γ 研究室の二匹
昼 ヤマブキシティー sideテトラ
テトラ〈……ごめん、待たせちゃったね。〉
私はビルの階段を駆け降りながらこう言った。
……その相手は……、
ライト「テトラ、そんなに焦らなくても良かったのに……。」
シルク〈それに、私も今来たところだから全然まってないわ!〉
ちょっと急ぎめにかけてる私に、シルクはにっこりと笑いかけた。
耳元の青いアクセサリーが、窓から漏れ出ている日の光に照らされてより一層蒼く輝いている……。
ユウキさんが入院している病院が入っているビルの外からは、丁度昼休みでいろんな人達がせわしなく行き交っている……。
天気は晴れ。
シルクとトリ姉の[エーフィ]にとっては嬉しい日だね。
テトラ〈よかった。……じゃあさっそく行こうよ!〉
シルク〈そうね。 私も早く行きたいわ!〉
ライト「うん!」
もちろん!
私達は高鳴る期待と共に、ビルの自動扉をくぐった。
……トリ姉とはジムに挑戦しに来た時以来だから、本当に楽しみだよ!!
………
昼過ぎ ヤマブキ化学研究室 sideテトラ
テトラ〈…このビルがそうなの?〉
シルク〈カレンの話によると、そうみたいよ。〉
……このビルが?
他のと凄く似ていてどれも同じように見えるんだけど………。
私の少し前を歩いていたシルクは、他のものと大して変わらない建物のうちの1つの前で立ち止まった。
………どこがどう違うの……?
ヒイラギさんの事務所があるビルもこんな感じだったし……。
ライト「…ええっと、確か5階の研究室って言ってたっけ?」
シルク〈ええ、そうよ。〉
そう言いながら、シルクは高いビルを見上げた。
……首、痛くならないのかな……?
私、上ばかり見てるからちょっときはじめてるんだけど……。
テトラ〈トリ姉もそこにいるんだよね?〉
シルク〈そのはずよ。出掛けていたら分からないけど、カレンが何か忘れてない限りいるって言ってたわ。……さあ、行きましょ!〉
ライト「うん。」
{忘れてない限り}……?
どういう事なのかな……?
……まっ、いっか!
特に気にする事じゃないよね?
私達は話ながら廊下を歩いて、{エレベーター}とかいう乗り物? に乗った。
シルク〈ライト、{5}を押してくれるかしら?〉
ライト「{5}? うん。 押したよ。」
テトラ〈私達では届かないもんね。〉
……それに、私、字、読めないし……。
……それにしても、ここ、狭いよね…。
体が大きいコルドさんとかフライ君なら尚更だよね。
……あっ、そういえば。
フライ君って私と4つしか変わらないんだよね?
私が13で、フライ君はこの何日かで誕生日がきたって言ってたから、17……かな?
ドラゴンタイプっていうのもあるけど、強いんだろうなー……。
ライト「…テトラ、いくよ。」
テトラ〈…あっ、うん!〉
っん!?
もう着いたの!?
考え事をしていた私は、ライトに急に呼ばれてハッとなった。
……そして、私達は狭い昇降機から降りて、廊下を歩き始めた。
………
数分後 sideテトラ
シルク〈…この扉の向こうにいるわ。〉
ライト「……でも、勝手に入っちゃって大丈夫なの? ここ、研究所でしょ?〉
……確かに、そうだよね。
一般の人が入っても大丈夫なのかな………?
……あっ!
ライトはポケモンだったね?
なら問題ないかな、きっと。
ライトは心配そうにシルクに聞いた。
シルク〈ええ、大丈夫よ! 一昨日カレンの家に行ったのよ。 その時に{研究室がみたい!}って頼んできたから私が来る事を知ってるはず…。…カレン、ちょっと忘れっぽいけど、トリちゃんが把握してくれてるから問題ないわ!〉
シルク、嬉しそう……。
彼女は太陽にも負けないような笑みで溌剌と言った。
……シルクって、こういう一面もあるから不思議なんだよね……。
二十歳って言ってるけど、こうしてはしゃいでいるのを見ると子供っぽいなー、って思うんだけど、普段は凄く大人っぽいんだよ。
将来、私もシルクみたいなポケモンになりたいなー…。
……でも、流石に[チカラ]はないから無理だね。
テトラ〈…なら、大丈夫だね!〉
シルク〈ええ!〉
シルクはにっこり、笑みを浮かべた。
シルク〈…じゃあ、入りましょ!《〉失礼します! カレンさんに…》
見るからにウキウキした気分で扉を押しながら、上機嫌でシルクは入って…
トリ〈……ハァー……。あれだけ毎日言ってるのにまた忘れたの?〉
カレン「ごめん!…でも今日は違うんよ! 書類も持っていくことで頭が一杯で、気を取られていたんよ!」
トリ〈書類も大事だけど…、空き巣に入られたらどうするの?〉
カレン「その時はその時! ……とにかく、もう鍵は忘れやんから、許して!」
トリ〈……これで最後だよ……。今日もワタシがなんとかするから……。〉
……?
