δ 訳あり
昼過ぎ ハナダシティー sideショウタ
コロナ〈…ショウタ? 今度はどこにいく?〉
ショウタ〈うーんと、そうだね…。 せっかく[ハナダシティー]に来たんだから、海岸とかはどうかな?〉
僕のすぐ下にいるコロナは、僕を見上げながらこう聞いてきた。
ライト達と一緒にいた時は寄らなかったから、そこがいいんじゃないかな?
[ミュウ]の姿の僕は長い尻尾を靡かせながら言った。
……他のポケモンの姿も良いけど、やっぱり元の[ミュウ]が一番だよ。
超能力を使えるっていうのもあるけど、感覚が凄く研ぎ澄まされるのが大きいかな……?
他の姿や人だった時には分からなかった潮とか草花の香りとか、そよ風の音が手に取るように分かる……。
……それに、気のせいかもしれないけど、最近勘がよく当たるようになってきた。
……これが、シルクさんが言っていた{タイプの気質}なのかもしれないね。
{気質}って言うと{性格}と被るけど、違うみたい…。
僕のエスパータイプは{勘が冴えてるひとが多く}て、コロナみたいな炎タイプは{仲間を自らひっぱっていくリーダー}に多いらしいよ。
…ポケモンも、奥が深いんだね?
……でも、誰にも当てはまるんじゃなくて、あくまでも{傾向}だから、必ずそうとは言えないみたいだね。
コロナは炎タイプだけどどこか控えめ……。
{マイペースな人が多い}っていう[ニンフィア]のテトラちゃんも、飛行タイプ並みに明るいし……。
コロナ〈うん、いいよ!〉
ショウタ〈…じゃあ、行こっか!〉
僕の提案に賛成してくれたみたいで、コロナは大きく頷いた。
……じゃあ、行こう、海岸に!
僕達は、昼下がりでたぶん賑わっているハナダの浜辺を目指した。
………
数分後 sideショウタ
コロナ〈……やっぱり、多いね。〉
うん、本当だね。
僕達が着いた頃には、公衆の海水浴場は沢山の人やポケモンで溢れかえっていた。
今は丁度シーズン真っ只中で、あちこちにパラソルがクリーム色の砂地にカラフルな花を咲かせている……。
……まさに、夏の風物詩だね。
ショウタ〈こういう季節だから仕方ないよ。 ……そういえばコロナ? ここに来るのはいつ以来だっけ?〉
コロナ〈ショウタがまだ人間だったから………、一昨年ぐらいじゃないかな?〉
……そっか、そのくらいになるね。
[ミュウ]になってから三週間ぐらい経つけど、何故か[人間]だった頃が随分昔なような気がするよ……。
……何でだろうね?
僕達はできるだけ人混みを避けて、適当な場所に座った。
コロナは前脚を揃えて、僕は久しぶりにこの姿で地についた。
ショウタ〈僕もまだスクールに通ってた時だから、そのくらいだね。〉
僕はこの小さい身体からは不釣り合いな大きさの鞄を下ろしながら言った。
……ひょっとすると、僕がトレーナーだった証はこれだけかもしれないね。
まず、自分の身分証明代わりのトレーナーカード。
…次に、コロナと頑張って勝ち抜いたジムのバッチ2つ……。
それから、コロナが登録されているモンスターボールと、もう必要が無くなった空のボール数個。
あとは、いろんな道具とか着替えとか……、{宝の持ち腐れ}とも言える品々が多数……。
……このくらいかな?
僕は感傷に浸りながら言った。
コロナ〈そうだ……〉
???「あっ、やっと見つけたよ!」
?
潮の香りを楽しんでいるコロナの言葉を、誰かが遮った。
……もしかして、この声は……。
僕は声がしたちょうど真上を見上げた。
コロナ〈…?[ピジョット]? [ピジョット]に知りあいなんていたっけ?〉
ショウタ〈ううん、いないはずだよ。〉
その先には、一匹の[ピジョット]と、その彼に乗った男の子がひとり……。
ピジョット〈……リヴの言うことは本当だったんだ……。〉
リヴ「フェズ、僕が嘘をついた事、今までにあった?」
フェズ〈いや、ないね。〉
……うん、間違いないね。
もう1人の僕が、乗っていた[ピジョット]から降りながら言った。
コロナ〈ショ……リヴさん、どうして私達の居場所がわかったの?〉
リヴ「ううんと、いわゆる勘ってやつさ。」
ショウタ〈勘……? さすがって感じだね。〉
ぼく……じゃなくて、僕と姿が入れ替わったリヴさんがハハって笑みを浮かべながら言った。
ポケモンじゃなくても、気質はそのままなんだね?
