サドンデス方式でバトルさせてくれる?》
ライト「……なら一緒に……えっ!?ティル、今、何て言った?」
ティル《さんにんで話して〈サドンデス方式のバトルがしたい〉って事になったんだよ》
俺達とは別に雑談で盛り上がっていた2人に、俺は徐にこう話しかけた。すると俺の予想通り2人ともとびあがり、思わず驚きで声が裏がえっていた。
…俺達が喋ってる間、何の話してたんだろうね……?
……まっ、いっか!今聞かなくても後でわかるよね?
……そういえば、レイさんには関係無いけどゴーストタイプにゴースト技って効果抜群だったっけ?
ライト「サドンデスで……?」
ティル《うん。リーグ戦いの練習ついでに、どうかな?》
俺は身長の関係で少し高いライトを見上げ、腕を組みながら訊ねた。
レイ「そういえばさっき「サドンデスでは戦った事ない」って言ってたよね?…ティル……君でいいんだよね?ティル君達、〈したい!〉って言ってるみたいだし、私はいいよ!」
テトラ・ライト〈えっ?ほんとにいいの?〉「えっ、でもレイちゃん、この後………」
…やった!
レイさんも「いいよ」って言ってくれてるし、すぐにでも始められるね!
……レイさん、言うのと同時にボールに手をかけてるし……。
テレパシーで俺の言葉を聞いたレイさんはそう言うや否や腰にセットしているボールを手に取り、突然の事にあたふたしているライトに構わず彼女の一番手を出場させた。
A〈…ジム戦以外でのバトル……、[ゴース]の時依頼だな〉
ボールから飛び出した彼……、[ゲンガー]は昼間の風を感じながら懐かしそうに呟いた。
…この感じ……、もしかして……
ティル〈もしかして君って、ジム戦の時の[ゴースト]…?〉
中断して結局戦えなかったあの時の[ゴースト]……?
…何か雰囲気的に似てるし……。
飛び出した彼に何か懐かしいものを感じた俺は恐る恐るその彼に伺った。
ゲンガー〈……っという事は、一か月前の[テールナー]…?〉
ティル〈そうだよ!君もこの一か月間で進化したんだね?〉
ゲンガー〈毎日戦っていれば進化するのは当たり前だろぅ?……さぁ、立ち話はこのくらいにしてそろそろ始めようか〉
ティル〈そうだね。レイさん、この後何か用事があるみたいだし〉
…話の雰囲気的にも何かあるみたいだから、早く決着を着けた方がいいね。
登場後の雑談も早々に、俺達は互いに睨みを利かす……。
そして………、
ティル〈じゃあ、いくよ!〉
ゲンガー〈もちろんだ!!〉
俺の第一声と共に第一幕が開演した。
…この一か月の成果を試すためにも……、最初から全力でいかせてもらうよ!!
ゲンガー〈先手はもらうぞ![シャドーボール]!〉
…やっぱり一発目の牽制は定石だよね?
彼は真っ先に手元に漆黒のエネルギーを蓄え、俺との距離を詰めながら放出した。
……でも、そうくることは分かってたよ!
ティル〈[マジカルフレイム]!〉
対して俺は口内の炎に念を混ぜ、迫り来る漆黒に向けて撃ちだした。
それと同時に、懐の体毛の中に忍ばせているステッキに手をのばす……。
その間にも両者は激突し、後者は消滅し、前者は放たれた時の三分の一の大きさになっていた。
……完全には打ち消せなかったけど、弱体化させれたから問題ないかな…?
何しろ、[マジカルフレイム]は特殊技の威力を弱くさせれるもんね!
ゲンガー〈打ち消される事は想定済みだ![シャドークロー]!〉
ティル〈甘い!!〉
俺は手にかけたステッキを右斜め上に振り上げ、小さくなった漆黒の小弾を弾く……。
相手はその後ろで技を構え、俺に決定的な一撃を与えるべく切りかかってきた。
……でも、その攻撃は当てさせない!
ゲンガー〈何っ!?〉
右手で振り上げたステッキをすぐに両手に持ち替え、今度はそれを斜め左下に切り下した。[マフォクシー]の一部とも言うべき剣先からは空気との摩擦で炎が上がり、斜めに残像を残しながら対象を叩き落とした。
…これはこの一か月間で身につけた、[剣道]っていう武術……。
本当は竹刀でするんだけど、問題ないよね?……俺、人間じゃなくてポケモンだし……。
ティル〈もう一発[マジカルフレイム]!!〉
ゲンガー〈熱っ!!〉
すぐに同じ技を発動させ、後ろに跳び下がりながら命中させた。
……相手に直接当てたから、相性的に不利でも多少は耐えられるはず……。
……もちろん、リーグ戦のためにも一発も当たるつもりはないけどね!
ここで俺は手に持っているステッキを斜め前に投げ飛ばした。
…もちろん、次の作戦のためにね!
ティル・ゲンガー〈[サイコキネシス]!〉〈[影撃ち]!〉
俺は投げたそれを超能力で拘束し、空中に留まらせ………
ティル〈しまっ……くっ……!…〉
…!いつの間に!?
……そっか、[影撃ち]は先制技……、技の出だしが早いから……。
相手は倒れたままの体勢で自身の影と同化し、目にも点らぬ速さで俺の背後を取っる……。そして姿を現すと同時に俺に頭から突っ込んだ。
ティル〈……でも……、タダでは……終わらせない……!!〉
ゲンガー〈!?〉
俺は大ダメージをうけて仰け反りながらも辛うじて耐え、そのまま身を屈めた。
その流れで、後ろに飛び出してきた相手の手を掴み……、
ティル〈…背負い……投げ……!!〉
勢いを利用して、肩を支点に相手を斜め上に投げ飛ばした。
……これも、ハートさんとルクスさんから習った武術……。
岩山トンネルの[ゴーリキー]達との組手で鍛えたから………、外させはしない!!
それに{メガ進化}したルクスさんと戦った時に使った技だから………、
これだけは誰にも負けない!! 投げ飛ばすのと同時に空中で維持していたステッキを操り、敵を狙った。
ある程度勢いを付けてから超能力を解除した。
ティル〈まだまだ……![火炎放射]……!!〉
俺は立て続けに口に炎を溜め、飛ばされる相手を狙って思いっきり放出した。
ゲンガー〈クソッ……!![シャドークロー]!!〉
もちろんタダでうけさせてはくれず、相手は手元に暗黒のオーラを纏い、それで迫るステッキを弾いた。
……でも、このステッキは囮……。
ティル〈[サイコキネシス]……!〉
炎を吐く口をすぐに閉じて技を解除し、相手に命中する前に超能力でそれを拘束した。拘束したそれを幾つもの小さい塊に分裂させ……
ゲンガー〈……しまった!!〉
相手の四方を取り囲む……。
そしてそれを細長く形成し………、
ティル〈これで………トドメ……!!〉
取り囲んだ相手に向けて一斉に飛ばした。
………ここまである程度ダメージを与えてきたから、これで倒せるはず………!
ゲンガー〈………っ!!……やられた………〉
浮遊して体勢を立て直そうとした相手に、それは命中した。
その彼は攻撃をうけるとそのまま真っ逆さまに落下し始めた。
ゲンガー〈……っぐ………〉
蓄積したダメージが大きく、相手は受け身を取ることが出来なかった。
そして、彼は何とかして立ち上がろうとしたけど崩れ落ち、意識を手放してしまった。
………勝ったけど、攻撃を食らったから………まだまだ特訓が足りない……かな……?