この光景は……一体……。
扉が開いたその先には、拍子抜けた場面が展開されていた。
白衣を着た女の人が、ごく普通の[エーフィ]に説教されている……。
…年齢的に普通、逆じゃない?
トリ姉は16で、あの人はどう見ても二十歳以上……。
……それに、人間がポケモンに叱られるってあるの?
部屋の外にいる私達は、素っ頓狂な光景に言葉を失った。
シルク、呆気にとられて[テレパシー]を途中で止めちゃったし……。
ライト「……あの……すみません……。…ちょっと、いいですか?」
沈黙した空気を破って、ライトが恐る恐る口を開いた。
カレン・トリ「…? あっ、はい!シルク! 待っとったよ!」〈…ちょっとカレ……えっ!?テトラ!?〉
シルク・テトラ〈時間、大丈夫かしら?〉〈トリ姉、久しぶり!〉
突然の訪問に驚くトリ姉に、私は笑いながら語りかけた。
何も伝えてなかったから、びっくりさせちゃったね。
いわゆる…{サプライズ}、かな?
カレン・トリ「もちろん、大丈夫やよ!」〈{生放送襲撃事件}の時はワタシは既に戦闘不能だったから……、会うのはジムの前以来だね!〉
テトラ〈うん!〉
あの時、トリ姉はいなかったからね。
その時は知らなかったけど、まさかあの鳥ポケモンがトリ姉のトレーナーだったとはね…。
ユウキさんみたいな人、他にいたんだ……。
話が分かりそうな人……いや、言葉が分かる人で安心したよ……。
……妹の私が言う言葉じゃないけど…。
カレン「ええっと……、あなたはライトさんやな?《」[ラティアス]の。》
ライト「あっ、はい。《」わたしの種族、知ってたんですね?》
カレン《シオン警察に[ラティアス]の知り合いがおるんよ!》
ライト《えっ!?ハートさんを知ってるんですか!?》
カレン《ちょっとした伝説のよしみでね。「》……あっ、そうそう! うちの事は[ハトーボー]っていう前提で話してもらっても構わんから!」
シルク・ライト〈えっ!?カレン!?話したの!?〉「えっ!?重要な秘密なのに、ですか!?」
テトラ〈話ちゃって良かったの!?〉
えっ!?
今、何て言った!?
カレンさんがハートさんと知り合いって言うのも驚いたけど、姿を変えれる事をそんなに簡単に話しちゃっていいの!?
私達はあまりの事に驚いて、騒然となった。
トリ〈話すもなにも、カレンは普段ポケモンの姿でいるからね。……むしろ元の姿でいる方が少ないくらいなんだよ。〉
カレン《やから、ここの研究員はみんな人間がポケモンに姿を変えるのに慣れとるんよ。》
トリ〈…だから、ライトさんも普通に姿を変えても大丈夫ですよ。〉
えっ!?
本当に大丈夫なの!?
私は目線で訴えた。
シルク〈本当に!?〉
カレン「本当やよ! …見てて! 今、変えるから!…〈」……やろ?〉
!!
本当だ!
これだけ私達が騒いでいるから他の人達が横目で見てたけど、平然としてる!
トリ〈[氷雪の防人]が来た時も何ともなかったから、大丈夫ですよ。〉
ライト「……なら……。〈」………確かに、大丈夫ですね!〉
ライト、戻したんだね?
……うん、確かに、騒ぎになってないね。
ライトは姿を元に戻し、{大丈夫だ}って分かると、パッと明るい声で言った。
……この後、みんなでいろんな事を話して過ごしたよ!
……でもカレンさん……、仕事はいいのかな……?