コロナ〈ショウタはショウタで変わらないのと同じで、リヴさんもリヴさんのままなんだね?〉
リヴ「そういう事さ。 …ショウタ君、[ミュウ]としての生活、楽しんでる?」
ショウタ〈うん! 今では身体も馴染んで能力も使いこなせるようになりましたよ! リヴさんも、どうですか?〉
リヴ「僕も、自分なりに楽しませてもらってるさ。」
フェズ〈……ただ、飛べなくなったから僕がいないと遠くには行けなくなったのがちょっと不便みたいで……。〉
{僕がいつもつきっきりで行動してるんですよー。}
フェズさんはこんな風に言いたそうな様子で、言葉を区切った。
コロナ〈そっか……。リヴさん、元々は[ミュウ]だもんね。〉
ショウタ〈僕も正直、トレーナーだった頃に未練がね……。〉
フェズ〈お互いに、心残りがあるんだね……?〉
……リヴさんも?
リヴさんは表には出してないけど、雰囲気的にそんな感じ……。
コロナ〈……なら、私に考えがあるんだけど、いいかな?〉
ショウタ・リヴ・フェズ〈「〈{考え}?〉}〉
コロナ?
どうかしたの?
彼女の言葉を聞いた僕の声が重なって、揃って聞き返した。
コロナ〈うん。 ショウタはまだジム巡りをしたいって言ってるし、リヴさんも心残りがあるんでしょ? ……なら、これからは一緒に行動するのはどうかな? それなら、ショウタも戦う側になるけどできるし、リヴさんもできるでしょ?〉
ショウタ・リヴ〈「あっ……。」〉
コロナ、言い考えだね!!
全然思いつかなかったよ!!
僕達は彼女の言葉にハッとなった。
フェズ〈言い考えだね!〉
コロナ〈……だからリヴさん? 必要なものも全部揃ってるし、[トレーナー]になってみない? リヴさんにとってもいい経験になるんじゃないかな?〉
ショウタ〈分からない事があったら僕がサポートするから!〉
コロナ、僕は賛成だよ!
かたちは違うけど、僕はジム巡りができるし……。
コロナ〈リヴさん?どう?〉
ショウタ〈フェズさんも、どうかな?〉
フェズ〈僕はいいよ。 [ポッポ]の時からの憧れでね、してみたいと思ってたんだよ。〉
フェズさんはOKなんだね?
……って事は、あとはリヴさんだけだね。
フェズさんは笑顔で頷いた。
リヴ「僕……人間と話した事ないんだけど、まっいつか! 何とかなるさ。」
やった!
リヴさんも、了解してくれた。
ショウタ〈じゃあ、僕の荷物を渡さないとね!〉
コロナ〈うん!〉
……これで、リヴさんも晴れてトレーナーの仲間入りだね!
僕は鞄を持ったまま浮き上がって、直接手渡した。
ショウタ〈一応、僕の名前で登録されているけど、まあ、いいよね?〉
リヴ「そうさ! 気にする事なんてないのさ!」
…なんか、リヴさんとは気が合いそうだよ。
コロナ〈……ふたりとも、似てるね……。〉
フェズ〈{類は友を呼ぶ}ともいうからね。〉
ショウタ〈フェズさんはどうする?〉
……そういえばさっき、{旅}がしたいって言ってたよね?
リヴさんとは仲良さそうだし、もしかすると……、
フェズ〈もちろん、僕も行きたいですよ! ……だからリヴ、トレーナーの第一歩として僕を捕まえてくれる? ……ほら、僕って野生でしょ?〉
コロナ〈えっ!?フェズさんって野生だったの!?〉
リヴ「そうなのさ。 僕が野生だったのと同じように、フェズも野生なのさ。 ……でも、どうすればいいのさ?」
そっか。
リヴさんは知らなかったね。
ショウタ〈鞄の中に空のボールが入ってるから、それを使って!〉
リヴ「鞄の中………、ええっと、これかな?」
リヴさんはゴソゴソと僕の鞄を漁りながらいった。
……そうして、一つの赤と白のボールを取りだす。
ショウタ〈うん、そうだよ。 ……フェズさん、準備はいい?〉
フェズ〈はい! …さあリヴ、それを僕に投げて!〉
リヴ「あっ、うん! ……じゃあ、いくよ!」
フェズ〈うん!〉
お互いに頷いて、リヴさんは持っていたそれをフェズさんにふわりと投げた。
コツッと音がしたかと思うと、突然赤い光が彼を包み込む……。
そうかと思うと、光と共にボールに吸い込まれた。
リヴ「…これで、いいの?」
ショウタ〈うん!〉
2、3回揺れると、何事もなく治まった。
………リヴさん、フェズさん、これからよろしくお願いしますね。
僕とコロナの旅にふたりが加わって、新たな一歩を踏み出した。